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2009年01月31日

『体系パブリック・リレーションズ』を紐解く 8
 ?ロビー活動

こんにちは井之上喬です。
皆さんいかがお過ごしですか?
今週は、『体系パブリック・リレーションズ』Effective Public Relations (EPR)第9版の邦訳:ピアソン・エデュケーション)をご紹介します。EPRは米国で半世紀以上のロングセラーを記録するパブリック・リレーションズ(PR)のバイブル的な本で、日本語版は私も翻訳メンバーの一人に加わり昨年9月に発売されました。

前回ブログでは、アメリカ合衆国の第44代大統領に就任したオバマ氏のスピーチをパブリック・リレーションズの視点から分析しました。今回は、ホワイトハウスに新しい主を迎えたワシントンでのロビー活動について、第6章「法的考察」(矢野充彦訳)の中のロビー活動(190ページ)に絞って紹介します。拙著『パブリック・リレーションズ』(2006、日本評論社)でも、「ガバメント・リレーションズは、組織体が事業や組織の活動目的を達成するために、政府や行政との関係を通じて情報収集、ロビイング(ロビー活動)やセミナー・討論会などの集会を行い、メディア・リレーションズをも含めて幅広く行う活動のことである」とし、ロビイングがガバメント・リレーションズで果たす重要な役割を記しています。

■政権交代で3,000人が異動
オバマ政権の発足でワシントンに駐在するロビイストにとって大忙しの時期がやってきました。自動車業界や金融業界などの依頼を受けた多くのロビイストが忙しく駆け回っています。

通常、ロビー活動は特殊能力を有する者が従事し、ロビイストと呼ばれます。ロビー活動が盛んな米国では3万人を超えるロビイストが存在。特にビジネス界・産業界が積極的で500 以上のアメリカ企業と、3,000以上の通商団体がワシントンにガバメント・リレーションズのオフィスを持っています。

『体系パブリック・リレーションズ』でも「ロビー活動はパブリック・リレーションズの実務で最も急成長した専門分野のひとつである」と述べられています。パブリック・リレーションズの多くの実務家がこの分野で活躍し、ロビー活動は他のパブリック・リレーションズ活動と連携、統合されてさらに効果を高めることになります。

政権が交代すると米国ではワシントンDCでは約3,000人もの人事異動が行われるといわれています。日本では大臣の退任にともない各省庁のポストが大幅に入れ替わるといったことはありませんが、米国では各省庁の課長レベル以上の役人はすべて交代となります。したがってロビー活動の成否が企業経営に深く影響してきます。

■厳格な制約:連邦ロビー活動規制法
本書では、政府に対するパブリックの信頼を守るために、ロビイストへのいくつもの厳格な制約や開示要件などが細述されています。例えば、組織体のために働くロビイストは、1946年連邦ロビー活動規制法の第?章に基づき、自身の活動を開示する義務が課せられています。ロビイストは、議会に登録し、四半期ごとのロビー活動による支出と収入の詳細に記録された決算書の提出を行い、立法に影響を与える目的でロビイストが発表した記事や論説文を報告しなければならないとあります。

また連邦議会は、ロビイストについて「クライアントに雇用されたか、委任を受けた者で、6カ月の間にクライアントを代表して複数回コンタクトを図り、自身の時間の少なくとも20%をクライアントへのサービス提供に費やす人物である」と明確に定義。同時に、1995年ロビー公開法を制定し、制約や開示要件について更新しました。

さらにロビイストやロビー活動を行う企業は、上院事務総長および下院書記官に登録し、氏名、住所、ビジネスの場所、自身のビジネスの電話番号、クライアント名、および登録者がロビー活動を行った6カ月の間に1万ドル超を寄付した人物を報告しなければなりません。また、クライアントから支払われた金額やロビー活動のために支出した金額明細を年2回提出する必要があります。

このロビー活動法は、非営利の慈善団体や教育機関、その他の免税組織にも適用され、特にロビー活動に従事するNPOは、連邦からの補助金や賞、受託契約、ローンの供与までも禁止するという厳格さです。

本書では1938年の外国代理人(エージェント)登録法(FARA)を紹介。「外国の依頼者」のために働くパブリック・リレーションズの実務家についても全員、米国の政府職員を対象にロビー活動をするかどうかに拘わらず、米国以外の政府や企業、または政党のエージェントとして働く人に対し、10日以内に米国法務長官へ登録することを義務づけていると述べています。

日本ではかってロッキード事件に登場した児玉誉士夫による政界工作により、ロビイストのイメージには「黒幕」、「影のフィクサー」といった胡散臭いイメージが長年形成されていました。しかし米国では本書に示されているように、厳格な制約や開示要件を設けることで、あらゆる企業・団体をはじめ州政府や外国政府を含めた多くの組織体がロビイング機能を有効に活用し、政府に対するパブリックの信頼を勝ち得ています。

ロビー活動で最も重要なことは倫理観。国の政策や法律に不正な影響を与えることは許されないからです。日本では現在ロビー活動の法的規制はありませんが、健全なロビー活動を実現するためには、登録制とし、正攻法でロビイングを行うことで、いつでも情報の開示ができる環境を作る必要があります。これにより消費者や国民へのロビー活動に対する情報開示が透明性を増し、政治が開かれたものとなっていくはずです。

投稿者 Inoue: 09:02 | トラックバック

2009年01月24日

オバマ新大統領就任演説
 ?パブリック・リレーションズで診る

こんにちは井之上喬です。
皆さんいかがお過ごしですか?

1月20日、「変化」を求める米国民と国際社会の大きな期待を担って、ワシントンの連邦議会議事堂前でバラク・オバマ氏がアメリカ合衆国第44代大統領に就任しました。約200万人の聴衆を前に宣誓と就任演説が行なわれ、その後4万人が警備する中、ホワイトハウスへのパレードでは、「オバマ!」コールで沿道が埋めつくされました。

彼のスピーチは21分。その内容は実に多彩で感動的なものでした。スピーチ内容からは彼が目指すものが見えてきます。今回は、パブリック・リレーションズ(PR)の視点でみたオバマ・スピーチを分析します。

■すべてのターゲットを気に留めた
スピーチは全体として米国民向けのもではあるものの、原稿には彼がターゲットとする主要なパブリックが網羅されていました。ちなみにスピーチライター(首席)のジョン・ファブロー氏は弱冠27歳。

紙面の都合で詳細は避けますが、オバマ大統領のスピーチの中には、サブプライムで家を失った人たち、職を失った人たち、倒産した企業、医療保険に入れない人たち、教育関係者、また、実体経済を支える生産者(労働者)、IT関係者、医療関係者、新エネルギー開発関係者、イラク・アフガンに派遣されている米軍人。

そして、イラク、アフガニスタンなどイスラム国の国民と指導者、キリスト教徒、イスラム教徒、ユダヤ教徒、ヒンドゥ教徒、外国政府では、名指しこそしていないものの、ヨーロッパ、日本などの同盟国、これまで敵対していた、イラン、ロシア、北朝鮮などの政府首脳など。実にきめ細かいターゲットに対しそれぞれのメッセージが準備されていました。

特に、対テロ、対イスラム諸国へのメッセージの具体的手立てとして、朝日新聞の1月22日付朝刊は、オバマ大統領が20日の政権発足当日、直ちにテロ容疑者を収容しているキューバのグアンタナモ米海軍基地収容所、及び併設されている特別軍事法廷の閉鎖への見直しをゲーツ国防長官に命令したことを伝えています。間をおかず1月22日、これらの1年以内の閉鎖を命じる大統領令に署名しました。オバマ氏のこの迅速な対応は、新政権がいかにイスラム諸国との新しい関係づくりを外交の最優先課題にしているかを物語っています。

■織りなす功利主義と義務論
オバマ新大統領のスピーチには、全ての国民が享受されるべき権利と義務について言及されています。パブリック・リレーションズの視点でみると、個人や組織体の行動規範としての倫理観である「功利主義」と「義務論」が織り込まれていることがみてとれます。

スピーチの冒頭にある、「すべての人は平等で自由、そして幸福を最大限追求する機会が神からの賜物として約束されている….」は、「最大多数のための最大幸福」を提唱する功利主義思想がその根底に流れているとみることができます。

また、スピーチの後半には、米国が建国以来、精神的な支えとしてきた真理に立ち返るよう訴えています。これらには、「今私たちが求められているのは、新たな時代の責任。一人ひとりの米国人が自分自身や米国、そして世界に対して責務があることを認識することで、その責務をいや嫌受け入れるのではなく、むしろ困難な任務に対しすべてを投げだして引き受ける….」、また、「最も暗い困難を乗り切るのは、堤防が決壊した時に見知らぬ人を迎え入れる親切心であり、友人が仕事を失うのを傍観するのではなく自分の就業時間を削る労働者の無私の心である。」などのメッセージがあります。これらのメッセージには、「困っている人がいたらたとえ嫌であっても助けの手を差し伸べなければならない」とする「義務論」的な行動の必要性が強調されているといえます。

オバマ大統領のスピーチには、空前の経済危機に直面する米国民に対して、米国再生のために共に手を携え目標達成のために頑張ろうとする「義務論」的な内容が多かったようにみえます。しかし彼のスピーチは、米国民にとどまらず、全世界の人々に対して語りかけたものといえ、倫理的行動の必要性を強く訴えていることが分析できます。

ちょうど2年前、訪問先ワシントンのホテルのTVで初めて聞いたオバマ・スピーチ。新大統領のスピーチには彼が目指す方向性が明確に見て取れます。スピーチ内容はもとより、目標設定やそれぞれの対象(ターゲット)となるパブリックの心を掴む多様なメッセージ。対話を通した双方向性をもったコミュニケーション姿勢、それらのどれをとっても戦略性と緻密性を感じます。まさに天性のPRパーソンといえます。

彗星のように登場し、大統領の階段を駆け上がったオバマ大統領。彼の一挙手一投足を世界の人たちはいま固唾をのんで見守っています。混沌とする世界にあって、米国のリーダーとしてだけでなく、世界のリーダーとして、その高い役割が期待されるオバマ氏の任務が無事に完遂されることをただ祈るばかりです。

投稿者 Inoue: 09:00 | トラックバック

2009年01月17日

井之上ブログ 200号記念号

「絆(きずな)」
 ?日本文化とパブリック・リレーションズの接点

こんにちは、井之上喬です。
皆さん、いかがお過ごしですか。

日本社会にパブリック・リレーションズ(PR)を根付かせたいとの一念で、2005年4月に始めたこのブログも今回で200号を迎えることになりました。週一度のペースで発行してきた井之上ブログ。読者の皆さんには、いつもご愛読いただき誠にありがとうございます。これからも緊張感を持って発行に臨んで参る所存です。

私たち人間は本質的に「かかわる」存在です。ですから、人間の最も深い体験は他者との関係です。他者とかかわることで私たちは今の自分自身を作り上げているといえます。パブリック・リレーションズは「リレーションズ活動」、つまり「関係構築活動」です。私はこれまでパブリック・リレーションズを日本の初等教育に導入する際、具体的にどのような教育内容にすればいいのか、これといったいいアイディアが浮かびませんでした。パブリック・リレーションズを表現する適切な日本語を見出すことができなかったからです。特に子供たちには難解な「関係構築活動」を、別の言葉に置き換えられないものか頭を悩ませていたものでした。しかし最近一つの言葉が私を捉えたのです。それは「絆(きずな)」です。200号記念の今回は、パブリック・リレーションズと日本に古くから醸成されている「絆」についてお話したいと思います。

■日本でも大切にされてきた「絆」
最近、社会福祉関係の仕事にかかわる機会が多くなっていますが、答えはそこにありました。特に地域社会や家庭崩壊の問題が顕在化している中で、NPOやNGOでは、地域社会での活動を行うときに、たびたび「絆」という言葉が使われています。家族の絆、親子や兄弟との絆、地域との絆、社会との絆、このように「絆」という言葉は日本社会でも古くから使われていた言葉といえます。

大辞林によると、「絆(きずな)とは、 家族・友人などの結びつきを、離れがたくつなぎとめているもの」とあります。それでは「絆」のある状態や環境とはどのようなものなのでしょうか?そこには、「誠実、信頼、気づかい、助け合い(相互利益)、双方向コミュニケーション、友愛、謙遜、道徳、自らの非を認める、間違っていたらお互いが修正できる」など強い結びつきから派生して多くの言葉が頭に浮かんできます。

日本にはこれまで社会が育てていた「絆」や「絆づくり」を学べる環境があったといえます。しかし戦後の高度成長とITの進展にみる急速なグローバル化は、日本の社会システムをも変化させ、地域間の経済や情報格差は地域社会の崩壊をもたらし、核家族化にみられるような人間関係の希薄化が進行しています。終身雇用制により守られてきた企業社会も非正規雇用者が全体の3分の1を超え、不況による突然の解雇などにより様々な深刻な問題が噴出しています。こうした中で「絆」という言葉は、私たちの日常生活から遠い存在になりつつあります。

かって、私たちが大切にしてきた「絆」が、多方面で切れかかっている現状を目にするたびに胸を締め付けられます。私たちは、社会が長い年月をかけて作り上げてきた「絆づくり」の環境を再生させなければなりません。

母子家庭も増え、多くの子供たちは、放課後、塾に通わなければならず、自らが積極的に人間関係を学ぶ機会が喪失しています。地方自治体が地域コミュニティづくりに注力するのもこうした背景があるものと考えます。そんな時代に生きているからこそ、私たちには、意識して「絆」を育てる努力が求められているといえます。

■絆(Kizuna)づくりはパブリック・リレーションズ
私たちは、これまでと違い、意識することで社会にどのように「絆」を作り育てればいいのかを考えなくてはなりません。「絆づくり」を、他の言葉に置き換えると、「関係構築活動」とすることができます。「関係構築」という言葉は、子どもの世界には似合いません。したがって、小学校、中学校においては、パブリック・リレーションズの概念を伝える際は、「絆づくり」という言葉に置き換えるとしっくりきます。

こうしてみると「絆づくり」はその真髄においてはパブリック・リレーションズそのものということになります。これまでの社会でありがちな受け身の姿勢ではなく、前向きに、「目標達成のために、いろいろなところとの『絆づくり』を行うこと」そこには、「倫理観、双方向コミュニケーション、自己修正がある」ことが、子どもたちにとってのパブリック・リレーションズになるのではないでしょうか。

「絆づくり」こそパブリック・リレーションズ。今までのように無意識に行動することなく、今こそ意識して、絆を強めるために関係構築活動を置き換える必要があります。そのためには相手とコミュニケーションをよくとり、双方向性で、いい絆を作り上げていくことが求められるでしょう。

古来農耕民族の日本では、共同体で「絆」を大切にしてきました。日本人が大切にしてきた「絆」。今から14年前の阪神大震災、地域の絆の強さを見せつけた被災者同士の助け合いの姿は世界から絶賛されました。礼儀正しく、底辺のレベルが高い均一化された底力を世界に示し、途上国のよきお手本として役割を果たしてきた日本。私は「絆」とパブリック・リレーションズが結合・合体することで、日本にパブリック・リレーションズがより科学的に理解されるのではないかと考えています。

パブリック・リレーションズの実務家として現在の世界を俯瞰すると、いま米国で起きていることは、ある意味においてパブリック・リレーションズが一方(米国)だけの利益追求のための道具として利用された結果とみることができます。私たちには、21世紀型の新しいモデルが求められています。

当面の目標は全国の大学で、パブリック・リレーションズの講座をスタートさせることです。そのために必要となる教師の育成を急がなければなりません。大学でのパブリック・リレーションズ授業が少ない現在、パブリック・リレーションズの実務を行っているコンサルタントや企業広報で10年以上実務家としてかかわっている人の中から有為な人を見い出し、共通のカリキュラムと教材を作り全国に展開することが急がれています。

今年からそのような環境づくりを始めたいと考えています。

投稿者 Inoue: 08:31 | トラックバック

2009年01月10日

私の心に残る本22 松下幸之助の『道をひらく』

『道をひらく』 松下 幸之助著 


こんにちは、井之上喬です。
皆さん、いかがお過ごしですか。

20世紀を代表する経営者、松下幸之助(1894?1989)。松下さんは一代で松下電器産業(去年2008年には創業90周年を迎え、パナソニックへと改名)を世界的企業に仕立て上げた経営の神様的存在。松下さんは、経営者としてだけでなく、人としての使命、社会人としての使命まで深く考察し、一人ひとりがそれらを自覚することで社会の明るい未来を築くことができると説きました。

その信念は、逆境にあっても未来を信じて一歩一歩進んでいけば、必ず道は開けるというものでした。今回は、そんな彼の哲学がぎっしりと詰った彼の著書『道をひらく』(1987年166刷、PHP研究所)をご紹介します。同書は、PHP研究所の機関紙「PHP」の裏表紙に連載した短文121篇を、「運命を切りひらくために」「日々を新鮮な心で迎えるために」「困難にぶつかったときに」「国の道をひらくために」などの11のテーマに別け一冊の本にまとめたものです。


■ 松下幸之助の道
「自分には 自分に与えられた道がある
天与の尊い道がある
どんな道かは知らないが、ほかの人には歩めない。
自分だけしか歩めない、二度と歩めぬかけがえのないこの道。.....
たとえ遠い道のように思えても、休まず歩む姿からは
必ず新たな道がひらけてくる。
深い喜びも 生まれてくる。」

これは本書の最初のテーマ「運命を切りひらくために」の中にある「道」という文章の一節です。松下幸之助は1894年和歌山県の裕福な農家に生まれました。しかし父親の米相場の失敗により家運が暗転。その後結核により兄弟3人を失い、末っ子である松下さんは跡取りとして教育を受けるため、わずか9歳で丁稚奉公に出されます。

しかし状況は好転せず、数年後には姉二人が病没。さらに父親までも他界。母親は生活のために再婚してしまいます。帰る家を失った松下さんは、商人として身を立て、その道を極めることを決意したのです。

数年の船場奉公でビジネスの基本を学んだ松下さんは、電機に目をつけ、1910年 大阪電燈会社に入社します。その8年後ソケットの改良をきっかけに松下電器器具製作所を創立。後に松下電器の経営理念となる「お客様第一」「日に新た」「企業は社会の公器」というビジネスの理を徹底的に考え続け、知恵を使って理を形にすることで松下電器を世界的大企業に育て上げました。

■ 素直な心で日に新た
「人間もまたこの(刻一刻と変化する宇宙の)大原理の中に生かされている。 きょうの姿はきょうはない。刻々に移り変わって、刻々に新たな姿が生み出されてくる。....一転二転は進歩の姿、さらに日に三転よし、四転よし、そこにこそ生成発展があると観ずるのも1つの見方ではなかろうか」(「日々是新」より)

先に紹介した経営理念以外は常に刷新するのが松下流。松下さんは今でいうイノベーションに果敢に取り組み続けました。1932年に松下さんは「水道の水のように社会に安価な電気製品を供給することで社会を豊かにする」という水道哲学を提唱し、企業の社会貢献を明らかにしました。また1933年大阪府門真市に本店を移転する時に、事業を3分割し、日本で初の事業部制を誕生させました。

一方、家電メーカーとして成功しても重電には参入することはありませんでした。また松下通信工業によるコンピュータ事業撤退にみられるように、松下さんは事業の将来性が描けない分野に関しては潔く撤退。彼は企業の選択と集中を実践していました。

このように松下さんは、イノベーション、CSR(企業の社会的責任)、コーポレート・ガバナンスなど、現在の企業が直面している課題に90年前から真摯に取り組んでいたのです。パブリック・リレーションズ(PR)の視点でみると、松下さん自身から発せられる強力なメッセージは、経営トップとしての見事なストーリー・テリングになっています。松下電器の90年に渡る繁栄はまさに、松下さんが自らの哲学を実践した日々の努力の賜物であるといえます。

100年に一度の大不況、環境破壊など、さまざまな不安や恐れが暗雲のように私たちの世界を覆っています。しかし、このような時だからこそ本質をつく松下幸之助さんの言葉が私たちの心に深く響くのではないでしょうか。

「志を立てよう。本気になって、真剣に志を立てよう。命をかけるほどの思いで志を立てよう。志を立てれば、事はもはや半ばは達せられたといってよい。
志を立てるのに、老いも若きもない。そして志あるところ、老いも若きも道は必ずひらけるのである。」(「志を立てよう」より)

松下さんが混沌とした今の時代を生きていたら、どのような行動をとったでしょうか?

投稿者 Inoue: 09:10 | トラックバック

2009年01月03日

新年号 2009年を「創造の年」にするために
〜パブリック・リレーションズにできること

新年あけましておめでとうございます。

皆さんは正月をどのように過ごされましたか?
全国的に一部を除いて天気に恵まれた新年、私は自宅のTVで恒例の「箱根駅伝」を楽しんだり久しぶりの友人に会うなど、ゆっくりした正月を過ごしました。

前号では、今年のテーマを「2009年は創造の年に」と設定しましたが、今年は大転換の年になりそうです。米国では、オバマ新大統領の誕生、日本では9月までに衆議院議員の解散選挙による自民、民主激突の結果実現する新政権誕生、そしてサブプライム問題以降の新しい世界的金融システムの構築など、米国の中東政策や金融政策の失敗、また日本の政治システムの機能不全は、新しい秩序の構築を私たちに迫っています。

先週のこのブログで、人類の欲望が世界の構築と破壊を繰り返してきたことを話しました。そして、パブリック・リレーションズ(PR)の視点で捉えた2009年の人類が取り組むべきテーマとして、「拡散する核の脅威にどう対処するのか」と「環境破壊への脅威に対応する新処方箋」の2つを重要な課題として取り上げました。その理由は人類の恒常性維持にとって不可欠の問題だと考えるからです。


■必要なのは基盤となる土台づくり
人類は平和がベースにないと繁栄しないことはこれまでの歴史が証明しています。私たちの繁栄は、私たちを取り巻く外部環境の状態によって左右されるといえます。外部環境が悪い方向へ変化するときには私たちは自らの恒常性維持(安定的なゴール状態の維持)のために、様々な手立てを講じようとします。

先に挙げたテーマのひとつ、核拡散と核戦争の脅威は、私たちの潜在意識に恐怖感を与えています。特に近年、世界各地で発生している無差別テロは、イスラム原理主義者を抱えるイスラム諸国と、キリスト教、ヒンドウー教などの国々との間に軋轢を増しています。

象徴的な問題としてイスラエル・パレスチナ問題がありますが、これこそ人類共通の問題として世界がその解決に真剣に立ち向かっていく必要があると考えています。インター・メディエータとして日本も積極的に調停にかかわることは、世界平和の担保にもなると考えるのです。日本に強力な外交力が求められています。

加えて、地球温暖化問題により急速に市民権を得つつある原子力発電所の維持・管理問題も重要な問題。リスク・マネージメントを考える上で、原発などの核施設は平和な時代にのみ存在できる構造物。したがって世界中に原発が増えれば増えるほど、平和維持に対してこれまで以上に真剣に取り組む必要性が生じるわけです。原発受容には世界の平和維持が大前提なのです。

環境問題も人類生存の重要な基盤。地球温暖化で壊れゆく地球を放置することは人類の滅亡につながります。地球保全のためになすべきことは脱炭素社会を作ることです。現在の技術ですべての対応が困難であっても、目標を明確化することにより人類の英知で必ず問題解決が可能となるはずです。

■いま日本がなすべきこと
核拡散問題で果たす日本の役割は大です。唯一の被爆国として、広島・長崎の悲惨な体験を世界に知らせることは日本の責務。少し具体的な話をしますが、広島・長崎の被爆映像を核の恐怖を知らない世界の指導者に直接手渡すことは極めて効果的です。特に日本の政府や地方自治体の関係者が外国のトップを訪問する際この手法を徹底することができます。DVDのような媒体に編集された映像をプレゼントするなど、パブリック・リレーションズにより、日本が人類共通の問題である核拡散について世界の警鐘役を果たし、将来の核兵器絶廃の実現につなげていくことが可能だと思うのです。

また、2つ目のテーマである環境破壊への脅威に対応する新処方箋として、地球温暖化への対応が鍵を握っているといえます。オバマ次期大統領は新エネルギー政策を掲げ、10年間で15兆円の自然エネルギーをはじめとする環境投資を通して500万人の雇用確保を行い、再生可能エネルギー普及のためのグリーン・ディール政策を始動させようとしています。一方日本は、世界第2の経済大国として最先端を行く環境技術で国民と世界に貢献する。日本の目指すべき道にはほかの選択枝はありません。

現在日本は世界第3のエネルギー消費国。エネルギー問題はすべての国にとって最重要問題です。世界企業の所得ランキングベスト10の7社はエクソンやロイヤルダッジシェルなどの石油会社(日本はトヨタが12位)。日本は、エネルギーの80%以上を輸入に頼りその半分以上を石油に頼っています。日本の2008年度の石油輸入総額は約17兆円(日本総研推計)。この数字は、2009年度の日本の一般会計予算(88兆5千億円)の約20%となっておりエネルギー問題は日本の将来にとって死活問題となっています。

昨年12月6日号でもお話ししたように、脱炭素社会実現のために追求すべき究極のエネルギー開発は、水素エネルギーを中心にしたクリーン・エネルギーの開発です。重要なことは、体力があるいまこそ、日本が急ぐべき課題だと思うのです。日本は国内のエネルギー構造を再生可能エネルギーへドラスチックに転換する枠組みを作り、クリーン・エネルギーの開発を徹底することで、新しい産業を創出し、エネルギー生産・輸出国になることができます。いまこそ次世代に引き継ぐために心血を注がなければなりません。

冷戦崩壊後続いた米国一極主義が崩壊し、様々な価値観を持った民族や国々による多極化が進む中で、
日本は今こそ国家の強い意志で、新しいパラダイムのもとでこの課題に取り組まねばなりません。日本はこの道に進むことによってのみ経済の再生や国民そして世界中の人々に繁栄をもたらすことができると思うのです。

地球世界がますます一つにつながっていく中、私たちパブリック・リレーションズの実務家は、国民や世界の進むべき道を見定めていかなければなりません。自分の目標に新しい潮流を意識しながら、国民や世界が進むべき道とその目標とを重ね合わせて歩んでいくことが求められているのです。

本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

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