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2012年01月30日

ベラルーシからの使者
 ~チェルノブイリの体験を福島再生に

こんにちは、井之上 喬です。

厳しい寒波で北日本と北陸は記録的な豪雪に見舞われていますが、皆さんお元気ですか?

先日、凍てつく寒さの東京でベラルーシから来訪者がありました。私が主宰する「水素研究会」メンバーの方の紹介で、ベラルーシ共和国のセルゲイ・ラフマノフ特命全権大使と同国で放射能測定・除染専門会社の技術最高責任者とその一行を四谷の私の経営する会社(井之上PR)にお迎えしました。 

ベラルーシ共和国(首都:ミンスク)は、国境を南にウクライナ、西にポーランド、北西にリトアニア、 ラトビア、東にロシアと接し、ソビエト連邦から独立した人口約960万人で国土は日本の3分の2。

2ヶ月前に来日したラフマノフ大使は、前職がベラルーシ国立科学アカデミー副総裁で、今月正式に駐日大使に任命されたばかりです。

■ベラルーシの経験
ベラルーシ共和国はチェルノブイリ原子力発電所事故の最大の被災国といわれています。
ご存知の方も多いかと思いますが、チェルノブイリ原発事故は、1986年4月ソビエト連邦(現:ウクライナ)のチェルノブイリ原子力発電所4号炉で起きた原子力事故で、国際原子力事象評価尺度 (INES)では最悪のレベル7(深刻な事故)に分類される最大規模の事故(1979年米国スリーマイル島原発事故はINESでレベル5)。
チェルノブイリ原発事故で放出された放射能は、ベラルーシ、ロシア、ウクライナで多くの住民が被曝し、その影響は染色体の異常など遺伝子的な損傷をもたらしていることは多くの研究によっても明らかにされています。

また、東欧や北欧まで放射能が拡散したチェルノブイリ事故は、とりわけベラルーシに甚大な被害を及ぼし、爆発した放射能の80%が国土に降り注ぎ深刻な土壌汚染や地域住民への健康上の問題を投げかけています。

被災後25年に及びベラルーシでは、チェルノブイリ原発事故委員会を含む他の研究機関が、放射能汚染された国土を回復させるための確実な技術や汚染地帯の住民の健康で安全な生活の実現に向けて膨大な経験を積み上げています。

大使は「原発事故が人々の健康や経済にどれだけ悲惨な影響を及ぼすか、ベラルーシはこれまで、今の福島の人たちが経験していることと全く同じ経験をしている。福島で苦しんでいる人たちを見ていると他人事ではない」とベラルーシの経験を生かしてほしいと熱く語るのでした。

科学者であるラフマノフ大使が日本に派遣された理由がわかるような気がします。

■副大臣が初来日
そんな中、今週ベラルーシ共和国の緊急省のウラジミール・チェルニコフ(Vladimir Chernikov)副大臣が来日するようです。

チェルニコフ氏は、同国のチェルノブイリ原発事故委員会 会長も兼任し、ベラルーシ共和国におけるチェルノブイリ事故に関わる放射能対策の最高責任者。

来日目的は国際組織であるInternational Scientific & Technology Centerの主催する、福島原発事故の復興をテーマにしたシンポジウムに講演者として招聘されたことと日本政府関係者とのミーティングです。

東京と福島で開催される、このシンポジウムへの出席を通して同氏は多くの関係者と原発事故が抱える問題や課題についてさまざまな意見や知識などを交換し、福島の再興に役立ちたいと考えているようです。

これまで日本は、広島・長崎の被爆経験を生かし、ベラルーシも含めたチェルノブイリ事故被災者への医療支援を行ってきました。

今度は、日本が体験したことのない内部被曝や土壌・食品などの放射能測定や除染の経験やノウハウをベラルーシから学ぶことが出来れば素晴らしいことだと思います。

この種の情報交換や人的交流を通して福島の一日も早い復興を願わずにいられません。

パブリック・リレーションズ(PR)でどのようなことが出来るのか、私たちに大きなテーマが与えられました。

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2011年12月12日

中国最新メディア事情
 ~日本企業の抱える問題

こんにちは井之上 喬です。

日本企業が文化、言語、そしてビジネス慣習の異なる海外市場で事業活動を成功させるために不可欠な要素のひとつにパブリック・リレーションズ(PR)が挙げられますが、その中でもメディアリレーションズはコアとなる活動です。

先日、私の経営する会社井之上パブリックリレーションズの中国事業支援室で、中国セミナー「中国最新メディア事情」を開催しました。

セミナーの講師は、「中国経済新聞」(日本語)及び中国向けビジネス情報Web「日本新聞網」(中国語:( http://www.ribenxinwen.com/ )編集長の徐静波氏(株式会社アジア通信社社長)と中国経済圏に精通している野嶋剛氏(朝日新聞国際編集部次長)。

写真

中国での取材体験豊富な日中二人のジャーナリストを通して、中国の最新メディア事情とその活用について講演・対談していただきました。

■台頭する新メディア
GDP世界第2位の経済大国となった中国は、安価な労働力と土地を提供する生産基地から、増大する国内消費力を背景に巨大消費マーケットへと変容を遂げつつあります。こうした中で中国メディアも大きな変化の時を迎えています。
                 
徐編集長は、中国ではメディアの版権意識が低く、「ひとつの記事が出ると転載、転載で幾何級数的に記事が波及することが多い」としています。一方日本では、「朝日と日経は相互リンクをしないが、中国では1社の記事を何百社がリンクすることも多い」と話しています。

これに対し野嶋氏は、「中国ではニュースは無料で読むものとの意識が強く、有料での購読は難しい」と中国での出版事業の難しさを語っています。

しかしその一方で、新しい宣伝メディアの登場により従来、国営テレビ、党・政府機関紙などでメディア数も限られていたが、最近ではツイッターに代表されるネット系のメディアが登場していると、急進するネット・メディアの台頭について熱く語っています。

そのなかでも微博(中国版ツイッター)が中国で影響力を持ち始めており、微博の運営企業である「新浪」のユーザーは3億人に及ぶとしています。

野嶋氏によると、このところ日本企業には微博にアカウントを開設するところが増えてきており、日本人で最多数のフォロワー840万人を持つのはAV女優の蒼井空で、最近では蓮舫議員やAKB,浜崎あゆみなども開設したとのこと。

いまの中国はネット・メディアの規制と開放の間で揺れ動いており、情報管理社会でメディアは、党、政府の下に位置づけられているものの、ツイッターなどの新メディアの登場がメディア規制を逸脱しているとしています。

卑近な例として、7月に起きた高速鉄道事故では、乗客がツイッターで外部に情報提供し、情報規制の封鎖が破られ、また2010年の10月にノーベル平和賞を獄中の中国人著作家劉暁波氏が受賞した際、厳重なメディア規制をかいくぐって、奥さんがツイッターで外部に状況を発信し、大きな反響を巻き起こしています。

中国政府は暁波氏の受賞をきっかけに中国独自のネット文化を作り上げる必要性を痛感し、微博運営企業(免許制)を通じて、自主管理の名目で規制することになったようです。

野嶋氏は「従来の中国のオピニオン・リーダーは、政府、党の公認者のみであったが、ネットの普及により新しいオピニオン・リーダーが登場している」とし、タイム誌の影響力のある100人に選ばれた寒韓(カンカン:20代男性)や中国No.1ツイッターの達人、1日20~30のつぶやきを発信する安代(アンティー:ジャーナリスト)の名前を挙げています。

中でも異色名存在として挙げているのは、日本人オピニオン・リーダーでまだ20代半ばの北京大学卒の加藤嘉一さん。彼には90万人のフォロワーがおり中国で中国語で意見を発表している日本人では唯ひとりの存在。

企業は、これら独自の価値観を持つ彼らを味方につけることが戦略的に重要としています。

■苦戦する日本企業と広報ベタ
徐氏も野嶋氏も異口同音に日本のイメージや日本企業の広報対応の問題点について、指摘しています。

徐氏は中国人の日本に対する良いイメージとして、電子製品、化粧品、観光資源の3つを挙げています。電子製品には、カメラや電気製品の高品質性。化粧品は資生堂の高イメージと商品のハイクオリティ性。観光資源には富士山とそれぞれの特徴を挙げていますが、「逆にいえばこれら3分野しかないとも言える」と厳しい評価を下しています。

また、中国市場における韓国製品に対するイメージについて、「日本では2流イメージを持たれているが、中国では商品によって1流、2流の2つのイメージがある」とし、「サムソンのTVは1流イメージで、松下より品質がよいと中国人は認識している」と韓国のファッション製品のイメージの高さとともに中国での高評価を語っています。

また徐氏は日本車が中国市場で苦戦していることについて、「昨年、中国での車販売の全体伸長率の87%に対して日本車各メーカーは、トヨタ:32%、ニッサン:51%とし、欧米メーカーはGM:132%、Audi:98%とその大きな差を指摘。

彼は日本車苦戦の理由のひとつに、「中国人ユーザーが望む商品が提供されていない点がある」とし、日本車のボディの鉄板が薄いことで事故時の安全性に疑問が投げかけられ、車保険の適用に不適合とされたり、高価なエアーバッグの修理代など「中国人が本当に望むものを研究する必要がある」としています。一人っ子政策で子供の少ない中国では安全性への特別の配慮が鍵となっているようです。

これには日本メーカーの反論が聞こえてきそうです。しかし昨年9月のこのブログ(2010年9月26日号)でも述べているように、欠陥車のイメージを恐れ、車のリコールをしない中国メーカーと、欧米メーカーと同じように人命優先でリコールを積極的に行う日本メーカーの考え方の違いを、どれだけ中国の消費者に伝えているかはなはだ疑問、としています。

中国市場へのパブリック・リレーションズ(PR)が十分でないこともその原因に挙げられるのではないでしょうか?

徐氏は、ある日本の高級化粧品メーカー(A社)の広報対応の失敗について次のように語っています。

あるときA社は同社の美白効果成分(有害物)がユーザーの肌に障害を起こしたとされる問題を起こした際、「消費者が現地法人に問い合わせのための電話を入れても、誰も応答しないことがあった」としています。

メディアが広報窓口に連絡しても連絡がとれない状況が続くなかで、現地法人の責任者(社長)は雲隠れ状態。

これに対し中国メディアはネットも含めての大々的批判報道を行ったようです。その会社はこの問題で「20年以上中国市場で積み上げた信用を一気に落とし一瞬で中国市場を失った」と語っています。

この問題に対して徐編集長は、「日本企業への不満が高まる理由のひとつに広報対応が問題として挙げられる」とし2つ列挙しています。

1)現地代表は、本社の課長クラスで、自から決定、対応ができない。
2)現地代表は技術者出身が多く、広報について知識や経験がない。
その結果、日本企業は本国とのやりとりなどで、対応が遅れ、その間にマスコミにたたかれることになり、現地法人社長が逃げ隠れすることになる。

徐氏はこの中で、中国人現地広報担当者のマスコミ対応姿勢の問題を指摘しています。中国人の多くの広報責任者は、「共産党関係でプロパガンダのエキスパート。中国では超エリートとされ、そのエリート意識が災いして若いジャーナリストが多いメディアとの付き合いが疎遠になり悪化する」ようです。

朝日新聞の野嶋氏は、日本企業の上層部には広報の重要性を理解しない企業文化があるとし、「特に海外広報は国内広報以上にスキルが要求され、海外で広報担当を数年経験した後、本国へ戻ると別の部署に転属となるケースが多く、折角の海外広報の経験が、企業に蓄積されないことは残念」と広報職が専門的領域としてみなされていない日本企業の抱える諸問題について語っています。

また野嶋氏はチャイナ・リスクのひとつにメディア・リスクがあるとし、中国メディアには前述したような高いリスクがあることをよく認識して取り組むことが重要と語っています。

こうして3時間にわたるセミナーは終了しましたが、日本企業の広報部の抱える問題点が浮き彫りにされたセミナーでもありました。


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2011年08月08日

霍見教授からのメッセージ
 ~危機的状況の中でこそ改革を

こんにちは井之上喬です。
皆さんいかがお過ごしですか?

先日、ニューヨーク市立大学大学院教授の霍見(つるみ)芳浩さんの来日講演に出席しました。

主催は霍見教授の慶応大学時代の友人である加賀屋裕さんが主宰する国際エグゼクティブフォーラム。友人で「水素研究会」のメンバーでもある産業工学研究所社長の前川守さんと一緒に参加しました。

霍見さんとは3年ぶりの再会。米国ハーバード大学院で経営学(MBA)を学び、日本人として米国で初めてDBA(経営学博士号)を取得。日米の政治、経済、外交、社会、文化など多方面に精通している経済学者です。

ハーバード大学経営大学院の教授時代に前大統領のブッシュJRをビジネス・スクール(MBA)で教えたこともある霍見さんは、3・11以降の日米関係と日本の針路について冷徹な目で分析、日本へのアドバイスをしてくれました。

■■危機状況は改革のチャンス
霍見さんは今回の東日本大震災が米国産業に多大な影響を与えたことを語りました。

特に自動車業界では東北地方の自動車部品メーカーが壊滅的被害を受けたことで、トヨタ、ホンダなど日本メーカーが大幅減産を強いられ、その間隙を縫ってビッグ3を擁するデトロイトが復権したとしています。

GMは5年ぶりに世界一をトヨタから奪取。霍見教授は今回の主役交代にはさまざまな要因があるとし、そのひとつに昨年起きた米国でのトヨタのリコール問題を挙げています。

同教授は昨年2月に行われた、豊田社長の米議会での公聴会の対応の拙さが米国民に失望を与えブランドイメージを失墜させたとしています。

米国のオーディエンスが日本国内の反応とは逆に厳しい判定を下していたことを強調し、トヨタ問題が日本の崩壊と結びついていると語っています。

また震災問題にせよ、企業の不祥事にせよ、危機管理下での組織改革のチャンスについて触れ、危機的な状況にあればこそ抜本的な改革が可能になるとしています。

同教授はアルベルト・アインシュタイン(1879-1955)の言葉を引用し、「問題を作り出した人間は新しい改革をできない」と今の日本が危機的状況を脱し改革を進めていくためには、新しい人間かマインドを変えた指導者がこれにあたらなければならないことを強調。

とりわけ厳しいグローバル競争を生きる企業経営者にとって、企業活動と政治は切り離すことができない相互関係にあるとし、持論の政経不可分の重要性を説いています。

■■大学での人材育成はグローバル化の鍵
また日本企業が生き残っていくためには真のグローバル化が求められており、そのための積極的な人材育成が重要であると語っています。しかしある大手商社のように、新人社員が誰も海外勤務を希望しないなど最近の若者の内向き志向を嘆いてもいます。

霍見さんによると、「世界競争力ではかっては高卒の現場力が重視されていたが、ハイテク時代の現在は大学・大学院卒の人材が求められている」とし、中国やインドと競争するには、付加価値性の高いモノやサービスで勝負しなくてはならないとしています。

優秀な人材確保が求められる日本で、日本の就職活動のあり方にも話が及びました。霍見教授の指摘する問題は、就職活動が早期化し青田刈りにより学生の勉強時間が削られることでグローバル化に対応した人材育成が困難になる現状があるということ。

周知のように今年の2月に、経団連は企業の新卒採用のための広報活動を従来より2ヶ月遅くした「大学3年の12月以降」とし、選考活動は従来通りの「大学4年の4月以降」と決めています。

霍見さんは「大学4年の9月」に選考活動をスタートさせるべきと主張しています。

私見ですが、広報開始は「大学4年の4月」からとし、夏休みはインターンシップ期間として使い、選考活動は「大学4年の9月以降」が妥当と私は考えています。

霍見教授が語っているように、グローバル競争に打ち勝てる人材を育成するには、米国のようにできるだけ長く大学でさまざまな学問を教えることが重要になるはずです。

質疑応答の際に、私はパブリック・リレーションズ(PR)の必要性についてたずねました。この質問に対し霍見さんは、パブリック・リレーションズ不在は日本企業の弱点でもあると指摘。

1995年に起きた、自ら経験する富士フィルムとイーストマン・コダック社の特許侵害問題で、リレーションシップ・マネジメントであるパブリック・リレーションズを駆使し富士フィルムが勝利したことを語り、PRの果たした役割が大きかったことを語ってくれました。

グローバル化といわれて20年以上経過していますが、日本企業の真のグローバル化は、大震災発生以降緒についてばかりともいえます。

単にいい製品を作っていれば売れる時代はとっくに終わり、いかに強力なマーケティングとグローバルに展開するうえでパブリック・リレーションズが重要か、企業の生存をかけた戦いはこれからです。


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2011年08月01日

金融危機後の米国消費者の価値観とは
 ~『スペンド・シフト』に見る新たな消費トレンド

『スペンド・シフト ― <希望>をもたらす消費 ―』

暑中お見舞い申し上げます。
皆さんお元気ですか、井之上 喬です。

今回は2008年のリーマン・ショック以降、消費が冷え込んだ米国で消費者の様変わりを追いかけ、新たな消費トレンドを解説したマーケティング本『スペンド・シフト』(邦訳版:2011年7月、プレジデント社)を紹介します。

同書は米国大手広告代理店ヤング&ルビカムの消費者行動研究の専門家、ジョン・ガーズマとピュリツァー賞の受賞経験もあるジャーナリスト、マイケル・ダントニオとの共著に
よるもの。

■量より質、見た目よりも実質
マーケティングの神様といわれるフィリップ・コトラー、ノースウエスタン大学教授は本書へ次のような序文を寄せています。

「2008年の金融危機後の世界では、雇用なき景気回復への不安があり、消費に回せる金額が限られるため、消費者自身も混乱(カオティクス)を経験している。とはいえ、希望につながるデータもある」。

さらに続けて、「人々が生活を見つめ直し、勤勉、節約、公平、誠実といった大切な理念を取り戻しはじめている」とし、人々はニーズと欲求(ウォンツ)を切り離し、商品やブランドを慎重に比べたうえで購買決定を行っていると論じています。

また「消費者は意義あるブランド、つまり、清廉さ、社会的責任、持続可能性(サスティナビリティ)を柱とするブランドを受け入れている。」とし、2008年のリーマン・ショック後のアメリカの消費行動の変化について記述。

そして、米国の全人口の半数以上が、こうした価値観の変化を経験しており、「量より質」、「見た目よりも実質」、「そして謳い文句よりも実体験」を重視しているとしています。

コトラーは本書が、「米国の消費者の支出習慣に影響を与えている新しい気質や価値観の変化を紹介していて、2008年の金融危機後の事業戦略を検討するすべての人にとって有益なものとなる」とその購読を勧めています。

この『スペンド・シフト』を著すうえで特長的な点が2つあります。ひとつは、ヤング&ルビカムが17年にわたり蓄積してきた120万人を超えるデータベースBAV(ブランド・アセット・バリュエーター)を活用していることです。

このBAVには、50カ国、4万件を超えるブランドのデータが蓄積され、消費者の購買意識からどのブランドが支持されているかに至るトレンドをデータから読み取ることができます。

なかには、マイクロソフトのように「誠実さ、リーダーシップ、信頼性、社会的責任感といった項目でアップルよりも30%超も高い評価」といった、日本ではあまり耳にしない意外な情報も含まれています。

■禍転じて福となす
もうひとつの本書の特長は、全米10ヵ所の町のルポと詳細な現地消費者調査が文章に説得性を持たせていることです。例えばデトロイト。

プレジデント社の本書紹介では、デトロイトはアメリカ一の高失業率で企業や人口の流出に悩む都市と位置づけしつつも、凋落の一途を辿るかと思われたこの町に、いまや若者やアーティストたちが戻っているとしています。

また地価暴落が、新たなチャレンジへの敷居を低くしているとし、「苦境を乗り越えるなかで芽生えた助け合いの精神も、他の地にはない魅力。」と書いています。

逆境をチャンスに変えていこうとしているたくましいデトロイトの試みには、未曾有の震災を乗り越え前進しようとする私たち日本との共通点を見出すことができます。

また、同社は『スペンド・シフト』が伝えようとしている変化について次のようなキーワードでまとめています。

・自分を飾るより ⇒ 自分を賢くするためにお金を使う。
・ただ安く買うより ⇒ 地域が潤うようにお金を使う。
・モノを手に入れるより ⇒ 絆を強めるためにお金を使う。
・有名企業でなくても ⇒ 信頼できる企業から買う。
・消費するだけでなく ⇒ 自ら創造する人になる。

私たちパブリック・リレーションズ(PR)の実務家にとって社会の大きな流れや業界動向、消費トレンドなどを常にアップデートしておくことは、PR戦略を構築したり、見直したりするうえで極めて重要なことです。

『スペンド・シフト』は、アメリカだけでなく日本でも起きていること、また今後起き得るであろうことを多く示唆しています。

パブリック・リレーションズ関係者やマーケターだけでなく広くビジネスパーソンが読むべき一冊と言えます。


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2011年07月04日

産学連携モデル:「株式会社を教室に」
 ~大学発ベンチャー企業の進化形

皆さんこんにちは、井之上 喬です。

先週、知人の登大遊さん(ソフトイーサ株式会社代表取締役会長)から自社社屋購入に伴い、本社営業部を移転する旨の通知を受けました。登さんは、VPN ソフトウェア「SoftEther」 (ソフトイーサ)の開発者で2004年4月に筑波大学発のベンチャー企業ソフトイーサを立ち上げた若き経営者。

現在同大学院在籍中の登さんが筑波大(第三学群情報学類)に入学したのが2003年4月ですから、丁度入学1年後の大学2年生になりたての時に会社を設立したことになります。

新進気鋭な若手起業家によるベンチャー企業の発展は、新規事業の創造や雇用拡大につながるばかりでなく、日本経済や産業の活性化に不可欠なことです。私のこうした思いもあり、登さんからの通知に事業発展の様子が窺われ、大変嬉しく思いました。

■「大学発ベンチャー1000社計画」発表から10年
1980年代からみられるように米国シリコンバレーやボストン地域などでは、大学をスピンアウトしたベンチャーが次々と成功を収める一方、日本においても先端的な技術をベースとする大学発ベンチャーに対する期待が高まってきました。

こうした背景の中で、経済産業省は大学の「知」を事業のコアとする大学発ベンチャー企業の創出を促進するため、2001年5月に「大学発ベンチャー1000社計画」を発表。産学官一体となった大学発ベンチャーへの支援策を講じることになりました。

計画が発表されて10年経ちますが、経済産業省の「平成19年度(2007年)大学発ベンチャー基礎調査」(平成20年8月)にその成長ぶりを見ることができます。

それによると2007年度末時点で1,773社の大学発ベンチャーが活動中で、それらの売上高合計は約2,800億円、雇用者数で約23,000人。間接効果を含む経済波及効果では、売上高5,100億円、雇用者数36,000人と推計されています。

しかし、米国シリコンバレーに代表されるようなベンチャー企業を取り巻く環境とは異なり、日本の大学発ベンチャーが直面する課題としては「人材の確保・育成」、「資金調達」、「販路開拓」の3点が挙げられています。

これらの課題は「大学発ベンチャー基礎調査」を開始した2002年度以降一貫したもので、大学発ベンチャーがさらなる発展を遂げていくための障壁となっています。

■大学生の取締役と社員で会社経営
一方、大学教育では昨今の厳しい雇用情勢などを踏まえ、大学生の社会的、職業的な自立に関する指導(キャリアガイダンス)が推進されています。

このような中、名古屋産業大学(愛知県尾張旭市、伊藤雅一学長)が極めてユニークな事業モデルを発表しました。同大学の取り組みは今後の産学協力関係に多くの示唆を与えています。

名古屋産業大学は、全国でも唯一、環境情報ビジネス学部の設置校。

これは私の経営する会社、井之上パブリックリレーションズ(井之上PR)が関わった事例でもありますが、名古屋産業大学は5月中旬に東京で記者会見を開催。これまでの環境ビジネス分野のインターンシップ制をさらに発展させた、「株式会社名古屋産業大学グリーン・ソーシャルビジネス」(以下、名産大GSB)の設立を発表しました。

名産大GSBでは、3年次以降の大学生が同社の取締役や社員となって経営企画、営業部門、業務管理部門など企業経営全般に主体的に関わり、CO2削減をテーマに環境ビジネスを実践していくもので、大学生は所定の単位を取得できます。ベンチャーとインターンシップを組み合わせた事業スキームといえます。

このスキームは新たなソーシャル・ビジネスモデルとして現在、特許申請中。

また事業活動から生じる事業収益は、CO2濃度測定局(場所)の拡大とこれに基づく環境教育の普及など低炭素社会への貢献と学生支援に還元されるとのことです。

平成28年度には、取締役全員が学生により構成されるとし、同社の経営は学生の自治と責任において運営されることを目指しています。

先日、私の会社に伊藤学長が訪れ、名産大GSBの代表取締役の立場から同社の今後の活動計画などについて話し合いました。

この新たなソーシャル・ビジネスモデルを開発した伊藤さんは、優れた教育者としてばかりでなく、コミュニケーション能力に秀で、起業家的な創造力や実行力を持ち合わせた特異な方で、とりわけ環境ビジネス分野で即戦力となる人材育成に熱意を示されていました。

東日本大震災以降、日本経済の成長を牽引する重要な戦略分野として、グリーン・イノベーションによる新たな環境にフォーカスした市場開拓と雇用創出が期待されています。

しかしながら、7月3日の朝日新聞一面トップに大きく掲載された「大卒2割進路未定」にみられるように、不安定な立場にいる卒業生は、少なくとも8万6,153人にのぼる(朝日新聞と河合塾の共同調査)とされています。

こうした環境の中で、名産大GSBのソーシャル・ビジネスモデルはまさに時流にそったものといえ今後の動向が注目されるところです。

超就職氷河期といわれる一方、少子化により大学間の受験生獲得競争が激化する今日、こうした分野でもパブリック・リレーションズ(PR)の役割が強く求められています。

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日本パブリックリレーションズ研究所(JPRI)では、東日本大震災で風評被害の深刻な影響を受けた観光業界、とりわけ自治体観光局や観光関連団体に対し、「風評被害を避けるための情報発信方法」の無料相談を5月25日より開始しました。詳しい情報はWebサイトでどうぞ。

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2011年06月13日

東日本復興に向けた新しいビジネス・モデルの創出を
 ~AKB48総選挙と宝島社から学ぶ“ジャパン・モデル”のヒントは?

こんにちは井之上喬です。

東日本大震災から3 カ月が経ちました。
まだまだ被災地はがれきの山で、復興には相当な時間と資金が必要な状況のようです。日本国民全体で長い道のりを共に歩む覚悟が必要だと思います。

6月11日の朝日新聞朝刊は、「6割 生活再建めどなし」とする見出しのトップ記事を掲載。岩手、宮城そして福島の被災42市町村長に対するアンケート調査で、被災者の6割余りが生活再建のメドが立っていないと窮状を訴えています。

復興のためには、被災者の雇用の確保と創出が最優先課題だとしています。まさにその通りだと思います。

しかし、被災前の場所で元の仕事ができればよいのでしょうが、地震や津波だけでなく原発事故の影響も重なり、全く新しい環境で全く新しい仕事を余儀なくされる方々も多いことでしょう。

大震災によるサプライチェーンの分断により、日本の部品がなければ自動車や最新の家電品が作れないといった日本の強さも浮き彫りにされました。その一方でリスク分散の観点から調達先を複数に切り替えたり生産拠点の海外をも含めた分散を要求されるケースもでてきています。

単純に考えれば、雇用機会の減少、競争力の低下、日本市場の縮小と負のスパイラルに陥りかねません。何としてでも日本には、震災をきっかけにした新しいビジネス・モデルの創出が急がれます。

■AKB48総選挙、宝島社から学ぶ
前回6月6日のブログでも書きましたが、日本は課題解決先進国です。多くの困難を乗り越え“ジャパン・モデル”をさまざまな分野で世界に提示していきたいと思います。

その1つに新しいユニークなビジネス・モデルがあります。

6月10日のスポーツ紙などの1面には「総選挙でトップ交代!」の見出しが躍っていました。

おや?と思い記事に目を通すと大人気のアイドルグループAKB48の第3回選抜総選挙と称する人気投票で前回2位の前田敦子さんが、前回トップだった大島優子さんに雪辱し1位になった記事の見出しでした。

記事の中には「永田町より一足早くトップ交代」と、政局の混迷を皮肉るコメントが書かれていました。

このAKB48の総選挙は、ファンが好きなメンバーに投票し多い順に次に出るシングルCDを歌うメンバーが決められ、トップをとると舞台の最前列の真ん中で歌うことができる仕組みのようです。

投票権は5月に販売されたシングルCDの購入者が1枚につき1票、インターネットで投票することになっており、対象となったCDは170万枚を超える出荷枚数になり、選挙戦はヒートアップした(SANKEI EXPRESSを参照)とのこと。

なかにはお目当ての候補者に多くの票を入れるため、1人で1万2500枚のCDを買う熱狂的なファンもいたと言われるほどのフィーバー振りで、この現象は海外でも報道されたようです。

この仕掛け人はおニャン子クラブの秋元康氏。インターネットからのダウンロードなどで、売り上げ減が続く音楽業界に新しいビジネス・モデルを提供、世界のエンターテインメント業界からも注目されているシステムです。

他にも構造不況業種ともいわれる出版界では、宝島社が1989年の「CUTiE(キューティ)」を皮切りに世代やファッション・スタイル別の雑誌を創刊するビジネス・モデルを展開。

女性に人気のブランドアイテムを付録に、幅広い読者からの支持を受けている「sweet(スウィート)」は100万部以上を発行しています。

この戦略の流れの中で、宝島社は40代女性をターゲットにするファッション雑誌「GLOW(グロー)」を2010年10月に創刊しましたが、創刊キャンペーンとしてインターネットで応募し当選した40代の女性400人を対象にオリジナルの天然ルビーを無償配布。

また、創刊号には英国のローラアシュレイ・ブランドのボックス・バックが付録として付いて680円、発売風景や購入者の反応はテレビでも放送されるなど話題を呼びました。

■ソフト・パワーの片鱗を知る
AKB48と宝島社の例は成熟期から安定期を迎えた業界に、新たな成長戦略を打ち出したビジネス・モデルとして注目されています。

これらの事例は新規産業でのビジネス・モデル創出に限ることなく成熟産業の中でもアイデア1つで大きなマーケットを作り出す可能性を示した成功例ではないでしょうか。

また前号でも紹介した、日本が世界に誇れるソフト・パワーのDNAを感知させてくれます。

目標を達成するためには何をすればよいのか。私が以前からお話しているように、パブリック・リレーションズ(PR)は、目標達成のための最適な手法であると考えています。

目標に向けた戦略を構築し、それを実践するための戦術を考え駆使します。そしてその結果を客観的に判断し次のアクションへ繋ぐことができる自己修正機能を活かすことで目標達成の最短距離をたどることができます。

日本のさまざまな地域や産業、そして分野で新しいビジネス・モデルが勃興し、それらをPRが支え牽引するような最強の組み合わせが機能することを期待しその最前線で活動したいと強く思っています。

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2011年03月07日

日本企業の「ものづくり」の強さを実証
 ~企業ランキングとブランド価値の数値化

皆さんこんにちは、井之上 喬です。
端午の節句も終わり日差しに勢いが増す今日この頃、皆さんお元気ですか?

3月に入って特に目についた記事が2つあります。ひとつは3月1日の東京新聞(夕刊)「米消費者誌の自動車番付」で、もうひとつは、2日の日経MJ「日本企業の世界ブランド価値総額」でした。いずれも企業価値の評価に関連するデータです。

■「ホンダ」が5年連続1位
米消費者団体専門誌『コンシューマー・リポート』の発表によると2011年「自動車メーカーランキング」では、ホンダが5年連続で1位となりました。昨年はホンダと並んで1位だった富士重工業が2位。トヨタ自動車はリコール問題の影響もあり昨年同様3位という結果が伝えられています。

このランキングの対象メーカーは13社で、各車種を対象に走行テストを行い、安全性、信頼性、リセールバリューなどの評価項目と併せて独自調査し、百点満点方式で決められます。

日本勢が占めるトップ3社のポイントは僅差で、ホンダが74点、富士重73点、トヨタ71点。ちなみに最下位(13位)はクライスラーの43点でした。

あとの順位では4位がボルボで5位は昨年11位だったフォードが躍進。6位は現代自動車(韓国)、7位は同点でマツダと日産自動車が並びました。9位は独のVW、同点の10位はダイムラーとBMWと独車が占めました。

ウィキペディアによると『コンシューマー・レポート』 (Consumer Reports) は、「非営利の消費者組織であるコンスーマーズ・ユニオンが1936年から発行しているアメリカ合衆国の月刊誌。独自の研究所が行う消費財(あらゆる製品やサービス)の比較検討調査の結果をレポートする」月刊誌。

また同誌は、「(中略)定期購読者は雑誌とウェブ版の合計で約700万部とされる。レポートの独立性・公平性を維持するために、各号誌面には一切の広告が掲載されていない。」と紹介されています。こうした不偏性や公正さをもつが故にランキング結果は、北米における新車・中古車販売に多大な影響を及ぼしています。

日本でも暮しの手帖社が、広告を一切排除して消費者目線で厳しく生活グッズをチェックするというと同様のコンセプトで1948年に『暮しの手帖』を創刊しています。このブログを読んで『暮しの手帖』を想起した人も多いのではないかと思います。

工業製品のなかでも特に自動車づくりは、厳しい国際競争に打ち勝っていくために常にイノベーションが求められる産業分野であり、『コンシューマー・レポート』の日本車に対する高い評価を目にして、「日本企業もまだ頑張っている」と思いを強くしたのは私だけではないはずです。

■ブランド価値を数値化
また日経MJ の紙面では、2011年版の日本企業のグローバルブランド価値の総額ランキングが紹介されていました。コンサルティング会社のインターブランドジャパン(東京・千代田)の発表によるものです。

ランキングは日本発のブランドで、財務情報を公開しており、海外売上高比率が3割を超えている企業を対象としています。今回3回目の調査で条件を満たした100社のブランドが生み出す利益水準などを勘案して順位がつけられたとのことです。

それによると首位は3年連続で「TOYOTA」(ブランド価値総額:256億6100万ドル)、続いて「HONDA」(185億1000万ドル)、「Canon」(114億4200万ドル)、ここまでがベスト3です。

以下、「SONY」(113億5300万ドル)、「Nintendo」(91億8400万ドル)、「Panasonic」(45億4900万ドル)、「NISSAN」(28億8600万ドル)、「LEXUS」(25億2300万ドル)、「TOSHIBA」(22億4600万ドル)、「SHISEIDO」(22億1500万ドル)いう順番でした。

上位30位以内には日本の「ものづくり」の強さを反映して自動車・電機系企業など製造業が多数を占めていますが、10位に資生堂、29位に味の素が入るなど生活用品・食品メーカーも今回躍進が目立ったとしています。

これまで企業価値を、株価に発行株式総数を乗じて算出する時価総額という指標がありましたが、ブランド価値を金額に数値化するというその試みに強い関心をもちました。

2つの記事は、こうしたことを新しい視点から考えさせてくれました。

しかし、日経MJには紹介されませんでしたが、同じインターブランド社の世界企業を対象としたランキング「Best Global Brands 2010」でみると、前述の日本企業はTOYOTAが11位を筆頭に、HONDA20位、Canon33位、SONY34位、Nintendo38位そしてPanasonicが73位と100位以内にわずか6社しかランクされていません。

一方米国企業は上位7社を、Coca-Cola、IBM、Microsoft、Googleなどが独占し、上位100社に50社もの企業がランクされています。一体この差はどこからきているのでしょうか?

このあたりのことは一度このブログでもじっくり取り上げてみたいと思います。

どんなにいい製品をつくっていても、グローバル市場で戦い抜くことは別次元のこと。その成功のためには、これまで日本企業に馴染みがなかったパブリック・リレーションズ(PR)を戦略的に用い、ブランド価値を高めていくことが鍵となります。

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2011年02月28日

開設40周年迎えたNASDAQ市場
 ~証券市場の競争激化

皆さんこんにちは井之上 喬です。

外を歩いていると、梅の花がほのかな香りとともに一気に花開いてきました。今週は雛祭りもあり春の到来も間近です。

私が経営する井之上パブリックリレーションズ(井之上PR)は、おかげさまで今年度に設立40周年を迎えることができました。国内外の企業のさまざまなパブリック・リレーションズ(PR)の支援に取り組んできましたが、井之上PRの特徴であるPRコンサルテーションの基盤を作ったのは、PRに対ししっかりとした考えを持って取り組んでいる多くの海外企業との経験だと感じています。

井之上PRのクライアントとして共にPR活動に取り組んだ海外の顧客企業の中には、インテルやアップルなどNASDAQ(ナスダック)に上場している企業も数多くあります。2月8日、そのNASDAQは1971年の取引開始から40周年を迎えました。

IT産業を現在のような巨大産業に成長させたNASDAQ の果たしたその役割は計りしれません。

■アップルのIPOに立ち会う
世界初の電子株式市場として証券取引を開始したNASDAQは、米国シリコンバレーを中心とするハイテク・ベンチャーの資金調達やIPO(新規株式公開)を手助けしてきました。

NASDAQ上場の主な企業には先述のインテル、アップル以外にもマイクロソフト、グーグル、オラクル、アプライドマテリアルズ、デル、クアルコム、ヤフー、ザイリンクスなどそうそうたる企業が名を連ねています。

私にとってNASDAQを一番身近に感じさせてくれた会社はアップルです。

アップルがNASDAQに上場したのは1980年12月。当時アップル本社での打ち合わせのために、シリコンバレーにいた私は出張先で同社のIPOに立ち会うことになります。

株式上場する日の早朝、現地のパートナーであったジェムス・今井さんからホテルに、「先ほど、アップルがIPOしましたよ」と電話がかかってきました。時差ボケで眠たい目をこすりながら、急いで地元の証券会社に連絡をとり同社の株式を購入。

今でも強く印象に残っているのは、この上場で750万株を保有していた創業者で社長のスティーブ・ジョブズの時価が2億ドルを超えていたことです。若干25才の若者が、当時のレートで500億円近いお金を手にしたのです。

午前中アップル本社に行くと、受付の奥の広い部屋で、会長のマイク・マークラが社員とともに東京から来た私たちをIPOの祝賀パーティに招き入れてくれました。"Congratulations!"と笑顔でシャンパン・グラスを交わしたことがまるで昨日のように思えます。

NASDAQは、世界の証券取引所の時価総額を見てもニューヨーク証券取引所の11兆3918億ドル、東京証券取引所の3兆3353億ドルに続き第3位にランクされ、時価総額は2兆9296億ドル(Wikipediaから引用、2009年10月現在の数字)。

一方、野村資本市場研究所の調査では、2010年末の時価総額で東京証券取引所を抜き世界第2位になっているようです(2010年12月末の為替レートで円換算)。

しかし、明るい話題ばかりの40年ではありませんでした。1990年代末のいわゆるITバブル期には事業の実体のない会社まで上場し、結果的にはバブルの崩壊を招きました。

■激変する証券市場
NASDAQ総合株価指数は、ピークだった2000年3月の5048からITバブル崩壊後に急落、先週末の2月25日現在でも2737と多少持ち直してはいるものの依然低迷状態にあります。

40年を迎えたNASDAQを取り巻く環境は大きく変化しているように感じます。まずは、短期的な業績結果を求める米国流企業経営に対する変化、そして世界規模の証券取引所間の競争激化があげられます。

第1の変化の象徴としては、今最も注目されているSNS最大手フェイスブック社。同社のマーク・ザッカーバーグCEOは、これまでベンチャー企業にとっての成功の証明であったIPOにあまり乗り気ではないようです。

その背景には、事業よりも収益改善を求められがちな公開企業になることへの懸念や、IPO以外にも投資銀行を始めさまざまなファンドからの資金調達が可能になったことなどが挙げられています。

こうした流れの中で、新しく登場してくるハイテク関連のベンチャー企業経営者が、どのような企業文化を持ちながら舵取りをするのか非常に興味深いところです。

また最近の傾向として、GDPでは中国が世界第2位に躍進するなど、アジアを中心とする新興国の経済的な躍進により、同地域の企業が上場先として米国よりも成長著しい上海や香港、台湾などの証券取引所を上場場所として選ぶケースも増えているようです。

今年に入り、ロンドン証券取引所とトロント証券取引所の合併合意発表や、NYSEユーロネクストがドイツ証券取引所との合併を協議していることなどが明らかにされています。

このように規模拡大とさらなる効率化を目指した、世界規模での証券取引所の再編の動きは、NASDQに新たな課題を与えています。

一方、2月25日の日本経済新聞は「東証が誘致専門部隊」と東京証券取引所の新しい取り組みを報じていました。急速な国際環境の変化の中で、4月に同取引所の中に、アジアを中心に海外からの投資に対する誘致活動を行う専門部署として営業本部が設立されるようです。

世界規模で進行する証券取引所再編の動きに日本はどのように対処するのか、その真価が問われることになりそうです。

メッセージ発信には、パブリック・リレーションズ(PR)の基本となるコミュニケーション・マネージメントが不可欠。地盤沈下している東京証券取引所の起死回生の一手になるのか、NASDAQ同様、こちらも大いに注目したいところです。

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2011年01月24日

井之上ブログ 300号記念号
「マニフェスト」は信頼性を失ったのか?
 ~「マニフェスト・サイクル」と「PRライフサイクル」との融合

こんにちは、井之上喬です。
寒さも一段と厳しさを増してきましたが、皆さんいかがお過ごしですか。

日本社会にパブリック・リレーションズ(PR)を根付かせたいとの一念で、2005年4月に始めたこのブログも今回で300号を迎え、間もなく6年になります。いつもご愛読ありがとうございます。多くの方々の励ましをいただき心より感謝します。読者の皆さんのお支えがあってこそ続けられたことで、これからもよろしくお願いいたします。

このブログの100回記念特集ではパブリック・リレーションズの先進国、米国で1952年に発刊され、半世紀以上を経た今日も世界中で愛読されて第10版を重ねる『Effective Public Relations』を紹介しました。また、200回記念は日本文化とパブリック・リレーションズの接点として「絆(きずな)」をテーマにしました。パブリック・リレーションズを日本の初等教育に導入する際のキーワードとして、私が想起した「絆」や「絆(きずな)教育」について話しました。

300号記念となる今回は、政府や国民、政治家と有権者とのリレーションシップ構築の象徴ともいうべき「マニフェスト」についてお話します。

■国民の信頼を失ったマニフェスト
マニフェストが日本政治のあり方を根本的に変えるものとして本格的に登場したのは2003年11月の総選挙。各政党が競ってマニフェストを発表し、「マニフェスト選挙元年」と呼ばれ同年の「日本新語・流行語大賞」に選定されたことなどは、まだ記憶に新しいことです。

マニフェストの生みの親として知られる三重県前知事の北川正恭(早稲田大学院教授)さんには、私の早稲田大学の講義(「パブリック・リレーションズ論」)に毎年ゲスト講師としてお話しいただくなど、政党選択に新たな基準を提供するツールともいえるマニフェストは私にとっても関心の強いテーマとなっています。

しかしそんなマニフェストに対して最近では、国民の信頼も関心も随分と希薄になってしまったようです。2009年の衆議院選でマニフェストを掲げ政権の座に就いた民主党に対して「マニフェストに有ることは何もしないで、マニフェストに無いことばかりしている政党」と揶揄する声も耳にします。

果たしてマニフェストは地に落ちてしまったのでしょうか?

折しも昨年暮れ、政策シンクタンクのPHP総研・公共経営支援センターの茂原さんからの依頼で、同研究所が主催する「公共経営フォーラム」での講演の機会を得ました。

長年マニフェストをテーマにフォーラムを開催している茂原さんは、マニフェストに対する信頼性が失われる中で「今のマニフェストに欠けているところをPRでカバーすることができるのではないか?」、PRの専門家である私に、「どのようにすればパブリック・リレーションズでマニフェストを補うことができるのかを話して欲しい」と私に熱く語ってきました。
  

写真:「公共経営フォーラム」での筆者による基調講演

             
■「マニフェスト・サイクル」と「PRライフサイクル」
PHP主催の公共経営フォーラムは、「統一地方選挙に向けて、マニフェストと有権者へのPR」がテーマ。

私の基調講演の主題は「PRとは何か。マニフェスト・サイクルにどう生かせるのか?」。まず、PR(Public Relations)とは何かに始まり、選挙の際に掲げるマニフェストやその実現の成果を有権者・市民に伝えるにはどのような手法があるのか、また、マニフェストに求められる「説明責任」のあり方について、そしてマニフェスト・サイクルの推進にPRをどう生かすことができるのか、議員自身のPRはどうあるべきか、といった内容の講演を行いました。

また、そのあとのセッションは、佐賀県知事の古川康さんと「マニフェスト・サイクルとPRサイクルをどう融合させるか?」というテーマで対談しました。

古川知事は2003年に「古川やすしの約束」と題する独自のローカル・マニフェストを掲げ佐賀県知事選に挑戦、同年4月、全国で一番若くして知事に就任しました。現在2期目で「がんばらんば さが!」をキーワードに、くらしの豊かさを実感できる佐賀県の実現を目指して明るく精力的に県政に取り組んでおられます。

また、親しみやすくするために、ものがたりで読むマニフェストや動画のマニフェスト、そして日本青年会議所(JC)九州地区佐賀ブロック協議会によるローカル・マニフェスト検証大会を催すなど、ユニークな知事として話題を集めています。

今回の対談では、一般的なマニフェスト・サイクルとPRライフサイクル・モデルとの比較について論じました。

前者は「公約作成→選挙→実施→評価・検証(修正→評価・検証の繰り返し)→公約の見直し→次回選挙」という流れに対して、後者のPRライフサイクル・モデルは、「ゴール設定→リサーチ&シチュエーション・アナリシス→PR目標(目的)設定→ターゲット設定→PR戦略構築→PRプログラム作成→インプリメンテーション(実施)→活動結果や情報の分析・評価」と環をなす継続的な活動。

一見して両サイクルの類似性は認められるものの、表面的にみる限り、これまでのマニフェスト・サイクルにはPRライフサイクルの「ゴール設定」から「戦略構築」までのプロセスがみえてきません。とくに、リサーチ&シチュエーション・アナリシスのプロセスが致命的に弱体化しているように感じられます。

つまり、掲げたマニフェストの実現性は、他の阻害要因はあるものの、多くの場合マニフェストの提示前にどの程度の調査・分析をおこなったかで決定づけられます。とりわけ規模の大きい国政選挙ではこうしたプロセスがあって実現性の高い国民との契約が成り立つのではないでしょうか?

マニフェスト・サイクルにこれらのプロセスが欠如しているとすれば、これらを組み込むことで、より実現性の高いマニフェストの作成が可能となり、有権者との良好なリレーションシップが確立できるはずです。

民間企業では四半期ごとに業績を株主に開示し、経営の透明性を高めています。政治も社会や経済の変化に大きく影響されるものです。

マニフェストの見直しは次回選挙までというサイクルにこだわらず、環境変化に対応してマニフェストを書き換え、いつも最適な内容が保てるようメンテナンスしていくことも大切になります。

ただし、この場合は有権者の理解を得られるようしっかりした「説明責任」が求められます。

今回の公共経営フォーラムを通し、マニフェストの重要性を再認識するとともにマニフェストに対して、また政治家としての資質についてなどさまざまなことを改めて考えさせられました。

有権者や国民の信頼をいかに回復していくか、こうした面でも私たちパブリック・リレーションズ(PR)の専門家の役割が期待されています。

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2011年01月17日

世界最大の家電見本市「CES2011」レポート 
~モバイル環境激変でタブレットPCなど新市場創出

こんにちは井之上 喬です。
正月気分も抜けいよいよ2011年もビジネス・モードにギアチェンジでしょうか。

2010年1月18日の私のブログで紹介しましたが、井之上パブリックリレーションズ(井之上PR)は、世界最大規模の家電見本市であるインターナショナル・コンシューマ・エレクトロニクス・ショー(International CES:写真)の開催母体である米国家電協会(CEA)に対し、日本市場向けのPRコンサルテーションや開催期間中の現地へのメディアツアーの実施などを行っています。

写真:CES会場のラスベガス・コンベンション・センター正面

今回も正月早々現地入りした井之上PRスタッフからの報告を織り交ぜながら、最新の民生機器事情を探ってみたいと思います。

■大盛況の中で日本企業は?
CES 2011は1月6日から9日に米国ネバダ州ラスベガスで開催。主催者発表によると、CESには約14万平方フィートの展示スペースに出展社総数約2,500社、来場者数は世界130カ国から12万人が見込まれています。

今年は米国以外からの出展企業数が前回より25%増加し1,200社を超えたようで、ますます国際色が強くなっているようです。前回の来場者数も、景気低迷下にあったもののその前の年に比べ約12%増加の12万6,641人を数えました。

来場者数の実数の発表は5月になりますが、今年は報告によると「ホールとホールを結ぶコンコースが久しぶりの混雑で人と肩をぶつけそうになるほど」の久しぶりの混雑だったようで、来場者数は、前年を上回る数字が見込まれるとのことでした(写真)。

写真:ホールとホールを結ぶゴルフカート

今年は特に中国、韓国を中心とするアジア勢が目立ち、CESに対する意気込みが感じられたとのこと。

注目の出展品は、さまざまな媒体で紹介されていますが3Dテレビ、スマートフォンそしてタブレットPC。3Dテレビは昨年市場投入されましたが今回はフルHD対応などの高精細画像表示とメガネを使わない裸眼3Dが登場するなど1年で大きく進化したようです。

また6回の基調講演のなかにFord とAudiの欧米自動車メーカー2社の経営トップが登場、最新の電気自動車と車載情報システムを披露していました。

モバイル環境の進化により最新のGPSを駆使したナビゲーションシステム、車間距離を認識し自動でブレーキが作動するドライバー安全システムなどが実用化段階に入っており、特に声による音声認識システム、手書きによる文字認識システムは大きな可能性を感じさせたようです。

民生機器、自動車、この2つの分野は日本のお家芸とも言える分野ですが、今年も基調講演での日本企業トップの登場はありませんでした。日本企業への注目度が下がっているとは思いたくないですが、2年連続となると考え込んでしまいます。

■日本企業の復権を占う2011年
CES 2011での最大の注目はiPad(アイパッド)に代表されるタブレットPCでしょう。

モバイル環境でインターネットなどのサービスを利用できる端末として、パソコン(PC)に代わり高機能の携帯電話スマートフォンが登場し大ヒットしていますが、2011年はタブレットPC需要に火がつきそうですね。

新機器の登場で、インターネットでの映画やテレビ番組の動画配信ビジネスも急成長しているようです。

CESでは、モトローラ、デル、レノボ、サムスン電子、LG電子などの海外大手の発表も目立ちましたが日本勢も一気に新製品の発表や参入を表明し注目を集めました。


パナソニック(写真)は「ビエラ・タブレット」を開発し海外発売を発表、NECは特徴ある2画面表示のタブレット「クラウドコミュニケーター」を初公開、東芝はWindows7搭載とAndroid搭載の2機種を展示、シャープは昨年末に日本で発売した「GALAPAGOS」を米国市場向けにカスタマイズし2011年内に発売するとしています。 

写真:パナソニックのブース

ソニーも年内にはタブレットPCを発売する方針を示しました。この分野でiPadの後塵を拝してきた日本勢の巻き返しの意気込みが、現地ではひしひしと伝わってきたようです。

クラウド環境が構築されたことによってモバイルの世界は大きく変化しています。スマートフォン、タブレットPCが普及期に入る2011年、巻き返しを狙う日本企業の新製品に注目したいと思います。

米国調査会社のIDCは、スマートフォンやタブレットPCの世界の出荷台数予測として2011年に合計で4億5,000万台を突破しPCの出荷台数を始めて追い超すと予想しています。

新しい市場創出で私が買い換えたいと思うような、使いやすい勝手の良い端末の登場に期待したいところです。

同時に新市場創出の好機はパブリック・リレーションズ(PR)にとってもビジネスチャンスです。新しい手法がどのようにPRの世界に導入されるのか注視したいと思います。

CESに関する情報はWebサイトwww.CE.orgを参照してください。


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2011年01月06日

ジャパン・モデルを世界に提示する
 ~いまこそパブリック・リレーションズ

井之上 喬です。
新年あけましておめでとうございます。

昨年も政治の混乱と社会的混迷の一年でした。中国やインド、ブラジルなど新興国の目覚ましい経済発展と比べ日本や米国のプレゼンスが低下していることも明らかになってきました。

政治では、米国中間選挙で民主党の後退が明らかになり、日本でも民主党の政権運営にさまざまな支障が露呈するなど、世界的な混乱期に必要とされる政治力が圧倒的に弱体化していることをみせつけられた一年でもありました。

■成長戦略を具体的に考え発信する
暮れに、あるセミナーでコロンビア大学のジェラルド・カーチス教授(政策研究大学院大学客員教授)が、「日本人は悲観的すぎる、日本に長くいると自分の考え方も悲観的になるからそろそろ米国に帰る」と話していました。

カーチス教授は日本と米国を行ったり来たりされているようですが、日本にいると、日本人があまりにも日本の現状について悲観的に考えすぎると感じているようです。

日本は、「日本人が考えているほどひどい国ではない」といくつかの数字で説明してくれました。その中で、米国の若者の間では日本への関心が高まり、日本観が変化しているといいます。彼が教えるコロンビア大学の日本関連の授業の生徒数がこの10年で、顕著に増えているとのこと。それも以前は、日本文化や日本学を学問として学び研究しようとする傾向にあったものが、いまは日本の漫画やアニメなど現代の日本を知ろうとする欲求が強まっているようです。

いまの日本は、政治を見ても権力闘争の繰り返し、ネガティブな話題があまりにも多く、民間企業であればとっくに倒産。国民や企業からの税金で成り立つ国家経営では、国の産業活性化による財政の立て直ししか存続の道はありません。消費税などでいくら税金を上げても購買力がなければ破綻するからです。

企業がお金を稼ぎやすい環境をつくり、国家が成長戦略としてそれを支援する構造と具体的実行への環境整備が喫緊の課題と考えます。

これまでこのブログにも紹介してきたように、日本には他の追従を許さない環境技術をはじめ精密加工技術、製造・建築技術、システム運用管理などの優れた科学技術があります。それらの技術を統合し国内はもとより世界で徹底的に訴えマーケティングしていくことの必要性を感じます。

その中で現在世界の重要な関心ごととは、地球環境問題です。如何にCO2問題を解決し、人類にとって住みやすい地球にするかが最大のテーマといえます。ここには日本の高度な環境技術があります。これらの中でもとりわけ、エネルギー問題は重要。

エネルギーのほとんどを外国からの供給に頼っている日本は、脱石油を目指した次世代のエネルギー開発では風力、太陽光、水素エネルギー、原子力、バイオマスなど多様な分野においてイノベーティブで秀逸な技術を数多く有しています。

私はこれらの開発に、政官財の3つの機能が統合し、これにメディアが後押しをする体制が必要と考えています。急迫する中国、韓国、インドに対抗するには、明確な目標設定をし、その目標に向かって突き進む必要があるからです。

戦後長きにわたって日本には政官財で構成された「鉄のトライアングル(三角形)」がありました。自民党時代、特に80年代、日本を世界の頂点に引き上げたこの鉄のトライアングルは、政権末期に入り癒着の構造が露呈し、信用を失ってしまいました。しかし、経済効率だけを考えた場合、このトライアングルが機能していたことは疑いの余地もありません。この日本特有の構造を90年代の米国や韓国、中国、シンガポールなどの国々が参考にして、経済発展の青図を描いてきたことも否定できません。

日本の治安の良さ、都市や田園の清潔な景観、澄んだ空気とおいしい水、四季の移ろいの美しさ、そして日本人の謙虚さや優しさ、もてなしの心は世界でも高く評価されています。また世界唯一の被爆国であり、曲がりなりにも非核3原則を掲げどの国よりも平和を希求する国として、あるいは世界に先駆け高齢化社会を迎える国として、日本は国際社会の注目を浴びています。

こうした日本独自の土壌や歴史が育んだ精神文化と前述した他の追従を許さない優れたな科学技術(テクノロジー)との融合から生みだされる新たな戦略モデルこそ、私が提唱する『ジャパン・モデル』です。このモデルには、人類にとって前人未到ともいうべき領域へと導く力が潜んでおり、2011年はこの『ジャパン・モデル』を世界に提示していきたいと考えています。

■パブリック・リレーションズを生かす
混乱する世界の中で、パブリック・リレーションズ(PR)でできることは多くあります。その重要な役割の一つは、個人や組織体が目標達成のための行動を起こす際に外部環境を肯定的なものにすることです。

否定的な環境の中で、組織がどんなに業務遂行を行っても効果は期待できません。また、外部環境が悪い方向に変化したとき元の良い状態に戻すにはどのように対応すべきなのか、考え実行されなければなりません。

そのために、さまざまな関係先との良好な関係構築が求められます。この構築は普段から準備されていることが必要です。

またPRでは、潮目が読めなければなりません。潮目とは、「状況が変化する境目」を指します、何か事を始めるときにそれをどのタイミングで行うべきか、全体を俯瞰し、行動を起こすチャンスをはかることです。そのためには、時が来たらいつでも行動に起こせるよう準備して待たなければなりません。

このことは企業の危機管理や昨年起きた尖閣問題、北方領土問題などの対応にも当てはまります。

その時に、ベースとなるのは「倫理観」です。組織が独りよがりになり、その後社会の批判にさらされるような行動は避けなければならないからです。これからの時代は組織内に倫理軸を明確に持つことが求められているといえます。

またグローバル時代にあっては、スピードが欠かせません。中国や韓国の組織体を見ていると、意思決定におけるスピードの速さには目を見張ります。しかし日本では、ミスを恐れるあまりトップの決断が遅れがちです。

日本人の性格に由来していることかもしれませんが、ミスを恐れることで、大きなビジネスチャンスを失うリスクはこれからの時代には増大すると考える方がいいでしょう。日本がグローバル競争に打ち勝つためには、「双方向コミュニケーション」を通して双方が互いの考えを把握し、組織内の意思決定プロセスを迅速にするシステムをつくる必要があります。

その中で鍵となるのは「自己修正能力」。スピードが求められる社会では、意思決定に誤りのあることを前提に、必要な時に修正を行うことで、目標達成を最適化させることが可能となるからです。

倫理観、双方向性コミュニケーション、自己修正を有するパブリック・リレーションズがいま強く求められています。

今年もパブリック・リレーションズを通し、皆さんと共に平和で希望のある社会の実現に注力していきたいと思います。本年もよろしくお願い申し上げます。

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2010年12月13日

企業の社会貢献活動(CSR) のいろいろ
 ~地方企業のユニークな取り組み

こんにちは井之上 喬です。

明治神宮のイチョウの木もすっかり黄色い葉を落とし、冬の気配が感じられるようになりました。

みなさんは忘年会真っ盛りといったところでしょうか。今回はその主役の1つ、焼酎に関する話題です。

「下町のナポレオン いいちこ」。このブランドを知っていて愛飲している方も多いのではないかと思います。

「いいちこ」は、大分県宇佐市に本社を置く三和酒類株式会社の商品で、1979年に本格100%大麦の乙類焼酎として製品化。 飲みやすく、さわやかな飲み口が支持され1980年代の焼酎ブームの火付け役ともなった商品です。

■ブームが去っても継続させる
そんなブームの真っただ中で関係者は、「ブームが去ってからも“いいちこ”を指名してもらえるようなイメージづくりをしよう」と考え、始めたのが地下鉄などでよく目にする大判ポスターの展開と「季刊iichiko」という冊子の発刊だったそうです。

ポスターの第1号は1984年でしたが、季刊iichikoの創刊は1986年。東京芸術大学教授の河北秀也氏が監修し、当初から「金は出すが口は出さない」の精神で始まったものが今でも継続されているようです。

最新のポスターは、古代遺跡のピラミッドの前に季節柄、赤いリボンを付けた、いいちこのボトルがあまり目立つことなく配置され、メッセージとして「忘れられた文明を想う」の一言がMerry Christmasとともに書かれています。

季節の風景の中に、いいちこのボトルが1本。風景に溶け込むように表現されているこのポスターのシリーズを駅で目にするのが通勤の楽しみになっています。

一方、季刊iichikoのほうは、優れた「哲学研究」の発表の場を作ることを目的に創刊され、2008年秋号で創刊100号を迎えました。

100号のタイトルは「ホスピタリティ文化学 ホスピタリティビジネスと源氏物語」で、東京芸術大学の山本哲士氏やビジネス界から福原義春氏、小林陽太郎氏などが寄稿しています。

ちなみに107号は「太宰治101」(写真:定価1575円)のタイトルで、さまざまな太宰論の展開と連載記事、そしてカラー特集として文化技術としての江戸指物を紹介しています。

太宰治101


表紙のデザインから色使いまで、関係者のこだわりが強く感じられる出色の1冊です。是非、機会があったら手にしてみてはいかがでしょうか。

■目立たなくても優れた分野に光を当てよう
四半世紀にわたって行われている、三和酒類の取り組みは、商品のイメージ作りからスタートし、企業の文化活動、社会貢献活動(CSR)として長きにわたって継続している好例の1つではないかと思います。

そして哲学という地味な分野に光を当て続けていることに敬意を表したいと思います。ますます軽薄化する世の中にあって、日本には文化、芸術など多くの分野で目立たないが優れた業績を残している方々がまだまだ沢山いると確信しています。

日本企業には若手の育成も含め、このようなあまり目立つことのない、しかし意義深い分野にも目を向け、より多くの企業が何らかの支援を行うことのできる企業文化の醸成が渇望されています。

12月上旬に日本経済新聞社が、投資家、消費者・取引先、従業員、潜在能力そして社会の5つの視点から企業を評価する、恒例の総合企業ランキングを発表していました。上位にはキヤノン、ホンダ、武田薬品、NTTドコモ、KDDIなどの大手企業が名を連ねています。

このような企業評価では大手企業が対象になることが多いですが、今回取り上げた三和酒類のように地方の企業でも、継続的に独自のCSRを実施している企業が少なからずあることを忘れてはならないと思います。

しかし日本企業のCSRへの取り組みは、まだまだ社会の一員として欧米企業に比べ遅れをとっているといえます。

パブリック・リレーションズ(PR)活動では、良好な関係構築のために継続し続けることが重要です。それが企業のレピュテーション(評判/品格)の向上にも繋がっていくからです。

企業を取り巻く環境は激変していますが、骨太な社会貢献活動が継続できるようPRの立場から微力ながらこれからも貢献していきたいと考えています。

ちなみに“いいちこ”とは、大分県の方言で「いい(よい)」を意味する言葉だそうです。皆さん今夜はロックにしますか、それとも・・・。


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2010年11月01日

生態系保全に向けた新戦略目標
 ~2010年度DEVNET贈賞式から

こんにちは、井之上喬です。
皆さん、いかがお過ごしですか。

私が常任理事を務める国連開発計画NPO法人日本DEVNET協会(JDA:以下DEVNET)は、国際機関DEVNET ASSOCIATION(本部:ローマ)の一員として日本で2003年に発足しました。

■DEVNET賞
2005年度からは「DEVNET賞」を設け、各年度に発展途上国の産業・技術支援、社会・文化支援、人材開発、情報交流、女性の社会的活動・起業支援などの分野で継続的な活動の成果を挙げた個人、団体、組織を表彰してきました。

これまでDEVNET賞は、第1回目(2005年度)の長谷部グループを皮切りに、2007年度は山梨日立建機株式会社と社団法人産業関係研究所、2008年度は京セラ株式会社佐倉ソーラーセンターと医療法人徳州会、インドネシアの病院、そして2009年度はリコーグループの「生物多様性を保全するための生態系保全」活動とそれぞれが受賞しています(2006年度は該当無し)。

2010年度DEVNET賞は、セイコーエプソン株式会社(本社:長野県諏訪市、碓井稔社長)の途上国に向けた環境保全支援事業の功績に対し授与を決定し、10月25日、日本外国人特派員協会(FCCJ)において贈賞式を催しました。
同社ホームページ(http://www.epson.jp/osirase/2010/101026.htm)を参照。

今回の贈賞決定について浜田泰三選考委員長(早稲田大学名誉教授)は、大きく次の2つのポイントを挙げています。ひとつは、アグロフォレストリーによる森林再生活動で、もうひとつは個々の事情を考慮した人材育成援助(国際奨学金制度)。

インドネシアでセイコーエプソンが取り組んだアグロフォレストリー方式による植林は、ドリアンやミカンなど、数種類の果樹をマホガニーの間に植えるというもので、その地域で生活する40世帯の農家が穀物の収穫に併せて森林の世話も行い、賃金を得られるよう配慮され、農家の生活向上に直接結びついています。

■自然との共生
セイコーエプソンは、当時国連事務総長であったコフィー・アナン氏が1999年の世界経済フォーラムにおいて企業へ提唱したイニシアチブである国連グローバルコンパクト(The United Nations Global Compact)へいち早く参画するなどグループ企業あげて環境保全活動など積極的なCSR(企業の社会的責任)を行っている企業です。

このブログでもご紹介しましたが、本年10月18日~29日の間、名古屋に世界の代表が集まり、国際生物多様性の保全を話し合う第10回締約国会議(COP10)が開催されました。

世界3大環境NGOの1つ「コンサベーション・インターナショナル」(CI)の副理事長、俳優のハリソン・フォードも途中参加したCOP10。

COP10は30日未明、難航を極めた遺伝資源の利用とその利益配分を定めた「名古屋議定書」と2020に向けた世界の生態系保全の新戦略目標(愛知ターゲット)を採択して閉幕しました。

2011年から2050年までの長期目標について「自然との共生」を掲げるこの愛知ターゲットは、日本の独自提案として提出されたものですが、欧州連合(EU)などから「我々には、自然とともに生きるという考えはない」との異論が出て、継続協議となっていた事項です。

日本の提案により2050年に向け、大きなスローガンが掲げられることとなりました。セイコーエプソンも同社の「環境ビジョン2050」のなかで2050年に向けて商品とサービスのライフサイクルにわたるCO2排出を10分の1にすることを目指し、併せて生態系の一員として地域社会とともに生物多様性の修復と保全を行なうとしています。

しかし、セイコーエプソンのように生態系保全に向けた確としたビジョンをもって行動している企業が他にもありながら、そうした企業の存在や活動は一般社会であまり知られていません。日本にとって環境分野は国際的に落ち込んでいる地位を復活させる絶好の舞台ともなります。

日本国内だけでなく、国際社会においてその活動に対する理解と認知を高めていくためには戦略的で継続的なパブリック・リレーションズ(PR)が不可欠となります。

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2010年09月30日

スーパー“電気自動車(EV)”の衝撃!
 ~テスラ・モーターカー試乗

こんにちは井之上 喬です。
中秋の名月を挟んで、一気に秋めいてきましたが、体調はいかがですか。

先日、あることで、スポーツタイプ電気自動車(EV)の開発会社、米国シリコン・バレーのベンチャー企業、テスラ・モーターズ社がつくっている、「テスラ・ロードスター」に試乗する機会を得ました。

テスラ・モーターズは2003年に設立。2008年には本格的なスポーツ・カー「テスラ・ロードスター」を発表。自動車業界とは無縁の人たちによって開発されたテスラはたちまち全米はもとより、世界のモーター・ファンを魅了しました。私もそのうちの一人。

今年5月にテスラ社はトヨタと包括提携し注目を集め、トヨタのEV市場参入が話題になりました。

■テスラとの出会い
スーパーEVカー、テスラとの出会いのきっかけは、日本橋のホテルのある夕食会。テスラ・モーターズのアジア・パシフィック統括責任者のKevin Yu氏を知ったことでした。

帰り際に、彼がさりげなく「みていく?」といいました。最初にその言葉の意味が理解できませんでしたが、やがて彼がテスラを乗ってこのホテルに来ていたことが分かりました。

ホテルの玄関に下りていくと、何と長身の彼が運転してきたスーパーEVカーがあったのです。ブルー・メタリックで車高が低く、重量が1.2tと大型乗用車の半分のテスラ。

注目のバッテリーとモーターは車体後ろのトランク・ルームの奥に格納されており、ちょうどミッドシップ・エンジンのような感じです。バッテリーの重さは約450kgと全重量の1/3強は電池。

頭上はオープン・カーのように布製のカバーを手動で脱着でき、座席シート、ドア・ミラーなども全て手動という、なるべく電気を使わない設計思想が伝わってきます。

■最先端を支える日本の技術
数日後、Kevinさんの取りはからいでテスラ・モーターズジャパンのセールス・マネジャーの井尾慎之介さんが、試乗のために車をオフィスまで運んでくれました。9月22日、まさに中秋の名月の昼さがりの午後。

ロードスターは、英ロータスのデザインによる2シーターのオープン・カー。フル充電時にはなんと394キロメートルを走行でき、発進から3.7秒で時速96キロメートルに達する抜群の加速力を誇っています。

地面につきそうな車体、ドライバー・シートに足を折り曲げながら体を滑り込ませると、小さなハンドルで、さながらF1ドライバーになったような気分。

ダッシュボードなどの作りはとてもシンプルで、ギア・チェンジの代わりにP(駐車)、R(後退)、D(ドライブ)、N(ニュートラル)の4つのボタンがあるだけ。

「テスラ・ロードスター」を試乗する筆者(奥)とテスラ・ジャパンの井尾さん(手前)

Dボタンを押して最初は恐る恐るアクセルを踏むと、スーッと音も振動も無くこれまでの車では経験したことのない感覚で動き出しました。

さらにアクセルを踏み込むと一気にグーンと、胸を押さえつけられるほどの想像以上に強烈なG(重力)と加速とを体感できました。

特に、パワー・シフトしたときの加速時のスピードは暴力的で、ポルシェ・ターボと同じ。若いころポルシェで体感したものより数段上の加速感で、高速になるとモーター音も聞こえ、電気自動車のおとなしさは感じさせません。

このパワーの源は、ノート・パソコンなどにも使われているリチウム・イオン電池で日本のパナソニック製。電池を6831個搭載し、走行距離と加速力を飛躍的に高めています。

このような世界最先端のスーパー電気カーの心臓部といわれる重要な部分に、日本の技術が使われていることに誇りを感じました。

アクセルから足を外すと大きく減速。ハイブリッド・カーでも使われているシステムで減速するときに失われるエネルギーを使って充電、走行距離を延ばしているということです。

現在日本には12台ほどのテスラ車が持ち込まれているようです。価格は日本仕様で約1,600万円。また30万円弱で400kmを3時間半で充電できる急速充電器のキットが入手できます。

テスラ・ロードスターは「クリーンエネルギー自動車等導入促進対策費補助金」の対象車両となっているようで、数百万円は安くなるようです。2012年には、同じ機能のセダンが約五万ドルで販売される予定され、そのデザインはマセラティに似ています。

また近々に東京青山にショー・ルームもオープンする予定だそうです。ご興味のある方は足を運んでみてはいかがでしょうか。

最近は人の心に衝撃を与えるような出来事にはなかなか出合えません。しかし、いつも大いなる好奇心を持ってまわりの動きを注視することは、とても大切なことです。

パブリック・リレーションズ(PR)に携わる人間としては当然のことですが、皆さんもそんな気持ちを常に持ち続けてはいかがでしょうか。

それにしてもあの強烈な加速感にはいまでもゾクゾクします!


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2010年09月23日

テニーさんとの再会
 ~「バターン死の行進」元米捕虜の願い

こんにちは、井之上喬です。

先日、元米軍兵のレスター・テニー(90歳)さんと7年振りに再会しました。

皆さん、第2次世界大戦中にフィリッピン戦線で起きた、「バターン死の行進」をご存知ですか?

「バターン死の行進」とは、1942年の4月9日、日本軍が総攻撃でフィリピン・バターン半島の米軍基地を占領。降伏した約1万2千人の米軍捕虜と現地人などをあわせた8万人を超える人間を、炎天下約80キロ歩かせ数千人の死者を出したとされる事件。

これら捕虜はその後日本や旧満州に送られ強制労働をさせられ多数が命を落としました。

その中の一人に、レスター・テニー博士(元アリゾナ大学教授)がいました。

テニーさんはこの「バターン死の行進」で、九死に一生を得た翌年、福岡県大牟田の収容所に移送され、三井三池炭鉱で敗戦までの約3年間強制労働に従事しました。

全員写真:2列目右から3番目がテニーさん、その左隣がベティ夫人

■日本の外相として初めて謝罪
テニーさんと初めてお会いしたのは2003年、彼が自署の日本語版上梓のために来日したとき。

米国のPOW(prison of war:戦争捕虜)事務局の依頼で、私の経営するPR会社、井之上PRがパブリック・リレーションズ(PR)の仕事を通して親しくさせていただいたのでした。

テニーさんは、「全米バターン・コレヒドール防衛兵の会」の最後の会長も勤め、米国捕虜の指導者として長年POWメンバーのために尽力してきた人。

今回の来日は、日本政府による米国人元戦争捕虜招聘プログラム(外務省北米第一課)で招待されたものです。

テニーさんとの再会は、私が以前テニーさんと関わりを持っていたことを知った外務省広報文化交流部総合計画課の林禎二課長の取り計らいで実現したのでした。

これまで政府は英国、オーストラリア、オランダの元捕虜を招待してきましたが、米国からの元捕虜招待は初めて。今回は6人の元米兵捕虜とその家族あわせて14人が招かれました。

滞在中、一行は岡田外務大臣(当時)と面会。岡田外相は日本の外務大臣として初めて、非人道的な扱いを受けた元捕虜に対して謝罪しました。

■憎しみは自己破壊を起こす
テニーさんは捕虜時代に、日本軍将校から軍刀で肩を切りつけられたり、数々の虐待を受けたといいます。その時に痛めた膝は今でも後遺症として残っています。

2003年にテニーさんとお会いしたときの彼の話しは今でも心に深く焼き付いています。テニーさんは、次のような魂に触れる話をしてくれました。

戦後彼は、日本や日本人を憎みに憎んだそうです。やがてあるとき、自身の中に自己変革を起こしたといいます。

それは「人を憎むことは、自分を傷つけるだけ」ということ。長年の苦しみの末に、相手を受け入れ、許すことの大切さを学び取ったといいます。

これを境に、テニーさんは日本人を憎むことを止めたとし、それにより自らも救われたと述懐したのでした。

日本政府からの謝罪をとりつけたいま、彼の願いは戦時中にこれら強制労働者を受け入れた60社を超える日本企業から、その道義的責任として謝罪の言葉を得ることとしています。老い先長くない元捕虜にとって、企業からの謝罪はきっと心の癒しになるはず。

手品を披露するテニーさん | いつも一緒のテニー夫妻

会場で偶然に民主党参議院議員の藤田幸久(前民主党国際局長)さんにお会いしました。以前からテニーさんと交流を持ち今回の招聘に尽力されたとのこと。

テニーさんと7年前にお会いしたとき、彼は「紐」を使った手品を披露してくれました。簡単なようで仕掛けが判らない手品。先週開催された、武正外務副大臣(当時)主催のフェアウエル・パーティ会場で、私はこの紐を使った手品をもう一度披露してくれるようテニーさんに頼みました。

壇上で出席者にカタコトの日本語を交え楽しそうに披露する陽気なテニーさん。その姿は平和の使者そのものでした。

(写真提供は、上段と下段左はJTBの内田喜久さん、同右は外務省の黒澤 華子さんによる)


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2010年09月06日

ホットな夏の話題
 ~「クラウド」を巡るM&Aの勝者は?

こんにちは井之上 喬です。

今回は“ホット”な話題を取り上げてみました。

9月に入っても全国的気な猛暑記録が続く日本列島。気象庁の異常気象分析検討会は9月3日、日本列島はこの夏、30年に1度の異常気象だとの見解を発表しました。

産業界での最近のホットな話題はと言えば「クラウド」ではないでしょうか。

新聞の見出しにも頻繁に登場するクラウドの元来の意味は雲(cloud)ですが、インターネットをベースとしたこのコンピュータの利用形態は、クラウド・コンピューティングを指しています。

より具体的には、クラウドはデータを自分のパソコンや携帯端末ではなく、インターネット上に保存する使い方やサービス。

■急成長するクラウド市場
日本経済新聞によるとクラウド・コンピューティングとは、「企業などがインターネット経由で業務に必要なソフトやサービスを利用できる仕組み。顧客管理や生産管理のIT(情報技術)投資抑制につながる。情報漏れなどの安全上のリスクを指摘する声もあるが、コスト削減を優先する企業間で利用が広がっている」と解説しています。

なぜそれほどホットになっているのかと言えば、市場が急成長の見通しがあるとされているからです。

米国の調査会社ガートナーによれば、2010年の世界のクラウド分野の市場規模は前年比17%増の683億ドルで、IT全体の伸び率見込み5%程度に比較すると群を抜く成長率。

さらに2014年には1,488億ドルと2009年に比べ約2.5倍の市場規模に拡大すると予測しています。ハイテク関連の企業がこぞって飛びつく理由もそのあたりにあるのは理解できるところですね。

このホットな市場での覇権争いも急で、米国のハイテク企業を中心にクラウド絡みのM&A(企業の買収・合併)が活発化しています。

最近の動きの中で注目したのが半導体世界トップ企業インテルによるインターネット・セキュリティ大手マカフィの買収と、高性能ストレージ開発企業3PAR(スリーパー)を巡る、ヒューレット・パッカード(HP)とデルの争奪戦です。

インテルはこれまでにも様々な分野での企業買収を行っていますが、今回のマカフィー買収は買収金額が約76億8000万ドル(約6,500億円)という大型案件。

業界筋は、パソコン向けCPU(中央演算処理装置)でトップのインテルが「なぜセキュリティソフト会社を手に入れたのか?」注目しています。

その背景にはインターネットへの接続端末が多様化しており、パソコンだけの時代から携帯電話や多機能の携帯端末などに移っているという現実があるからでしょうか。

パソコン集中から事業の多角化を図りたいインテルのビジネス戦略が、今回のマカフィー買収にはっきりと見て取れます。

もう一つの3PARを巡るHPとデルの買収合戦は、最終的にはデルの買収断念で決着しましたが、買収合戦騒動期間の3PARの株価は、買収発表前の10ドル足らずから買収提示額の引き上げ合戦の結果、買収価格のプレミアム(上乗せ分)は約240%まで跳ね上がりました。

■ここでも日本は立ち遅れるのか?
この2つの案件だけでなくトムソン・ロイターの発表では、8月のM&Aの世界規模は2,672億ドルとなり8月としては99年以来の高水準を記録したそうです。クラウドの普及をにらんだM&Aは今後も活発化しそうです。

そんな中、9月3日に総務省は国の情報システムの運用費を2020年に半減させる目標を掲げ、そのための検討委員会を設置したとの報道がありました。

それによると中央官庁が持つシステムの数は2,059あり、大型汎用機(メーン・フレーム)の運用費などを含む年間の運用費は約3,900億円にのぼるとのこと。

この状況をクラウド技術などの活用でコスト半減しようというもので、米国などに比べ取り組みが大幅に遅れたものの、政府はようやくその重い腰を上げました。

クラウドを支えるデータセンター向け基幹装置のある外資系企業のCEOは、「2010年の売上は好調。皆さんは中国向けがけん引していると考えているが、最も好調なのは米国向けだ」。

「米国はクラウドへの積極投資を行っている。日本もやっと重い腰を上げたようだが、ハイテク業界の動きは想像以上に早く、今回、来日したのも日本が政府、企業を含め立ち遅れてほしくないからだ」と語っていました。

パブリック・リレーションズ(PR)業界でもこの動きは見過ごすことはできませんね。私もいま「クラウドPR」のソリューション開発の真っ最中です(笑い)。

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2010年07月29日

日本企業は成長戦略を明確に
 ~台頭する韓国、台湾、中国企業

こんにちは井之上 喬です。
岐阜県多治見市などでは体温よりも気温が高い異常気象が続いているようです。連日の猛暑ですが皆さん、体調管理には十分気をつけましょう。

今回は、もうひとつの“熱い闘い”、マーケットシェア(市場占有率)についてお話します。

■国内では低価格戦略が奏功
7月20日には総務省がICT(情報通信技術)国際競争力指標を公表。3回目となる2010年(平成22年)版によると、2年前に比べ世界市場における日本企業の売上げシェアは全35品目中、プリンタ、コピー機など14品目でシェアが増加するも、TV用液晶デバイス、携帯電話機など17品目で減少しています。

大方の予想通り携帯電話やノートPCなどでは韓国や台湾などアジア地域のシェアが拡大しています。

ただし、シェア25%以上と日本企業が強い品目も10品目あり、特にコピー機は66.6%、プリンタは38.9%、オプトエレクトロニクスは58.9%、そして2010年から統計を開始したDVD/Blu-rayレコーダは67.4%と高いシェアを維持しています。

高い競争力を持つ品目もまだまだ沢山あります。もっと詳しく分析したい方は総務省のホームページを参照してはいかがでしょうか。

また日本経済新聞(7月26日朝刊)では、2009年の「主要商品・サービスシェア調査」結果が公表されています。この調査では国内100品目と26品目の世界シェア調査を行っています。

国内シェアでは、ビール飲料でキリンが9年ぶりの首位奪還、インクジェットプリンタではキヤノンが2年ぶりに首位に返り咲いています。この2品目については低価格戦略が奏功しシェア拡大に結びついたとのことです。

低価格戦略でシェアを伸ばしたのはほかにも複写機のリコー、油圧ショベルの日立建機などがあり「安さ」がシェアアップのカギになっていると分析しています。

また興味深い分析としては、前年より4つ多い73品目で市場規模が縮小し、国内市場を巡る厳しい状況と競争が激化しているなか60品目で首位企業のシェアが上昇しています。

このシェアアップの要因は、トップ企業のブランド力やスケールメリットによるものと報じられています。

■希薄化が進む日本企業の存在感
世界シェアで日本企業がトップの座を占めたのは、自動車分野でトヨタ、産業車両の豊田自動織機、プラズマパネルのパナソニック、ビデオカメラのソニー、デジタルカメラのキヤノン、そして白色発光ダイオード(LED)の日亜化学工業の6品目。

ただし、ここでも韓国勢や中国勢の攻勢を受け、シェアを落とすケースが増え、世界市場で日本企業の存在感が薄れていると分析されています。

数字ばかりにとらわれてもいけないと思いますが、結果は結果として厳粛に受け入れる必要があると思います。

2位ではいけない、トップを目指す意気込みと成長分野に的を絞った攻めの経営がいま日本企業に求められています。

国内市場が縮小していく中、パブリック・リレーションズ(PR)の視点からは、グローバル・レベルの「ブランディング」に注力していくことが重要となります。


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2010年06月17日

「愛される国、日本へ」その国際広報戦略を考える
 ~中央政策研究所主催の特別講演から

こんにちは、井之上 喬です。

私は社団法人中央政策研究所が主催する特別講演会(会場:憲政記念会館)の講師に招かれ、基調講演「ニッポンをパブリックリレーションする」と、それに続き「愛される国、日本へ ~日本の国際広報戦略のあり方」をテーマに対談を行ないました。

昭和38年(1963年)に設立された中央政策研究所は、日本初のシンクタンクです。

わが国における政治、経済、社会に関する政策樹立の基礎となる問題について総合的な調査研究を行い、その成果を発表普及し、国家の発展と国民の福祉の向上に寄与することを目的にしています。

設立時の記念講演には、経済学者で組織設計の分野で第一人者であったジェイ・R・ガルブレイス博士(1908‐2006年)が招かれています。

現在、中央政策研究所の最高顧問には三木武夫元総理の後任として海部俊樹元総理が就任。当日会場には海部さんも姿を見せ、最後まで熱心に講演と対談に耳を傾けていらっしゃいました。

会場には企業や大学、政府関係者、政治家、NPO、メディア、そしてパブリック・リレーションズ(PR)関係者とさまざまな分野から100名を超える参加があり、盛況な講演会となりました。

「ニッポンをパブリックリレーションする」「愛される国、日本へ ~日本の国際広報戦略のあり方」


■ニッポンをパブリックリレーションする                     
私の基調講演「ニッポンをパブリックリレーションする」では、急速に国力が衰退している日本の現状を踏まえ、次のような内容の話をしました。

1.世界の中のニッポン
2.日本をSWOT分析する(日本の衰退をどう止めるか?)
3.パブリック・リレーションズとは?
4.政府機関におけるパブリック・リレーションズ機能の強化
5.愛される国の要件とは?
6.今後の展望と課題

続く対談では、古川貞二郎さんと「愛される国、日本へ」をテーマに日本の国際広報戦略についての提言を行ないました。

古川さんは、厚生省保険局長、厚生事務次官などを歴任の後、1995 年からは内閣官房副長官に就任。村山富市、橋本龍太郎、小渕恵三、森喜朗、小泉純一郎と歴代5 人の総理に仕え、官僚のトップとして内外の数々の政策づくりに関ってきた方です。

その在任期間は、8年7ヵ月に及びは歴代最長の記録。退任後は、「安全保障と防衛力に関する懇談会」「男女共同参画会議」「皇室典範に関する有識者会議」など政府の委員を務める一方、恩賜財団母子愛育会理事長、東京都社会福祉協議会会長、財団法人浩志会会長などの要職に就いていらっしゃいます。

古川さんと私の出会いは、数年前の「東京都社会福祉協議会プロジェクト」への参加がきっかけで、それ以来親交がつづいています。

■政府内に戦略広報の専門家を
対談では、一国の総理大臣としての資質や内閣府、外務省に戦略広報の専門家を配置すべきだといった体制的なこと、そして危機管理の問題として新型インフルエンザや、現在大きな社会問題となっている口蹄疫感染などについても現状を踏まえた真剣な議論が交わされました。

またイラク侵攻前夜(2003年3月19日)、米国を支持する日本の立場をどのように国民に理解してもらうか、緊迫した情勢の中で蒼白な表情で思い悩む小泉総理(当時)の秘話が紹介され、古川さんのお話に会場も聞き入っていました。
日本が諸外国から愛されるためには、相手を受け入れ、他の国を愛する国にならなければなりません。私の基調講演の詳細については以下のURLでご覧ください。6月末まで基調講演(1持間)と対談(45分)の模様は視聴できます。是非、アクセスください。

【社団法人中央政策研究所 特別講演会ムービー】

ユーザー名:Demo01/パスワード:mediasite

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投稿者 Inoue : 09:19 | トラックバック

2010年05月31日

今年は「国際生物多様性年」、今できることをチェックしませんか
~生物多様性の経済的価値は毎年33兆ドル

『国際生物多様性年』


こんにちは 井之上 喬です。

2010年は国際連合が定めた「国際生物多様性年」(IYB: International Year of Biodiversity)
です。

「生物多様性」とはどのようなものでしょうか? 環境省は、「生きものがもつ、個性とつながり」と説明しています。

また、地球上の生きものは、様々な環境に適応して進化し、3,000万種ともいわれる多様な生きものが生まれているとしています。

今年の10月には、名古屋で生物多様性条約第10回契約国会議(COP10)も開催される予定で、世界規模での地球環境保全活動、生物の多様性の保全活動などの推進が期待されるところです。

■莫大な生物多様性の経済的価値
世界各国の企業もCSR(企業の社会的責任)活動の一環として水源地の保全、森林保全などの環境保全活動や生物多様性に関する学校や地域での啓発活動などへ取り組むケースが増えています。

毎年5月22日は国際生物多様性の日として、地球上の多様な生命の存在を祝う日。

WWF(世界自然保護基金)は前日の5月21日に、『「国際生物多様性の日」は緊急の政治的行動を求めている』との記者発表資料を発表しました。

資料では「生物多様性と健全な生態系は人類の福祉と経済を支えている。衛生的な水や大気をもたらし、自然災害から守り、薬品の原料や食料を供給してくれるからである。」

また、「専門家の試算では、世界全体の生物多様性の経済的価値は毎年33兆ドルにのぼるとされる」と、健全な地球環境下での経済的価値の重要性を示しています。

その一方で、このような経済価値があるにもかかわらず、各国政府が政策や行動計画に自然の経済的利益を反映させることは少ないようです。

緊急の政治的行動を起こさなければ、今後、さらなる大規模な生物多様性の損失が起きる可能性が高く、ある転換点を過ぎると生態系が生産力の低い状態に陥ってしまい、回復することが不可能になってしまうだろう、と警告しています。

政府の早急な取り組みは当然ですが、企業や団体、そして私たち一人ひとりも生物多様性を守るための取り組みができるのではないでしょうか?

■はく製群に取り込まれないように
国際生物多様性年に合わせ、東京上野の国立科学博物館では「大哺乳類展」が開催されています。

前半の3月13日から6月13日までは「陸のなかまたち」、そして7月10日から9月26日には「海のなかまたち」と題し、地球上にかつて存在していた、そして現在存在している哺乳類に関するさまざまな展示を行っています。

5月のある週末に「陸のなかまたち」に足を運んでみました。その日は雨模様にもかかわらず関心の高さを示してか入場券を求める長い傘の列ができていました。

会場内には、多くのはく製や標本、そして自然を記録した人たちとしてE.T.シートン、ハワイの日系2世W.T.ヨシモト、動物写真家星野道夫に関する紹介コーナーが設けられており、子供から老人まで展示に見入っていました。

なかでも印象深かったのがヨシモト・コレクションを含むはく製群。絶滅の危機にあるホッキョクグマなど大型の哺乳類から、小さなネズミまで多様な陸にすむ哺乳類がまるで生きているかのように再現されていたのには驚きました。

しかし、現実をみると哺乳類の5種に1種は絶滅の危機にさらされていると知り、このまま地球が病んでしまうと、我々人間までがはく製群の中に取り込まれてしまうのではないかと、ぞっとしてしまいました。

地球環境保全の重要性は以前から指摘されていますが、その緊急性についての認識はまだまだ低いように感じられます。

世界的なコミュニケーション・ネットワークを活用し世界中の人々が生物多様性に注目するような、各国レベルでのパブリック・リレーションズ(PR)の取り組みの強化が求められるところです。

最後に会場で配布していたガイドブックの「できることチェック」をご紹介します。

あなたは:
自然のことをよく知るために自然を観察していますか?
生き物のすみかになる草や木を植えたり守ったりしていますか?
海や山では必ずゴミを持ち帰るようにしていますか?
買い物は環境に気を使った商品を選んでいますか?
自然の恵みである食べ物を残さず食べていますか?
飼い始めたペットは最後まで大切に飼っていますか?
おうちや学校で水を大切に使っていますか?
とった虫は、とった場所にもどしていますか?

皆さんもチェックしてみてはいかがでしょうか。


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2010年05月25日

中国語版『パブリックリレーションズ』が現地で5月より発刊  ~PR分野では日本の書籍として中国初!

こんにちは、井之上喬です。

私の著書『パブリックリレーションズ』(2006年日本評論社)が中国語に翻訳され、中国では『公●力』(●はカタカナのソの下に天)という書名で5月より発刊されました。

これまで中国では、米国のパブリック・リレーションズ(PR)関係の書籍は出版されているものの、この分野で日本の出版物が中国語で紹介されるのは初めてのケース。

『公●力』(B5変形ソフトカバー200ページ、定価28.00元)は、翻訳を陸一氏と王冕玉氏が担当し、徐静波氏(アジア通信社社長)が翻訳監修を行い、東方出版社から発刊。

書名:『公关力』 著者:井之上喬東方出版社は中国における3つの国営出版社のひとつである人民出版社(他は民族出版社、盲文出版社)グループに属し、主として外国作品を扱っています。



人民出版社はこれまで毛沢東、周恩来、江沢民など歴代中国の指導者の思想書をはじめ政府の法律関係書などを発行してきており、中国出版界のフラッグシップ会社として知られています。

中国語版の発刊については昨年、北京で開催された「第16回北京国際ブックフェア」(9月3日~7日)の2日目に中国政府から国家版権局の司長で中国版権保護センターの段桂カン(だん・けいかん)主任や東方出版社の黄書元社長(人民出版社社長を兼務)などの出席により私との間で調印式典が行なわれました。

その時の模様は、昨年9月7日の私のブログで紹介させていただきました。

『公●力』は、私のPR分野で40年に及ぶ実務経験を通して、特に非英語圏の人が理解しやすいように書かれています。

PRの概要からメディア・リレーションズ、インベスター・リレーションズ、ガバメント・リレーションズ、エンプロイー・リレーションズなど様々なリレーションズの目的と役割、危機管理の具体的な処方箋、PR戦略の構築と実践手法、PR活動の評価と測定、PR活動のケーススタディまでを分かりやすく解説したものです。

また巻末には、「用語集」を設け、読者が理解しやすい情報も載せています。

著しい経済発展を遂げグローバル化が進行する中国。パブリック・リレーションズに携わる実務家はもちろん、経営者から学生まで幅広い人たちが戦略的広報を学ぶことのできる専門書になると思います。

グローバル化が進展する中で、前世紀から持ち越された人口・食糧問題をはじめ地球環境、民族紛争、デジタルデバイド(情報格差)など、多くの未解決の問題解決のためのPRの実務家に課せられた責務は重大です。

市場の急激な拡大によりグローバル経済に多大な影響を与えている中国。いま世界はその動きを注視しています。

リレーションシップ・マネジメント(良好な関係性の維持)をベースとする本書が、中国の抱える内外の諸問題に対し、そのソリューションに微力ながらも寄与することを願っています。

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投稿者 Inoue : 16:20 | トラックバック

2010年03月29日

『体系パブリック・リレーションズ』を紐解く 20
 ~医療分野におけるパブリック・リレーションズ

こんにちは、井之上喬です。
ぐずついた天気がつづき、桜の満開が待ち遠しい今日この頃、皆さんいかがお過ごしですか?

今週は、『体系パブリック・リレーションズ』Effective Public Relations (EPR)第9版の邦訳:ピアソン・エデュケーション)を紐解きます。このシリーズ20回目となる今回は、第17章「非営利組織(NPO)、業界団体、非政府組織(NGO) 」(矢野充彦訳)の中から「保険医療(ヘルスケア)分野のパブリック・リレーションズ」を紹介します。

オバマ大統領は3月23日(日本時間24日未明)、同大統領が内政の最重要課題に掲げてきた、医療保険改革法案に署名し、同法が成立しました。これにより民間保険加入基準の緩和や政府補助などが実行に移され、新たに3,200万人を保険に加入させ、国民の保険加入率をおよそ95%に拡大するといわれています。

ギャラップ社は同日の世論調査の結果を「オバマ大統領の支持率は51%で、下院での法案可決前の46%から上昇した」と伝えています。
事実上の国民皆保険制度を導入するこの画期的な法案が成立するプロセスで、パブリック・リレーションズ(PR)がどのような機能を果たしたのか、本書での記述を通してその一端を紹介したいと思います。

■「国民皆保険」は歴代民主党政権の悲願
医療保険制度改革は米国における政治上の長年の懸案であり、これまでトルーマン、カーター、クリントンといった民主党の歴代大統領が取り組んできたものの、いずれも議会の壁に阻まれる結果となっています。

この点について本書では、「1990年代初期にクリントン大統領がまとめた、無加入保険者に対する保険加入の拡大と、すでに加入している人々の費用抑制を柱とした複雑な提案が医療業界から厳しい抵抗に遭い、議会の上下両院のいずれにおいても議会投票に至らなかった」と記載されています。

その後、医療保険制度改革に対する基本的な政治戦略として、連邦議会と州議会において同改革関連の数多くの小規模提案を段階的に実現していく方針が採られました。

例えば、次のような事項が本書に記されています。
1)低所得者やヒスパニックの子供、障害者など社会的弱者に対する医療保険領域の拡大
2)ジェネリック医薬品の使用促進
3)税額控除の調整
4)情報テクノロジー(IT)を駆使した医療情報の質的向上
 
こうした活動を背景に医療保険制度改革への議論も盛り上がりを示し、医療政策に関連するメディの報道量も増加していきました。

カイザーファミリー財団(健康問題を扱う非営利民間団体)は、プリンストン・サーベイ・リサーチ・アソシエイツと協力して、具体的に高齢者医療保険制度(メディケア)、無加入保険者、ヘルスケアコスト、管理医療(マネジケア)の4項目の医療トピックについてメディアの報道内容を分析。

この分析によると、医療保険問題に関するニュース記事は1997年から2000年の間に実に34%増加したことが本書で明らかにされています。

■ニューメディアが貢献
また、本書ではインターネットの出現とウェブサイトの利用が、ヘルスケア分野におけるメディア・リレーションズの抜本的改革をもたらしているとし、次のように記しています。

「今では何百万人の人々が医療情報源としてインターネットを利用している。ヘルスケア組織は自身のニュース内容をウェブサイトに掲載し、世界中の人々が閲覧できるようにしている。」

「医療担当記者は、ニュース速報を報道するときも、単にニュース記事のネタを探すときも、以前にも増して関連会社のウェブサイトを頻繁に閲覧する。ニュース報道機関が自身のウェブサイトを開設していることさえ、医療ニュースの報道を本質的に変化させている。」

メディアの報道が盛んになる一方で、メディアが要求する入院患者の情報提供を巡って病院やヘルスケア機関におけるパブリック・リレーションズの実務家とメディアとの間に緊張関係を生んでいるといいます。

2003年に発効した「医療保険の携行性と説明責任に関する法律(HIPAA:Health Insurance Portability and Accountability Act)」は、患者のプライバシー権利を守るための厳しい規則を設けています。

患者の同意書なしには、病院はその患者の病状報告だけでなく、患者が入院していることさえ発表することはできないのです。

これらの新しい動きの中で、医療業界におけるパブリック・リレーションズは、組織が法律や経済社会の変化にどのように対応していくかに関わらず、経営層の重要な課題としてここ数年の間に急速に台頭してきています。

品質の高いヘルスケアを安価な費用で患者に対し利用可能にするにはどうすればよいか、という複雑で白熱した議論は、間違いなく今後何年も続くことになると予測されています。

こうした議論に参加している当事者全員との関わりを通して、パブリック・リレーションズの実務家は課題の設定(イシュー・セッテング)に手をさしのべ、医療保険制度の公共政策づくりへの建設的な貢献を期待されています。

日本で最初の社会保険制度は、健康保険法(1922年に制定)により1927年から発足した健康保険制度です。その後、1961年に国民健康保険制度が完全普及される一方で国民年金制度も発足し、「国民皆保険・国民皆年金」が実現しました。

パブリック・リレーションズ(PR)が全く未成熟でニューメディアも登場していない日本で、米国よりも半世紀も早く国民皆保険制度が導入された、その先進性には驚くばかりです。

しかし、昨今のわが国の国民皆保険制度は、医療費の負担増や未加入者の増加、医師不足、そして地域医療の荒廃など重大な危機にさらされています。米国とは次元が異なりますが、私たちパブリック・リレーションズの専門家が果たすべき役割がこの分野でも膨らんでいます。

投稿者 Inoue : 08:42 | トラックバック

2010年03月01日

JICA広報研修の講師を務めて
 ~中南米・カリブ地域から25名の研修生を迎えて

こんにちは、井之上喬です。
皆さん、いかがお過ごしですか?

今回は、JICA(独立行政法人国際協力機構)が中南米・カリブ諸国で支援するODA事業に携わる現地組織体の広報関係者を日本に招き実施した広報研修についてお話しします。この広報研修は、国民の税金を基盤とするJICAのODA事業に対する理解を研修参加者に深めていただくとともに、パブリック・リレーションズ(PR)に対するスキル向上を目的としたものでした。研修の正式名は「中南米・カリブ地域における円借款事業の現地事業広報スキル向上支援事業」。


期間は2月8日~19日の2週間で、ペルー、ブラジル、グアテマラ、パナマ、エルサルバドル、コスタリカ、コロンビア、パラグアイの8カ国から25名の研修員が参加。会場は、JICAの東京国際センターで開催されました。

■パブリシティは「フリー・プレス」
この広報研修では、パブリック・リレーションズ理論やゲスト・スピーカーによる内外の公共事業における事例紹介、施設見学(東京電力の電力館や川崎発電所)、課題に対するアクション・プラン作成など充実したプログラムが組まれました。

私は「広報の基本概念」と「さまざまなリレーションズ」、「広報と倫理/クライシス・コミュニケーション」、そして「広報計画の立て方(プログラム作り、目標設定、ターゲット、戦略など)」といった4つの講座の講師を務めました(下の写真)。

「広報の基本概念」では歴史的経緯を踏まえた広報の基本的な考え方をはじめ広報の持つ双方向性や「自己修正モデル」、パブリック・リレーションズの専門家に求められる資質(5つの条件/10の資質・能力)について講義。

「さまざまなリレーションズ」ではコア・コンピタンスとしてのメディア・リレーションズを中心に各ステーク・ホルダーへのさまざまなリレーションズについて。また、「広報と倫理/クライシス・コミュニケーション」では特にグローバル・スタンダードに合致した広報活動のための倫理観とクライシス・コミュニケーションについて講義しました。

そして、「広報計画の立て方(プログラム作り、目標設定、ターゲット、戦略など)」では、パブリック・リレーションズの倫理観をベースに目標達成のための戦略構築やライフサイクル・モデルに基づいた広報プログラム設計。加えて活動評価の重要性を伝え、報道分析など効果測定の手法を紹介しました。

JICA広報研修の講師を務めて

この研修の講義資料は全てスペイン語で用意され、講義内容もスペイン語に通訳されて研修員に伝えられたのですが、その中で面白い体験をしました。それは翻訳に関わる問題。私の講義の中のメディア・リレーションズの講義資料のパブリシティ(Publicity)という用語の解釈についての混乱で、Publicityがスペイン語では「Publicidad」と訳されていたことに起因していたのです。

この用語が講義の中で何回か登場するのですが、私が講義でパブリシティという言葉を口にする度に研修員の反応がおかしいので確認すると、Publicidadはお金を払ってメディアに記事や情報を掲載する宣伝・広告の意味であることを知らされました。私たちが通常使う意味のパブリシティは、中南米・カリブ地域では「フリー・プレス(Free Press)」というそうです。

■日本から中南米・カリブ諸国へ
今回の広報研修はJICAにとってはじめての試み。JICA広報ガイドラインには“ONE WISH, ONE WILL”というスローガンがあります。その広報目的を、「JICAの目指す世界を創り出すための活動に、理解・共感・支持・参画してもらうこと」としています。まさに日本のソフト・パワーを世界に示す格好のプロジェクトといえます。

研修員の多くはJICAから円借款を受けて、現地で上下水道整備事業や環境改善事業、地域道路整備事業、水力発電所建設事業そして公共サービス改善事業などを実施するさまざまな組織体で広報分野やプロジェクト推進を担うリーダー。男女約半々で、年齢も20代から50代まで幅広く、広報経験が初めての人や(少人数)20年近い経験を持つ人などバラエティに富んでいました。

ラテン・アメリカの人は、日本人の持つイメージ通りの陽気な人たちでした。授業では一言も聞きもらすまいとする熱意と意欲が伝わってくる一方、休憩時間には母国から持ってきたチョコレートやドライ・フルーツなどを差し入れてくれます。中には、日本留学経験者もいて片言の日本語も聞こえてきます。

ご存知の通り、パブリック・リレーションズは戦後、GHQが日本の民主化のために持ち込んできた手法であり、概念です。それから60余年、多くの諸先輩が試行錯誤を繰り返し、私たちの世代に引き継がれてきました。

今回の広報研修を通して、パブリック・リレーションズの手法・概念が、今度は私たちから地球の裏側の中南米・カリブ諸国へと伝播していくことを想うと、実に感慨深いものがあります。また私にとっては、異文化体験も含め大変楽しい講義となりました。こうした機会を与えてくださったJICAをはじめ関係者の方々に感謝するばかりです。

研修会の最終日に行われたお別れパーティでは、プレゼント交換やJICA職員も交えた写真撮影など2週間を共にした仲間が別れを惜しみました。

投稿者 Inoue : 09:00 | トラックバック

2010年02月01日

『体系パブリック・リレーションズ』を紐解く 20
 ~プレスとの協働のためのガイドライン

こんにちは、井之上喬です。
もうじき立春。春の足音が聞こえる時節になりましたが
皆さんいかがお過ごしですか?

今週は、『体系パブリック・リレーションズ』Effective Public Relations (EPR)第9版の邦訳:ピアソン・エデュケーション)をご紹介します。EPRは米国で半世紀以上のロングセラーを記録するパブリック・リレーションズ(PR)のバイブル的な本で、日本語翻訳メンバーには私も加わりました。

今回は、第10章「メディアとメディア・リレーションズ」(井上邦夫訳)の中から「プレスとの協働のためのガイドライン」を紹介していきます。メディア・リレーションズはパブリック・リレーションズのコア・コンピタンスです。メディアとの良好な関係性をいかに構築していくかは、パブリック・リレーションズの実務家にとって世界共通の課題。このガイドラインはこの課題に対して大いに示唆を与えてくれています。以前このブログで「良好なメディア・リレーションズのためのガイドライン」についてお話ししたことがありますが、その続編的な内容となります。

■10項目のプレス対応ガイドライン
本書で、元CBSニュース記者で長くカウンセラーを務めているチェスター・バーガーは報道機関について「しばしば不公平で、理不尽で、悪いことがある。しかし、彼らは我々の友ではないにしても、国家の最大の友であり、我々はそれに感謝しなければならない」と語っています。また彼は、健全なパブリック・リレーションズの実践の原則に基づき、プレス対応のためのガイドラインを以下のように提案しています。

1. 組織体の利害ではなく、パブリックの利害の観点に立って話す。
2. ニュースを読みやすく利用しやすくする。
3. 引用されたくない発言は、話してはいけない。
4. 最初に最も重要な事実を述べる。
5. 記者と言い争いをしない。冷静さを失わない。
6. 質問のなかに攻撃的な言葉や不快な単語が含まれていたら、
  それを繰り返さず、さらに否定してもいけない。
7. 記者が直接的な質問をしたら、同様に直接的に返答する。
8. スポークスパーソンが質問に対する回答を知らないときは、
  端的に「私は知らないが、調べて回答しましょう」と言う。
9. たとえ傷つくとしても真実を述べる。
10.記者にニュースだと思わせることができない限り、記者会見を
  開いてはいけない。

私の会社(井之上パブリックリレーションズ)の業務にも「スポークス・パーソンのためのメディア・トレーニング」プログラムがあり、そのテキストには上記と共通する内容が盛られています。どれも大事なことですが、私は特に「真実を述べる」ことが何にもまして重要だと思っています。

この点について本書では「悪いニュースはすぐに消滅する、メディアはそれを見逃すだろう、と一瞬でも考えてはいけない。(中略)実務家は、そのニュースや報道される方法についてコントロールできる余地を残さないだけでなく、防衛的であってはならず、事実を隠蔽しようとしたとか、メディアに暴露されたといった嫌疑をかけられないようにしなくてはいけない。」

そして、「これは最も難しい。なぜならば、実務家の仕事は悪いニュースをメディアから締め出すことだと見ている経営トップの人々を納得させなければならないからである」と記しています。

また、ガイドラインの最初に列挙されている、「組織体の利害ではなく、パブリックの利害の観点に立って話す」こともこれからのパブリック・リレーションズにとって重要なことです。なぜならこれからの組織体は、その活動がパブリックにも受け入れられることが求められており、実務家はクライアントの利害だけを近視眼的に考えて行動することは許されないからです。これらに共通するものは「倫理観」といえます。

■メディアに精通した経営トップが求められる時代
また、本書では実務家がニュース・メディアのジャーナリストと良好な関係性を構築し、維持していくためには何よりも相手から信頼されることが重要であるとアドバイスしています。

しかし実際に私たち実務家のもつ情報の一部には秘匿義務が課せられていたり、また個人情報保護のため、あるいは、競合するビジネス環境における情報の財産的価値のために開示できないケースも多々あります。

この点に関しては報道機関の情報ニーズと実務家との関係は対立する関係でもあります。こうした環境の中でジャーナリストの信頼を得ていくことは並大抵なことではありません。スポークス・パーソンとして、あるいはメディア・リレーションズのマネジャーとして活動するすべての人々にはメディア・トレーニングが必要だと本書は語っています。

一方で人々に報道機関との付き合い方を教えていることが背徳行為だとの非難が彼らからあがっています。こうした声に対して本書ではロジャー・エールスがジャーナリズム・セミナーで述べた次のようなコメントを載せています。

「我々は常に真実を述べるようにクライアントに助言する。しかしながら、私を最も困惑させることは、あなた方(ジャーナリスト)はジャーナリズム・スクールで質問する方法を学んでいる一方で、それらの質問の答えかたを学ぼうとする人々の権利について否定することである」。エールスのこの言葉には大いに納得できるものがあります。

メディア・トレーニングを行う意義について本書は「我々の自由社会は自由な報道が中心的役割を果たすため、メディアに精通した経営トップが求められる時代なのである。報道機関と直接対応する経営陣を助けるために準備されるメディア・トレーニングは、パブリック・リレーションズ部門の責任であり、良好なメディア・リレーションズを構築して維持するための不可欠な投資となる」と結んでいます。

ほとんどの人は、鳩山首相やオバマ大統領と会ったことがありませんが、彼らがどういう人物なのか私たちは知っています。それは新聞、TV、雑誌などのディアを通して知っているからです。メディア・リレーションズの重要性はここにあります。そして健全なメディアを支える基盤は「倫理観」なのです。

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2010年01月18日

CESから読む新しいグローバル化の潮流
 ~世界最大のコンシューマ・エレクトロニクス・ショー

こんにちは井之上 喬です。
世界的な寒波が襲来していますが、皆さんいかがお過ごしですか?

井之上パブリックリレーションズ(井之上PR)は、おかげさまで2010年に設立40周年を迎えます。海外企業とのビジネスが比較的多く、これまでもさまざまな国際的な企業へのパブリック・リレーションズ(PR)のカウンセリングや外国政府・自治体による貿易・投資促進キャンペーン、またグローバルな各種展示会などの企画・運営そしてオンサイト・サポートなどで実績を残しています。

そのなかで世界最大の家電見本市である、インターナショナル・コンシューマ・エレクトロニクス・ショー(CES)の開催母体の米国家電協会(CEA)に対しても、日本市場向けのPRコンサルテーションや開催期間中の現地へのメディアツアーの実施など幅広いサービスを提供しています。CESは毎年1月初めに米国ラスベガスで開催されていますが、今回は、新年早々現地入りした井之上PRスタッフからの報告も含め、年初のこの一大イベント(CES2010)から新しいグローバル化の流れを探ってみたいと思います。

■民生機器は日本メーカーの牙城?
今年のCES2010(1月7日-10日)は、主催者の発表で米国をはじめ海外100カ国以上から2,500社を超える出展社数で、そのうち約300社が新規出展し展示総数は2万点以上。また業界関係者だけを対象としたこの見本市の見込み来場者数は前年並みの11万人(実数発表は5月)。出展社の会場では風力発電による電気を使用するなど、CES2010は世界的に関心が高まっている「環境にやさしい見本市」をテーマに開催されました。

今年は、バンクーバー冬季オリンピックやサッカーワールドカップを控え、電機各社が3Dに対応したフラット・パネル・デスプレイTV(FPD-TV)の最先端製品を展示、先陣争いをしています。民生機器の代表選手であるFPD-TV市場は、パナソニック、シャープ、ソニーなどの日本メーカーがこれまで業界をリードしてきましたが、LED(発光ダイオード)TVにも力を入れるサムスン電子(写真左下)やLG電子など韓国勢が世界規模で販売を伸ばし2009年のシェアでは韓国勢に対し日本勢は大きく離されたと業界のアナリストは分析しているようです。

秋葉原の大型家電量販店などの店頭には日本メーカーの大型FPD-TVが所狭しと並んでおり、2009年末商戦でもエコポイント効果もあり台数ベースで前年同月比65.5%増、金額ベースでも42.7%増と好調だったようです(BCN調べ)。日本にいるとFPD-TVの牙城は日本メーカーが守っていると思いがちですが、CES2010では韓国勢に加えHaierやHisense、TCLなど中国メーカーが昨年とは比べ物にならないほど大きなブースを出展していました。

関係者によると、「昨年10月に開催されたCEATECでは見られなかった光景」。ここでも中国勢の躍進が肌で感じられました。HisenseのCEOはCES2010のキーノート・スピーチ(基調講演)の一角にマイクロソフト、インテル、フォードなどのCEOと並び登場していました。ちなみに日本メーカーのトップのキーノート登場はなかったようです。

CES2010

■新規分野で覇権を確実に
CES2010の目玉は何と言っても3D(3次元)TV。CES2009でも兆しは見られましたが今年は「3D元年」といわれるように、3次元立体放送に対応した3Dテレビが一気に開花しようとしています。特に前述のFPD-TV市場で韓国勢にシェアを奪われた日本メーカーは、3次元対応の薄型テレビでの先陣争いに乗り遅れまいとの意欲が強く感じられました。

CES2010で展示・発表された製品を見ても、パナソニック、東芝、ソニーなどの製品は業界をリードする技術を集積したもので、新しいビジネス創出の可能性を大いに感じさせるものでした。これまで世界の新規市場をリードしてきた日本メーカーですが、果たしてこのまま順調に、新しい分野である3DTVで世界をリードすることができるのでしょうか?

井之上PRのスタッフの一人が、「日本メーカーに期待することは何か?」とCEAの幹部に質問を投げかけたときに返ってきた答えは次のようなものだったそうです。「日本メーカーは技術的にも優れている。業界で今後も重要な役割を果たしていくだろう。しかし、日本メーカーを目標にしてきた韓国企業などと比較すると、マーケティング力が劣っている。」と両者間のマーケティング力の差を指摘し、「例えば韓国メーカーは、FPD-TVの販売に関して米国、欧州などそれぞれの地域で徹底的なマーケット・リサーチを行い、その結果を細かいところに反映させ、デザイン変更を行なうなど成功に導いている。日本メーカーは技術だけではなく、マーケティングに立脚した製品開発にもこれまで以上に注力する必要があるのではないか。」

日本が高度成長を支えたときに語られていた、「良いものを作れば売れる」といった神話はもうすでに遠い過去の話です。これからはマーケティングを強化し、日本市場だけでなく中国をはじめインド、ブラジルなど新興国を含めた世界市場をターゲットとしたビジネスを展開していかなければ、日本の大手といえども生き残れなくなる、厳しい時代の到来が目前に迫ってきています。

日本メーカーは現在、3DTVで技術的には世界をリードしているといわれていますが、これをビジネスとして拡大してくためには、ハード面だけでなく3Dコンテンツなどの充実が不可欠。そして日本企業が苦手とする国際標準化の問題にも直面するはずです。

新規ビジネスを成功に導くためには、必要な要素は国籍を問わずさまざまな企業・団体と積極的に連携し、それらを取り込み競争力を強化する。グローバル・ビジネスでは当たり前のことですが、英知を集めて新しいビジネス分野を日本企業主導で創出して欲しいものです。なんとしてもこれ以上のジャパン・パッシングは回避しなければなりません。

日本企業にはアライアンスを組むにせよ、国際標準化を実現させるにせよ、強力なパブリック・リレーションズ(PR)なしには実現できないことを理解する必要があります。なぜなら競争原理が働くところでパブリック・リレーションズは大いに機能するからです。

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2009年12月14日

アジア通信社と中国国内ニュースサイト事業で協業
 ~「日本新聞網」について

こんにちは、井之上 喬です。
師走も早いものでもう半ば、皆さんいかがお過ごしですか?

12月10日から民主党の小沢一郎幹事長が、中国、韓国を訪問しました。訪中団の規模には驚かされました。国会議員約140人を含む総勢600人以上の大デリゲーションで胡錦濤国家主席との会談も行われ、メディアの扱いも大きく政権交代を内外に強く印象づけました。

今回の小沢訪中団派遣に見られるように、政治、経済において対中国関係はますます重要になってきています。特に日本の産業界にとって、生き残りのためには中国との関係強化とパイプ作りは最重要。今後産業界は中国との関係強化の動きをより一層加速するものと思います。関係構築活動であるパブリック・リレーションズ(PR)にとって、コミュニケーションはインフラです。今回は経営資源の一つである「情報」の視点から、中国向けの情報伝達について考えてみたいと思います。

■中国のネット人口が米国の総人口を超えた
中国のインターネット人口は、2009年6月末時点で米国の総人口を上回る、3億3800万人で世界最大となったことは周知のとおりです(CNNIC:「中国インターネット・ ネットワーク情報センター」7月調査)。過去一年間では約8500万人増加し、なかでもブロードバンド利用者は5100万人増加。速度については2Mbps以下が大半とするものの、その数はインターネット利用者の84.7%にあたる2億1400万人。

インターネット利用者の用途(複数回答)のベスト3は、「音楽聴取」(2億1366万人/84.5%)、「ニュース閲読」(2億620万人/81.5%)、「インスタントメッセンジャー」(77.2%)となっています。総人口に対するインターネット利用率では19.1%と全世界における21.1%に比べればまだ低い水準にありますが、今後、中国政府は2800億元(約3兆9000億円)を投じて2010年内にも3Gネットワークを敷設する計画。インターネット環境の改善とともに、さらにネット人口の拡大が見込まれています。

インターネットの急速な拡大は、中国の経済活動に大きな変化をもたらしています。また2001年のWTO(世界貿易機関)への中国加盟は、まだ耳新しい出来事ですが、WTO加盟により中国の経済成長が後押しされ、中国の実質経済(GDP)成長率はBRICs諸国の中でも飛びぬけています。

内需低迷で将来の成長に不安を抱く日本企業が、この成長市場に注目するのは企業規模の大小を問わず当然のこと。JETRO(日本貿易振興機構)の発表では中国進出日系企業の数は約23000社(07年末現在)。

また、09年4月発刊の「中国進出企業一覧 2009‐2010年版上場会社篇」(21世紀中国総研調べ)によれば、有価証券報告書の提出を義務付けられている国内企業5176社のうち、中国(香港、マカオを含む)に現地法人のほかに、日本本社の駐在員事務所、支店、営業所などの在中ビジネス拠点を持っている会社が1809社あるそうで、日本の有力企業の3分の1以上が中国市場に関っています。

この成長著しい中国市場で欧米をはじめ世界中の企業がビジネスチャンス拡大を目指し、厳しい競争を展開しているのは皆さんご存じのとおりです。こうした背景の中で競争優位性を確保するためには、その情報戦略の中でいかにインターネットを自社に有利に活用していくかという視点が重要となります。中国のような広大な国土面積をもつ市場においてインターネットの有効性は計り知れません。

■井之上PRの中国ビジネスへの本格的取り組み
日本企業が大いに注目している中国市場では、中国語という障壁が大きく立ちはだかっています。中国向けの新製品や新サービスを中国の企業人に伝えたいのだがどうすればよいのだろうか?こんな悩みを持った方も多いのではないでしょうか。「優れた技術、優れた製品を作りさえすれば売れる」とする考えは過去の幻想。どんなに良い製品、優れた技術でも、それを使う人に情報が伝わらなければ、その良さは伝わらず宝の持ち腐れになってしまいます。

そこで私の経営する井之上パブリックリレーションズでは、中国市場向けに日本企業の様々な企業情報を中国語で発信するビジネスを開始し、中国ビジネスに本格的に取り組むことを決めました。その手始めとして、12月9日に中国語による情報サイト「日本新聞網」を活用した日本企業の情報配信に関するプレスリリースを配信しました。

井之上PRは、株式会社アジア通信社(東京都港区、徐 静波社長)と連携し、中国語による情報サイトである「日本新聞網」(www.ribenxinwen.com)を通じ日本企業の中国市場向けの新製品、新サービスなどの情報発信、ビジネス・マッチングなど多角的な事業展開について協業を開始します。

日本新聞網の運営はアジア通信社が行い、編集長は、社長の徐 静波さんがつとめます。滞日18年の経験とジャーナリストとして日中関係にかかわってきた貴重な体験を通した独自の視点で日々、日本で起こっている経済、政治のニュースと最新の生活や文化に関するさまざまな情報を中国語で配信しています。

井之上PRは、独立系のPR会社として2010年に設立40年周年を迎えますが、これまで、主に外資系企業とのPRコンサルテーションで培ってきたノウハウが、“PR下手な日本企業”の中国ビジネス展開のお役に立てればと考えています。そのためこの事業立ち上げを機に、社内に「中国事業支援室」を新設。 グローバルなPR実務やコンサルテーションに関わる豊富な経験と実績を生かし、日本新聞網を通じ日本企業の中国市場向けの製品、技術、サービスなどさまざまな情報発信・広報活動の支援を行うことにしています。

中国市場の急激な拡大は、日本企業に大きなビジネスチャンスをもたらしています。政治・社会・制度の異なる中国市場への日本企業の支援を行うことで日中両国の繁栄に微力ながら寄与したい、とコミュニケーションの専門家として考えています。興味を持ってくださった方は、是非、ご意見を頂ければと思います。障壁は高いかもしれませんが、次の世代に向けた新しいビジネスの1つの道筋を示すことができればうれしい限りです。ご期待ください。

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2009年11月23日

『体系パブリック・リレーションズ』を紐解く 19
 ~理論的基盤:調整と適応 その2

こんにちは、井之上喬です。
このところ朝夕めっきり冷え込んできました。
皆さん、いかがお過ごしですか。

今週は、昨秋発売された『体系パブリック・リレーションズ』( Effective Public Relations (EPR)第9版の邦訳:ピアソン・エデュケーション)をご紹介します。今回は、11月2日号に続いて第7章「理論的基盤:調整と適応」(井之上喬訳)その2です。

前回は、生態学的アプローチとはどのようなものなのか、生理学者ウオルター・キャノンのホメオスタシス(恒常性維持)の概念が初めてパブリック・リレーションズに適用されたことを紹介しました。また、外部環境を把握するために状況をどのように捉えるべきなのか、外部環境変化で生じた状況をさまざまな視点で捉え、それらを分析することの重要性について紹介しました。

■PRをシステムとして考える
カトリップらは、「組織体に及ぼす変化とその影響力について議論をすることは、パブリック・リレーションズをシステムとして捉えることを意味している。」とし、「システムの捉え方が適用できる理由は、相互依存の関係が組織とパブリックの間に確立され維持されているからである。」と解説しています。

ここでいうシステムとはどのようなものでしょうか?本書ではシステムについて、「最終目標を達成・維持するため、環境変化の圧力に自ら調整し適応することにより、確立された境界内と時間軸のなかで永続しようとする相互交流のある一連の単位である。」と定義づけています。

またカトリップらは、「調整」と「適応」の概念と我々のパブリック・リレーションズの定義は、システム理論からの概念と命題を借用しているとしています。そして大学を例にとり、「(大学は)校友会、篤志家、隣人、雇用主、高校のカウンセラーや先生、同エリアの他の大学など、多数のパブリックで構成されたシステムの一部である。」と論じています。

カトリップらは、「パブリック・リレーションズの場合、相互作用のある一連の単位に含まれるのは、組織体と、現在または将来関係のあるパブリックである。」とし、組織体とパブリックは相互に何らかの影響を与えるか、関係性を持つが、社会システムは、物理的、生物的システムとは異なり、物的に密接な要素に特に依存する訳ではないとしています。また上述の組織体とパブリックのシステムは、「組織、および、同組織と関係のある人々や組織体の影響を受ける人々で構成される。」と述べています。

そして目的達成は、「状況変化があっても、現在の関係を単に維持することで可能となるかもしれないが、組織体は、絶え間なく変化する社会環境に対応して、パブリックとの関係を継続的に順応させる必要がある。」と断じているのです。

■PRのオープン・システム・モデル
以前、「調整」と「適応」について本ブログ08年7月19日号で「組織体はどうすれば存続できるのか~調整・適応そして自己修正」の表題でお話ししたことがありますが、カトリップらによると、システムの究極の目的は生き残ることにあるとしています。

そして一般的に、システム(機械的、有機的、社会的)にはオープン・システムとクローズド・システムがあり、この二つはそれぞれの性質と環境間の相互作用の総量によって分類できるとしています。

またシステムの範囲は、それぞれ対極にある、環境変化に適応できないクローズド・システムからこのような変化に適応するオープン・システム領域に至るとし、オープン・システムは、自ら保有する通り抜け可能な境界を介して新しい事象やエネルギー、情報などを自由にやり取りでき、環境変化を和らげたり、受け入れたりするために調整と適応を行うと解説しています。

本書では、組織体による、プレス・リリースの配信に終始するアウトプットや、その他の古典的な消極的パブリック・リレーションズの対応は、クローズド・システムの思考。一方、「オープン・システムのアプローチは、パブリック・リレーションズの役割を環境上へのインプットの結果として環境と組織の双方に変化をもたらすものと」とパブリック・リレーションズにとってオープン・システム・モデルが有効であることを論じています。

カトリップらは、オープン・システム・アプローチは広く実践されている実務方法を劇的に変化させ、適切な対応として調整と適応を行うとしています。また「対称性双方向」のアプローチを用いることでコミュニケーションを双方向で行い、情報交換によって組織とパブリックの双方に変化を生み出すと語っています。

そしてオープン・システム・アプローチに従った場合、「パブリック・リレーションズは、組織体の方針や手続き、行動などによって相互に影響や関係性が生じる特定された対象パブリックに対し、選択的かつ細心の注意を払わなければならない。」とオープン・システム・モデルにおける、対象パブリックや他の環境の力、組織内の力をモニターするリサーチ・スキルの必要性を訴えています。

またオープン・システムのパブリック・リレーションズは、組織内で修正行動を開始し、内部と外部の対象パブリックの知識や傾向、言動などに影響を及ぼすために直接プログラムを開始・指揮する能力も持っているとしています。

カトリップはこれらにより必然的に、「双方向のパブリック・リレーションズ・モデルを実践するための知識やトレーニング、そして経験を積んだ実務家は、組織体の中枢となる経営層に組み込まれやすくなる。また、彼らはその中でも、助言役を演じるより、リーダーシップをとることが多い。」と論じています。

そしてこれらマネジャーが経営の中軸で権限を持つことで、組織体のイデオロギーや環境内での戦略的プログラムを計画する際の対象パブリックの選択・設定に影響を与えることができるとし、そのとき、実務家はコミュニケーション・カウンセリングとマネジメントの役割を担うことになると明言しています。

本書第7章の最後は以下の文章で終わっています。「組織体と社会の利益を代表して働くパブリック・リレーションズの専門家は、組織の内部と外部の双方で、変化の代理人でありマネジャー(管理者)である。彼らは基本的にコミュニケーションを駆使して、組織と社会に対する調整と適応を考え、これを促進する。」

環境の変化を予見し、課題や問題が顕在化する前に変化への対応を行う高度なオープン・システム。パブリック・リレーションズ(PR)のプラクティショナー(実務家)の皆さんはどのように受け止められたでしょうか?

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2009年11月02日

『体系パブリック・リレーションズ』を紐解く 19
 ~理論的基盤:調整と適応  その1

こんにちは、井之上喬です。
皆さん、いかがお過ごしですか。

今週は、昨秋発売された『体系パブリック・リレーションズ』( Effective Public Relations (EPR)第9版の邦訳:ピアソン・エデュケーション)をご紹介します。EPRは米国で半世紀以上のロングセラーを記録するパブリック・リレーションズ(PR)のバイブル的な本で、日本語翻訳メンバーには私も加わりました。

今回は第7章「理論的基盤:調整と適応」(井之上喬訳)。2回にわたって紹介します。以前このブログで、「組織体はどうすれば存続できるのか~調整・適応そして自己修正」の表題で「調整」と「適応」についてお話ししたことがありますが、めまぐるしく外部環境が変化する現代にあって、PRパーソンにとって重要なテーマです。そんなこともあり『体系パブリック・リレーションズ』の第7章の翻訳担当にさせていただきました。

■生態学的アプローチ
第7章の冒頭では、「組織体とは、熾烈なグローバル競争や、技術革新、不安定な経済、そして多くを要求する高度に洗練された顧客などが渦巻く激動の環境の中で、常に生存能力を試されている生態システムのようなものである。」とキャロル・キンゼイ・ゴマンの言葉が引用され、「生態」がEPRの中で重要なキーワードとなっていることを示しています。

スコット・カトリップ、アラン・センターは、生理学者ウォルター・キャノンが唱える変化する外界に適応する、ホメオスタシス(恒常性維持)の概念を初めてパブリック・リレーションズに適用しています。生命科学の分野から借りた「生態学」という用語によって学生や実務家は、「パブリック・リレーションズが、それぞれの環境の中で、組織体と他者との相互依存関係に関わっていることを理解することができた。」とし、「パブリック・リレーションズの重要な役割は、組織体を取り巻く環境の変化に合わせて調整し適応できるように組織体を支援すること」と論じています。

本書(EPR)は、「1952年発行の初版でパブリック・リレーションズに生態学の概念を導入し、社会システムの見方を用いることを示唆した初めてのパブリック・リレーションズの書籍である」とし、調整、適応がEPRの基盤となっていることを強調しています。

本書第1章で定義されているように、パブリック・リレーションズは、「組織体とパブリックの間に構築・維持される関係性を取り扱う」ものであることを確認し、「このような関係性は、絶え間なく変化する環境で、政治的、社会的、経済的、そして技術的変革の圧力にさらされている。」と外部環境の変化を注視することの重要性を説き、さらに「組織体が、ますますグローバル化する社会における未知の領域を安全で着実に進むためには、このような圧力を慎重に評価することが不可欠になる」としています。

そして米国のデパート、シアーズやノードストロームが強力な組織で栄え、ワーズ百貨店やウールワースの400店舗の安売りチェーンが市場から姿を消した原因を、「ダーウィン流に説明すると、新しい時代を生き続けられるのは、力のある組織体ではなく、変化する世界に調整して適応する能力のある組織体ということになる。」と組織体の恒常維持にとって生態学的なアプローチが必要であることを論じているのです。

■状況を捉える
本書第7章では、「パブリック・リレーションズの役割は、個々の状況における、特定の動きや変化、そして作用するさまざまな力を捉え、分析することにある。」としています。パブリック・リレーションズにとって外部環境の変化により生じた状況をさまざまな視点で捉え、それらを分析することの重要性を説いています。

例えば、メリーランドを拠点に活動する動物愛護団体(PETA)の活動を挙げ、動物愛護運動が盛んになることで、化粧品メーカーや医学研究所、精肉業者、連邦政府機関などの組織体にとって、自らの使命達成にどのような影響を与えるのかを論じています。いうなれば新しい活動的な圧力団体の取り組みが、組織体の意思決定にインパクトを与えるようになるということです。

本書は、「動物愛護運動はエイボンやエスティーローダー、ベネトン、トンカトイ・カンパニーなどに対し、ウサギ、モルモットなどの動物を使用した製品テストを中止するよう圧力をかけた。」と化粧品会社や衣料会社などへの強力な働きかけを伝えています。

その一方で、「また同運動は、国立衛生研究所に対して、動物を使用して研究を行う研究クリニックの閉鎖を求め、ペンタゴンには動物の損傷テストの中止を迫った。」と外部からの強いアプローチにさらされている様子を記述しています。企業側が対応に苦慮しているのが目に見えるようです。

またこれらの運動により、「テキサス州の食肉処理場はPETAからの圧力の後で閉鎖を命じられた。さらに圧倒的多数が、動物愛護を支持して、毛皮や化粧品研究の使用目的で動物を殺すことを違法と考えるようになり、PETAは世論を勝ち取りつつある。」と組織体にとって、状況把握がいかに重要かが容易に理解できます。

本書では、「パブリック・リレーションズの業務は、端的にいえば組織体を取り巻く環境に合わせて調整・適応できるように組織体を支援することにある。」とし、「パブリック・リレーションズのカウンセラーは、世論や社会変化、政治運動、文化的変化、そして技術開発、自然環境をモニターしている。そして彼らは、これらの環境要素を解釈し、組織体の変化や対応策に関する戦略を策定するため経営層と協働するのである。」と論じています。

日本で繰り返される不祥事を見てみると、倫理観の欠如は言うまでもありませんが、組織体が変化する外部環境を読み切れず調整・適応することなく市場からの退場を余儀なくされるケースが後を絶ちません。本書にあるように、21世紀を生き抜くことのできる組織体とは、単に力のある組織ではなく、さまざまな視点で内外の環境変化を複合的に捉え、必要であればパブリックとの間で調整・適応を行い、自己修正のできる組織体ではないでしょうか。


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2009年10月12日

『体系パブリック・リレーションズ』を紐解く 18
 ~PRの歴史的発展 その8

こんにちは、井之上喬です。
皆さんいかがお過ごしですか?

今週は、『体系パブリック・リレーションズ』Effective Public Relations (EPR)第9版の邦訳:ピアソン・エデュケーション)をご紹介します。EPRは米国で半世紀以上のロングセラーを記録するパブリック・リレーションズ(PR)のバイブル的な本で、日本語翻訳メンバーには私も加わり昨年9月20日に発売されました。早いものでもう1年が経ちました。

20世紀初頭に米国で登場・体系化されたとされるパブリック・リレーションズ。今回は、第4章「パブリック・リレーションズの歴史的発展」(井上邦夫訳)の8回目として抗議運動と市民パワーの時代(1965-1985)の後半におけるエポック・メイキングな事象を紹介していきます。今回は8回に及んだ「パブリック・リレーションズの歴史的発展」の最終回となります。

■キング牧師の有名な演説“I Have a Dream”
本書ではマーチン・ルーサー・キング・ジュニア牧師(Martin Luther King, Jr.,1929–68年)が「抗議運動と市民パワーの時代」における象徴的存在として活躍していたことを紹介しています。そして、「キング牧師が国民的指導者へ昇りつめるきっかけとなったのは、1955年、アラバマ州モンゴメリーでバスに乗車中のローザ・パークスが、白人の乗客に席を譲らなかったことを理由に逮捕され、パークスのために立ち上がったときである。」

「キング牧師は、1963年8月28日、ワシントンD.C.のリンカーン・メモリアルでおよそ25万人の聴衆を前に、有名な演説“I Have a Dream”(私には夢がある)と呼びかけた。彼は、暗殺される前日の1968年4月4日には、テネシー州メンフィスで、予言的な演説『私は山の頂上に行ったことがある』と語りかけた。彼は公民権運動の殉教者であり象徴でもあった」と記しています。

公民権運動がもたらしたひとつの成果として1965年の投票権法(Voting Rights Act)と1968年の個人住宅の販売・賃借における人種差別撤廃を促す公正住宅法(Open Housing Law)の法制化が挙げられています。キング牧師と公民権運動は、あらゆる組織体の対内的・対外的なリレーションズ(関係性の構築)に影響を与え、変化と権限委譲の時代を特長づけたのです。

また、公民権運動の成功は、グロリア・スタイネム、ベラ・アブザグ、シャーリー・チゾムたちが先導する男女同権運動にも大きな影響を与え、女性がパブリック・リレーションズ分野や様々な職場へ進出するきっかけともなったと記しています。

■大統領を失脚に追い込んだ市民行動
ベトナム戦争反対運動は公民権運動とともにこの時代を二分した大きな出来事であり「ジェネレーション・ギャップ」、「ヒッピー」、「セックス革命」といった言葉やライフスタイルを生みだしました。そして、その反戦運動はウォーターゲート事件とリチャード・ニクソン大統領(1969-74)弾劾へと発展したと本書に示されています。

学生たちが全国のキャンパスで反戦運動を繰り広げる中、1970年のカンボジア侵略に抗議するデモは最大の悲劇を招きました。この悲劇について本書は「オハイオ州のケント州立大学では国家警備隊が4人の学生を射殺し、ミシシッピ州のジャクソン州立カレッジのキャンパスでは州警察が2人の学生を殺害した」と述べ、「この7カ月後、連邦議会は、米国がベトナムに事実上の宣戦布告をした1964年のトンキン湾決議を破棄した。1973年1月27日、米国、北ベトナム、南ベトナム、ベトコン暫定革命政府の4者は、『ベトナムの平和復興』の合意書に署名した。しかし、市民の行動が公共政策を変更に追い込み、大統領を失脚させたように、市民パワーはもう後戻りすることはなかった。『パワー・トゥー・ザ・ピープル』が合言葉となり、同時にこの時代の本質をうまく捉えてもいた」と結んでいます。

1972年のウォーターゲート事件は、日本でも大きく報道されました。それは、当時野党だった民主党本部のあったウォーターゲート・ビル(ワシントンD.C.)に不審者が盗聴器を仕掛けようと侵入したことから始まりました。当初ホワイトハウスは、この侵入事件とは無関係であるとの立場をとっていましたが、次第に盗聴への関与が明らかになり、世論の反発によってアメリカ史上初めて現役大統領が任期中に辞任に追い込まれる事態へと発展していったのです。

パブリック・リレーションズの専門家が政権の側近に一人もいなかったにもかかわらず、民衆の意見を操作するための策略としてパブリック・リレーションズを利用したと非難を浴びることになりました。こうしたプロセスの中でパブリック・リレーションズが、「民衆の意見を操作しようとする悪」と誤解され、ダメージを被る結果となったのです。

このようにパブリック・リレーションズの歴史は必ずしも順風のなかで発展したものではありませんでした。この事件をきっかけに、実務家には自己の活動に対しより高い倫理感が要求されるようになりました。

奇しくもニクソン大統領が退陣に追い込まれた1974年は、日本でも金脈問題で田中角栄首相が引責辞任し、第2次田中内閣が倒れています。

抗議運動と市民パワーの時代から影響を受けたパブリック・リレーションズは、もはや米国内だけにとどまらず、技術革新とグローバル化を背景に私たちの生きる現代へと大きく進化を遂げていきます。

本書第4章「パブリック・リレーションズの歴史的発展」の最後尾では、「我々はこの時代に生き、この時代が、本書の全体を通じて述べるパブリック・リレーションズの概念や実務を規定する。その意味では、誰もがパブリック・リレーションズの歴史の一片を書き綴る役割を演じるのである」と結んでいます。

また、本章の冒頭には「パブリック・リレーションズの進化の過程を学習すると、その機能、長所、短所を洞察する力が増す。残念ながら、多くの実務家は自分のミッションであるパブリック・リレーションズの歴史的意義を把握していないため、社会における位置や意義を十分に理解していない。(中略)パブリック・リレーションズの歴史的背景を理解することは、今日の専門的実務に不可欠なことである」と語られています。

パブリック・リレーションズの歴史の一片を書き綴る役割を演じる可能性をもつ皆さんは、8回にわたった「パブリック・リレーションズの歴史的発展」からどのようなことを学ばれたでしょうか。

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2009年09月14日

『体系パブリック・リレーションズ』を紐解く 17
 ~PRの歴史的発展 その7

こんにちは、井之上喬です。
皆さんいかがお過ごしですか?

今週は、『体系パブリック・リレーションズ』Effective Public Relations (EPR)第9版の邦訳:ピアソン・エデュケーション)をご紹介します。EPRは米国で半世紀以上のロングセラーを記録するパブリック・リレーションズ(PR)のバイブル的な本で、日本語翻訳メンバーには私も加わり1年前の昨年9月20日に発売されました。

20世紀初頭に米国で登場・体系化されたとされるパブリック・リレーションズ。今回は、第4章「パブリック・リレーションズの歴史的発展」(井上邦夫訳)の7回目です。ここでは「抗議運動と市民パワーの時代(1965-1985)」を前半と後半の2回に分け、その前半をエポック・メイキングな事象を中心に紹介していきます。

■消費者運動の指導者、ラルフ・ネーダー
本書では「抗議運動と市民パワーの時代」における重要なテーマについて、「消費者運動と環境保護、平和、人種差別撤廃、男女差別撤廃だった。調査報道に基づく新たなタイプの不正摘発ジャーナリズムと強力な権利擁護団体が、社会変化や新たな社会的セーフティネット、ビジネス・産業界に対する政府の規制強化を強く要求した。」と記しています。

そして、「市民デモや偉大なる社会(Great Society)を目指す立法措置、さらに誠実なる交渉を通じて、権力が再分配され、組織体はパブリックの関心事や価値にもっと対応するようになった」とし、環境保護と市民権の確保のための運動がこの時代では最重要であったことが記されています。

こうした中、弁護士で社会運動家のラルフ・ネーダーが登場します。本書では、「GMも社会からの抗議と監視のターゲットとなり、その結果、企業による説明責任の重要性に道を開くこととなった」と記され、ネーダーが『どんなスピードでも自動車は危険:アメリカの自動車に仕組まれた危険(Unsafe at Any Speed:The Designed-In Dangers of the American Automobile)』(1965年)を出版し、消費者運動の旗手として活躍したことを記述しています。

また「ネーダーは、シボレー・コルベアのサスペンション装置は自動車の転覆を招くと告発した。GMの法務部は、ネーダーの私生活を調査するという対応に出た。その結果として、GMの社長は上院小委員会に出席し、ネーダーに対し、脅迫的手段をとったことを謝罪した」と、大企業のエゴむき出しの行為を記述。本書はさらに、「ネーダーのプライバシー侵害の訴えを法廷外で解決し、コルベアのサスペンションを変更することに合意した。1966年、すべての自動車に安全標準を規定する、全国交通自動車安全法(National Traffic and Motor Vehicle Safety Act)が制定された」と巨大自動車メーカーを相手に戦った彼の功績を伝えています。

本書によると、ネーダーは和解金と本の印税で若手弁護士や調査員をスタッフとして雇い入れ、企業責任に関するプロジェクトを立ち上げます。彼は芽生えて間もない消費者運動で、「消費者を守る運動家」として一躍メディアの寵児となります。

そして、「『ネーダーの奇襲隊員たち』がその後40年に渡って企業の説明責任に圧力をかけ続けたため、企業の秘密主義と傲慢な態度は、多大な後退を余儀なくされた。」と企業の果たすべき説明責任を追及。さらに本書は「彼らの戦術の一つは、企業の株主に対し、議決権をネーダーに委任するよう依頼することで、これによりネーダーは株主総会で企業の方針と取締役の選任ついて異議をとなえることができた」と記しています。

■世界約140ヵ国に拡大した「アースデー」
ラルフ・ネーダーの登場に先立つ1962年、レイチェル・カーソンは環境保護運動の始まりといわれる自著『沈黙の春』(Silent Spring:1962年)を発刊。これに対し時の大統領「ジョン・F・ケネディ大統領は、科学顧問委員会に対し、同書(『沈黙の春』)が詳細に告発した実態を調査するよう指示した。」と本書に記しています。

さらに同書が、殺虫剤としてのDDTの穀物散布の危険性とDDTが全体の食物連鎖を汚染させていると主張していることに対し、「大手の殺虫剤メーカーは、DDTがなければ、暗黒の時代が復活し、害虫や病害を防除できなくなると脅迫して対抗した。しかし、それまでのパブリックの無関心は、殺虫剤業界の取り締まりと環境保護を求めるパブリックの要求へと大きく変化した」と本書では市民意識の覚醒を伝えています。

また本書では、米国の環境問題に対する議員たちの反応は素早く、かつ長期的な取り組みが見られたとして「議会は1963年に大気汚染防止法、1969年に国家環境政策法(環境保護を国家の政策とする)、1970年には水質改善法をそれぞれ制定した。1970年4月には初めての『アースデー』が催され、同年10月に環境保護庁(EPA)が新設された。カーソンは、米国の実業界に戦いを挑んで勝利し、抗議と変化の時代の基礎を築いた」と記されています。ちなみに日本の環境庁(元環境省の前身)は1971年7月発足。

「アースデー」は、ウィスコンシン州選出のG・ネルソン上院議員が1970年4月22日を制定。当時全米学生自治会長であったデニス・ヘイズがこの概念を具現化する行動をアメリカ全土に呼びかけ環境問題についての討論集会が開催されるなどしました。これが契機となり、市民レベルの大きな草の根活動に発展し、現在では世界約140ヵ国で約2億人の人たちが参加するほどの広がりをみせています。

日本においても、1990年からこの日にコンサートや野外フェスティバルなどのイベントが開催されるようになりました。日本武道館で毎年開催されている「コスモアースコンシャスアクト・アースデー・コンサート」はよく知られています。

「抗議運動と市民パワーの時代」の前半におけるパブリック・リレーションズの重要なテーマとして、ラルフ・ネーダーの登場による「消費者運動」の高まりと、「アースデー」に代表される「環境保護」について紹介しました。これらのテーマは、現在においてもパブリック・リレーションズ(PR)の大きな課題となっています。

さて次回は、PRの歴史的発展の「抗議運動と市民パワーの時代」の後半についてお話します。

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2009年09月07日

「第16回北京国際ブックフェア」開催
 ~拙著の中国語版の出版が実現




こんにちは。井之上喬です。
もう9月、皆さんお元気でお過ごしですか?
 

先日北京で開催中の「第16回北京国際ブックフェア」(写真:9月3日~9月7日)へ行ってきました。訪問の目的は、フェア会場で拙著『パブリック・リレーションズ』(日本評論社)の中国語版の出版調印式に出席するためです。

5日間にわたる同フェアは中国全土からはもちろん、多くの出版業界関係者が世界中から集まって催される中国最大の書籍出版のイベントです。主催は政府機関の国家新聞出版総署。9月3日には中国作品を日本へ紹介する学習研究社が、9月4日には拙著を中国へ紹介する二つの調印式典が行なわれました。

■出版事業で初の日中文化の相互交流
このフェアはすべてにおいてスケールアウトしています。主催者発表では、予想来場者20万人以上、展示面積43000㎡、国内展示参加企業約520社、海外参加展示数800、展示総ブース2146、展示図書16万点。

フェア二日目に開催された拙著の調印式典には、中国政府からは国家版権局の司長でもある中国版権保護センターの段桂鋻(だん けいかん)主任(写真左端)、そして東方出版社の黄書元社長(写真左から2番目:人民出版社社長でもある)またゴールデンブリッジ(GB)からは森田栄光社長(筆者の右)が出席しました。GB社は昨年設立された中国政府と日本企業の合弁企業。そのGB社と中国国家版権局の直属事業機構の中国版権保護センターが出版事業で日中の相互交流を実現させたのです。

写真:調印式典

人民出版社は3つの国営出版社(他は民族出版社、盲文出版社)のなかのフラッグシップ会社で、毛沢東、周恩来、鄧小平、江沢民など、歴代中国の指導者の思想書をはじめ、政府の法律関係書などを発行する出版社として知られています。一方東方出版社は、人民出版グループの中で主として外国作品を扱う事業部門。

これまで中国では、米国のパブリック・リレーションズ関係の書籍は出版されていますが、この分野での日本の出版物が中国語で紹介されるのは初めてのことのようで、日本コンテンツの中国への輸出ということになります。

これに対し、中国コンテンツの日本への輸入については、日本の学研が中国オリジナル漫画「三国演義」(安徽美術出版)を来年度の小中学校の図書館用書籍として翻訳出版します。ちなみに、中国のオリジナル漫画が日本の学校用図書として採用されるのは初めてのこと。

■真の民主化を願って
今回中国で出版される本では、私の40年にわたるPRの実践的体験を通して、新たなパブリック・リレーションズにおける「モデル」を提唱しています。それが、「倫理」「双方向」「自己修正」の3原則を有する「自己修正モデル(Self-correction Model)」。

日本をはじめとする世界の国々は、さまざまなグローバルな問題に取り囲まれています。この本で紹介されている自己修正モデルは、いままで追い求めた物質的豊かさをベースにした経済至上主義が破綻をきたし、新しい概念に基づいたパブリック・リレーションズが模索される中で提示される21世紀のパブリック・リレーションズの新しいモデルとして、筆者が位置付づけているものです。

中国は建国以来さまざまな困難に直面し、それらを乗り越えてきました。いまや世界の経済成長のエンジンの一つになろうとしている中国ですが、成長を遂げながら56の異なった民族を抱合することは至難の業。パブリック・リレーションズは健全な民主主義社会の中でこそ生きていける手法です。そうした意味で、中国へのパブリック・リレーションズの移入の成否は同国の将来を占う上で重要なバロメーターになると考えています。

今年11月の上梓が予定されているこの中国語版は、PRの分野で40年の経験を重ねてきた私の、非英語圏の日本を含むアジア地域の文化的背景を踏まえた、従来の「広報」や「宣伝」の枠を超えた「パブリック・リレーションズ(PR)」の重要性を説いた入門書となっています。中国での書籍名は「戦略公関」。年内の上梓で、初回発行部数は5,000部を予定し、中国の人たちにも理解しやすいように構成されています。

私の本の中国での出版は、長年の夢でもありました。旧満州国・大連市で生まれた私は、いつの日にか中国と日本の相互交流を通してその架け橋になりたいと考えていました。今回の出版が、中国と日本の新しい「絆(Kizuna)づくり」の出発点となるよう、心から願っています。

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2009年08月17日

『体系パブリック・リレーションズ』を紐解く 16
 ~PRの歴史的発展 その6

こんにちは井之上喬です。
皆さんいかがお過ごしですか?

今週は、『体系パブリック・リレーションズ』Effective Public Relations (EPR)第9版の邦訳:ピアソン・エデュケーション)をご紹介します。EPRは米国で半世紀以上のロングセラーを記録するパブリック・リレーションズ(PR)のバイブル的な本で、日本語翻訳メンバーには私も加わり昨秋発売されました。

20世紀初頭に米国で登場・体系化されたとされるパブリック・リレーションズ。今回は、第4章「パブリック・リレーションズの歴史的発展」(井上邦夫訳)の6回目として第二次世界大戦期後の急成長期(1946-1964)におけるエポック・メイキングな事象を紹介していきます。

■PRの急成長期を象徴する6つの事項
第二次世界大戦は、戦争を遂行するための軍需生産や民間からの支援を喚起するためのコミュニケーションの新しい技術やチャンネルなどパブリック・リレーションズ業界に多くの新たな機会をもたらせました。戦争はまた、7万5000人の実務家を育成したと本書で述べられています。戦後の米国は、戦時から平和時の経済へ、また工業社会からサービス産業中心の脱工業社会への転換と大きく変容を遂げはじめたのです。

本書では1946年-64年のパブリック・リレーションズの急成長期を象徴する出来事として次の6つの事項をあげています。

1.産業界や各種機関、社会的団体、政府部門、事業者団体におけるPRプログラム数が確実な成長を遂げた。既存のプログラムはさらに充実し、パブリシティの範囲を超えるようになった。

2.特にニューヨークをはじめワシントン、シカゴ、ロサンゼルスなどのコミュニケーション中心地で、独立系コンサルティング会社の数が安定化した。

3.実務とその理念、問題、技法などを扱う書籍や記事、定期刊行物の数が飛躍的に増加した。

4.実務家のための新しい組織体が誕生し、既存のPR協会の再編成や合併も行われた。これらの組織の多くはさらに成長し現在に至っている。

5.実務家の養成コースとして特に設計された大学の科目やプログラムの数が増大した。パブリック・リレーションズの学術面での養成により、就職市場で若い卒業生の大量採用を促した。

6.実務と基準の国際化が1955年の国際パブリック・リレーションズ協会(IPRA)の設立につながった。

前述したように米国が平和時の経済へ、またサービス産業中心の脱工業社会へ移行する中で、パブリック・リレーションズは米国のビジネスや産業界に大きな需要を生み出していった様子が上記6つの事項によく表れています。

また本書では、「全国の公立学校や大学でも、戦後のベビーブームと第二次世界大戦から帰還した膨大な数の軍人が大学に殺到したため、新たに大きな需要がもたらされた。(学校)経営者らはパブリック・リレーションズのコンサルティングの必要性を認識した。各学校区は、追加の学校を建設するため、次々と債券の発行を推進しなければならず、全国の高等教育機関も、高等教育と研究の拡大需要を満たすため、教員増と建物の増設を目指して資金の奪い合いを繰り広げる必要があった。」と記しています。

米国PR協会で演説した初の外国人実務家
本書では珍しく戦後ヨーロッパにおけるパブリック・リレーションズの動向を「ティム・トラバース・ヒーリイ。欧州では、一部の人が『欧州のエドワード・バーネイズ』と呼ぶリーダーが現れた。彼は第二次世界大戦の英国の将校で、1947年にパブリック・リレーションズ会社、トラバース・ヒーリイ・リミテッド社を設立した。」と伝えています。

また、本書では、ヒーリイの輝かしい実績のいくつかについて「彼は主要な国際企業とコンサルティング契約を結び、世界中で講演を行い、英国PR研究所と前述のIPRA(国際PR協会)の2つの団体を共同で創立した。彼は英国の最高栄誉賞の中の2つ、英国王立人文科学協会フェローと大英勲章第四位(OBE)を授与された。後者は、爵位に次いで第2位(一位と二位はナイトの爵位)であり、英国女王陛下からパブリック・リレーションズの専門的サービスに対して授与された。」

また「彼は、米国PR協会の会議で演説した米国人以外の初の実務家であり(1957年、フィラデルフィア)、アーサー・W・ペイジ・ソサエティの殿堂に入った唯一の外国人である。ヒーリイの実務家としての長いキャリアの中では、エアバス、GM、ロッキード、ヒルトンホテル、ナショナル・ウェストミンスター銀行、AT&T、ジョンソン&ジョンソンなども、クライアントとして担当した。」と紹介しています。

私は、国際PR協会の本部理事・役員をしていた時、特にセミナーや世界大会などで、ヒーリイとよく雑談したことがあります。とてもエネルギッシュな人で、白ひげを顎にたくわえた、ユーモアのある、音楽が大好きな好々爺。メンバーの多くから「ティム」と呼ばれ親しまれていました。

つい先日、私たちは64回目の終戦記念日を迎えました。日本のパブリック・リレーションズ(PR)の歴史は浅く、その起源は、1945年の敗戦による連合国総司令部(GHQ)の日本民主化政策の一環として導入されました。パブリック・リレーションズの登場から半世紀。米国でパブリック・リレーションズの花が大きく開花したこの時期に、日本へその種子がもたらされたのです。


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『「説明責任」とは何か』 井之上喬著 <お知らせ>

『「説明責任」とは何か』(PHP研究所、税込735円)
好評発売中!

いまや日本中で連日連夜、謝罪が繰り広げられている。「説明責任を果たしていない」と詰め寄られる企業不祥事の記者会見。「説明責任は果たせたと思う」と大臣をかばう総理のコメント。

だが国民はけっして納得していない。いまなぜ、どのように《説明責任》を果たすことが求められているのか? パブリック・リレーションズ(PR)の第一人者が、「倫理」「双方向」「自己修正」の三つの原則から、日本における《説明責任》の実態を解説し、問題点を指摘する。情報開示に不可欠なリスク管理にポイントをおいた待望の書き下ろし。


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2009年08月03日

『体系パブリック・リレーションズ』を紐解く 15
 ~PRの歴史的発展 その5

こんにちは井之上喬です。
皆さんいかがお過ごしですか?

20世紀初頭に米国で登場・体系化されたとされるパブリック・リレーションズ(PR)。今週は、昨秋発売された『体系パブリック・リレーションズ』Effective Public Relations (EPR)第9版の邦訳:ピアソン・エデュケーション)をご紹介します。

今回は、第4章「パブリック・リレーションズの歴史的発展」(井上邦夫訳)の5回目として、ルーズベルト時代と第二次世界大戦期(1930-1945)におけるエポック・メイキングな事象を紹介していきます。1929年、アメリカに端を発した世界大恐慌により長期化する経済不況。こうした中で1933年発表されたフランクリン・D・ルーズベルト大統領のニューディール政策は経済復興に寄与したばかりでなく、多くの分野でパブリック・リレーションズの実務の発展を生みました。今回はこうした側面を中心にお話していきます。

■PRの発展を促がした大恐慌時代
本書は、この時期(1930-1945)に多くの分野でパブリック・リレーションズが活用されていく様子を次のように述べています。「大恐慌とニューディール政策に伴って生じる様々な出来事に対し、あらゆる組織体は、パブリックに情報を知らせて支持を得る必要性を痛感した。ニューディール政策を実施する当局者たちも、革新的な改革を容易にするためには、パブリックからの支持が不可欠だということにやがて気づき、政府のパブリック・リレーションズはルーズベルト大統領の下で最大限に拡大した。」

この勢いは政府だけでなく「学校経営者たちも、パブリックが情報を知らされないことの危険性を思い知ることとなった。また、大恐慌により社会福祉の需要が高まり関連機関が著しく拡大し、こうした組織体の運営者たちも、パブリックのより良い理解が不可欠なことを実感した。軍部の指導者も、ナチやファシストの軍事力強化に懸念を強め、より強力な軍隊を持つことに支持を得る努力を始めた。財政難に悩む大学も、寄付を集めるため、ますますパブリック・リレーションズに頼るようになった」という。

また、ビジネス界のリーダーたちも大企業には批判的なルーズベルトの厳しい指弾と法律改正に対抗するため、パブリック・リレーションズの専門家を活用するようになったといいます。それは、一時的で防衛的な取り組みではなく、新たにパブリック・リレーションズ部門を創設して積極的で継続的な活動へと拡大していきます。

この時期、GM,イーストマン・コダック、フォード、USスチールなどがつぎつぎとPR部門を設置しています。

このように大恐慌とニューディール政策の社会的、経済的な大変動は、PRの発展に大きな刺激を与えたのです。

■世論の科学的評価法が登場
本書では、この時期には世論をより正確かつ科学的に測定して評価するツールも導入されはじめたと伝えています。それは、1930年代半ばにはじまったローパーとギャラップの世論調査で、1936年の大統領選挙で幅広い信頼を得たことが普及に拍車をかけることになりました。先進的なパブリック・リレーションズの実務家は、この新しいツールを経営陣への助言やプログラムを提案する際に利用したといいます。世論調査は、新たなサンプリング手法を取り入れ、さらに信頼性と有用性を向上させていきます。ギャロップ社は今では世界的に著名なリサーチ会社へと成長。

1934年、フィラデルフィアで米国初のマイノリティー経営者ジョセフ・B・ベイカー(アフリカ系アメリカ人)によりPR会社が設立されたと本書に記されています。クライアント・リストには、クライスラー、ジレット、プロクター&ギャンブル、NBC、RCA、スコット製紙会社など一流の企業が名を連ねていました。

またこの時期には、政治キャンペーンの先駆的な専門家も輩出しています。1933年、クレム・ウイトカーとレオン・バクスター夫妻は、住民投票や小政党組織にフォーカスした政治キャンペーンを専門とする初のエージェンシーをサンフランシスコに設立しています。『タイム』誌は彼らの活動を「政治分野のパブリック・リレーションズにおける認知された原型」と呼び紹介しています。

第二次世界大戦の勃発は、さらに激しい環境の変化をもたらしました。本書では、陸軍省の「パブリック・リレーションズ局」のスタッフが3人から3000人(役人と民間人の合計)に膨れ上がり、同時に海軍省や空軍司令部も優秀なPR専門家の確保に乗り出したと記されています。彼らの仕事の大半は、パブリシティや検閲、戦争特派員に対する支援などで、こうしたプロセスを経て多くの人材がPR実務を身に付け、戦後にブームとなるパブリック・リレーションズの基盤を築くことになります。

1942年に真珠湾攻撃を受けた後、ルーズベルトは特別令を発布して諸外国の米国に対する歪曲した見方を修正していくためthe Office of War Information(OWI)を設置したことも特筆すべきことです。なぜならば、終戦後GHQにより日本に紹介された一連の民主化プログラムは、こうした米国での経験を取り入れたパブリック・リレーションズであったと考えられるからです。

このように米国のパブリック・リレーションズの発展は、数々の困難に直面するたびに成長を繰り返してきたといえます。政治や経済がこれまでにない苦境にある中で、日本のパブリック・リレーションズ(PR)は、今後大きく飛躍することが期待されています。


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『「説明責任」とは何か』 井之上喬著 <お知らせ>

『「説明責任」とは何か』(PHP研究所、税込735円)
好評発売中!

いまや日本中で連日連夜、謝罪が繰り広げられている。「説明責任を果たしていない」と詰め寄られる企業不祥事の記者会見。「説明責任は果たせたと思う」と大臣をかばう総理のコメント。

だが国民はけっして納得していない。いまなぜ、どのように《説明責任》を果たすことが求められているのか? パブリック・リレーションズ(PR)の第一人者が、「倫理」「双方向」「自己修正」の三つの原則から、日本における《説明責任》の実態を解説し、問題点を指摘する。情報開示に不可欠なリスク管理にポイントをおいた待望の書き下ろし。


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2009年07月13日

『「説明責任」とは何か』発売開始
 ~7月15日から全国の書店で

『「説明責任」とは何か』 井之上喬著 


こんにちは、井之上喬です。
みなさん、いかがお過ごしですか。

先月(6月22日号)このブログでもご紹介した新書が、いよいよ今週お目見えすることになりました。本のタイトルは、『「説明責任」とは何か』(PHP研究所)。15日から全国の書店で発売されます。今日はそのことについて少し触れてみたいと思います。

■巷を駆け巡る「説明責任」
前のブログでも書いたように、このところ「説明責任」という言葉が巷を駆け巡っています。TVや新聞、雑誌などでこの言葉に触れない日がないぐらいです。「説明責任を果たしていない」と詰め寄られる企業不祥事の記者会見や国会質問。その多くの場合、説明責任を負う側にも、求める側にも、説明責任が何であるのかその意味を十分理解しているとは思えないような言動が見受けられます。

日本の借金は1000兆円超。国民一人当たり1000万円は時間の問題とされる借金王国です。100年に一度といわれる経済危機や深刻な環境問題、核の脅威など解決しなければならない問題が山積している中で、説明責任を追及する側と対応に四苦八苦のされる側との攻防だけのために貴重なリソースを使っていいはずはありません。

これらの光景をみるのは辛いことです。日本が多くの困難な問題に立ち向かっていくためにも不要な障害を取り除く必要があります。限られたリソースを有効に使うためにも、説明責任が何であるかを理解し、前向きな問題に一日も早く取り組んでもらわなければならないと思うのです。本書の出版はそんな思いで実現しました。

■説明責任を見える形に
本書では、説明責任の定義やそのプロセスを紹介し、説明責任の本質に迫っています。本書は8章で構成。冒頭では、日本で説明責任が求められているさまざまな事象を取り上げ、それらの要因がどこにあるのかを社会システムや文化的違いを例示しながら書き記しています。

また、日本における説明責任の実態や説明責任が危機管理とも密接にかかわっていること。さらに説明責任がパブリック・リレーションズに欠かせない要件の一つで、パブリック・リレーションズを実践する上では説明責任が確立されていなければならないことなども記しています。そして、説明責任の果たすための方法論として、「説明責任の基本プロセス」を分かりやすく図式化しています。

説明責任が果たされる環境は、パブリック・リレーションズ(PR)がしっかり組み込まれている環境。読者にはこのことがわかってくるはずです。これにより、無駄なエネルギーを費やすことなく、日本再建のための前向きで思い切った活動が可能となることがわかるはずです。

日本で繰り返されるさまざまな問題。説明責任を追及していくとそこにはパブリック・リレーションズが見えてきます。皆さん、ぜひ手にとってご一読くだされば幸いです。

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2009年07月06日

『体系パブリック・リレーションズ』を紐解く 14
 ~PRの歴史的発展 その4

こんにちは井之上喬です。
皆さんいかがお過ごしですか?
今週は、『体系パブリック・リレーションズ』Effective Public Relations (EPR)第9版の邦訳:ピアソン・エデュケーション)をご紹介します。EPRは米国で半世紀以上のロングセラーを記録するパブリック・リレーションズ(PR)のバイブル的な本で、日本語翻訳メンバーには私も加わり昨秋発売されました。

20世紀初頭に米国で登場・体系化されたとされるパブリック・リレーションズ。今回は、第4章「パブリック・リレーションズの歴史的発展」(井上邦夫訳)の4回目として、第一次世界大戦期とパブリック・リレーションズが急成長を遂げた1920年代におけるエポック・メイキングな事象を紹介していきます。この時期は優れた人材を輩出し、それまでの防衛的なパブリック・リレーションズから戦略的な手法が開発された時期でもあります。

■多くの人材を輩出した「クリール委員会」
「パブリック・リレーションズの当時の実務は、最初は防衛手段として誕生したが、第一次世界大戦がそれに大きな攻撃力を与えた。」と同書で記されているように、一次大戦を迎えてパブリック・リレーションズの実務には戦費調達のための活動が中心となり、強力な説得型プロパガンダ的手法が用いられるようになりました。

世論の重要性を知り尽くしていたウッドロー・ウィルソン大統領は、コミッティ・オン・パブリック・インフォメーション(Committee on Public Information:CPI)、いわゆる「クリール委員会」を設置。このCPI設置は、戦争行動を支持する世論形成とウィルソンの平和目的を支持する世論結集の任務を負ったもので、この時期を象徴する出来事でした。

本書では、ウィルソン大統領が委員長に任命したジョージ・クリールについて「クリールとCPIは、世論を結集する上で、かつてないほど強いパブリシティの力を実証した。例えば、全国に素早く届く国営ラジオやテレビがなかったため、国内のおよそ3000郡をカバーする7万5000人の市民団体指導者から成るネットワーク“Four Minute men”を創設。

これらのボランティアは、ワシントンから電報で通知を受けると、学校や教会、他の集会所へ情報を伝えるため、四方八方へと走った。戦争終結時までに、およそ80万通の4分間メッセージが配達された」と当時の人的走力に頼った情報ネットワークについて紹介しています。

またクリールは、優秀で才能あるジャーナリストや学者、プレス・エージェント、編集者、アーティスト、世論に影響を与えるオピニオン・リーダーなど驚くほどの人材を集めたといいます。こうした人材が合衆国政府のPRカウンセラーとなり、戦時体制の原動力になった考えを米国の内外に伝える役割を果たしたのです。

■20年代の急成長を支えた巨星たち
本書は、「PRの専門職は、戦時下の発達に勢いを得て瞬く間に広がった。政府やビジネス、教育、教会、社会福祉事業の分野に登場し、大戦の余波の中で急速に成長した労働運動や社会運動にも登場した。1920年に、酒類販売反対同盟が全国的な禁止令を勝ち取って勝利を収め、婦人参政権運動でも成功を収めたことが、パブリック・リレーションズの新たな力を発見する新鮮な証拠となった」と急成長期の時代背景を紹介しています。

この時期には前述したクリール委員会の活動を通じて多くのPR実務家が輩出され、戦後20年代のパブリック・リレーションズの黄金期を築く底力になりました。
PRを体系化した先駆者で雑誌『ライフ』から「20世紀の最も重要な100人のアメリカ人」にも選出されたエドワード・バーネイズと情熱的な戦略家のカール・バイアーについては、このブログの「パブリック・リレーションズの巨星たち」の(2)(3)で紹介していますのでそちらを参照してください。

バーネイズとバイアーに続く3人目はジョン・ヒル。本書は「米国内経済が活況を呈し、メディアが急速に成長したにも関わらず、1926年にマンハッタンの電話帳に記載されていたPR会社は6社だけだった。クリーブランドのジャーナリスト、ジョン・ヒルは1933年、ドン・ノウルトンとパートナーシップを組み、その後すぐにニューヨークへ移動してヒルアンドノウルトン(H&K)を設立した」と、世界有数のPR会社であるH&Kの誕生を伝えています。

4人目はアーサー・ペイジ。このブログでも紹介したことがありますが、今日のパブリック・リレーションズの実務を形成した先駆者の中では、彼が頂点に立つといわれています。ペイジは雑誌や定期刊行物のライター兼編集者を務めた後、AT&T社の副社長に就任。そして数々発表したニュース・リリースのうち、もっとも著名で私たちとも関係のあるものは、1945年8月6日に公表された「広島への原爆投下」でした。これは、ハリー・S・トルーマン大統領の依頼により作成されました。

本書では、この時期にパブリック・リレーションズという新しい職業分野で活躍する2人の女性を紹介しています。一人は1922年にバーネイズと結婚したフライシュマンで「エドワード・L・バーネイズ、パブリック・リレーションズ・カウンセル」事務所を立ち上げています。フライシュマンは初期の男女同権論者であり、結婚後も旧姓のまま通した最初の女性。社会的に別姓が認められるずっと前のことです。

もう一人の女性はアリス・L・ビーマン。主に教育分野で活躍し、その後、ビーマンは1974年設立の全米教育振興支援評議会(Council for the Advancement and Support of Education:CASE)の初代委員長に就任します。

このようにパブリック・リレーションズの実務は、戦時の教訓とアメリカの変革を推進力にして、1929年の株式市場大暴落まで急速な発展を遂げます。次回は5回目としてルーズベルト時代と第二次世界大戦期を紹介します。

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2009年06月29日

マニュフェストの都議選迫る

こんにちは、井之上喬です。
みなさん、いかがお過ごしですか。

7月3日告知の東京都都議会選挙が目前に迫っています。
先日早稲田大学小野記念講堂で「東京都都政フォーラム:6兆円の使いみち」として、東京都議会会派代表による公開討論会が開催されました。東京都政のこれまでの4年間とこれからの4年間について、また6兆円の巨大な予算を各党がどのように使おうとしているのかについて、熱いディベートが繰り広げられました。

参加政党は、自由民主党、民主党、公明党、共産党そして地域に根差す生活者ネットワークで、それぞれ代表者を送り込み5名がパネリストとして出席。コーディネーターは主催者でもある早稲田大学院公共経営研究科教授&同大学マニュフェスト研究所所長の北川正恭さん。

■ほとんど知られていない活動と成果
1290万人の人口を抱える東京都の年間予算は6兆円を超えています。この巨大な金額は、アルゼンチン、ニュージランド、台湾などの政府年間予算を上回る数字です。その割には、東京都の活動やその実績について詳しく知っている都民は少ないのではないでしょうか?

世界経済の混乱で、政治への関心が高まっているものの、実際自分が生活している自治体がどのような政策を掲げ、実現させてきたのかその活動が市民に十分に伝えられていない感があります。

討論会やシンポジウムなどに参加したり、積極的な情報入手努力を行わない限り、自治体の活動内容は不明瞭で理解できる環境は十分とは言えません。従来型のお知らせではなく、ITを駆使しインターネットを活用した行政の仕組みを考える必要があります。

日本の遅れは多分に、政治献金のシステムと関係がありそうです。米国のオバマ大統領候補(当時)が、選挙キャンペーン中にインターネットを活用し、多くの草の根献金者を巻き込み選挙戦を有利に展開したことは周知の事実です。個人が献金活動を通して、政治家(候補者)の掲げる政策やその結果に身近になるのは自然のことといえます。

■本格的マニュフェスト選挙
7月の都議選に向けて各党がマニュフェストを掲げ選挙戦に臨むことが期待されています。マニュフェスト選挙の実現は北川さんのライフワーク。前述の討論会には各党が準備した政権公約が資料に添付されていました。ある政党がマニュフェストを大上段に掲げ真っ向勝負しているところもあれば、ある党は従来型の公約を掲げているところもあります。

公約の掲げ方も、仔細にわたったものから、大枠で示しているものまでそれぞれ個性的です。しかし、しっかりしたマニュフェストを持つ政党・候補者は、投票する有権者にとっては、信頼が高まり有利な選挙戦が展開される印象を持ちました。

ちなみに「ザ・選挙」には、今回の都議選の立候補者の一覧が写真付きで掲載されています。面白いことに、会場で配られていた主要政党の公約資料の中で、自民党だけがマニュフェストを掲げていないことが気になりました。本年5月の本ブログでも紹介した北川教授のコメントに中に、最近の傾向として、選挙で有権者が投票を決める場合、候補者のマニュフェストをチェックすることが一番に挙げられているとされているからです。

都議会選挙とは別に、自民、民主天下分け目の衆議院議員選挙が控えています。今の自民党には時代の流れを読み、自らを変革(修正)する力がなくなったのでしょうか。

このような選挙活動にも、双方向性で多様な視点をもち、しっかりした調査に基づき、必要とあれば自己修正することのできるパブリック・リレーションズ(PR)が求められています。

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2009年06月22日

新刊本を発行します
 ~「説明責任」についての本

こんにちは井之上喬です。
皆さんいかがお過ごしですか。

最近企業の不祥事や政界で問題が起きるときまって耳にする言葉があります。「説明責任」です。この言葉が出てくるときは必ず何らかの問題が生じているときです。しかし、日本中を駆けめぐるこの説明責任という言葉は、よく耳にしてもその本当の意味を理解している人は多くないように思えます。

説明責任(アカウンタビリティ)はもともと公共機関での会計学で使われていた用語ですが、いまや民間企業や教育現場にも拡大しています。このたび、この説明責任をテーマにした本をPHP研究所から新書として上梓することになりました。発売は7月中旬の予定。今日はそのエッセンスをご紹介したいと思います。

■書くにいたった理由
いま世の中は混乱状態です。特にサブプライム問題の後遺症は重く、経済、政治、社会などのさまざまな分野でひずみが露呈し、多方面で難問が噴出している感さえあります。

このようなときに、起こっている問題に対する国民や納税者の疑問の声は高まり、その原因究明について説明責任を果たすことを要求する声も高まるばかりです。特に混とんとする日本の政治に対し国民は、いまの状態が一人ひとりの生活に深く影響を与えかねないことを憂慮し、看過できない状況を明確に認識しはじめたといえます。

小沢一郎公設秘書問題における小沢前代表側と検察双方の説明責任。また、先日の鳩山総務大臣辞任の際にみられた、大臣自身の説明責任や大臣任命権者である麻生首相の説明責任。これらは、説明責任とは何なのか?一国のリーダーが果たすべき説明責任とはどうあるべきなのかを深く考えるきっかけを与えています。そんな疑問に答えるべくこの本を出版することにしました。

■日本に説明責任が必要なワケ
この本では、日本の社会でなぜ説明責任を果たすことが求められているのか?繰り返されるさまざまな問題を通して、責任ある責任のとり方や説明責任の実態を紹介し、パブリック・リレーションズ(PR)の視点から説明責任を見つめています。

私はこれまで、危機管理では数百人規模の犠牲者を出した不幸な事故・事件から食品の賞味期限切れまでさまざまな企業不祥事を扱ってきました。多くの場合、危機管理に対する備えの欠如を強く感じています。クライシス発生時においては、いかに「説明責任」を果たしていくかがダメージの増減に大きな影響及ぼします。こうした面についても、いくつかの事例をとおして解説しています。

そして、どのようなときに説明責任が果たされるべきなのか、また、「倫理」「双方向」「自己修正」の3つの原則を持つパブリック・リレーションズと説明責任の関係についても記し、説明責任の本質に迫っています。

これまでこのブログでも、絆について書いてきましたが、説明責任が果たされている環境と「絆(きずな)」の関係性についても触れています。

さて、どのような本が皆さんにお届けできるのか、ご期待ください。

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2009年06月01日

『体系パブリック・リレーションズ』を紐解く 13
 ~PRの歴史的発展 その3

こんにちは井之上喬です。
皆さんいかがお過ごしですか?

今週は、『体系パブリック・リレーションズ』Effective Public Relations (EPR)第9版の邦訳:ピアソン・エデュケーション)をご紹介します。EPRは米国で半世紀以上のロングセラーを記録するパブリック・リレーションズ(PR)のバイブル的な本で、日本語翻訳メンバーには私も加わり昨秋発売されました。

20世紀初頭に米国で登場・体系化されたとされるパブリック・リレーションズ。その登場から現代に至る発展史について本書では大きく7つの期間に分けて解説しています。今回は、第4章「パブリック・リレーションズの歴史的発展」の3回目として米国におけるパブリック・リレーションズの苗床期(1900~1916)におけるエポック・メイキングな事象を紹介していきます。

私がこのブログを書きはじめた最初の頃(2005年8月)、「PRの父」と呼ばれている米国の実務家アイビー・リー(1877~1934)の紹介を中心に、その背景となった米国の苗床期に言及したことがあります。この時期にはパブリック・リレーションズ(PR)会社の前身となる「パブリシティ会社」が次々と産声を挙げ、私たちと同じ実務家である多くの先駆者たちが登場しています。

■米国における苗床期(1900~1916)
本書では、この時期について「不正摘発を目指すジャーナリズムに対して防衛的なパブリシティで抵抗した時代。さらに、パブリック・リレーションズのスキルを利用してセオドア・ ルーズベルトとウッドロー・ ウィルソンが広範な政治改革を促進した時代」としています。

米国初のパブリシティ会社は米国東海岸のボストンで「パブリシティ・ビューロー社」(ジョージ・ミカレス社長)。1900年の半ばに「できるだけ多くのクライアントに、商取引において許される限り高い料金で、全般的なプレスエージェント業を提供するため」にボストンで設立されたと本書に記されています。そして2番目の設立は、1902年にワシントンD.C.でウイリアム・スミスによる「スミス&ウォルマー社」。ニューヨークで初めて設立された会社は、アイビー・リーとジョージ・パーカーによる「パーカー&リー社」で3番目のパブリシティ会社です。

4番目の会社は1908年、西海岸のサンフランシスコで設立された「ハミルトン・ライト・オーガニゼーション社」。5番目は、「ペンドルトン・ダッドレイ・アンド・アソシエイツ社」で、ペンドルトン・ダッドレイが友人のアイビー・リーの助言を受けて、1909年にニューヨークのウォールストリート地区で設立されました。

■PRの先駆者たちの登場
この苗床期においては多くの偉大な先駆者が登場しますが、紙面の関係もありここでは3人の紹介にとどめます。
先ずはアイビー・リー。本書では次のように彼の功績を称えています。「今日のパブリック・リレーションズの実務の土台作りに大きく貢献した。彼は少なくとも1919年までは『パブリック・リレーションズ』という用語を使用しなかったが、現在にも引き継がれている多くの技法と原則を生み出した。(中略)業界の最も説得力を持った代表者の一人として、リーが行った実務と講演活動によって、パブリック・リレーションズは新たな専門職になった。」

2人目は、レックス・F・ハーロウで、本書では彼を次のように紹介しています。「ハーロウのキャリアは、パブリック・リレーションズという業務が、誕生間もない、不確実な使命感を帯びていた時期から、1980年代の成熟期へと進化していく過程と重なっており、今日の実務の形成に貢献した。1939年にスタンフォード大学で教鞭をとっているときに、パブリック・リレーションズ科目を教え始め、米国パブリック・リレーションズ評議会(ACPR)を創設した。1945年、彼は月刊誌『パブリック・リレーションズ・ジャーナル』を創刊し、パブリック・リレーションズ・ソサエティ・オブ・アメリカによって1995年まで刊行された。ハーロウは1993年4月16日、100歳でこの世を去った。」

3人目はセオドア・N・ベイル。米国電話電信会社(AT&Tの前身)は、パブリック・リレーションズと電話通信の先駆的企業だったといわれています。同社は、前述の米国初のパブリシティ会社「パブリシティ・ビューロー社」の最初のクライアントの一つでもありました。本書でベイルがディレクターとして1902年に同社に復職後、パブリック・リレーションズに対する方針が打ちだされますが、1907年にベイルが社長に就任して、より明確となったと記しています。またベイルは、ジェームズ・D・エルスワースを雇用し、パブリシティと広告プログラムを展開します。そうした中で、次のような「1912年のAT&Tにおけるパブリック・リレーションズ局の(設置)提案」が生まれました。

「AT&Tにパブリック・リレーションズ局を設置し、電話会社とパブリックとの関係をめぐる全情報を集約して利用できるようにすれば、会社内の各部門や運営会社で、現在個別に行っている仕事の多くを統合することができる。(中略)また、世論のトレンドや法律の流れに注意を向けることができ、これらを研究すれば、そのときどきの市民感情の大局的意向を要約した形式にして、経営幹部に注意を向けさせることができる。」

そして、「また、電話会社は法律の新たな段階に対応することができ、多くの場合、トラブルの原因となっていた状態を修正して法律の機先を制することもできる。このような疑問に関する資料を収集、分析、配布する中心的組織を設置することにより、その分野の仕事に実際に従事していた人の時間を著しく削減でき、問題の対応についても、範囲を拡大してもっと効率的にできるようになるであろう。」

およそ100年も前の上記提案の中には、既に双方向性コミュニケーションの考え方やイッシュ・マネジメントの概念も抱合されていて、この提案が当時画期的なものであったことが想像できます。米国の先駆者の心意気が伝わってくるようです。皆さんはどのような感想をもたれましたか。

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2009年05月11日

『体系パブリック・リレーションズ』を紐解く 12
 ~PRの歴史的発展 その2

こんにちは井之上喬です。
皆さんいかがお過ごしですか?

今週は、『体系パブリック・リレーションズ』Effective Public Relations (EPR)第9版の邦訳:ピアソン・エデュケーション)をご紹介します。EPRは米国で半世紀以上のロングセラーを記録するパブリック・リレーションズ(PR)のバイブル的な本で、日本語翻訳メンバーには私も加わり昨秋発売されました。

20世紀初頭に米国で登場・体系化されたとされるパブリック・リレーションズ。今回は、第4章の「パブリック・リレーションズの歴史的発展」(井上邦夫訳)の中から2回目として18世紀のアメリカ合衆国の独立後から企業における最初のパブリック・リレーションズ部門が設置された19世紀末までのエポックメイキングな事象を紹介していきます。

■最初の全米規模の政治キャンペーン
独立を果たしたアメリカ合衆国において、パブリック・リレーションズの次なる大きな目標は、1787年から1788年にかけてアレキサンダー・ハミルトンやジェームズ・マディソン、ジョン・ジェイが新聞に投稿した85通の書簡集、The Federalist Papers の発行でした。

これらの書簡は、憲法を批准するよう力説するものであり、ある歴史学者は新しい国の「最初の全国規模の政治キャンペーン」と呼んでいます。

本書では、「Federalist の執筆者らは、憲法に反対する流れをかわして支持を得るなど、歴史に残る最高のパブリック・リレーションズの仕事を成し遂げた」とその功績を称賛しています。また、歴史学者アラン・ネビンズは、アレキサンダー・ハミルトンの業績を「史上最高のパブリック・リレーションズの仕事」として本書で以下のように述べています。

「憲法に対して国民の容認を得ることは、本来、パブリック・リレーションズの実務であり、ハミルトンはPRの鋭い天性をもって、憲法に対してのみならず、思慮深い人々が黙認せざるをえない状況にも配慮し、他者に自分の意見を伝えた…。いざ憲法が国民の前に示されたとき、ハミルトンが取った迅速な行動は、優れたパブリック・リレーションズの典型例だった。」とし、「世論に意見の空白が生じると、無知で愚かな意見がその空白を埋めることを彼は知っていた。正確な事実と健全な考えを提供するために、時間を無駄にすべきではないのである。」と、現代にそのまま通ずる鋭い洞察を行っています。

もちろんこの時代、パブリック・リレーションズという言葉はまだ使用されていませんでしたが、本書はパブリック・リレーションズの発達過程について、「政治改革運動に誘発された権力闘争と密接に結びついている。これらの運動は既成の権力グループに反対する強い潮流を反映しており、パブリック・リレーションズの実務の成長に触媒として大いに機能した。」とパブリック・リレーションズの発展に政治運動が深くかかわっていることを示しています。

さらに、「なぜならば、政治・経済的集団の主導権争いは、市民を味方につける必要性を生み出したからである」とし、「パブリック・リレーションズは、市民社会の容認を得て、進歩する技術を迅速に利用する必要性があるときにも成長した」と述べています。

■プレスエージェントリーの誕生
パブリック・リレーションズはプレスエージェントリーから進化したといわれています。およそ1850年頃のことです。
この点について本書では「我々がパブリック・リレーションズと定義するものの多くは、定住民のいない米国西部への植民を促進するため、あるいは政治的英雄を作り上げるために使用されたときには、プレスエージェントリーと呼ばれた」としています。

米国で歴史的進化を遂げるパブリック・リレーションズを4つのモデルに分類した研究家として知られるジェームス・グルーニッグ博士は、「このモデルはパブリック・リレーションズの最初の歴史的特性を示しており、その目的は、いかなる可能性をも持って組織や製品・サービスをパブリサイズ(広告・宣伝)すること。一方向性コミュニケーションで、情報発信する組織体がターゲットとするパブリックへのコントロールを手助けするためのプロパガンダ型手法である。この時期には完全な事実情報が常に発信されていたわけではない」(『パブリック・リレーションズ』2006、日本評論社)とコメントしています。

この時期に登場した歴史上の代表的な実務家は、ショービジネス界で活躍したP.T.バーナム(1810-1891)。本書は、「成功は模倣者を生む。バーナムは道筋をつけ、多くの者が従い、その数は絶えず増加している。1900年以前の20年間に、プレスエージェントリーは、ショービジネスから密接に関係する企業まで広がった」と記しています。

1875年から1900年の間の米国社会は人口が倍増し、大量生産の促進とともに強力な独占企業が興隆し、富と権力の集中が行われ、鉄道と有線通信の全国的拡大は新聞や雑誌などのマスメディアの発達を加速させていきます。こうした背景の中から現代のパブリック・リレーションズは生まれたのです。

1889年にはジョージ・ウェスティングハウスの経営する新たな電気会社に、企業初となるパブリック・リレーションズ部門が設置されました。ウェスティングハウス(WH)社は当時としては画期的な交流式電気を促進するため、1886年に創業しています。この時期、すでにトーマス・A・エジソンは、直流式を使うエジソン・ゼネラル・エレクトリック(EGE)社を立ち上げていました。

本書では、両社による悪名高い「電流の戦い」をフォレスト・マクドナルドの言葉を引用し、「エジソン・ゼネラル・エレクトリック社は、破廉恥な政治行動や評判の良くないプロモーション戦術によって、交流式の発達を阻止しようとした・・・。プロモーション活動は、高圧交流の猛烈さを劇的に示すことを狙った一連の目を見張るものであり、最もセンセーショナルなものは、(WHによる)死刑執行の手段である電気イスの開発とプロモーションだった。」とする一方、WHによるEGEへの対抗的なメディア・プロモーションについても触れています。

19世紀末の「電流の戦い」や220年以上も前に国家の在りかたの根幹をなすアメリカ合衆国憲法の制定にパブリック・リレーションズ(PR)の手法が用いられていたことを知るにつけ、さすがはPR先進国だという感慨を抱かざるを得ません。皆さんはどのような感想をもたれましたか。

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2009年05月04日

パブリック・リレーションズの映像講義制作スタート
 ~PRプランナー資格取得に向けた講座

こんにちは井之上喬です。
ゴールデンウイークも残りわずかになりましたが、皆さんいかがお過ごしですか?

一昨年10月のブログで社団法人日本パブリックリレーションズ協会(日本PR協会)が主催する「PRプランナー資格認定制度」の2007年9月からのスタートについてお話しをしました。私も同協会の資格制度委員会のメンバーとしてこのプログラムに参画し、試験委員も務めてきました。
今回は、「PRプランナー資格認定制度」についての現状報告と、これに関連して最近私が注力しているパブリック・リレーションズ(PR)の基礎から実践・応用までを網羅する「映像講義」制作の途中経過を紹介します。

■これまで1000名を超える合格者
日本PR協会は、「PRプランナー資格認定制度」発足に当り次のようにコメントしています。「21世紀を迎えた現在、『PR(パブリックリレーションズ)の時代』と言われ、各企業・団体において広報・PR活動の重要性が見直されつつあります。とくに企業の社会的責任(CSR)が厳しく問われる時代にあって、広報・PR活動はパブリシティやメディアとのリレーションだけでなく、経営戦略、コンプライアンス、IR、危機管理、マーケティングコミュニケーション、ブランドマネジメントまで広範囲にわたり、企業経営や団体運営の中枢に直結した業務となってきました。」

「こうした時代や社会のニーズに今後どう応えていくかが、広報・PRの仕事にとっては、差し迫った課題だと言えます」とその実施の背景を述べています。
また、日本での専門家育成を目指すこの資格認定制度は、その目的として(1)広報・PRパーソンの育成とレベル向上、(2)専門職能としての社会的認知の向上、(3)広報・PR業務の社会的地位の確立を掲げて始動しました。

これまで3回にわたってPRプランナー資格認定試験が行なわれ、昨年の12月末時点で1,000名を超えるPRプランナー補とPRプランナーが認定されています。
今年3月には平成21年度前期の第4回1次試験が終了し、5月17日に2次試験が、そして7月25日に最終の第3次試験が東京と大阪会場で組まれています。この日程と並行して平成21年度後期の第5回1次試験の受験予約受付が6月1日から始まります(30日まで)。資格には3種類あり、1次試験合格者にはPRプランナー補、2次試験合格者には准PRプランナー(第5回からの新設)、そして3次試験合格者にはPRプランナーの資格がそれぞれ付与。PRプランナーについてのみ3年以上の広報・PR実践経験が必要となります。

受験では社会人に混ざって、学生の姿も多く見られました。これは実務経験がなくてもPRプランナー補の資格が取得できることにも起因しているようです。
将来PRや広報のプロフェッショナルを目指す人は是非、この資格に挑んで欲しいと思います。受験申し込みなど詳細は日本PR協会のホームページ(http://www.prsj.or.jp/)で紹介されていますので参照してください。

■全国で均一の学習を提供する映像講義
パブリック・リレーションズ先進国の米国では、1920年代に社会科学の分野で理論体系化され、64年には専門家として認定する資格制度も整備され、 現在は米国PR協会も含めた複数団体が参加し「ユニバーサル認定プログラム」( http://www.praccreditation.org/about/ )を実施。この資格試験に合格した受験者にはAPR(Accredited in Public Relations)の称号が授与され、PRにおける幅広い知識、経験、そしてプロとしての判断を示せる高度なパブリック・リレーションズを実践できる実務家約5,000名が有資格者として活躍しています。

米国に遅れること40余年。日本でスタートした資格認定制度。しかし、これだけでは彼我の大きな差を埋められないのは自明のことです。私は日頃から「業界全体のレベルの底上げや市場規模の拡大、ひいては日本社会へのPR導入を加速させるためにはどうしたら良いか」という課題に取り組んできました。5年前から私が早稲田大学で「パブリック・リレーションズ概論/特論」の教鞭をとり始めたのも、PRの専門家育成が火急であるとの強い問題意識があったからです。

最近、素晴らしい出会いがありました。建築系資格取得学校では日本最大手の日建学院を運営する建築資料研究社の馬場瑛八郎会長との出会いです。日建学院は、建設関連教育事業部門として1976年に開校。以後、日本で初めて取り入れた修学効果が高いとされる映像講義を基本とし、現在、全国に133校を有し、一級/二級建築士や宅建主任者など建設関連資格合格者累計83万人(2007年時点)を輩出。規模・実績とも業界トップを誇る資格取得学校です。

「中卒の大工さんにも一級建築士を取らせたい」との思いで教育事業を始めた馬場さんは、日建学院の開校とその実績に見られるように先見性に大変優れた経営者です。その馬場さんから「PRプランナーの資格取得のための映像講義をつくりませんか」と提案された時、日米間の差を埋め、日本社会へのPR導入を加速させるのは「これだ!」と直感し講師を引き受けました。

計画はとんとん拍子に進み、先月10日に私が講師となって「PRプランナー補資格取得講座:パブリック・リレーションズ概論」映像講義の第1回目のビデオ収録が行なわれました。この概論は全編20回(各90分)で構成されています。続いて実践・応用編も撮っていく予定です。制作は日建学院グループの日本映像教育社が担当し、私の会社(井之上パブリックリレーションズ/日本パブリックリレーションズ研究所)の若手社員でPRプランナーの資格をもつスタッフのサポートを得ていることも心強いことです。

映像講義の特徴は、大都市のような限られた場所でしか受けられない対面講義のもつハンデキャップを克服し、同一講師により全国津々浦々で均一の内容を繰り返し学習できるところにあります。この新しい映像講義の開講や会場などの詳細は日建学院からの公式な発表がありますので改めて皆さんにお知らせしたいと思います。

日本で初めての試みとなるこの「パブリック・リレーションズの映像講義」は、全国の大学や企業を通してやがて日本社会へPRを導入するための有効なツールになるものと考えています。

社会の健全な発展と繁栄に貢献できる包括的なパブリック・リレーションズ(PR)を、日本社会に広めていくことは私のライフワークであり願いです。その実現に一歩近づいた確かな手ごたえを感じ、私にとってこのゴールデンウイークは充実したものとなりました。

余談ですが、TVコマーシャルで大ヒットしたアルパカ『クラレちゃん』(本名:はなこ)は、癒し効果に魅せられた前述の馬場さんが、1999年に200頭のアルパカをジェットチャーター便で南米ペルーより輸入したもの。栃木県那須高原の牧場「那須ビッグファーム」では約400頭が飼育され、毎日来場者を楽しませています。私も先日、人気者の「はなこ」に会いに牧場を訪れ、癒されてきました。

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2009年04月20日

『体系パブリック・リレーションズ』を紐解く 11
 ~PRの歴史的発展 その1

こんにちは井之上喬です。
皆さんいかがお過ごしですか?

今週は、『体系パブリック・リレーションズ』Effective Public Relations (EPR)第9版の邦訳:ピアソン・エデュケーション)をご紹介します。EPRは米国で半世紀以上のロングセラーを記録するパブリック・リレーションズ(PR)のバイブル的な本で私も日本語版の翻訳メンバーに加わり昨年9月に発売されました。

20世紀初頭に米国で登場・体系化されたとされるパブリック・リレーションズ。今回は、第4章の「パブリック・リレーションズの歴史的発展」(井上邦夫訳)の中から1回目はブリック・リレーションズの起源から18世紀のアメリカ合衆国の独立までを紹介します。

本章の冒頭には「パブリック・リレーションズの進化の過程を学習すると、その機能、長所、短所を洞察する力が増す。残念ながら、多くの実務家は自分のミッションであるパブリック・リレーションズの歴史的意義を把握していないため、社会における位置や意義を十分に理解していない。そればかりか、パブリック・リレーションズの歴史と発展がどのようにつながっているかも理解していない。」と実務家の歴史認識の浅さが指摘され、「公表されている歴史は、目新しさや数人の多彩な個性を強調し、複雑でドラマチックな物語をあまりにも単純化し過ぎているきらいがある。しかし、パブリック・リレーションズの歴史的背景を理解することは、今日の専門的実務に不可欠なことである。」と語られています。
論語に収められた孔子の「温故知新」を想起しますが、歴史を知ることで新しい何かが見えてくるはずです。このテーマについて今後数回に分けて紐解いていきます。

■紀元前1800年の農業公報
本書では「見識や行動に影響を及ぼすような伝達手法は、最も古い文明にまでその起源を遡ることができる。考古学者はイラクで、紀元前1800年当時の農民に対して、作付け方法、灌漑方法、野ネズミの撃退法、作物の収穫方法を伝える農業公報を発見した。パブリック・リレーションズの初歩的な要素も、古代インドの王のスパイに関する記述に見られる。スパイの仕事には、諜報活動の他にも、王に民衆の意見を常に知らせること、王が民衆の間で擁護されること、王政に好意的な噂を流すことなども含まれていた。」とその起源を紹介。

また、ギリシャの理論家は、世論という用語こそ特に用いなかったものの、民意の重要性について記述していたといいます。ローマ時代の政治用語と中世期の著述に見られる特定のフレーズや考えは、現代の世論の概念と関連をもち、ローマ人はvox populi, vox Dei「民の声は神の声」という表現を新しく創りだしたと本書で述べています。

英国においても、パブリック・リレーションズの手法は何世紀も前から使われており、歴代王は大法官を「王の良心の番人」として側に仕えさせたとしています。このことから王でさえ、政府と民衆の間の対話や調整を促進するため、第三者の必要性を認識していたことが察せられます。それは、教会、商人、職人についても同様だったようです。プロパガンダという用語は17世紀にカトリック教会が「信条を布教するための宣教院」を設立したときに生まれたと述べられています。

■米国では逆境と変化の中で誕生
本書によると米国におけるパブリック・リレーションズの始まりは、愛国者の草の根運動派と商業に携わる有産階級のトーリー党の間で権力をかけて戦った独立戦争が発端であると記されています。ハミルトン率いる商人の有産階級派とジェファーソン率いる入植者と農民部隊の間の紛争、ジャクソン率いる農耕辺境開拓者とニコラス・ビドル率いる金融勢力の間の紛争、そして流血激しい南北戦争においても市民の支持を得るための取り組みは見られたと記され、米国におけるパブリック・リレーションズは、まさに逆境と変化の中で誕生したとしています。

また本書は、米国においてパブリシティを利用した、募金活動、社会運動の推進、新規事業の促進、土地の販売、芸能界のスターづくりは、国の歴史よりも古いとしています。米国人のプロモーションに対する才能は、初めて東海岸へ入植した17世紀まで遡ることができるようです。この大陸での、おそらく最初の組織的な募金活動の取り組みは、1641年に創立間もないハーバード大学がスポンサーとなり、3人の伝道者を英国へ「募金行脚」に派遣したものであるといいます。彼らは英国に到着すると、今日では当然必要とされる募金活動用の説明書を準備していなかったことに気づき、ハーバード大へ知らせることになります。この要請に応えて、『ニューイングランドの最初の果実』が生まれたのです。これは大半がマサチューセッツ州で執筆されたものが1643年にロンドンで印刷され、その後、続々と作成されるパブリック・リレーションズのパンフレットや説明書の最初の例となったのです。

アメリカ合衆国建国の父の一人としても知られ、政治家、著作家、政治哲学者のサミュエル・アダムス(Samuel Adams、1722 - 1803年)は本書で、「多くの人間は理性よりも感覚によって導かれる」という仮定のもとで、常にまず世論を喚起し、誘導したとされます。彼はこの方法を直観的に知っていた人で、同志とともに行ったその行為は、「…ペンを使い、演壇や説教台、舞台イベント、シンボル、情報、そして政治組織を利用した。」と記述されています。

こうして仲間の独立論者とともに、これらプロパガンダ推進派は、世論を動かす革新的手法をいくつも開発し、実践していきます。彼らは行動を実行に移すための組織として「自由の子」(Sons of Liberty)を 1766年にボストンで組織。1775年にはキャンペーン情報を流すための組織として「通信委員会」(Committees of Correspondence)を設置。視認性に優れ感情を喚起するシンボルマークや覚えやすい端的なスローガンを使用したことなどが本書で紹介されています。

多くの人の認識以上に、現代のパブリック・リレーションズ(PR)の実務パターンに当時の手法が受け継がれていることに驚かされます。
「…パブリック・リレーションズの歴史的背景を理解することは、今日の専門的実務に不可欠なこと…」と著者の言葉を冒頭に記しましたが、皆さんはどのような感想をもたれたでしょうか。

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2009年03月21日

『体系パブリック・リレーションズ』を紐解く 10
 ~事例に見る企業の社会的責任(CSR)

こんにちは井之上喬です。
桜の開花情報が聞かれる時節となりました。皆さんいかがお過ごしですか?
今週は、『体系パブリック・リレーションズ』Effective Public Relations (EPR)第9版の邦訳:ピアソン・エデュケーション)をご紹介します。EPRは米国で半世紀以上のロングセラーを記録するパブリック・リレーションズ(PR)のバイブル的な本、日本語版は昨年9月に発売されました。

今回は、第15章の「事業および企業におけるパブリック・リレーションズ」(北村秀実訳)の中から企業の社会的責任(CSR)に関する2つの事例を紹介します。ひとつは環境問題をテーマにした事例で、もうひとつは児童労働問題に関するものです。

■BPの温室効果ガス排出削減計画
本書では、「多くの企業は、何十年もの間、書面にまとめられた経営哲学を守ってきた。」と語っています。そして、「それらは『コア・バリュー』と呼ばれたり、ジョンソン&ジョンソンのように『我が信条(Our Credo)』などと呼ばれるものである。2001~2003年に相次いだ企業の不祥事騒動の後、多くの企業は、最善の事業行動の指針となる新しい行動規範またはガイドラインを作成してきた。」としています。

続いて、「しかし、極めて重要な質問は、企業がこれらの規範に違反した場合にどう対処するのかである。『厳しい試練』としばしば呼ばれているとおり、企業が実際に苦渋の選択に直面するのは、行動規範に直接抵触する行為に気づいた時である。組織として何をするのか?その選択肢として考えられるのは、コンプライアンス違反の行為を即刻中止する、違法行為および(または)その疑いのある行為に関与した従業員を解雇する、規範の重要性を明示するための具体的な手立てをとるなどが考えられる」と規範に抵触した際の企業のとるべき態度が述べられています。

そして本書では、上述の「厳しい試練」に直面した事例としてBP(旧社名:ブリティッシュ・ペトロリアム)を紹介。

「BPは石油・ガス業界において、ある種謎めいた存在である。同社は、すばやく決然とした行動をとり、他の企業であれば、避けたいと願うような組織体と関係性を育み、石油・ガス業界に関して一般大衆が持つ負のイメージに対処することさえ躊躇しない。例えば、地球温暖化問題について、大半の石油会社は信頼できる科学的データの欠落した玉虫色の概念だと言及している。」と科学的データの信憑性についてのBPの疑問を提示。

そして、「しかし、BPは、同社が地球環境に及ぼす影響について議論するため、特に影響力があり、地球温暖化、天然資源の持続可能性などが関連するイシューに重点的に取り組む非政府組織(NGO)との討論の機会を模索している。」とBPが温室効果ガス排出削減計画に積極的に取り組んでいる姿勢に触れています。

また、「BPのジョン・ブラウンは、自社が地球環境に及ぼす影響を認め、温室効果ガスの排出削減計画を実施した石油業界初のCEOであった。新たな対話の結果、その他の成果も示し始めた。エクソンモービルなどの企業が、より確かな科学的裏付けがともなわないまま改善にとりくむことに消極的であるのに対して、BPは環境にやさしい石油企業としての評価を着実に固めつつある。」と科学的データの真偽に関係なく取り組む、BPの社会的貢献について紹介しています。

■児童労働虐待防止プログラムへの支援
もう一つの事例はイケア・コーポレーション。スウェーデンの家具会社で、CSRに早くから果断に取り組む姿勢を示し、各方面から注目を集めていると本書で紹介されています。

また本書では、「イケアが初めて遭遇した激しい批判の発端は、納入業者がそれぞれの国で幼い子供を雇用していたという児童労働問題だった。そのひとつが、機織り機につながれていたパキスタンの子どもの事件である。イケアはその告発を調査するため、絨毯事業のマネジャーをパキスタンに派遣した。その事業マネジャーは、同国に到着するやいなや、当該納入業者との契約を打ち切った。」と児童労働問題について同社の厳しい姿勢を示しています。

そして、「その後もイケアは迅速に、あらゆるイケア製品に児童労働が関与することを禁止する条項を納入業者との契約書に追加した。さらに、イケアではコンサルティング会社を使って納入業者がこの新方針を順守しているかどうかを監視している」。

その後イケアは、国連児童基金(ユニセフ)や国際労働機関(ILO)、個別の組合を訪問し、児童労働問題に対して様々な解決策を探っています。同社は数カ月の間に、児童労働虐待防止プログラムを支援するため50万ドル以上を拠出したといわれています。

家計を支えるため学校にも行かずに働く児童は、先進国ではほとんど見られませんが、アジア、アフリカ、中南米などの発展途上国では、いまだに多くの子どもたちが過酷な条件下で就労しています。国際労働機関(ILO)の推計によれば、世界中の5歳から17歳の子どものうち、およそ2億1,800万人が就労しているといいます。

ここで紹介した環境問題と児童労働問題の事例は単なるCSRとしてだけでなく、今後、政・官・民が一体となってグローバルに取り組まなければならないテーマのほんの一部にしかすぎません。

CSRは多くの企業が積極的に取り組んでいます。フィリップ・コトラーによると、理想的なCSRは企業が本業を活かしその枠組みの中で自主的に実現すべき社会貢献としています。スイスに本社を置く、製薬会社のノバルティスはコトラーの言うような理想的なCSR行っている会社といえます。実に全社の売上高(2008年:約415億ドル)の3%をCSRに使っているとされています。

同社は途上国援助の一環として、マラリア治療薬を原価で提供したり、熱帯病の研究所をシンガポールに設立したり、また高額な白血病の薬を米国など先進国の低所得者の患者支援に提供するなど、その社会貢献活動は他を圧倒しています。

パブリック・リレーションズ(PR)の実務家はこうした領域にもっと踏み込み、コミュニケーションのプロブレム・ソルバーとしても寄与していくことが強く望まれます。

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2009年03月14日

家族力大賞 ’08~地域社会で「つながり」を広げよう

『家族力大賞 ’08~地域社会で「つながり」を広げよう』


こんにちは、井之上喬です。
皆さん、いかがお過ごしですか。

先日、「家族力大賞 ’08」(エッセイ・コンテスト)の授賞式が京王プラザホテルで行われました。このコンテストは、東京都社会福祉協議会(古川貞二郎会長)が家族や地域社会との関係性を、よりよい社会実現のために強めるようとするために2007年度より開催。「家族力大賞」は前会長でAFLAC(アメリカンファミリー生命保険)最高顧問の大竹美喜さんが、崩壊する地域社会や家庭に力を与えたいとの強い思いが込められています。

第2回目の今年は、地域社会でどのように「つながり」を広げていくのかをテーマに、応募作品の中から15作品が入賞しました。前回と同じように、授賞式では選考委員会(委員長:金子郁容慶応義塾大学大学院教授)のメンバーの間で誰がどのエッセイを書いたのか、当日初めて体面する作者とその作品を結びつけることも楽しみ。今回は、選考委員の一人として関わった私の心に残った2作品を紹介したいと思います。
  
■戦災を免れた京島での交流
最初の作品、「ヘンクツ顔はムスビの顔」(東京新聞賞)は29歳の青年後藤大輝さんが、東京大空襲の災禍を逃れた町、墨田区京島に仲間と三人で移り住みそこでの世代を超えた交流を描いた作品。後藤さんは映画作家で、他の二人はアーティストにミュージシャン。

2007年6月、京島で空家を安く借りられることを聞いた後藤さんは、商店街のはずれにある木造長屋に住む名乗りを上げます。入居の条件は、家と町の雰囲気を残し、自分たちの手でリフォームを行うこと。外観からは想像できないほど頑強な木の梁を持つ建物は、関東大震災後の築80年の家。木材の間からは昭和21年や昭和40年当時の新聞紙がでてきて繰り返される修復・改装の歴史を知ることになります。

トイレットペーパーが転がるほど傾いていた二階(和室)の壁を壊し、ドライバーや電動丸ノコを使い広いフローリングに仕上げます。冷房などない、トタン屋根の暑い夏の海パン姿での作業。やがて近所の人たちが立ち寄ってきます。職人の町といわれている京島の住民は人懐っこい。しかしこの町の抱える問題も見えてきます。それは高齢化、少子化。

「昨年の8月頃。僕たちが住む家を知り合いのおばあさんが訪ねてきた。ふとした会話の中からその話は出てきた」。あるとき後藤さんは町の人たちから頼みごとをされます。そして、東京で唯一の商店街による主催の文化祭へ参加し、映像を創ることになります。

彼が決めた映像の題目は「町の昔、あなたの昔」で、15人の老人へのインタビューをビデオ撮影し、昔の街の回想とそれぞれの人生の回顧を合わせる一方、「町の今」として京島の子供たち自身にカメラを持たせ、現在の街で見えるものを子供の視点で撮影させ、一本の映像作品として繋いでいくもの。引退した鳶の親方、91歳の現役のチンドン屋さん、金属工芸店の店主などが語る内容は、私たちにノスタルジーを感じさせてくれます。

後藤さんが、いかに京島に魅せられたかを見事に表現している個所がエッセイの最後に出てきます。
映像の発表会が終わった後、「急にガランとした会場を片付けて外に出ると、すっかり、日も暮れていた。京島の商店街は早くに閉まる。シャッターが既におりた通りを家に帰る途中で、尻をパチンと蹴られた。撮影に参加してくれた子供の中でも一番やんちゃな小僧が走って逃げいく。急に振り返って、僕の顔を、しっかりと見て。『ここ、オレの町!』と宣言すると、またパタパタと忙しく逃げていく。木枯らしが吹いて、すっかり冬だなと思って、それでも、なぜか全然寒さは感じなくて、ふと、この先、この街で老人になるのもいいかな、とそんな事を考えた。」

受賞会場で後藤さんに京島の現状を聞いたところ、空家が年々増えているそうです。後藤さんは京島とその周辺の町がさびれゆくのを憂い、仲間に呼びかけ、町おこしをやっているそうです。今では後藤さんを含め10人ほどのアーティストやダンサー、写真家、ITコンサルタントそして京島で知り合い結婚した画家とアーティストの若い夫婦。また役者やジャズ・ピアニストなど、この地に魅かれる若者が新しい住民として生活しています。

このエッセイには、新しい世代の若者が古い街に魅せられ周囲に溶け込んでいく、透明で爽やかな感じがかもし出されています。京島での出来事は、理想的な地域活性の形なのかもしれません。

授賞式の当日、後藤さんは参加者全員にその一部を見せてくれました。京島に住む人々のエネルギーあふれる映像は、観客を惹きつけるのに十分で、本篇への期待を膨らませてくれました。4月中旬、京島でこの90分映画が初上映されるそうです。どのような作品に仕上がったのか、今から心待ちにしています。

■「しっかりと生きればいい」
「私は行き詰っていた」から始まる藤山恵子さんの「しっかりと生きればいい」(東京都社会福祉協議会会長賞)は、訪問先のおばあさんから生きることを教わったことを書き綴った作品。そこには、資格や経験もなく自分自身や家族ともうまくいかず、どうにもならない状態にあった時、目にとまった有償ボランティアの会員募集に応募し新しいかかわりを持とうとする作者の姿が見えてきます。年老いたおばあさんとの交流を抑制のきいた文章で描いています。

社会福祉協議会に行き、一通り説明を受けた後にボランティア登録した藤山さんは、80歳を超えたおばあさん(ヒサさん)を紹介されます。おばあさんは90歳になる寝たきりのおじいさんを自宅で介護しています。おばあさん自身も足が悪く、思うように動けない状態。でも、おじいさんのオムツ交換、食事の世話など日常のことはおばあさんが世話をしていたのです。

「こんにちわ」。藤山さんは、週に一度おばあさんの家を訪ねることになります。おじいさんの介護で手が回らなかった室内の掃除の担当です。1カ月が過ぎた頃おばあさんは、掃除をほどほどにさせ、藤山さんに布団を差し出し語りかけます。

「この間ね、おじいさんが言うのよ。同級生もほとんどいなくなり、オレ一人になってしまったなって。だから言ったの。人は、生きている間は、しっかり生きればいい。それだけでいいのよって。そうしたら、そうだな。オレはヒサ、お前がいて幸せだって。そう言ってくれたのよ。」藤山さんは、色々あったであろうおばあさんの人生に思いを馳せながらも、おばあさんの顔に満ちあふれる自信をみてとるのでした。

それから訪問しても掃除をすることなく、おばあさんは藤山さんを話し相手に求めます。夏になり、おじいさんの容態が変わり入院することになります。おばあさんは小さな手を握り締めて、涙を浮かべながら自分の不注意を責めます。

そしておじいさんが亡くなります。
「おじいさんがいなくなり、藤山さんにも来ていただくことも、なくなると思います。いままで、ありがとうございました」。藤山さんはおばあさんから頭を下げられます。戸が開いていたおじいさんの部屋には、見てくれる人がいない花の絵と、空になったベットが目に入り、藤原さんにはその部屋の様子が、おばあさんの心そのもののように感じます

「私が、ヒサさんの家に行くことはなくなった。しかし、どうしてもヒサさんのことが気になり、車を走らせた。いつものように『こんにちわ、藤山です』と、大きな声を出したが、応答はなかった」。ガラス越しに中の様子が見え、片付けられた部屋に、よく着ていたカーディガン。おばあさんのしっかりした暮らしぶりに藤山さんは安心します。しばらくしてまた訪問します。「こんにちわ」「はーい」ガラガラと玄関を開け「藤山です、こんにちわ」姿を見せたヒサさんは、藤山さんの手を握りしめ喜びます。

おばあさんは、藤山さんがプレゼントしたぬり絵や昔習った大正琴を披露するのでした。
藤山さんは、「私は、何に行き詰っていたのだろうか。『何があっても、その時はしっかりと生きればいい、それだけでいい』」おばあさんとの出会いは藤山さんの心にそのような言葉を刻みつけるのでした。
人は関わり合いの中で救われていくことが自然に言葉に表れた秀作。

この2作品以外に、5年前にお手玉の会をつくり普及に努めるご夫婦の話で、鈴木幸子さんの「お手玉で輪・和・笑(ワ・ワ・ワ)」や何十年も家族誌を出版し続けるある家族の話で、肥後智恵子さんの「家族誌『いけがみ』を出した」など、多くを紹介できないのが残念です。

ここですべての作品に共通するのは、困ったときにそこで立ち止まることなく、新しい関わりを求めて行動することの大切さです。物事に行き詰ったときに、行動すると新しいものが見えてきます。人は、新しい関わりの中で、新しい幸せを見つけ出すことができることを示しています。
パブリック・リレーションズ(PR)は「関わり」や「絆」をつくっていくことでもあるのです。


*上の写真の作品集『家族力大賞 ’08-地域社会で「つながり」を広げよう』には、15編の作品が紹介されています。東京都社会福祉協議会が発行元です。非売品ですが、50冊程度であればプレゼント可能だそうです。興味をお持ちの方は連絡してみてはいかがでしょうか。
Tel:03-5283-6894
Fax:03-5283-6997
e-mail: tomin-kigyou@tcsw.tvac.or.jp

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2009年03月07日

迷走する政治
 ~政治システムを変えるチャンス

こんにちは井之上喬です。
皆さんいかがお過ごしですか?

3月3日、小沢一郎民主党党首の第一公設秘書が、政治資金規正法違反の容疑で逮捕されました。資金管理団体をめぐる違法献金事件で小沢代表が検察との全面対決を宣言するなど、多くの問題を抱えた自民党から舞台は一転して小沢代表と民主党に変わったかの様相を呈するものの、その後の政府高官発言で、与党自民党の捜査関与の可能性について批判が高まり複雑な事態に進展しています。

1982年、中曽根首相誕生から2008年9月麻生政権誕生までの25年と10カ月あまりの間で、実に15名の首相が誕生・交替しています。特に小泉政権後の政治は迷走状態にあるといえます。今回は日本がこの問題に今後どのように取り組むべきかについて考えたいと思います。

■問題は自民党から民主党へ移るのか?
今回の逮捕劇は、麻生政権の支持率が10%を割りかねない危機的状況にあった与党自民党を勢いづけたかのようにみえますが、政局は自民党から一転して小沢代表と民主党に移ったのでしょうか?小沢氏を支持する民主党執行部は苦境に立たされる中、政治不信は増大するばかりです。

しかし3月5日、政府高官による「自民党議員に波及する可能性はないと思う…」発言で、民主党の鳩山由紀夫幹事長は6日、今回の逮捕劇に疑念を呈しています。つまり、自民党には及ばないことを政府筋が明かにしていることは、政府筋と検察の間で何らかの約束事(できレース)が存在しているのではないかと指摘。その後メディアは、2つの政治団体が小沢代表の資金管理団体「陸山会」以外にも、自民党の二階経産相、尾身元財務相、森元首相にも献金していたことを取り上げ混乱状態。

特に政府の捜査関与の可能性については批判が高まる一方。問題の政府高官が官僚トップで元警察庁長官の官房副長官であることも判明し、官僚との全面対決を目指す民主党への意図的な行為の可能性が指摘されています。

現在の官僚システムを変えようとする民主党、一方、維持する側に立つ政権与党の自民党の対立構造を考えたときに、選挙に向けて両党が臨戦態勢にあるこの時期、「発信源が官僚トップ」とする話が事実だとすれば、心底ゾーッとするものを感じます。

■企業・団体献金全面禁止へ
現在、共産党以外の政党は「政党交付金(国会議員5名以上、もしくは国政選挙での得票率が2%で国会議員最低1名在籍)」を受け取っています。議会制民主政治における政党機能の重要性にかんがみ、平成6年の選挙制度及び政治資金制度の改革と軌を同じにして、国による政党への助成制度を創設したもの。

平成20年9月12日付けの総務省の発表資料には、平成19年度の寄付収入の内訳は、政治団体の寄付が152億円で最も多く、以下、個人の寄が48億円、法人等の寄付が39億円の順で個人の寄付は全収入の約5分1とまだ少ないのが現状。毎年の政党交付金は国民の税金で賄われており、その総額は直近の国勢調査人口に250円を乗じて得た額を基準として予算で定められ、年間約300億円。

企業と政治の癒着は古くからある話。企業や団体献金は法整備上完全なものにするには多くの問題があるようです。企業とのしがらみを断ち切るためには思い切って企業・団体献金を廃止することも重要な選択肢といえます。

その場合、期待されるのは個人献金。米国の大統領選でオバマ陣営は、インターネットでの個人からの小口献金で、2年間に米国選挙史上最大の6.5億ドル(約650億円)を集めたことが明らかにされています。この数字は、史上初の黒人大統領がSNS大手のフェイスブックなどを通して学生など若者層から史上最大の募金を行った結果の数字。

日本で政治家個人への個人献金で簡便な方法として考えられている、クレジット・カード支払いの現状は楽観的ではありません。知り合いの政治家によると、個人の政治家にとって、クレジット会社と交渉し決済システムを構築しても、それに見合うだけの献金がなく、ほとんどのケースでカード支払いは行われていないとのことです。それでは思い切って各政党が、共同で登録された政治家への個人献金を受け付ける決済システムを構築し、政治家個人に負担がかからないようにしたらどうでしょうか。今後真剣に考えるべき問題かもしれません。

また思い切って政党交付金を国民一人あたり倍の500円に増額したらどうでしょう。政治の透明性が飛躍的に増し、企業との癒着で使われる不要な税金が大幅に節約できものと考えます。

私たちは変化の中にも現実的で表面的なものに振り回されることなく、大切なものを保持しなければなりません。大きなうねりの中にも動くことのないポイントがあるはずです。そこに本質をみつけることができます。「思想と技術」を伴ったパブリック・リレーションズ(PR)は、不動の本質を見失い迷走させることなく、混迷の中にあっても、確信に満ちた変革を成し遂げることを可能にするはずです。

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2009年02月28日

『体系パブリック・リレーションズ』を紐解く 9
 ~米国実務家のプロフィール

こんにちは井之上喬です。
皆さんいかがお過ごしですか?

今週は、『体系パブリック・リレーションズ』Effective Public Relations (EPR)第9版の邦訳:ピアソン・エデュケーション)をご紹介します。私もメンバーの一人として翻訳に加わった同書の原書(EPR)は、米国で半世紀以上のロングセラーを記録するパブリック・リレーションズ(PR)のバイブル的な本です。

今回は、第2章の「パブリック・リレーションズの実務家」(井上邦夫訳)の中から特に「パブリック・リレーションズの実務家の数は増加の一途をたどっている」と本書で語られている実務家について、どのような人物像で、どのような職場でどのような業務を行っているかなど、米国における実態について紐解きます。

■PRは90年代に最も急成長した「最良の仕事」
本書によると、米国労働省はパブリック・リレーションズの雇用統計について次のように記しています。「毎月の勤労統計の中で、『マネジャー:マーケティング、広告、パブリック・リレーションズ』と『パブリック・リレーションズ専門家』に分類している。残念ながら、これらの分類はこの分野で働く全員を含めていない」。

そして、「例えば、パブリック・リレーションズのマネジャーは、他のマネジャーと一緒にカウントされるため、個別の数値は入手できない。アーティストやグラフィック・デザイナー、フォトグラファー、ビデオグラファー、ロビイスト、レセプショニスト、リサーチャー、その他のパブリック・リレーションズ部門で働く専門家は別の職業分類でカウントされる。そのため、労働省の数値は、パブリック・リレーションズ部門で働く人のおそらく半分以下にすぎない。」と実際の数は統計数字を大きく上回っていることを示しています。

また本書は、「データは不完全ではあるが、『フォーチュン』や『U.S.ニュース&ワールド・リポート』などの雑誌は、1990年代に最も急成長した『最良の仕事』の中にパブリック・リレーションズを入れている」と記しています。

■PR実務家の最大の雇用主は連邦政府
パブリック・リレーションズ専門家の雇用機会は、あらゆる場所に存在するが、人口の多い主要地域に集中している、と本書で語られ「米国パブリック・リレーションズ協会(PRSA)の会員数が最も多いのは、カリフォルニア、ニューヨーク、テキサス、オハイオ、ミシガン、ペンシルバニア、そしてイリノイの各州である。」と例示。

「しかし、最大のPRSA支部は1000人の会員がいるワシントンD.C.である。2番目は僅差で、およそ920人の会員がいるニューヨーク支部である。続いて、ジョージア州アトランタ支部が700人超、シカゴ支部が560人、デトロイト支部が500人、コロラド州デンバー支部が480人、ロサンゼルス支部が465人となっている」。
私の著書『パブリック・リレーションズ』(2006、日本評論社)のなかで、PRSAは全米に114の支部をネットワークし、20000人を超える会員を持つと推計していますが、およそ4分の1が上記の7支部に所属していることになります。

実務家の就労先を見ると、「およそ40%は製造業、金融、工業、消費財、メディア、公益事業、運輸、エンターテインメントなどの民間企業、27%はパブリック・リレーションズ会社や広告会社、個人コンサルタント、14%は協会や財団、教育機関で8%は病院、医療機関、その他健康サービスなどのヘルスケア関連、6%は連邦、州、地方政府、5%が慈善団体、宗教団体、その他非営利団体(NPO)」となっています。

そして本書では、パブリック・リレーションズの単独で最大の雇用主は連邦政府で、米国人事院によれば、4,400人の様々な肩書きの「パブリック・アフェアーズ」専門家が働いているという興味深いデータも紹介されています。

また実務家の92%以上は短大・大学を卒業しており、25%は修士号、2%は博士号を取得しているとされています。

私のブログ09年2月7日号「不況に強い、パブリック・リレーションズ」の中で、米国のパブリック・リレーションズ市場がフィー・ベースで100億ドル(9000億)を超えていることを紹介しました。650億円(2006年広報・PR業界実態調査)と推定される、広告費に突出したアンバランスな日本のPR市場が、将来適正化されることが期待されています。

日本のPR市場規模の拡大を支えるのは、パブリック・リレーションズの実務家であることはいうまでもないことです。こうした意味からも、日本におけるPR実務家の育成は喫緊の課題となっているのです。

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2009年02月21日

クリントン国務長官来日
 ~米政府のガバメント・リレーションズ

  

こんにちは、井之上喬です。
あちらこちらで梅だよりを聞くこの頃ですが、みなさんいかがお過ごしですか?

オバマ大統領が誕生して1カ月が経ちます。最初の課題で史上最高額の7,870億ドル(約70兆円)の景気刺激法案(アメリカ復興・再投資法)も議会を通過し、2月17日の大統領署名によりオバマ新大統領は最初の関門をクリアーしました。

最重要課題であった国内の経済政策に続いて外交課題では、ヒラリー・クリントン国務長官が日本、インドネシア、韓国、中国の4カ国を16日から22日までの間で歴訪。日本は最初の訪問国となり、1月16日-18日の日程で来日。超大国米国の外交責任者として、国務長官が最初の訪問先にアジアを選ぶことは近年例のないことだといわれています。今回は、アジア重視の姿勢を見せるオバマ政権のガバメント・リレーションズについて考えていきたいと思います。

■米国のアジア訪問のねらい
新政権のガバメント・リレーションズは極めて戦略的にみえます。新政権誕生間もない2月初旬には、バイデン副大統領を欧州に派遣し、クリントン国務長官がアジア4カ国歴訪、そして同じタイミングの2月19日にオマバ氏自身が最初に選んだ訪問国は、隣国で米国最大の貿易相手国のカナダです。大統領、副大統領、国務長官がそれぞれの役割を分担しながら最初の多角的・戦略的外交が展開されたのです。

訪問する4カ国の順番をみても米国のしたたかな計算が見て取れます。日本を最初の訪問国にしたのはいろいろな理由が考えられますが、大統領選挙期間中ほとんど日本についての言及がなく、形式を重んじる世界第2の経済大国日本の世論を配慮してのことと見ることができます。2番目の訪問国インドネシアは世界最大のモスレム国であると同時に、オバマ氏が幼少時代の一時期を過ごした国。そして北朝鮮と国境を分ける韓国を経て、最後の訪問先には21世紀の最重要国となる中国を選んでいます。

また訪問先の国民の支持を得ようと、限られた時間の中で大学を訪問し若者と交流するなど、草の根に浸透する積極的なプログラムが展開されています。

米国のアジア重視は数字の上でも見て取れます。面白いことに中国と日本はいずれも米国国債と外貨準備高で世界第1、第2。米国債では中国の6962億ドル、日本の5783億ドル(米国財務省統計2008年12月現在)を合わせると総発行残高の約41%。

一方、外貨準備高(ドル換算)では第1位は同じく中国の1兆6822億ドル(2008年3月)、日本は1兆1549億ドル(2008年6月)で日中合計すると世界全体の約40%と群を抜いた数字となっています。

つまり、経済危機にある米国の国務長官が、最初に訪問する地域はアジアとりわけ東アジアであることの必然性が見えてきます。北朝鮮の核施設問題も大きなテーマ。そしてホワイトハウスで外国首脳を受け入れる最初の国を日本の首相とし、2月24日の日米首脳会談開催も決定されるなど日本重視の取り組み姿勢を見せています。

オバマ大統領はいち早くジョージ・ミッチェル元上院議員を中東担当特使に、リチャード・ホルブルック元国連大使をアフガニスタンやパキスタンのイスラム過激派がらみの西南アジア担当特使に任命していましたが、世界のリーダーとしての自覚が米国のガバメント・リレーションズから伝わってきます。

■国益のない「外遊」
麻生首相とオバマ大統領との会談開催の実現は、世界第1位と第2位の経済大国が協調して経済的難題やアフガニスタン問題の解決に力を合わせて立ち向かおうとする意思の表れとみてとることができます。読売新聞2月18日付け社説では、クリントン長官が日本を初外遊先に選び、麻生首相とオバマ大統領の首脳会談を24日開催と早々に決めたことについて、「いずれもオバマ政権が日米関係を重視する表れとされる。だが、それに満足するだけで良いはずがない。より大切なのは、日米対話の内容を充実させ、戦略的な外交を展開することだ」。

しかし残念なことに、日本政府の外国政府に対する戦略的なガバメント・リレーションズは全く見えてきません。

麻生首相は昨年の就任直後の9月25日、国連総会に出席。10月には「アジア欧州会合第7回首脳会合」出席のために北京を訪問。11月にはワシントンでの「金融サミット」へ出席し、同月ペルー、リマの「APECアジア太平洋経済協力会議」へ出席。12月には福岡で「日中韓首脳会議」を開催。

そして新年の2009年1月には「日韓首脳会談」のために韓国訪問。また1月末はスイスでの「ダボス会議」に出席。2月18日のサハリンではロシア大統領との首脳会談など、就任後精力的に外交課題をこなしているようにみえます。

しかし首相だけ一人が精力的な外交を行っている姿勢は伝わってくるものの、日本の外交戦略はみえてきません。日本の外務大臣や他の閣僚も安倍政権から日替わり弁当のように変わり、誰が何処を訪問したのかさえ分からない情けない状態。米国のような統合化された戦略外交などは望むべくもありません。

日本は首相の在任期間以上に閣僚の在任期間は短かく、在任中の「外遊(外国訪問)」は時として、目的が明確化されないガバメント・リレーションズとなっているように見受けます。政治家として実績づくりのための外国訪問は文字どおり「外遊」でしかありません。

それが原因ではないにせよ、国会会期中の外国訪問は禁止状態にあり、重要法案を通す際には閣僚を国内に張り付けにするなど、国益を左右する外交課題に対する複合的で多面的な展開はみられません。

ガバメント・リレーションズは、民間企業から政府機関に対する手法と考えられがちですが、政府の外国政府機関とのやり取りも規模の違いを別にすればその手法は同じです。いま高度な手法が要求されるパブリック・リレーションズ(PR)。専門家の育成が急がれています。

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2009年02月07日

不況に強い、パブリック・リレーションズ(PR)

こんにちは井之上喬です。
皆さんいかがお過ごしですか?

100年に一度というこの世界規模の経済不況の中で、企業はまさに生き残りをかけた選択と集中に迫られ、より戦略的な対応が求められています。
2008年度の決算予測を見ても、トヨタ、日産などの自動車産業に続き、日立製作所、SONY、パナソニックなどの大手家電メーカーが昨年度の高収益決算から一転し巨額の赤字決算を予測しています。「不況になるとまず宣伝広告費が削られる」というのは常套句。今回は不況時に強いパブリック・リレーションズ(PR)についてお話します。

■売上減に苦しむ広告会社
電通発表(2007年日本の広告費)によると、2007年の日本の総広告費は2004年から4年間連続のGDPと同様に前年比プラスで7兆0191億円を示しています。GDPと広告費の相関関係は明確で、広告が景気の影響を受けやすいことを示しています。
同社の2009年2/6日発表のリリースには、1月単月度の売上高総計は955億8500万円で対前年同月比91.7%と急落。既存四大メディアの売り上げがいずれも前年比マイナスとなり業界に深刻な問題を投げかけています。
それでも企業における広告費出費の割合は圧倒的に高いのが現実。ちなみに日本のパブリック・リレーションズ(PR)に対する費用は、まだ低いと言わざるを得ません。(社)日本パブリック リレーションズ協会の調査では、PR業界の市場規模はおよそ650 億円(2006年広報・PR業界実態調査)と推計しています。企業の広報部で使われる予算は別にして広報・PRの中に具体的にどのような項目が入っているかわかりませんが、先述の広告の市場規模と比べ大雑把にみても1%に満たない数字です。『PRディレクトリー』も示しているように、米国でのパブリック・リレーションズがフィー・ベースで100億ドル(9000億)を超えている現状を考えても、日本のPR市場の将来の可能性が如何に高いかが理解できます。日本の広告費の突出は極めてアンバランスな状態を呈しています。日本のPR市場は将来4-5000億円規模に拡大することが容易に理解できます。

■PR会社にとってのチャンス
不況になると、組織体とりわけ企業は収益が低下し、ある意味で危機管理状態に入ります。その場合、ほとんどのケースで経営トップの強力なリーダーシップが求められます。規模による違いはあるものの、選択と集中のために事業の隅々にまで介在し素早い対応策を打ちだしていきます。戦略性をもったスピード感のあるコーポレート・レベルでのリレーションズ(関係構築)活動が必要とされると同時に、マーケティング・レベルでは既存の商品の販売政策や流通政策、価格政策などのマーケティング手法や戦略の再構築、そして市場ニーズに合った新製品の規格・開発などが急がれてきます。

こうした際には、日頃経営トップとかかわりをもち戦略的カウンセリングをおこなうパブリック・リレーションズの役割が平常時と比べ増大することになります。不況時には緻密な経営が求められるように、緻密で戦略的なパブリック・リレーションズが求められます。

日本の広報・PR予算はまだまだ低く、これでは日本企業が国内はもとより世界市場でも戦っていけるはずはありません。欧米企業と比べ利益率は低いものの、売上や従業員規模が大きい日本企業は沢山存在しているものの、体形に見合ったパブリック・リレーションズがほとんど行われていないのが現状。

日本のPR会社のフィーは、基本的に時給計算されますが、かかわるスタッフのランクによっておよそ時間8000円から5万円程度の幅で設定されています。また、契約形態は、定期(リテナー)契約とプロジェクト契約がありますが、多くの場合はリテナーとプロジェクトの組み合わせで契約するケースが多いようです。そして、予算は何をどのくらいやるかによって、かかわってくる時間が変わります。コンサルテーションだけではなく、細かい実施作業(ex:メディア・リレーションズにおける記者会見やプレス・リリースの実施や作成などの現場支援)を含めるかどうかで予算が変わります。

したがって、契約料金も月額80万から250万と幅があります。すでにある程度システムが出来上がっている企業の場合は、PR会社からのコンサルテーションだけですむ場合もありますが、広報部門の組織が不十分の場合には実施にかかわる業務も派生してきます。いずれにせよ、企業トップや広報トップに直接アドバイスできる環境をつくっておくことが極めて重要となります。私の会社(井之上パブリックリレーションズ)がこれまで手掛けた外資企業の広告予算とPR予算を例にとると、売上規模などによってその比率は変わりますが、BtoBの場合は広告費を含めたマーケティングの中の総予算に対するPR(マーケティングPR)費用は10-50%で、BtoCでは3-20%の幅ではないかと考えています。

広告とパブリック・リレーションズとの決定的な違いは、前者は、その性格上決められたものをどう表現しどのように訴えていくかが重要なファクターとなりますが、後者は環境の変化を読み取り、真のニーズを把握し、必要であれば経営方針や事業の方向転換を促す役割も担うということです。パブリック・リレーションズが不況に強い理由がここにあります。

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2009年01月31日

『体系パブリック・リレーションズ』を紐解く 8
 ~ロビー活動

こんにちは井之上喬です。
皆さんいかがお過ごしですか?
今週は、『体系パブリック・リレーションズ』Effective Public Relations (EPR)第9版の邦訳:ピアソン・エデュケーション)をご紹介します。EPRは米国で半世紀以上のロングセラーを記録するパブリック・リレーションズ(PR)のバイブル的な本で、日本語版は私も翻訳メンバーの一人に加わり昨年9月に発売されました。

前回ブログでは、アメリカ合衆国の第44代大統領に就任したオバマ氏のスピーチをパブリック・リレーションズの視点から分析しました。今回は、ホワイトハウスに新しい主を迎えたワシントンでのロビー活動について、第6章「法的考察」(矢野充彦訳)の中のロビー活動(190ページ)に絞って紹介します。拙著『パブリック・リレーションズ』(2006、日本評論社)でも、「ガバメント・リレーションズは、組織体が事業や組織の活動目的を達成するために、政府や行政との関係を通じて情報収集、ロビイング(ロビー活動)やセミナー・討論会などの集会を行い、メディア・リレーションズをも含めて幅広く行う活動のことである」とし、ロビイングがガバメント・リレーションズで果たす重要な役割を記しています。

■政権交代で3,000人が異動
オバマ政権の発足でワシントンに駐在するロビイストにとって大忙しの時期がやってきました。自動車業界や金融業界などの依頼を受けた多くのロビイストが忙しく駆け回っています。

通常、ロビー活動は特殊能力を有する者が従事し、ロビイストと呼ばれます。ロビー活動が盛んな米国では3万人を超えるロビイストが存在。特にビジネス界・産業界が積極的で500 以上のアメリカ企業と、3,000以上の通商団体がワシントンにガバメント・リレーションズのオフィスを持っています。

『体系パブリック・リレーションズ』でも「ロビー活動はパブリック・リレーションズの実務で最も急成長した専門分野のひとつである」と述べられています。パブリック・リレーションズの多くの実務家がこの分野で活躍し、ロビー活動は他のパブリック・リレーションズ活動と連携、統合されてさらに効果を高めることになります。

政権が交代すると米国ではワシントンDCでは約3,000人もの人事異動が行われるといわれています。日本では大臣の退任にともない各省庁のポストが大幅に入れ替わるといったことはありませんが、米国では各省庁の課長レベル以上の役人はすべて交代となります。したがってロビー活動の成否が企業経営に深く影響してきます。

■厳格な制約:連邦ロビー活動規制法
本書では、政府に対するパブリックの信頼を守るために、ロビイストへのいくつもの厳格な制約や開示要件などが細述されています。例えば、組織体のために働くロビイストは、1946年連邦ロビー活動規制法の第Ⅲ章に基づき、自身の活動を開示する義務が課せられています。ロビイストは、議会に登録し、四半期ごとのロビー活動による支出と収入の詳細に記録された決算書の提出を行い、立法に影響を与える目的でロビイストが発表した記事や論説文を報告しなければならないとあります。

また連邦議会は、ロビイストについて「クライアントに雇用されたか、委任を受けた者で、6カ月の間にクライアントを代表して複数回コンタクトを図り、自身の時間の少なくとも20%をクライアントへのサービス提供に費やす人物である」と明確に定義。同時に、1995年ロビー公開法を制定し、制約や開示要件について更新しました。

さらにロビイストやロビー活動を行う企業は、上院事務総長および下院書記官に登録し、氏名、住所、ビジネスの場所、自身のビジネスの電話番号、クライアント名、および登録者がロビー活動を行った6カ月の間に1万ドル超を寄付した人物を報告しなければなりません。また、クライアントから支払われた金額やロビー活動のために支出した金額明細を年2回提出する必要があります。

このロビー活動法は、非営利の慈善団体や教育機関、その他の免税組織にも適用され、特にロビー活動に従事するNPOは、連邦からの補助金や賞、受託契約、ローンの供与までも禁止するという厳格さです。

本書では1938年の外国代理人(エージェント)登録法(FARA)を紹介。「外国の依頼者」のために働くパブリック・リレーションズの実務家についても全員、米国の政府職員を対象にロビー活動をするかどうかに拘わらず、米国以外の政府や企業、または政党のエージェントとして働く人に対し、10日以内に米国法務長官へ登録することを義務づけていると述べています。

日本ではかってロッキード事件に登場した児玉誉士夫による政界工作により、ロビイストのイメージには「黒幕」、「影のフィクサー」といった胡散臭いイメージが長年形成されていました。しかし米国では本書に示されているように、厳格な制約や開示要件を設けることで、あらゆる企業・団体をはじめ州政府や外国政府を含めた多くの組織体がロビイング機能を有効に活用し、政府に対するパブリックの信頼を勝ち得ています。

ロビー活動で最も重要なことは倫理観。国の政策や法律に不正な影響を与えることは許されないからです。日本では現在ロビー活動の法的規制はありませんが、健全なロビー活動を実現するためには、登録制とし、正攻法でロビイングを行うことで、いつでも情報の開示ができる環境を作る必要があります。これにより消費者や国民へのロビー活動に対する情報開示が透明性を増し、政治が開かれたものとなっていくはずです。

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2009年01月24日

オバマ新大統領就任演説
 ~パブリック・リレーションズで診る

こんにちは井之上喬です。
皆さんいかがお過ごしですか?

1月20日、「変化」を求める米国民と国際社会の大きな期待を担って、ワシントンの連邦議会議事堂前でバラク・オバマ氏がアメリカ合衆国第44代大統領に就任しました。約200万人の聴衆を前に宣誓と就任演説が行なわれ、その後4万人が警備する中、ホワイトハウスへのパレードでは、「オバマ!」コールで沿道が埋めつくされました。

彼のスピーチは21分。その内容は実に多彩で感動的なものでした。スピーチ内容からは彼が目指すものが見えてきます。今回は、パブリック・リレーションズ(PR)の視点でみたオバマ・スピーチを分析します。

■すべてのターゲットを気に留めた
スピーチは全体として米国民向けのもではあるものの、原稿には彼がターゲットとする主要なパブリックが網羅されていました。ちなみにスピーチライター(首席)のジョン・ファブロー氏は弱冠27歳。

紙面の都合で詳細は避けますが、オバマ大統領のスピーチの中には、サブプライムで家を失った人たち、職を失った人たち、倒産した企業、医療保険に入れない人たち、教育関係者、また、実体経済を支える生産者(労働者)、IT関係者、医療関係者、新エネルギー開発関係者、イラク・アフガンに派遣されている米軍人。

そして、イラク、アフガニスタンなどイスラム国の国民と指導者、キリスト教徒、イスラム教徒、ユダヤ教徒、ヒンドゥ教徒、外国政府では、名指しこそしていないものの、ヨーロッパ、日本などの同盟国、これまで敵対していた、イラン、ロシア、北朝鮮などの政府首脳など。実にきめ細かいターゲットに対しそれぞれのメッセージが準備されていました。

特に、対テロ、対イスラム諸国へのメッセージの具体的手立てとして、朝日新聞の1月22日付朝刊は、オバマ大統領が20日の政権発足当日、直ちにテロ容疑者を収容しているキューバのグアンタナモ米海軍基地収容所、及び併設されている特別軍事法廷の閉鎖への見直しをゲーツ国防長官に命令したことを伝えています。間をおかず1月22日、これらの1年以内の閉鎖を命じる大統領令に署名しました。オバマ氏のこの迅速な対応は、新政権がいかにイスラム諸国との新しい関係づくりを外交の最優先課題にしているかを物語っています。

■織りなす功利主義と義務論
オバマ新大統領のスピーチには、全ての国民が享受されるべき権利と義務について言及されています。パブリック・リレーションズの視点でみると、個人や組織体の行動規範としての倫理観である「功利主義」と「義務論」が織り込まれていることがみてとれます。

スピーチの冒頭にある、「すべての人は平等で自由、そして幸福を最大限追求する機会が神からの賜物として約束されている….」は、「最大多数のための最大幸福」を提唱する功利主義思想がその根底に流れているとみることができます。

また、スピーチの後半には、米国が建国以来、精神的な支えとしてきた真理に立ち返るよう訴えています。これらには、「今私たちが求められているのは、新たな時代の責任。一人ひとりの米国人が自分自身や米国、そして世界に対して責務があることを認識することで、その責務をいや嫌受け入れるのではなく、むしろ困難な任務に対しすべてを投げだして引き受ける….」、また、「最も暗い困難を乗り切るのは、堤防が決壊した時に見知らぬ人を迎え入れる親切心であり、友人が仕事を失うのを傍観するのではなく自分の就業時間を削る労働者の無私の心である。」などのメッセージがあります。これらのメッセージには、「困っている人がいたらたとえ嫌であっても助けの手を差し伸べなければならない」とする「義務論」的な行動の必要性が強調されているといえます。

オバマ大統領のスピーチには、空前の経済危機に直面する米国民に対して、米国再生のために共に手を携え目標達成のために頑張ろうとする「義務論」的な内容が多かったようにみえます。しかし彼のスピーチは、米国民にとどまらず、全世界の人々に対して語りかけたものといえ、倫理的行動の必要性を強く訴えていることが分析できます。

ちょうど2年前、訪問先ワシントンのホテルのTVで初めて聞いたオバマ・スピーチ。新大統領のスピーチには彼が目指す方向性が明確に見て取れます。スピーチ内容はもとより、目標設定やそれぞれの対象(ターゲット)となるパブリックの心を掴む多様なメッセージ。対話を通した双方向性をもったコミュニケーション姿勢、それらのどれをとっても戦略性と緻密性を感じます。まさに天性のPRパーソンといえます。

彗星のように登場し、大統領の階段を駆け上がったオバマ大統領。彼の一挙手一投足を世界の人たちはいま固唾をのんで見守っています。混沌とする世界にあって、米国のリーダーとしてだけでなく、世界のリーダーとして、その高い役割が期待されるオバマ氏の任務が無事に完遂されることをただ祈るばかりです。

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2009年01月17日

井之上ブログ 200号記念号

「絆(きずな)」
 ~日本文化とパブリック・リレーションズの接点

こんにちは、井之上喬です。
皆さん、いかがお過ごしですか。

日本社会にパブリック・リレーションズ(PR)を根付かせたいとの一念で、2005年4月に始めたこのブログも今回で200号を迎えることになりました。週一度のペースで発行してきた井之上ブログ。読者の皆さんには、いつもご愛読いただき誠にありがとうございます。これからも緊張感を持って発行に臨んで参る所存です。

私たち人間は本質的に「かかわる」存在です。ですから、人間の最も深い体験は他者との関係です。他者とかかわることで私たちは今の自分自身を作り上げているといえます。パブリック・リレーションズは「リレーションズ活動」、つまり「関係構築活動」です。私はこれまでパブリック・リレーションズを日本の初等教育に導入する際、具体的にどのような教育内容にすればいいのか、これといったいいアイディアが浮かびませんでした。パブリック・リレーションズを表現する適切な日本語を見出すことができなかったからです。特に子供たちには難解な「関係構築活動」を、別の言葉に置き換えられないものか頭を悩ませていたものでした。しかし最近一つの言葉が私を捉えたのです。それは「絆(きずな)」です。200号記念の今回は、パブリック・リレーションズと日本に古くから醸成されている「絆」についてお話したいと思います。

■日本でも大切にされてきた「絆」
最近、社会福祉関係の仕事にかかわる機会が多くなっていますが、答えはそこにありました。特に地域社会や家庭崩壊の問題が顕在化している中で、NPOやNGOでは、地域社会での活動を行うときに、たびたび「絆」という言葉が使われています。家族の絆、親子や兄弟との絆、地域との絆、社会との絆、このように「絆」という言葉は日本社会でも古くから使われていた言葉といえます。

大辞林によると、「絆(きずな)とは、 家族・友人などの結びつきを、離れがたくつなぎとめているもの」とあります。それでは「絆」のある状態や環境とはどのようなものなのでしょうか?そこには、「誠実、信頼、気づかい、助け合い(相互利益)、双方向コミュニケーション、友愛、謙遜、道徳、自らの非を認める、間違っていたらお互いが修正できる」など強い結びつきから派生して多くの言葉が頭に浮かんできます。

日本にはこれまで社会が育てていた「絆」や「絆づくり」を学べる環境があったといえます。しかし戦後の高度成長とITの進展にみる急速なグローバル化は、日本の社会システムをも変化させ、地域間の経済や情報格差は地域社会の崩壊をもたらし、核家族化にみられるような人間関係の希薄化が進行しています。終身雇用制により守られてきた企業社会も非正規雇用者が全体の3分の1を超え、不況による突然の解雇などにより様々な深刻な問題が噴出しています。こうした中で「絆」という言葉は、私たちの日常生活から遠い存在になりつつあります。

かって、私たちが大切にしてきた「絆」が、多方面で切れかかっている現状を目にするたびに胸を締め付けられます。私たちは、社会が長い年月をかけて作り上げてきた「絆づくり」の環境を再生させなければなりません。

母子家庭も増え、多くの子供たちは、放課後、塾に通わなければならず、自らが積極的に人間関係を学ぶ機会が喪失しています。地方自治体が地域コミュニティづくりに注力するのもこうした背景があるものと考えます。そんな時代に生きているからこそ、私たちには、意識して「絆」を育てる努力が求められているといえます。

■絆(Kizuna)づくりはパブリック・リレーションズ
私たちは、これまでと違い、意識することで社会にどのように「絆」を作り育てればいいのかを考えなくてはなりません。「絆づくり」を、他の言葉に置き換えると、「関係構築活動」とすることができます。「関係構築」という言葉は、子どもの世界には似合いません。したがって、小学校、中学校においては、パブリック・リレーションズの概念を伝える際は、「絆づくり」という言葉に置き換えるとしっくりきます。

こうしてみると「絆づくり」はその真髄においてはパブリック・リレーションズそのものということになります。これまでの社会でありがちな受け身の姿勢ではなく、前向きに、「目標達成のために、いろいろなところとの『絆づくり』を行うこと」そこには、「倫理観、双方向コミュニケーション、自己修正がある」ことが、子どもたちにとってのパブリック・リレーションズになるのではないでしょうか。

「絆づくり」こそパブリック・リレーションズ。今までのように無意識に行動することなく、今こそ意識して、絆を強めるために関係構築活動を置き換える必要があります。そのためには相手とコミュニケーションをよくとり、双方向性で、いい絆を作り上げていくことが求められるでしょう。

古来農耕民族の日本では、共同体で「絆」を大切にしてきました。日本人が大切にしてきた「絆」。今から14年前の阪神大震災、地域の絆の強さを見せつけた被災者同士の助け合いの姿は世界から絶賛されました。礼儀正しく、底辺のレベルが高い均一化された底力を世界に示し、途上国のよきお手本として役割を果たしてきた日本。私は「絆」とパブリック・リレーションズが結合・合体することで、日本にパブリック・リレーションズがより科学的に理解されるのではないかと考えています。

パブリック・リレーションズの実務家として現在の世界を俯瞰すると、いま米国で起きていることは、ある意味においてパブリック・リレーションズが一方(米国)だけの利益追求のための道具として利用された結果とみることができます。私たちには、21世紀型の新しいモデルが求められています。

当面の目標は全国の大学で、パブリック・リレーションズの講座をスタートさせることです。そのために必要となる教師の育成を急がなければなりません。大学でのパブリック・リレーションズ授業が少ない現在、パブリック・リレーションズの実務を行っているコンサルタントや企業広報で10年以上実務家としてかかわっている人の中から有為な人を見い出し、共通のカリキュラムと教材を作り全国に展開することが急がれています。

今年からそのような環境づくりを始めたいと考えています。

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2009年01月03日

新年号 2009年を「創造の年」にするために
 ~パブリック・リレーションズにできること

新年あけましておめでとうございます。

皆さんは正月をどのように過ごされましたか?
全国的に一部を除いて天気に恵まれた新年、私は自宅のTVで恒例の「箱根駅伝」を楽しんだり久しぶりの友人に会うなど、ゆっくりした正月を過ごしました。

前号では、今年のテーマを「2009年は創造の年に」と設定しましたが、今年は大転換の年になりそうです。米国では、オバマ新大統領の誕生、日本では9月までに衆議院議員の解散選挙による自民、民主激突の結果実現する新政権誕生、そしてサブプライム問題以降の新しい世界的金融システムの構築など、米国の中東政策や金融政策の失敗、また日本の政治システムの機能不全は、新しい秩序の構築を私たちに迫っています。

先週のこのブログで、人類の欲望が世界の構築と破壊を繰り返してきたことを話しました。そして、パブリック・リレーションズ(PR)の視点で捉えた2009年の人類が取り組むべきテーマとして、「拡散する核の脅威にどう対処するのか」と「環境破壊への脅威に対応する新処方箋」の2つを重要な課題として取り上げました。その理由は人類の恒常性維持にとって不可欠の問題だと考えるからです。


■必要なのは基盤となる土台づくり
人類は平和がベースにないと繁栄しないことはこれまでの歴史が証明しています。私たちの繁栄は、私たちを取り巻く外部環境の状態によって左右されるといえます。外部環境が悪い方向へ変化するときには私たちは自らの恒常性維持(安定的なゴール状態の維持)のために、様々な手立てを講じようとします。

先に挙げたテーマのひとつ、核拡散と核戦争の脅威は、私たちの潜在意識に恐怖感を与えています。特に近年、世界各地で発生している無差別テロは、イスラム原理主義者を抱えるイスラム諸国と、キリスト教、ヒンドウー教などの国々との間に軋轢を増しています。

象徴的な問題としてイスラエル・パレスチナ問題がありますが、これこそ人類共通の問題として世界がその解決に真剣に立ち向かっていく必要があると考えています。インター・メディエータとして日本も積極的に調停にかかわることは、世界平和の担保にもなると考えるのです。日本に強力な外交力が求められています。

加えて、地球温暖化問題により急速に市民権を得つつある原子力発電所の維持・管理問題も重要な問題。リスク・マネージメントを考える上で、原発などの核施設は平和な時代にのみ存在できる構造物。したがって世界中に原発が増えれば増えるほど、平和維持に対してこれまで以上に真剣に取り組む必要性が生じるわけです。原発受容には世界の平和維持が大前提なのです。

環境問題も人類生存の重要な基盤。地球温暖化で壊れゆく地球を放置することは人類の滅亡につながります。地球保全のためになすべきことは脱炭素社会を作ることです。現在の技術ですべての対応が困難であっても、目標を明確化することにより人類の英知で必ず問題解決が可能となるはずです。

■いま日本がなすべきこと
核拡散問題で果たす日本の役割は大です。唯一の被爆国として、広島・長崎の悲惨な体験を世界に知らせることは日本の責務。少し具体的な話をしますが、広島・長崎の被爆映像を核の恐怖を知らない世界の指導者に直接手渡すことは極めて効果的です。特に日本の政府や地方自治体の関係者が外国のトップを訪問する際この手法を徹底することができます。DVDのような媒体に編集された映像をプレゼントするなど、パブリック・リレーションズにより、日本が人類共通の問題である核拡散について世界の警鐘役を果たし、将来の核兵器絶廃の実現につなげていくことが可能だと思うのです。

また、2つ目のテーマである環境破壊への脅威に対応する新処方箋として、地球温暖化への対応が鍵を握っているといえます。オバマ次期大統領は新エネルギー政策を掲げ、10年間で15兆円の自然エネルギーをはじめとする環境投資を通して500万人の雇用確保を行い、再生可能エネルギー普及のためのグリーン・ディール政策を始動させようとしています。一方日本は、世界第2の経済大国として最先端を行く環境技術で国民と世界に貢献する。日本の目指すべき道にはほかの選択枝はありません。

現在日本は世界第3のエネルギー消費国。エネルギー問題はすべての国にとって最重要問題です。世界企業の所得ランキングベスト10の7社はエクソンやロイヤルダッジシェルなどの石油会社(日本はトヨタが12位)。日本は、エネルギーの80%以上を輸入に頼りその半分以上を石油に頼っています。日本の2008年度の石油輸入総額は約17兆円(日本総研推計)。この数字は、2009年度の日本の一般会計予算(88兆5千億円)の約20%となっておりエネルギー問題は日本の将来にとって死活問題となっています。

昨年12月6日号でもお話ししたように、脱炭素社会実現のために追求すべき究極のエネルギー開発は、水素エネルギーを中心にしたクリーン・エネルギーの開発です。重要なことは、体力があるいまこそ、日本が急ぐべき課題だと思うのです。日本は国内のエネルギー構造を再生可能エネルギーへドラスチックに転換する枠組みを作り、クリーン・エネルギーの開発を徹底することで、新しい産業を創出し、エネルギー生産・輸出国になることができます。いまこそ次世代に引き継ぐために心血を注がなければなりません。

冷戦崩壊後続いた米国一極主義が崩壊し、様々な価値観を持った民族や国々による多極化が進む中で、
日本は今こそ国家の強い意志で、新しいパラダイムのもとでこの課題に取り組まねばなりません。日本はこの道に進むことによってのみ経済の再生や国民そして世界中の人々に繁栄をもたらすことができると思うのです。

地球世界がますます一つにつながっていく中、私たちパブリック・リレーションズの実務家は、国民や世界の進むべき道を見定めていかなければなりません。自分の目標に新しい潮流を意識しながら、国民や世界が進むべき道とその目標とを重ね合わせて歩んでいくことが求められているのです。

本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

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2008年12月27日

パブリック・リレーションズから見た2008年

こんにちは井之上喬です。
皆さんいかがお過ごしですか? 今年も残すところあとわずかになりました。

2008年の世界は、経済、政治、外交など様々な分野で多くのことがありました。今年をパブリック・リレーションズ(PR)の視点でみると:1つは、米国が大きく変化していることが挙げられます。ブッシュ政権が始めたイラク戦争の失敗が明らかにされ、自信喪失に陥る国民の前に彗星のごとく登場したオバマ氏。2つ目は、とどまるところを知らない地球温暖化(環境)問題。3つ目は、サブプライム問題に端を発し世界経済を大混乱に陥れ100年に一度といわれる深刻な問題。4つ目は、これらの問題に対処できるリーダーシップ不在の顕在化が挙げられます。

■ことしは破壊の年
こうしてみると2008年は破壊の年といえます。新自由主義の名のもとにイラク戦争を始めた超大国アメリカの権威は失墜し、住宅バブル崩壊に始まったサブプライム問題は、アメリカの金融危機が実体経済(非金融)システムを破壊し世界恐慌に発展する様相を呈しています。

またブッシュ大統領が今月のイラク訪問の際の現地記者会見で、イラク人記者から靴を投げつけられたことで象徴されるように、自らの過ちを省みず自己修正を怠った米国に対する信用は大きく崩壊しました。アメリカが自国の利益に固執した結果、世界をリードできなくなった証左ともいえます。

一方、環境破壊による地球温暖化がもたらす世界規模の異常気象、四川大地震をはじめとする大地を切り裂く地殻変動、私たちがこれまで立っていた大地さえも信じることができない、大丈夫だと思われていたこれまでのシステムもいとも簡単に崩れ去り、世界がまさに液状化状態。

■2009年は創造の年に
これまで人類は欲望のおもむくままに、世界の構築と破壊を繰り返してきました。地球規模で人類の持続的繁栄を考えた場合、とりわけパブリック・リレーションズの視点で捉えた場合、私は次の2つがこれからの重要なテーマとなりうると考えています。1つは、「拡散する核の脅威にどう対処するのか」。2つ目は「環境破壊への脅威に対応する新処方箋」。人類はこれら2つの問題に、今後どのように取り組み、その英知を使うかにかかわってくると考えています。

イラク戦争の失敗やサブプライム問題による健全な世界経済運営の失策で、自信喪失に陥ったアメリカは、次の大統領に人種の壁を越えてバラク・オバマ氏を選びました。来年1月20日の大統領就任を待たず、ばらばらになっている国民を1つの方向へ向かわせ、その立て直しに精力的に活動しています。

有史以来世界は、その時代を生きたリーダーの資質で人々を幸福にも不幸にもしてきました。米国の新しいリーダーの登場は、アメリカにとどまらず、世界にどのような秩序をもたらし、世界をどのように変革していくのか、その手腕に大きな期待が寄せられています。オバマ次期大統領がこれからの世界を、どのような目標のもとに創造するのか、また日本がどのような新しい機軸を提示できるのか期待されるところです。

政治が大迷走し、2年で3人の首相が交代する日本にいまこそしっかりした軸足を持つリーダーが求められています。いまや極限状態にある国民を安心させ、世界が2度と同じ失敗を繰り返さないためにも目標設定が明確に必要とされるパブリック・リレーションズが求められているのです。

本号で今年最後のブログとなりました。この1年間、井之上ブログをご愛読いただき誠にありがとうございました。皆さんには良い年をお迎えくださいますよう。

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2008年12月13日

『体系パブリック・リレーションズ』を紐解く 7
 ~高等教育におけるパブリック・リレーションズ

こんにちは井之上喬です。
皆さんいかがお過ごしですか?
今週は、『体系パブリック・リレーションズ』Effective Public Relations (EPR)第9版の邦訳:ピアソン・エデュケーション)をご紹介します。EPRは米国で半世紀以上のロングセラーを記録するパブリック・リレーションズ(PR)のバイブル的な本。

今回は、第17章の「非営利団体(NPO)、業界団体、非政府団体(NGO)」(矢野充彦訳)の中から「高等教育」(546ページ)におけるパブリック・リレーションズについてお話します。

米国における単科大学や総合大学の入学者数は増加し続け、1500万人以上が在籍しているといわれています。日本では少子化による18歳人口の減少により、2007年に大学受験者数が募集定員と同数になり、受験希望者全員が大学に入学できる時代になったとされています。こうした状況の中で大学格差が拡がり、2008年度は定員割れを起こした私学が47.1%と報告され、生き残りを賭けた受験生の争奪戦が繰り広げられています。国立大学の運営費交付金も国家財政逼迫のなか削減の一途。いずれの大学も厳しい経営環境にあります。ここでは、米国の高等教育の中で、どのような問題が表面化していて、それらの問題とパブリック・リレーションズが本書の中でどのように関連づけられているか見ていきます。


■パブリックへの教育を積極的に
米国の高等教育界が直面する問題は、概ね次の4つに絞られているようです。

(1)財政支援が不十分で不安定
(2)能力ある学生の獲得競争は熾烈でコストがかかる
(3)政府の制約や規制で大学運営は困難でコストがかかる
(4)学問の自由や身分は、内外の利害関係者から課題をつきつけられている

こうした問題に対して、全米独立大学協会(National Association of Independent Colleges and Universities)のパブリック・アフェアーズ担当バイス・プレジデント、ゲイル・レイマン氏のコメントを次のように載せている。「メディアが教育に関する報道を積極的に行っているように、我々もパブリックやオピニオン・リーダー対象の教育・啓蒙をもっと積極的に行う必要がある」。そして、本書では高等教育におけるパブリック・リレーションズの最終目標を達成するために以下のようにターゲット(パブリック)を明確にし、それらとの関係性の構築を重要視しています。

(1)学生
   学生は大学にとって最も重要なパブリックであると同時に、最も重要な
   大学のパブリック・リレーションズ代表者である。

(2)職員とスタッフ
   職員とスタッフは、教育と統治という重大な役割、そして外部の支持者
   に対する大学代表者としての役割をもち、重要な内部のパブリック
   でもある。

(3)校友会
   校友会の寄付は、高等教育を自発的に支援する最も重要な資金源
   である。

(4)コミュニティ・グループとビジネス・リーダー
   多くの大学は新たな相互利益関係を築くために、ビジネス関係者に働き
   かけている。

(5)政府
   パブリック・リレーションズは、全レベルの政府機関の教育部門で理解
   と支持を得なければならない。

(6)メディア
   積極的なメディアとの関係構築は、長期に渡って効果を生む投資で
   ある。大学には、学長や他の運営者、パブリック・インフォメーション
   事務局、学生の新聞やラジオ局、職員、運動部の監督やコーチな
   どさまざまな「スポークス・パーソン」がいるので、活用すべきで
   ある。

(7)保護者など
   保護者は中心的支持者である。その他のパブリックは、将来見込める
   学生と保護者、現在と将来見込める寄付者、オピニオン・リーダー、
   慈善財団、世界中の姉妹校、専門組織や学会などである。

■大学学長の果たす役割
また学長の果たすべき役割として本書は、コアとなるパブリックと対立する価値や要求をバランスよく保つため、効果的なコミュニケーターであり、まとめ役でなければならないことを強調しています。そして学長は、パブリック・リレーションズを必要とされる仕事の一部として認識しなければならないとしています。実際、マネジメント・チームの誰よりも、パブリック・リレーションズ担当者と頻繁に会っているようです。学長は新たなグローバル社会で高等教育に求められるミッションを果たすために必要なリレーションシップやパブリックの支持を確立する重要な鍵を握っており、学長を「学校全体を一番うまくアピールできる人」と、位置づけています。

本書では、米国の大学におけるパブリック・リレーションズのスタッフは教育現場で起こるさまざまな課題への対応や、銃撃犯罪や学生のアルコール・薬物乱用、セクシャルハラスメント、人種間の緊張、そして学部閉鎖などの「キャンパス危機」への対応の重要性についても指摘しています。

日本の大学でも、昨今、学生による薬物乱用やセクシャルハラスメントなど法律に触れる問題が増加傾向を示し、教育関係者を悩ませています。パブリック・リレーションズの問題と課題は山積しているといえます。

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2008年11月29日

『体系パブリック・リレーションズ』を紐解く 6
 ~良好なメディア・リレーションズのためのガイドライン

こんにちは井之上喬です。
だんだん寒さが増すなか、皆さんいかがお過ごしですか?
今週も、『体系パブリック・リレーションズ』Effective Public Relations (EPR)第9版の邦訳:ピアソン・エデュケーション)をご紹介します。EPRは米国で半世紀以上のロングセラーを記録するパブリック・リレーションズ(PR)のバイブル的な本。皆さんにお伝えしたいエッセンスがまだまだ沢山詰まっています。

今回は、第10章の「メディアとメディア・リレーションズ」(井上邦夫訳)の中から「良好なメディア・リレーションズのためのガイドライン」(324-329ページ)についてお話します。

■メディア・リレーションズはコア・コンピタンス
私の著書『パブリック・リレーションズ』(2006、日本評論社)のなかで、「メディア・リレーションズは、他のビジネスコンサルティング会社と比べ特異な活動で、パブリック・リレーションズのコア・コンピタンス(中核的競争力)ともいえる。メディア・リレーションズは、さまざまなリレーションズのターゲットに対してアクセスするコミュニケーション・チャネルとしてのメディアとのリレーションズ活動である。」と記しています。

『体系パブリック・リレーションズ』では、パブリック・リレーションズの実務家とジャーナリストとの関係は、底流にある利害やミッションが対立しているため必然的に対立的なものであり、実務家が次のような5つの基本的ルールに従うことで、両者の関係を最適なものにできると述べられています。

いかにメディアとの良好な関係性を構築するか、これはパブリック・リレーションズの実務家にとって世界共通のテーマであり、この点に関しても本書は大いに示唆を与えてくれています。それでは5つのルールについて簡単に紹介しましょう。


■最適な関係を構築するための5つのルール
1) フェアな取引をする
速報性の高いニュースは、メディアが発表サイクルを決定できるように可能な限り迅速にあらゆる関連メディアへフェア伝えることである。速報性が薄い特集材料についても競合メディア間に平等に伝える必要がある。しかし、記者がヒントを掴んで情報を要求した場合、その内容は当該ジャーナリストのものであり、同じ情報は、他のジャーナリストが追随して要求しない限り与えてはならない。

2) サービスを提供する
ジャーナリストの協力を得る最も速く確実な方法は、彼らが希望するときに、すぐに使用可能な形式で彼らが求める、ニュース価値があり、興味を引くタイムリーな内容と映像を提供することである。ジャーナリストは、定められた、時には厳しすぎる締め切りに追われて働いている。ニュースメディアに記事を報道して欲しいと思う実務家は、メディアの準備期間を熟知して順守する必要がある。

3) 懇願したり文句を言ったりしない
ジャーナリストにとって、ストーリーの使用を頼みこむ実務家や記事の扱いに文句を言う実務家ほどイライラさせるものはない。ジャーナリストにとって、その情報が十分に興味を引くだけのニュース価値がなければ、どんなに懇願され文句を言われても採りあげることはない。

4) ボツにすることを求めない
実務家は報道機関に対して、記事を差し止めたり、ボツにするように頼んだりする権利はない。それはめったに機能しないし、プロフェッショナルの行為でもなく、反感を生むだけである。このことはジャーナリストにとって露骨な侮辱であり、米国憲法修正第1条の侵害である。それはジャーナリストにパブリックの信頼を裏切るように頼むことである。好ましくないネタを報道機関から遠ざけておく最良の方法は、そのような話が発生する状況を避けることである。

5) メディアを氾濫させない
仮に金融担当の編集者に、スポーツや不動産情報を送るようなことがあれば、その実務家に対する敬意は損なわれることになる。最善のアドバイスは、どんなジャーナリストがニュースを考慮するかよく考えることであり、メディアのメーリングリストを最新に保ち、各ニュースメディアの最適な一人にのみ送ることである。

この点について本書では、当時『ウォールストリート・ジャーナル』のニューヨーク編集長であったポール・スタイガーさんの面白い試みを紹介しています。それは、記者やエディターが1日にどの位の数量の情報を選別しなければならないかを記録するため、17の地方支局長に対し、彼らが1日に受け取るニュース資料を保管するように頼みました(インターネット経由のニュースは含まず)。支局から送られたプレスリリース、パブリック・リレーションズのワイヤー記事、ファックス、手紙を集めたところスタイガーさんのオフィスに積み上げられた箱は、高さ60センチ以上、長さ約3メートル以上にもなったということです。

米国のメディア情報のおよそ70%は、PR会社や関連組織などから配信されたものをベースにしているといわれています。このスタイガーさんの試みからもPR会社や関連組織がメディアに対して積極的に情報発信している様子が窺えます。
私たちパブリック・リレーションズの実務家は、時として情報発信することに夢中になるあまり、情報の受け手であるジャーナリストの立場を忘れてしまうことがあります。彼らが情報の洪水の中で溺れることの無いように配慮しなければなりません。

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2008年11月22日

『体系パブリック・リレーションズ』を紐解く 5
 ~戦略立案における調査の役割

こんにちは井之上喬です。
皆さんいかがお過ごしですか?
今週は、『体系パブリック・リレーションズ』Effective Public Relations (EPR)第9版の邦訳:ピアソン・エデュケーション)をご紹介します。EPRは米国で半世紀以上のロングセラーを記録するパブリック・リレーションズ(PR)のバイブル的な本。

今回は、第11章の「ステップ1:パブリック・リレーションズの問題点の明確化」(北村秀実訳)の中から「戦略立案における調査の役割」(339ページ)についてお話します。
パブリック・リレーションズの実務家を対象としたアンケート調査では、パブリック・リレーションズの専門職に必要な継続教育として、調査手法のトレーニングが、常に上位を占めているといわれています。その理由として、ほとんどの実務家は大学時代に調査手法を学習しなかったか、あるいは調査はPR専門職の仕事の一部とは予想していなかったことが挙げられています。

■目の不自由な6人のインド人と象
「戦略立案における調査の役割」の項の冒頭で、日本でもよく知られている「目の不自由な6人のインド人と象」の寓話が紹介されています。目が不自由な6人が象の一部を触っただけで、各人が触ったところだけの印象を手がかりにして象の全体像を描写したという話です。

例えば、鼻を触った人は「象はヘビのようだ」と結論づける。膝を触った人は「象は確かに木のようだ」と言う。このように各人は象の一部だけを触って経験します。最終的には、各人は部分的には正しいが、象の本質についてはほぼ誤ったままで、各自が象との遭遇に基づいて喧々諤々と議論したにすぎなかったということになります。

つまり、パッブリック・リレーションズの実務家に対して、課題となっている状況をしっかり調査しなければ「目の不自由な6人のインド人」と同じ轍を踏む恐れがあると警鐘を鳴らしています。

また、調査の重要性とその目的について「いくら実務家が、調査なしで状況を把握し、解決策を提案できると主張しても、そこには限界がある。実務家は、調査と分析を行ってはじめて、証拠と理論に裏づけられた計画案を提案して主張することができる。この文脈における調査とは、状況を説明して理解するため、そして、対象となるパブリックスが抱いている考えと、パブリック・リレーションズの活動がもたらす結果を確認するための、系統だった情報収集である。それは、執着心、権威、直観にとって代わる科学的根拠となる。そして、その主な目的は、意思決定する際の不確実性を排除することにある。全ての疑問に答え、すべての決定に影響することができないにしても、論理的に系統立った調査は効果的なパブリック・リレーションズの基盤となる。」と論じています。

■インフォーマルな調査とフォーマルな調査
パブリック・リレーションズの調査には、高度に発達した社会科学の手法を利用することもできるが、依然としてインフォーマルな手法が支配的であり、実務家がサンプル(調査標本)の代表性が不明であるといった弱点を理解していれば、その手法は有用であると述べられています。インフォーマル手法として、情報提供者の聴取やフォーカス・グループ・インタビュー、オンブズマンの意見、フリーダイヤル、投書やオンライン情報などが挙げられています。

この場合、実務家がサンプル(調査標本)の代表性が不明であるといった弱点を理解していれば、その手法は有用であると述べられています。インフォーマル手法として、情報提供者の聴取やフォーカス・グループ・インタビュー、オンブズマンの意見、フリーダイヤル、投書やオンライン情報などが挙げられています。

一方、フォーマルな調査手法は、科学的に代表性を持つサンプルからデータを収集するよう設計されており、この調査手法は、インフォーマルな方法では適切に回答できない状況についても、回答することができます。但し、フォーマルな調査手法が有用となるのは、調査の全体デザインの選択以前に、調査の質問項目や目的が明確になっている場合に限られ、こうした条件が満たされることによって初めて、確定された精度と許容誤差の予定範囲内で現象や状況を説明する情報をもたらすことができると強調されています。

「成功しているパブリック・リレーションズのマネジャーは、フォーマルな調査手法と統計学に精通している。今では、多くの大学のパブリック・リレーションズ教育で、調査手法の科目がカリキュラムに組み込まれている。実務家向けの継続教育プログラムでも、プログラムの立案、管理、効果測定の際にどのように調査を活用するかの講義が提供されている。」と述べられています。またこの章の文末は、「つまり調査は、パブリック・リレーションズがマネジメント機能を果たすために、また同時に、統制の効いた機能を果たすために不可欠な要素である。」と結ばれています。

20世紀を生きたエドワード・バーネイズは、パブリック・リレーションズにおけるプロジェクト成功の要因は、社会科学に裏打ちされた綿密な調査・分析にあると説いています。まさに調査は目的達成を確実にするための不可欠な手法といえます。

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2008年11月01日

『体系パブリック・リレーションズ』を紐解く 4
 ~政府とメディア・リレーションズ

こんにちは井之上喬です。
もう11月に入りました。皆さんいかがお過ごしですか?

今週も、『体系パブリック・リレーションズ』Effective Public Relations (EPR)第9版の邦訳:ピアソン・エデュケーション)をご紹介します。EPRは米国で半世紀以上の-ロングセラーを記録するパブリック・リレーションズ(PR)のバイブル的本です。

「新聞の存在しない政府を持つか、あるいは政府の存在しない新聞を持つかその決断が私に残されたとすれば、私はためらうことなく後者を選択する」。これは新国家創設にとって不可欠の報道の自由を保障した米国第3代大統領トーマス・ジェファーソンの言葉です。今回は、第16章の「政府とパブリック・アフェアーズ」(井之上喬訳)について、主要な活動である「政府とメディア・リレーションズ」をお話します。

■「政府のパブリック・アフェアーズの目的」
この本ではまず、政府のパブリック・アフェアーズ(以下PA)の目的として、一般的に以下の7項目を挙げています。
1)有権者に政府機関の活動を伝える 2)国家プログラム(投票、舗道整備など)への積極的な協力や規制プログラムの順守の確実化。3)制定した政策やプログラムをパブリックが支援(国勢調査への協力、災害救援活動など)するよう育成する。4)政府閣僚に対してパブリックの主張を伝える。5)内部のための情報管理(職員むけのニュースレター、電子掲示板、インターネット・サイトのコンテンツ) 6)メディア・リレーションズを円滑にする 7)コミュニティと国家の建設(国民健康キャンペーン、国民の安全保障プログラムを利用した様々な社会プログラムなど)。

同書はまた、「政府のパブリック・アフェアーズ実務家の基本的な仕事は、情報を伝えることにある。」と明示。政府内外の人々への継続的で確実な情報フローを最優先事項としています。「重点項目は規模に関係なく、各組織が行う行政サービスについて、一般と特別なオーディエンス(情報受信者)に情報を準備して伝えることにある。」とし、その活動は通常、内外への一般情報サービスを通じて遂行すると記しています。

これら情報の通達は、望ましい成果を得るロビー活動の一環ではなく、国民に情報を伝えて周知徹底することであるとし、連邦政府より下位レベル(州、市町村)の場合のPA活動は、地域や予算を組み合わせて調整されることが多いと論じています。

いずれの場合も、重点項目は同じで、「パブリックに政府活動や行政サービスについて情報を伝えることにある。」と述べています。しかし、「情報サービスが海外のオーディエンスを意図して、情報発信される場合は、それが単なる情報伝達か、あるいは人々への影響を与えるためのものかで対立することもある。」とも論じています。つまり、単なるお知らせか、そうではなく、政府の政策を受容させることで影響を与えたいと考え情報発信することなのか、異なったアプローチがあることを述べています。

■「政府におけるメディア・リレーションズ」
冒頭のトーマス・ジェファーソンの言葉にみられるように、米国は政府発足以来憲法修正第1条で報道の自由を保障しています。『体系パブリック・リレーションズ』では最近になって憲法で保障された報道の自由は拡大され明確になったとし、「情報公開法や『サンシャイン法、(議事公開法)』には政府についての自由な発言や論評ができる言論の自由に加えて、政府の情報にアクセスする権利なども文書化されている。」とメディアの政府へのアクセスの自由度について論じています。

「例えば、国家安全保障、訴訟、特定の個人記録など、明らかに不適当な分野を除き、政府が保持するほぼすべての情報は、報道機関が閲覧することも、調査目的で一般人が閲覧することも可能である。」また、「その多くにおいて、未完成の報告草案や手書きの記録でも、記者がこれらに特別な知識を持っている場合は、それらを特定項目に絞って請求し、閲覧することもできる。」と政府情報のオープン性も強調しています。

著者のカトリップ、センター&ブルームは、政府とメディアとの間には立場の違いと共に情報の有効性についての認識の差があると論じています。そして、政府メディア双方に困難な問題があるにもかかわらず、政府は依然として重要な情報を伝える手段としてニュースメディアに大きく依存しているとしています。またメディアの影響力について、マイケル・グロスマンとマーサ・クマールの言葉を引用し、「報道機関について、『国家の政治シーンにおいて、大統領をはじめ、議会や官僚、政党、圧力団体などの主要な権力に影響を及ぼし、同時に、それらの権力から影響を受ける主要な権力の一つになった』」と述べています。

しかし一方では、「メディアが彼らの本来の仕事の基準に達しているとは考えていない。」と政府部内の一部の見方を示しています。つまりクリントン大統領の一連のスキャンダルが表面化した際に、多くの主要報道機関が、大統領の外国首脳との関係を報道する代わりに、ポーラ・ジョーンズやモニカ・ルインスキーとの関係についての過剰報道に対する国民のメディアへの疑問について明らかにしています。

また政府報道については、「政府の森羅万象を解釈するには訓練を積んだ専門家が必要であり、(中略)政府のパブリック・アフェアーズ専門家は国民とコミュニケーションを図るため、ジャーナリストと協働して重要な役割を演じる…」と高度な専門家の介在の必要性を説いています。

政府とメディアとの関係性については日本においても、首相やその周辺のスキャンダルにフォーカスされるあまり、本来の国民が必要とする報道が十分になされなかったり、重要な法案の審議中に別の問題でメディアの関心がこの問題に向けられ過剰報道するなど、同じようなことが言えます。

戦後長きにわたって日本の政府からの情報発信は、そのシステムにおいても極めて脆弱なものでした。サブプライム問題で世界が不安定な中にある今こそ、日本の過去の教訓を内外に向けて強力に情報発信しなければなりません。ぜひ一度『体系パブリック・リレーションズ』を手に取ってください。新しい施策が浮かんでくるはずです。

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2008年10月25日

『体系パブリック・リレーションズ』を紐解く 3
 ~必須条件となる文章力

こんにちは井之上喬です。
皆さんいかがお過ごしですか?

3週連続して今週も、世界で「パブリック・リレーションズのバイブル」として高い評価を得ている Effective Public Relations (EPR)第9版の邦訳『体系パブリック・リレーションズ』(ピアソン・エデュケーション)をご紹介します。

今回は、第2章の「パブリック・リレーションズの実務家」(井上邦夫訳)の中から、パブリック・リレーションズ(PR)の分野で成功する必須条件として採りあげられている文章能力について紐解きます。

私もかつて実務家に求められる10の能力の3回目で「文章力を伴ったコミュニケーション技術」(06年3/17)について書いています。広報担当者やパブリック・リレーションズの実務家は、様々なリレーションズを通して戦略的に設定された目標や目的を達成していく仕事です。具体的に行動する上で企画書やプレス・リリースの作成など、文章を書くことが要求される場面が数多くあります。したがってプロフェッショナルとして質が高くかつ説得力のある文章は、相手の理解と共感を得るのに有効です。EPRでパブリック・リレーションズの実務家の必須条件として採りあげられていることからも、文章能力の重要さは世界共通のことであるようです。

■文章能力はキャリアの一生を通じて続く
「パブリック・リレーションズの実務家は、様々な状況に対応するため、また自分たちがなすべきことについて外部の期待に応えるために必要な言動パターンを身につけてきた。次の4つの主要な役割が、パブリック・リレーションズの実務の多くを示している」と本書では語っています。それらは「コミュニケーション・テクニシャン」であり、「エキスパート・プリスクライバー」(パブリック・リレーションズの問題に対して処方箋を書く専門家)、「コミュニケーション・ファシリテーター」(まとめ役)、「問題解決ファシリテーター」です。

特にコミュニケーション・テクニシャンには、ニュース・リリースや特集記事の執筆、社内報の執筆と編集、ウェブサイト・コンテンツの作成、ステークホルダー(利害関係者)向けニュースレター、手紙の発送・返信、株主への報告書と年次報告書、スピーチ原稿、パンフレット作成、フィルム・スライドショーの原稿、業界紙の記事企画、企業広告の文案、製品や技術関連資料の作成など広範な業務が紹介されています。そして「職務と責任の組み合わせは組織によって大きく異なるが、パブリック・リレーションズ業務の中心的役割として文章作成スキルの要件はキャリアの一生を通じてずっと続く」と結んでいます。

また、クライアントがパブリック・リレーションズの実務家に求める特性には、ビジネスがどのように機能するかについての理解やコンピュータソフト、ニューメディア・テクノロジーを使いこなすスキル、時事問題に関する知識などが挙げられていますが、「あらゆる調査で常にトップに挙げられる特性は文章作成能力であり、これは他の特性を大きく引き離してナンバーワン」と書かれています。特にメディアに配信するプレス・リリースはメディアの信頼を得たクオリティーを持たなければならないことからも、このことは理解できます。

■文章力低下は日米共通
この第2章を読んでいて、文章能力に関するある米国企業経営者の次のようなコメントが強く印象に残っています。「多くの新卒者の最も弱い分野の1つは文章を書くこと。それはおそらく『愕然とする』類のものであり・・・・」といった内容のもの。これなどは最近、「若者言葉」、「ギャル語」、「バイト敬語」など日本語の乱れの問題として議論を呼んでいるわが国においても、同じように文章能力の低下傾向が見られます。

ネット社会の到来で情報がますます氾濫する中で、e-メールの急速な普及などにより文字表現によるコミュニケーションは以前よりはるかに増えています。パブリック・リレーションズ実務家の活動領域の広がりとともに、ますます文章能力のスキルが問われることになるでしょう。

文末になりますが、パブリック・リレーションズの実務家を目指す人たちに『体系パブリック・リレーションズ』第2章の中にある、次の言葉を贈ります。「パブリック・リレーションズのキャリアの階段を昇り始める前に、まず文章の書き方を学ぶべきである」(64頁)。

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2008年10月18日

『体系パブリック・リレーションズ』を紐解く 2
 ~功利主義と義務論

こんにちは井之上喬です。
皆さんいかがお過ごしですか?

今週は先週に続いて、米国で半世紀以上の-ロングセラーを記録する Effective Public Relations 第9版の邦訳『体系パブリック・リレーションズ』(9月20日発売:ピアソン・エデュケーション)をご紹介します。

今回は、第5章の「倫理とプロフェッショナリズム」(伊吹勇亮訳)の中の「功利主義」と「義務論」について紐解きます。善と悪は倫理における普遍的なテーマですが、同書では功利主義と義務論は、倫理的な意思決定における道徳哲学の2つのアプローチとし、組織体の意思決定の倫理について、パブリック・リレーションズ(PR)の専門家が経営トップに評価と助言を行う上で役立つものとしています。

■「最大多数のための最大幸福」
皆さんは上のタイトルを時々耳にしたことがあると思います。これは功利主義を端的に表す言葉です。ジェレミー・ベンサムが創始し、その後教え子のジョン・スチュアート・ミルが継承した功利主義は、意思決定の利益を最大多数のために最大化しそれ以外の人々に及ぶ悪の帰結を最小化しょうとする。この種の哲学が協調するのは、パブリックに善を提供すること、あるいは社会の最大多数に提供することであると論じられています。

カトリップらは、「功利主義的観点から行動の道徳性を判断する場合、パブリック・リレーションズの専門家はいずれの選択肢が最大多数に最大量の善を生み出すかを判断して選択肢全体から考慮し、実務家は正の成果を最大化し、負の成果または危害を最小化する選択肢を採用する。」と記述しています。

カトリップらは、功利主義は通常のビジネス上の倫理的な意思決定で最も一般的なアプローチとしながらも、その有用性の限界も指摘しています。つまり、功利主義においては最大多数が幸福であっても少数派は不幸な現状を意図的または気付かずに正当化されるとし、多数派を常に優先すると、組織体は市民やステークホルダーから始まる変化に対応できなくなると論じています。

確かに、新しい秩序や枠組みが形成されるときには少数の意見に始まりやがて多数に拡大します。功利主義に走りすぎるとそのような芽を摘んでしまうことになるという恐れを孕んでいます。

■「正しいことをせよ」
一方、この反対に義務論が位置します。上の言葉は義務論を端的に説明することば。ドイツの哲学者イマニュエル・カントによって確立させた倫理。カトリップやシャノン・ボーウェンらは、「義務論の倫理は、予測された成果に基づく道徳的決定をベースにするのではなく、道徳原則そのものに焦点を絞る」ものとしています。また「このアプローチは、倫理は、成果ではなく義務によって導くことを維持するため、『非結果主義』とも呼ばれる。」と論じています。

カトリップやボーウェンらは、義務論は我々の道徳的義務が正しい行動の道を示すことであるとし、複雑な状況の中で、何が正しいのかをどのように知ればいいのか問いかけ、倫理的に何が正しいかを決定する方法は、絶対義務として知られる義務の意思決定基準により明らかになるとしています。

そして絶対義務には、カントの言うところの人間の「意図するもの」、つまり決断時に影響を及ぼす潜在的な意思、そして他者への尊厳と敬意を測る2つの側面があると論じています。義務論では、「善意」以外の動機は堕落と見なすために、善意が意思決定における唯一の真の指針であると論じています。

これらをまとめると、義務論において倫理的であることは、善意と他人に対する尊厳や敬意に基づく道徳上の義務を果たし、相互利益を実現することであるといえます。

こうしてみてみると、アメリカ(欧米)の倫理には、功利主義と義務論という道徳哲学における2つのアプローチが補完関係をなしているといえます。わかりやすく解説すると、最大多数のための幸福からこぼれ落ちた人々に善意の手を差し伸べるということになります。

ちなみに、この5章の共著者であるシャノン・ボーウェン教授は2007年の2月、メリーランド大学教授時代に、私を同大学院の授業に招いて下さり「自己修正モデル」について米国初の講義を行うチャンスを下さった人。米国を代表する、パブリック・リレーションズ倫理研究の第一人者です。

このところ、内外でさまざまな不祥事や問題が続発しています。そこには経営トップにこうした倫理観が希薄なことが窺えます。倫理観のないガバナンスやコンプライアンスは名ばかりのものでしかありません。

こうした時代にあってパブリック・リレーションズの実務家には、その根底に揺るぐことのないバックボーン(倫理観)が強く求められているといえます。

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2008年10月11日

『体系パブリック・リレーションズ』を紐解く 1
 ~オープン・システムとクローズド・システム

こんにちは井之上喬です。
皆さんいかがお過ごしですか?

米国でロングセラーを記録する Effective Public Relations 第9版の邦訳『体系パブリックリレーションズ』が9月20日に発売されました。20世紀を代表するパブリック・リレーションズの研究者スコット・カトリップ、アラン・センター、グレン・ブルームによる同書はパブリック・リレーションズのテキストブックとも言われ、米国でも多くの学生が利用しています。

今回は、カトリップ氏らが、生命体の永続性をテーマにした生態学から進化したシステム論をパブリック・リレーションズに応用して唱えたコンセプト「オープン・システムとクローズト・システム」を紐解いてみます。

■ 壁が障害となるクローズド・システム
システムとはある境界を持ち、他のシステムと相互作用しながらその境界内の時間軸で目的を達成・維持し、永続しようとする一連の単位です。

パブリック・リレーションズ(PR)という枠組みでシステムを考えると、パブリック・リレーションズにおける一連のシステムに含まれるのは、組織体(クライアントまたは所属する組織)とパブリックです。カトリップ氏らはパブリックを「組織体が相互に利益を享受し永続的関係性を確立・維持すべき人々」と定義しています。

カトリップ氏らは、組織体を1つのシステム、さまざまなパブリックを抱合した1つのシステムと捉え、システムの相互関係の在り方により、クローズド・システムとオープン・システムという2種類のシステムに分類しました。

クローズド・システムにおける特徴は、対応型。クローズド・システムには、情報の流通はあまりなく外部とのコミュニケーションは一方的。このシステムには自らを変えるという発想はなく、このタイプの組織は対象(ターゲット)となるパブリックを変えようと行動します。組織利益を優先し一方的な視点で外部の状況を把握するので、環境変化に追いつけずに危機に陥りやすいのもこのタイプです。

カトリップ氏らは、批判した雑誌社のインタビューに応じなかった企業や、BSE(狂牛病)の証拠提出の後もその事実を否定し続けたアメリカの牛肉業界等を例に取り上げ、クローズド・システムを説明しています。そして彼らは、パブリックを考慮せず問題処理に消極的である閉鎖的な状況を作り出している、組織とパブリックの間の壁が、組織繁栄にとって大きな障害となると言及しています。

■ 生き残りに必要なオープン・システム
システムの究極の目的は生き残ること。生存のために恒常的な変化を続ける状態をホメオスタシス、生き残るために内部構造や目標達成プロセスを変化させることをモルフォジェネシスといいます。情報流通が双方向で、外部の変化と共に内部も変化していくホメオスタシスとモルフォジェネシスが継続的に機能しているシステムをオープン・システムといいます。

オープン・システムの特徴は、積極型。このシステムを採用する組織は、対称性の双方向性コミュニケーションを通した相互利益に基づく相互変化が可能です。このタイプの組織は、パブリックの変化に敏感に反応し、その変化に積極的に適応しようと行動するので、問題発生を未然に防ぐことができます。また、実際に問題が発生しても、その窮地から新たなWINWIN環境を作り出し、更なる飛躍に役立てることが可能となります。

カトリップ氏らは、オープン・システムを問題回避や問題解決を効果的に行なえるモデルと位置づけています。そしてカトリップ氏らは、積極的に問題に直面して解決したカルフォルニアのピスタチオ協会やデジタルリサーチ社等の例を挙げて、組織の生存と繁栄において、相互利益の視点に立ち、パブリックと能動的に関わり自らを変化させる事の重要性を論じています。

日本の社会には、リスクを取らずに現状維持に終始する企業、問題を先送りにして不祥事を起こしている企業など、クローズド・システム的な企業が未だ多く存在します。しかし情報流通網が複雑に絡み合う21世紀に、組織が閉鎖的であることはもやは不可能です。

カトリップ氏らは、「パブリック・リレーションズの業務は、端的に言えば、組織を取り巻く環境に合わせて調整・適応できるように組織体を支援することにある」といっています。つまりパブリック・リレーションズの実務家の役割とは、組織体の将来像を見据えて、組織をオープン・システムの状態に導き維持することにあるという意味です。

このセクションを読むと、日本における閉鎖性を打開する鍵がパブリック・リレーションズの理論と実務にあることが再確認できるように思います。是非手にとって読んでみてください。

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2008年09月13日

『体系パブリック・リレーションズ』発売開始
 ~エフェクティブ・パブリック・リレーションズ日本語版

『体系パブリック・リレーションズ』


こんにちは井之上喬です。
皆さんいかがお過ごしですか?

米国で、パブリック・リレーションズのバイブルといわれているエフェクティブ・パブリック・リレーションズ(Effective Public Relations:EPR)の日本語版(写真)がようやく完成しました。

邦題は『体系パブリック・リレーションズ』(日本広報学会・監修、ピアソン・エデュケーション、568頁)。本ブログ8月2日号にもご紹介したように、1952年の初版刊行以来、半世紀以上にわたりロングセラーを続けるEPR。その2006年発行の第9版の日本語版がこのたび完成し、全国大手書店で発売が開始されました。

本書は全体が4部17章で構成され、その内容はどの章もパブリック・リレーションズに関わる私たちにとって、PR戦略を新たに構築したり見直すうえで示唆に富んでいます。
私も6名の訳者の一人として、3つの章(第3章:組織体構築と第7章:理論的基盤・調整と適応、第16章:政府とパブリック・アフェアーズ)を担当しました。

■トヨタ張会長の鮮烈なメッセージ
「トヨタ自動車に入社して最初の配属先で担当したのが、パブリック・リレーションズでした」。冒頭、目に入ってきたのは、日本広報学会会長でトヨタ自動車会長の張富士夫さんの推薦の言葉です。

張さんは、米国駐在時には組織体として企業市民の考え方やマスメディアへの対応、労使関係のコミュニケーション、そしてコミュニティの中での企業のあり方など現地体験を通してパブリック・リレーションズを学び習得されたようです。

またその言葉の中で、「組織体として倫理観をベースに経営者の立場でステークホルダーといかに双方向のコミュニケーションができるかを常に考えてきたことは、まさにパブリック・リレーションズそのものであり、マネジメントの一角をなすものです。」と、経営者にとってパブリック・リレーションズの重要性を強調すると共に、その位置づけを行っています。

■2年がかりの翻訳作業
本書の訳者は、私のほかに、井上邦夫さん(東洋大学経営学部准教授)、伊吹勇亮さん(長岡大学産業経営学部専任講師)、北村秀実さん(関西学院大学経営戦略研究科特任准教授)関谷直也さん(東洋大学社会学部専任講師)、矢野充彦さん(グリーンヒル研究所代表、麻布大学兼任講師)の計6名。そしてワーキング・グループには、全体の用語や表現の統一など実質的な監修に尽力した皆見剛さん(井之上パブリックリレーションズ常務取締役)、矢野充彦さん(同上)、五十嵐正毅さん(早稲田大学大学院商学研究科博士後期課程)の3名。

偶然なことですが、私が最初の原稿(第1章)に取り掛かったのは、ちょうど2年前の2006年9月中旬。米国での調査研究のために、オットー・ラビンジャー(ボストン大学名誉教授)やジェームス・グルーニッグ(メリーランド州立大学名誉教授)、そしていまや唯一現存する、本書原作者の一人であるグレン・ブルーム(サンディエゴ州立大学名誉教授)さん達と面談し、日本に帰国する飛行機の中でした。

パブリック・リレーションズ(PR)はあらゆる個人や組織体で活用されるものですが、体系パブリック・リレーションズは実務家、研究者、学生にとどまらず組織体の経営者にも読んでいただきたい本です。価格は8500円+税ですが、これから皆さんを強化する武器として考えれば、パブリック・リレーションズの幅の広さと奥行きの深さを具体的に味わうこともでき安い投資となるはずです。

これまでパブリック・リレーションズに適当な日本語訳は見つかっていません。あえていうならば、私は「戦略広報」がふさわしいと考えています。日本の企業体では近年、広報部門でコーポレート・コミュニケーションが用語として使われていますが、本書の33頁にも示されているように、パブリック・リレーションズの概念や職務は企業体におけるコーポレート・コミュニケーション(企業広報)の概念と同じであることがよく理解できます。

仕事の合間、休みを返上し莫大な時間を使ってそれぞれの役割を果たされた本プロジェクトにかかわった皆さん、本当にごくろうさまでした。とりわけ基本文献プロジェクト主査として全体の進行役を務め、プロジェクトの責任を果たされた矢野充彦さん、ありがとうございました。

投稿者 Inoue : 08:18 | トラックバック

2008年08月30日

「人間力」は社会を変える

こんにちは井之上喬です。
皆さんいかがお過ごしですか?

日本社会が崩れかかっていることは、このブログでも何度か指摘していますが、年間3万人を超える自殺者、親子殺人、通り魔殺人、幼児虐待、教育界の不祥事そして組織体の不祥事などなど、年々勢いを増すことがあっても減る傾向にありません。これらの問題の根底にあるのは、「人間力」の欠如であるといえます。

先日、私の入っているある会の集まりで、同じメンバーの谷川和穂(元法務大臣、防衛庁長官)さんとお話する機会がありました。半世紀ほどつとめあげた国会議員を辞められた谷川さんが現在力を入れているのは更生保護司という仕事。

その仕事内容については、これまで何度かご本人からうかがっていたのですがピンと来ていませんでした。しかし偶然にも先日、法務省保護観察局が刊行している月刊誌「更生保護」への執筆依頼をきっかけに、更生保護司という谷川さんの仕事がどういうものか分かったのです。

■社会の最端で働く更生保護司
更生保護司は現在全国で約5万人。犯罪や非行をした、年間約7万人の護観察対象者に対して、更生を図るための約束ごと(遵守事項)を守るよう指導するとともに、生活上の助言や就労の援助などを行い、その立ち直りを助けるものです。社会が抱えるひずみや矛盾の中に生きる人に、希望や力を与える崇高な仕事といえます。

更生保護制度は明治中期に民間人がはじめた慈善事業が源流。更生保護司の身分は非常勤の国家公務員ですが無給で実質的には民間のボランティアで、世界に類を見ないユニークな制度です。70歳後半とは思えないぐらいお元気な谷川さんは、全国保護司連盟会長として週末には全国を駆け回っています。

谷川さんは最近の傾向として、2つの胸の痛む話をしてくれました。一つは、これまでほとんど見られなかったこととして、70代の初犯者が出ていることについてです。かれらは経済的な問題を抱え、老後、自力で生活できない人が国の施設の世話になることを期待し犯罪行為に至るようです。先日の渋谷駅の自称79歳の老女による通り魔事件のように、老人が所持金もなく、事件を起こせば生活は警察がなんとかしてくれるというおもいで凶行に走ることなどはこれまで考えてもみなかったことです。
法務省の平成19年版犯罪白書(HP)では、刑法犯認知件数で2002年には戦後最多を記録しその後は減少に転じてはいるものの、10年前(H8年)の246万件から平成18年には287万件と増加。中でも高齢者の犯罪は著しい増加を見せ、平成18年の60歳以上の新受刑者数は、同じ平成8年と比べて2倍以上に達しています。

谷川さんの指摘したもう一つの傾向は、低学歴で収入の低い若者が早婚によりたどりがちなケース。生活苦で高利貸しから借金をし、過酷な取り立てで離婚し一家離散の憂き目にあいます。若い母親はシングルマザーになりますが、低収入のためにアパート代を払うとほとんど何も残りません。生活に追われ養育に手が回らず子供は放置されたまま。その結果、子供は薬物に手を出し非行を繰り返すようです。若者の犯罪が増えている背景にはこのような事情があるのかもしれません。ちなみに、20代前半で1犯目の罪を犯した者の再犯率は41%。20台後半で1犯目の罪を犯した者の再犯率は28%(平成18年)。

■「人間力」とパブリック・リレーションズ
これらの状況に至る要因はさまざまありますが、その根底には人間力の劣化があります。日本の抱えるさまざまな問題を単に社会システムの構造的問題として捉えるだけでは無理があるからです。人間力のベースには「倫理観」があります。倫理観という言葉はよく耳にするものの、なんとなく使用されることが多く、むしろ明確な意味を持って使われることのほうが少ないかもしれません。

倫理観を誰にでも解りやすく端的に言い表すと、「人間の行為における善・悪の観念」で人間力になくてはならないものです。そして人間力をもたらすものは何かというと、それはパブリック・リレーションズ(PR)

また、人間力とは、周囲(パブリック)との関わりの中で自分の道を切り開いて生きていく力でもあります。私たち人間は本質的に「かかわる」存在です。したがって、人間の最も深い体験は他者との関係です。他者とかかわることで私たちは今の自分自身を作り上げています。パブリック・リレーションズは倫理観のある環境で、相手との情報流通が双方向状態にあり、その行為に間違いがあれば、自らを修正しなければなりません。

特に罪をおかした人が更生(自己修正による立ち直り)するとき、社会にこれを受け入れる土壌が必要となります。人間は、完全ではなく罪を犯すものであるという考えに基づいた社会でなければ、更生者が社会での居場所がなくなってしまうからです。

更生保護は、人とさまざまな社会をつなぐ仕事。心と心のふれあいを大切にし、様々な人との出会いから学び向上していくことで社会に役立つ人間を育成します。まさに人間力を強化するパブリック・リレーションズ(PR)が求められているのです。

投稿者 Inoue : 08:39 | トラックバック

2008年08月02日

『体系パブリック・リレーションズ』出版まぢか
 ~Effective Public Relations日本語版

こんにちは井之上喬です。
夏休みもいよいよ佳境に入ってきました。
皆さんいかがお過ごしですか?

昨年2月、井之上ブログの100回記念として、パブリック・リレーションズ登場・発展の地、米国で、最も多くの人に読まれているパブリック・リレーションズの名著 Effective Public Relations (以下EPR: Prentice Hall Business Publishing)を紹介しました。
EPRは1952年の初版刊行以来、半世紀以上にわたり愛読され毎年、数万部もの売上げを記録する大ロングセラー。2006年には第9版(大判全486頁)が刊行。日本では30年以上前に、第4版が『PRハンドブック』の題名で日刊工業新聞社から出版(松尾光晏・訳:1974年)されています。

いよいよ、そのEPR日本語版が来月(9月)上旬に全国の大手書店に並ぶ運びとなりました。邦題は『体系パブリック・リレーションズ』(日本広報学会・監修、ピアソン・エデュケーション)です。今回はEPR日本語版の発刊を前に、出版にいたる経緯や同書の構成、そして私が訳者として担当した第3章:組織体構築と第7章:理論的基盤・調整と適応、第16章:政府とパブリック・アフェアーズについてその内容をほんの少しご紹介します。

■パブリック・リレーションズの「バイブル」
EPRの日本語版発刊を提唱し、監修した日本広報学会(会長:張富士夫、トヨタ自動車代表取締役会長/理事長:境忠宏、淑徳大学教授・学長特別補)は、「経営体の広報・コミュニケーション活動全般について、学術的かつ実践的研究を行うこと」、そして「社会に開かれた経営体のあるべき姿を 洞察し、必要とされる施策の内容を検討し、展開の方法および技法の開発に努める」ことを趣旨として 1995 年に設立されました(日本広報学会HPより抜粋)。
このプロジェクトは、同学会設立10周年を迎えた2006年、記念事業の一環として