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2009年03月28日

私の心に残る本24 『資本主義はなぜ自壊したのか』
 ?中谷巌の懺悔

『資本主義はなぜ自壊したのか 「日本」再生への提言』 中谷 巌著 


こんにちは、井之上喬です。
みなさん、いかがお過ごしですか?

サブプライム・ローン問題に端を発した世界的な経済不況を受けて、その失敗に対する検証があちらこちらで行われ始めています。前回紹介した書籍、『アメリカモデルの終焉』につづいて、今回は中谷巌(三菱UFJリサーチ&コンサルティング理事長)さんが書いた『<資本主義はなせ自壊したのか』(2009、集英社インターナショナル)をご紹介します。

中谷さんは、ハーバード大学留学後、大阪大学、一橋大学の教授を歴任。そして細川内閣や小渕内閣で規制緩和や市場開放を積極的に主張し、小渕内閣では「経済戦略会議」における議長代理として構造改革路線の旗振り役を務めた人。本書では「構造改革」の急先鋒として知られた中谷さんが、アメリカ初の世界同時不況を契機に明らかにされつつあるグローバル資本主義の問題点を指摘し、日本再生への手がかりを見つめ直しています。

■グローバル資本主義、3つの欠陥
中谷さんは第1章冒頭で、自分はなぜ転向したのかを語っています。1969年、日産自動車を休職し、ハーバード大学博士課程留学中にアメリカの大学の教育環境や綿密なカリキュラム、教授陣の顔ぶれ、それらのすべてに圧倒され「アメリカかぶれ」になったとしています。

しかし、その豊かな中流層が中核の米国社会は、80年代初頭レーガン政権によって決定的な変質を起こします。レーガノミックス推進で沈滞化していた経済をある程度成功させるもその後たった30年足らずで所得格差の拡大、医療福祉の後退により、中流階級は消滅したと語っています。

「(グローバル)資本主義は本質的に暴力性を持ったものである。そして、このモンスターを上手にてなずけないかぎり、資本主義は社会を破壊し、人間という社会的動物の住む場所を奪っていく」

1991年のソ連崩壊を機に急速に進んだ市場のグローバル化とインターネットの発達により、 グローバル資本主義が世界中に広がっていきました。安い労働力を提供した中国やベトナムなどの新興国は経済的な発展を遂げ、先進国は投資の収益で潤い、世界はグローバル資本主義に酔いしれました。

しかしそこには本質的な欠陥があったと中谷さんはいいます。中谷さんはそれらの欠陥に、1)世界金融経済の不安定化 2)格差の拡大 3)地球環境の破壊の3つを挙げています。

その中で中谷さんは、世界経済の不安定化の要因は、バブルの生成と崩壊にあると述べています。グローバル資本主義に内在するこの機能によって、巨大なバブルの崩壊は引き起こされ、いま世界経済は未曾有の大不況に苦しんでいるとしています。

2つ目の本質的欠陥は、強者がすべてを獲得するグローバル資本主義が、格差拡大を生み出し、健全な中流階級を喪失させ社会の二極化を生み出したと分析しています。ここで中谷さんは、平等社会と謳われた日本も、米国の後を追いかけた結果、いつの間にかアメリカに次ぐ世界第2位の「貧困大国」に転落した事実を指摘。 そして彼は、そのような状況下で日本の「安心・安全」が急速に失われていると訴えています。

最後の地球環境破壊に関しては、地球環境を顧みずに開発を進めた結果、環境汚染を加速させていると述べています。そして中谷さんはこれら3つの傷は、世界が、責任と義務を無視して自由と富を追求した結果、資本主義が暴走しモンスター化したことでつくられた負の遺産であるとしています。

さらに中谷さんは4章と5章で米国の成り立ちを歴史的に俯瞰し、個人主義や知恵のあるものが社会を支配するシステムなど、グローバル資本主義の基底となっている国の成り立ちを分析しています。

■安心、安全を世界に
「今後日本がとるべき方向性は圧倒的に『環境分野』での貢献だと考える。『環境のことなら日本に聞かなければいけない』というところまで、国を挙げて打ち込むのである。(中略)10年もすれば世界は日本こそ救世主になると評価してくれるはずである」。中谷さんのこの考えには私も全く同感。

中谷さんは、新自由主義的改革においては市場至上主義がさまざまな副作用を生んだとして、日本のよき文化的伝統や社会の温かさをとり戻す独自の再生の道を説いています。日本の地域や文化、気質に根ざした改革として、「安心・安全」をキーワードにあげ、世界に向けては日本の自然観である「共生の思想」をもとに環境立国の実現を説いています。

国内の安心・安全の実現には、人と人との連帯感が感じられる、地域に根ざした再生発展が必要と説き、地方分権することで行政単位を小さくすれば、国民の幸福感を実現できるシステムの構築が可能となるのではないかとしています。

中谷さんは税制は高くても、徹底した福祉で国民の安心感と安定感を実現している国としてスウェーデン、ノルウェーなどの事例を取り上げ、富の再分配の実現へ向けて税制改革の必要性を述べています。また中谷さんは、国の経済的な豊かさは低くても国民の幸福感を実現している国としてキューバやブータンを紹介し、市場至上主義に改めて警笛を発しています。

中谷さんは「自由には規律が必要である。規律なき自由は無秩序をもたらす」と論じています。規律を失った自由は制御を失いやがてどこかで崩壊します。パブリック・リレーションズ(PR)で言えば、規律とは倫理観のこと。倫理観不在で人が欲望のままに走り続けたら、多様性を抱合する共生は困難を極めるはずです。

ここでいう倫理観は、最大多数のための最大幸福を実現させようとする「功利主義」と、困っている人がいたら、たとえ嫌であっても救いの手を差し伸べなければならないと説く「義務論」が補完関係にある倫理観。

本書は、格差や貧困を生み出し、環境を破壊する近年のグローバル資本主義を批判するだけでなく、人を幸せにする改革とは何かを模索しています。本書で語られる中谷さんの告白は、ほぼ同時期にパブリック・リレーションズ(PR)の専門家として多くの海外企業の日本参入を支援してきた私の心に深く染み込んできます。大変に読みやすく、内容的にも興味深いものです。是非手にとってみてはいかがでしょうか。

投稿者 Inoue: 09:23 | トラックバック

2009年03月21日

『体系パブリック・リレーションズ』を紐解く 10
 ?事例に見る企業の社会的責任(CSR)

こんにちは井之上喬です。
桜の開花情報が聞かれる時節となりました。皆さんいかがお過ごしですか?
今週は、『体系パブリック・リレーションズ』Effective Public Relations (EPR)第9版の邦訳:ピアソン・エデュケーション)をご紹介します。EPRは米国で半世紀以上のロングセラーを記録するパブリック・リレーションズ(PR)のバイブル的な本、日本語版は昨年9月に発売されました。

今回は、第15章の「事業および企業におけるパブリック・リレーションズ」(北村秀実訳)の中から企業の社会的責任(CSR)に関する2つの事例を紹介します。ひとつは環境問題をテーマにした事例で、もうひとつは児童労働問題に関するものです。

■BPの温室効果ガス排出削減計画
本書では、「多くの企業は、何十年もの間、書面にまとめられた経営哲学を守ってきた。」と語っています。そして、「それらは『コア・バリュー』と呼ばれたり、ジョンソン&ジョンソンのように『我が信条(Our Credo)』などと呼ばれるものである。2001?2003年に相次いだ企業の不祥事騒動の後、多くの企業は、最善の事業行動の指針となる新しい行動規範またはガイドラインを作成してきた。」としています。

続いて、「しかし、極めて重要な質問は、企業がこれらの規範に違反した場合にどう対処するのかである。『厳しい試練』としばしば呼ばれているとおり、企業が実際に苦渋の選択に直面するのは、行動規範に直接抵触する行為に気づいた時である。組織として何をするのか?その選択肢として考えられるのは、コンプライアンス違反の行為を即刻中止する、違法行為および(または)その疑いのある行為に関与した従業員を解雇する、規範の重要性を明示するための具体的な手立てをとるなどが考えられる」と規範に抵触した際の企業のとるべき態度が述べられています。

そして本書では、上述の「厳しい試練」に直面した事例としてBP(旧社名:ブリティッシュ・ペトロリアム)を紹介。

「BPは石油・ガス業界において、ある種謎めいた存在である。同社は、すばやく決然とした行動をとり、他の企業であれば、避けたいと願うような組織体と関係性を育み、石油・ガス業界に関して一般大衆が持つ負のイメージに対処することさえ躊躇しない。例えば、地球温暖化問題について、大半の石油会社は信頼できる科学的データの欠落した玉虫色の概念だと言及している。」と科学的データの信憑性についてのBPの疑問を提示。

そして、「しかし、BPは、同社が地球環境に及ぼす影響について議論するため、特に影響力があり、地球温暖化、天然資源の持続可能性などが関連するイシューに重点的に取り組む非政府組織(NGO)との討論の機会を模索している。」とBPが温室効果ガス排出削減計画に積極的に取り組んでいる姿勢に触れています。

また、「BPのジョン・ブラウンは、自社が地球環境に及ぼす影響を認め、温室効果ガスの排出削減計画を実施した石油業界初のCEOであった。新たな対話の結果、その他の成果も示し始めた。エクソンモービルなどの企業が、より確かな科学的裏付けがともなわないまま改善にとりくむことに消極的であるのに対して、BPは環境にやさしい石油企業としての評価を着実に固めつつある。」と科学的データの真偽に関係なく取り組む、BPの社会的貢献について紹介しています。

■児童労働虐待防止プログラムへの支援
もう一つの事例はイケア・コーポレーション。スウェーデンの家具会社で、CSRに早くから果断に取り組む姿勢を示し、各方面から注目を集めていると本書で紹介されています。

また本書では、「イケアが初めて遭遇した激しい批判の発端は、納入業者がそれぞれの国で幼い子供を雇用していたという児童労働問題だった。そのひとつが、機織り機につながれていたパキスタンの子どもの事件である。イケアはその告発を調査するため、絨毯事業のマネジャーをパキスタンに派遣した。その事業マネジャーは、同国に到着するやいなや、当該納入業者との契約を打ち切った。」と児童労働問題について同社の厳しい姿勢を示しています。

そして、「その後もイケアは迅速に、あらゆるイケア製品に児童労働が関与することを禁止する条項を納入業者との契約書に追加した。さらに、イケアではコンサルティング会社を使って納入業者がこの新方針を順守しているかどうかを監視している」。

その後イケアは、国連児童基金(ユニセフ)や国際労働機関(ILO)、個別の組合を訪問し、児童労働問題に対して様々な解決策を探っています。同社は数カ月の間に、児童労働虐待防止プログラムを支援するため50万ドル以上を拠出したといわれています。

家計を支えるため学校にも行かずに働く児童は、先進国ではほとんど見られませんが、アジア、アフリカ、中南米などの発展途上国では、いまだに多くの子どもたちが過酷な条件下で就労しています。国際労働機関(ILO)の推計によれば、世界中の5歳から17歳の子どものうち、およそ2億1,800万人が就労しているといいます。

ここで紹介した環境問題と児童労働問題の事例は単なるCSRとしてだけでなく、今後、政・官・民が一体となってグローバルに取り組まなければならないテーマのほんの一部にしかすぎません。

CSRは多くの企業が積極的に取り組んでいます。フィリップ・コトラーによると、理想的なCSRは企業が本業を活かしその枠組みの中で自主的に実現すべき社会貢献としています。スイスに本社を置く、製薬会社のノバルティスはコトラーの言うような理想的なCSR行っている会社といえます。実に全社の売上高(2008年:約415億ドル)の3%をCSRに使っているとされています。

同社は途上国援助の一環として、マラリア治療薬を原価で提供したり、熱帯病の研究所をシンガポールに設立したり、また高額な白血病の薬を米国など先進国の低所得者の患者支援に提供するなど、その社会貢献活動は他を圧倒しています。

パブリック・リレーションズ(PR)の実務家はこうした領域にもっと踏み込み、コミュニケーションのプロブレム・ソルバーとしても寄与していくことが強く望まれます。

投稿者 Inoue: 09:00 | トラックバック

2009年03月14日

家族力大賞 ’08?地域社会で「つながり」を広げよう

『家族力大賞 ’08?地域社会で「つながり」を広げよう』


こんにちは、井之上喬です。
皆さん、いかがお過ごしですか。

先日、「家族力大賞 ’08」(エッセイ・コンテスト)の授賞式が京王プラザホテルで行われました。このコンテストは、東京都社会福祉協議会(古川貞二郎会長)が家族や地域社会との関係性を、よりよい社会実現のために強めるようとするために2007年度より開催。「家族力大賞」は前会長でAFLAC(アメリカンファミリー生命保険)最高顧問の大竹美喜さんが、崩壊する地域社会や家庭に力を与えたいとの強い思いが込められています。

第2回目の今年は、地域社会でどのように「つながり」を広げていくのかをテーマに、応募作品の中から15作品が入賞しました。前回と同じように、授賞式では選考委員会(委員長:金子郁容慶応義塾大学大学院教授)のメンバーの間で誰がどのエッセイを書いたのか、当日初めて体面する作者とその作品を結びつけることも楽しみ。今回は、選考委員の一人として関わった私の心に残った2作品を紹介したいと思います。
  
■戦災を免れた京島での交流
最初の作品、「ヘンクツ顔はムスビの顔」(東京新聞賞)は29歳の青年後藤大輝さんが、東京大空襲の災禍を逃れた町、墨田区京島に仲間と三人で移り住みそこでの世代を超えた交流を描いた作品。後藤さんは映画作家で、他の二人はアーティストにミュージシャン。

2007年6月、京島で空家を安く借りられることを聞いた後藤さんは、商店街のはずれにある木造長屋に住む名乗りを上げます。入居の条件は、家と町の雰囲気を残し、自分たちの手でリフォームを行うこと。外観からは想像できないほど頑強な木の梁を持つ建物は、関東大震災後の築80年の家。木材の間からは昭和21年や昭和40年当時の新聞紙がでてきて繰り返される修復・改装の歴史を知ることになります。

トイレットペーパーが転がるほど傾いていた二階(和室)の壁を壊し、ドライバーや電動丸ノコを使い広いフローリングに仕上げます。冷房などない、トタン屋根の暑い夏の海パン姿での作業。やがて近所の人たちが立ち寄ってきます。職人の町といわれている京島の住民は人懐っこい。しかしこの町の抱える問題も見えてきます。それは高齢化、少子化。

「昨年の8月頃。僕たちが住む家を知り合いのおばあさんが訪ねてきた。ふとした会話の中からその話は出てきた」。あるとき後藤さんは町の人たちから頼みごとをされます。そして、東京で唯一の商店街による主催の文化祭へ参加し、映像を創ることになります。

彼が決めた映像の題目は「町の昔、あなたの昔」で、15人の老人へのインタビューをビデオ撮影し、昔の街の回想とそれぞれの人生の回顧を合わせる一方、「町の今」として京島の子供たち自身にカメラを持たせ、現在の街で見えるものを子供の視点で撮影させ、一本の映像作品として繋いでいくもの。引退した鳶の親方、91歳の現役のチンドン屋さん、金属工芸店の店主などが語る内容は、私たちにノスタルジーを感じさせてくれます。

後藤さんが、いかに京島に魅せられたかを見事に表現している個所がエッセイの最後に出てきます。
映像の発表会が終わった後、「急にガランとした会場を片付けて外に出ると、すっかり、日も暮れていた。京島の商店街は早くに閉まる。シャッターが既におりた通りを家に帰る途中で、尻をパチンと蹴られた。撮影に参加してくれた子供の中でも一番やんちゃな小僧が走って逃げいく。急に振り返って、僕の顔を、しっかりと見て。『ここ、オレの町!』と宣言すると、またパタパタと忙しく逃げていく。木枯らしが吹いて、すっかり冬だなと思って、それでも、なぜか全然寒さは感じなくて、ふと、この先、この街で老人になるのもいいかな、とそんな事を考えた。」

受賞会場で後藤さんに京島の現状を聞いたところ、空家が年々増えているそうです。後藤さんは京島とその周辺の町がさびれゆくのを憂い、仲間に呼びかけ、町おこしをやっているそうです。今では後藤さんを含め10人ほどのアーティストやダンサー、写真家、ITコンサルタントそして京島で知り合い結婚した画家とアーティストの若い夫婦。また役者やジャズ・ピアニストなど、この地に魅かれる若者が新しい住民として生活しています。

このエッセイには、新しい世代の若者が古い街に魅せられ周囲に溶け込んでいく、透明で爽やかな感じがかもし出されています。京島での出来事は、理想的な地域活性の形なのかもしれません。

授賞式の当日、後藤さんは参加者全員にその一部を見せてくれました。京島に住む人々のエネルギーあふれる映像は、観客を惹きつけるのに十分で、本篇への期待を膨らませてくれました。4月中旬、京島でこの90分映画が初上映されるそうです。どのような作品に仕上がったのか、今から心待ちにしています。

■「しっかりと生きればいい」
「私は行き詰っていた」から始まる藤山恵子さんの「しっかりと生きればいい」(東京都社会福祉協議会会長賞)は、訪問先のおばあさんから生きることを教わったことを書き綴った作品。そこには、資格や経験もなく自分自身や家族ともうまくいかず、どうにもならない状態にあった時、目にとまった有償ボランティアの会員募集に応募し新しいかかわりを持とうとする作者の姿が見えてきます。年老いたおばあさんとの交流を抑制のきいた文章で描いています。

社会福祉協議会に行き、一通り説明を受けた後にボランティア登録した藤山さんは、80歳を超えたおばあさん(ヒサさん)を紹介されます。おばあさんは90歳になる寝たきりのおじいさんを自宅で介護しています。おばあさん自身も足が悪く、思うように動けない状態。でも、おじいさんのオムツ交換、食事の世話など日常のことはおばあさんが世話をしていたのです。

「こんにちわ」。藤山さんは、週に一度おばあさんの家を訪ねることになります。おじいさんの介護で手が回らなかった室内の掃除の担当です。1カ月が過ぎた頃おばあさんは、掃除をほどほどにさせ、藤山さんに布団を差し出し語りかけます。

「この間ね、おじいさんが言うのよ。同級生もほとんどいなくなり、オレ一人になってしまったなって。だから言ったの。人は、生きている間は、しっかり生きればいい。それだけでいいのよって。そうしたら、そうだな。オレはヒサ、お前がいて幸せだって。そう言ってくれたのよ。」藤山さんは、色々あったであろうおばあさんの人生に思いを馳せながらも、おばあさんの顔に満ちあふれる自信をみてとるのでした。

それから訪問しても掃除をすることなく、おばあさんは藤山さんを話し相手に求めます。夏になり、おじいさんの容態が変わり入院することになります。おばあさんは小さな手を握り締めて、涙を浮かべながら自分の不注意を責めます。

そしておじいさんが亡くなります。
「おじいさんがいなくなり、藤山さんにも来ていただくことも、なくなると思います。いままで、ありがとうございました」。藤山さんはおばあさんから頭を下げられます。戸が開いていたおじいさんの部屋には、見てくれる人がいない花の絵と、空になったベットが目に入り、藤原さんにはその部屋の様子が、おばあさんの心そのもののように感じます

「私が、ヒサさんの家に行くことはなくなった。しかし、どうしてもヒサさんのことが気になり、車を走らせた。いつものように『こんにちわ、藤山です』と、大きな声を出したが、応答はなかった」。ガラス越しに中の様子が見え、片付けられた部屋に、よく着ていたカーディガン。おばあさんのしっかりした暮らしぶりに藤山さんは安心します。しばらくしてまた訪問します。「こんにちわ」「はーい」ガラガラと玄関を開け「藤山です、こんにちわ」姿を見せたヒサさんは、藤山さんの手を握りしめ喜びます。

おばあさんは、藤山さんがプレゼントしたぬり絵や昔習った大正琴を披露するのでした。
藤山さんは、「私は、何に行き詰っていたのだろうか。『何があっても、その時はしっかりと生きればいい、それだけでいい』」おばあさんとの出会いは藤山さんの心にそのような言葉を刻みつけるのでした。
人は関わり合いの中で救われていくことが自然に言葉に表れた秀作。

この2作品以外に、5年前にお手玉の会をつくり普及に努めるご夫婦の話で、鈴木幸子さんの「お手玉で輪・和・笑(ワ・ワ・ワ)」や何十年も家族誌を出版し続けるある家族の話で、肥後智恵子さんの「家族誌『いけがみ』を出した」など、多くを紹介できないのが残念です。

ここですべての作品に共通するのは、困ったときにそこで立ち止まることなく、新しい関わりを求めて行動することの大切さです。物事に行き詰ったときに、行動すると新しいものが見えてきます。人は、新しい関わりの中で、新しい幸せを見つけ出すことができることを示しています。
パブリック・リレーションズ(PR)は「関わり」や「絆」をつくっていくことでもあるのです。


*上の写真の作品集『家族力大賞 ’08?地域社会で「つながり」を広げよう』には、15編の作品が紹介されています。東京都社会福祉協議会が発行元です。非売品ですが、50冊程度であればプレゼント可能だそうです。興味をお持ちの方は連絡してみてはいかがでしょうか。
Tel:03-5283-6894
Fax:03-5283-6997
e-mail: tomin-kigyou@tcsw.tvac.or.jp

投稿者 Inoue: 09:00 | トラックバック

2009年03月07日

迷走する政治
 ?政治システムを変えるチャンス

こんにちは井之上喬です。
皆さんいかがお過ごしですか?

3月3日、小沢一郎民主党党首の第一公設秘書が、政治資金規正法違反の容疑で逮捕されました。資金管理団体をめぐる違法献金事件で小沢代表が検察との全面対決を宣言するなど、多くの問題を抱えた自民党から舞台は一転して小沢代表と民主党に変わったかの様相を呈するものの、その後の政府高官発言で、与党自民党の捜査関与の可能性について批判が高まり複雑な事態に進展しています。

1982年、中曽根首相誕生から2008年9月麻生政権誕生までの25年と10カ月あまりの間で、実に15名の首相が誕生・交替しています。特に小泉政権後の政治は迷走状態にあるといえます。今回は日本がこの問題に今後どのように取り組むべきかについて考えたいと思います。

■問題は自民党から民主党へ移るのか?
今回の逮捕劇は、麻生政権の支持率が10%を割りかねない危機的状況にあった与党自民党を勢いづけたかのようにみえますが、政局は自民党から一転して小沢代表と民主党に移ったのでしょうか?小沢氏を支持する民主党執行部は苦境に立たされる中、政治不信は増大するばかりです。

しかし3月5日、政府高官による「自民党議員に波及する可能性はないと思う…」発言で、民主党の鳩山由紀夫幹事長は6日、今回の逮捕劇に疑念を呈しています。つまり、自民党には及ばないことを政府筋が明かにしていることは、政府筋と検察の間で何らかの約束事(できレース)が存在しているのではないかと指摘。その後メディアは、2つの政治団体が小沢代表の資金管理団体「陸山会」以外にも、自民党の二階経産相、尾身元財務相、森元首相にも献金していたことを取り上げ混乱状態。

特に政府の捜査関与の可能性については批判が高まる一方。問題の政府高官が官僚トップで元警察庁長官の官房副長官であることも判明し、官僚との全面対決を目指す民主党への意図的な行為の可能性が指摘されています。

現在の官僚システムを変えようとする民主党、一方、維持する側に立つ政権与党の自民党の対立構造を考えたときに、選挙に向けて両党が臨戦態勢にあるこの時期、「発信源が官僚トップ」とする話が事実だとすれば、心底ゾーッとするものを感じます。

■企業・団体献金全面禁止へ
現在、共産党以外の政党は「政党交付金(国会議員5名以上、もしくは国政選挙での得票率が2%で国会議員最低1名在籍)」を受け取っています。議会制民主政治における政党機能の重要性にかんがみ、平成6年の選挙制度及び政治資金制度の改革と軌を同じにして、国による政党への助成制度を創設したもの。

平成20年9月12日付けの総務省の発表資料には、平成19年度の寄付収入の内訳は、政治団体の寄付が152億円で最も多く、以下、個人の寄が48億円、法人等の寄付が39億円の順で個人の寄付は全収入の約5分1とまだ少ないのが現状。毎年の政党交付金は国民の税金で賄われており、その総額は直近の国勢調査人口に250円を乗じて得た額を基準として予算で定められ、年間約300億円。

企業と政治の癒着は古くからある話。企業や団体献金は法整備上完全なものにするには多くの問題があるようです。企業とのしがらみを断ち切るためには思い切って企業・団体献金を廃止することも重要な選択肢といえます。

その場合、期待されるのは個人献金。米国の大統領選でオバマ陣営は、インターネットでの個人からの小口献金で、2年間に米国選挙史上最大の6.5億ドル(約650億円)を集めたことが明らかにされています。この数字は、史上初の黒人大統領がSNS大手のフェイスブックなどを通して学生など若者層から史上最大の募金を行った結果の数字。

日本で政治家個人への個人献金で簡便な方法として考えられている、クレジット・カード支払いの現状は楽観的ではありません。知り合いの政治家によると、個人の政治家にとって、クレジット会社と交渉し決済システムを構築しても、それに見合うだけの献金がなく、ほとんどのケースでカード支払いは行われていないとのことです。それでは思い切って各政党が、共同で登録された政治家への個人献金を受け付ける決済システムを構築し、政治家個人に負担がかからないようにしたらどうでしょうか。今後真剣に考えるべき問題かもしれません。

また思い切って政党交付金を国民一人あたり倍の500円に増額したらどうでしょう。政治の透明性が飛躍的に増し、企業との癒着で使われる不要な税金が大幅に節約できものと考えます。

私たちは変化の中にも現実的で表面的なものに振り回されることなく、大切なものを保持しなければなりません。大きなうねりの中にも動くことのないポイントがあるはずです。そこに本質をみつけることができます。「思想と技術」を伴ったパブリック・リレーションズ(PR)は、不動の本質を見失い迷走させることなく、混迷の中にあっても、確信に満ちた変革を成し遂げることを可能にするはずです。

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