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2008年07月26日

私の心に残る本 17
『世界を不幸にするアメリカの戦争経済 イラク戦費3兆ドルの衝撃』 ?アメリカは北朝鮮よりも危険な国

世界を不幸にするアメリカの戦争経済 イラク戦費3兆ドルの衝撃


こんにちは井之上喬です。
皆さんいかがお過ごしですか?

戦争は絶対に起こすべきではない。これはこれまでの人生の中で私が学んで得た結論であり願いです。

2003年3月、米国と有志連合によるイラク侵攻が開始。わずか6週間後、空母甲板上でのブッシュ大統領による勝利(任務完了)宣言がなされました。あれから5年、終わることのない戦争は当時よりも激しさを増し、多くの民間人や兵士の命を奪っています。

本書『世界を不幸にするアメリカの戦争経済?イラク戦費3兆ドルの衝撃(原題:The Three Trillion Dollar War- The True Cost of the Iraq Conflict)』(楡井 浩一訳、2008:徳間書店)は、戦争がいかに無駄で、空しく、すべてを破壊するものであるかを平易な表現で、具体的な数字を提示し読者に強く訴えています。


■日本の国家予算の4倍弱、ベトナム戦費をも上回る驚愕な数字
著者は2001年、ノーベル賞経済学賞を受賞したジョセフ・E・スティグリッツとリンダ・ビルムズ元商務次官補。スティグリッツは、1943年米国生まれ。エール、オックスフォード、プリンストン、スタンフォードなどで教鞭をとり、93年クリントン政権に参画。97年から2000年まで、世界銀行の上級副総裁兼チーフエコノミストをつとめ、現在はコロンビア大学教授。

8章で構成されている本書は、「ブッシュが3兆ドルをどぶに捨てた」(1章)、「兵士たちの犠牲と医療にかかる真のコスト」(3章)、「社会にのしかかる戦争のコスト」(4章)、「原油高によって痛めつけられるアメリカ」(5章)、「グローバル経済への衝撃」「泥沼からの脱出作戦」(6章、7章)、そして「アメリカの過ちから学ぶ」(8章)と、その章立ては読者のこころをはやします。

著者は、「ブッシュ政権は戦争による利益を見誤った。ブッシュ大統領とその顧問らは、迅速で費用のかからない戦いを予測していた。ところが、それはだれにも想像できなかったほど高くつく戦争になった。」と開戦直前のラムズフェルド長官たちが見積もった戦争コストを提示。そのコストは、日本など他の国々の負担も含めわずか500-600億ドルであったことや国際開発庁のナツィオス長官のイラク再建に要する費用がわずか17億ドルと見積もられていたことなど、ブッシュ政権の予測の甘さを厳しく指弾しています。

そして実際のコストは3兆ドルになると莫大な数字を示したのです。そして米国の直接的な軍事活動のコスト(負傷した退役軍人の医療費などの長期的コストは含まない)は12年続いたベトナム戦争のコストをすでに超え(1.5倍)、朝鮮戦争の2倍以上に達していると指摘。また湾岸戦争のほぼ10倍、第1次世界大戦の2倍としています。一方、現在、イラク、アフガニスタンに費やす1か月の“回転資金”は160億ドル。この数字は国連の年間予算、あるいは米国13州分の年間予算に等しいと分析しています。

3兆ドルといえば300兆円超もの巨額。実に日本の1年の国家予算(2008年度一般会計)83兆円の4倍弱。つまり毎年、日本の国家予算の約80%をイラク戦争に投じていることになります。

なぜ米国政府のコスト見積もりに大きな乖離が生じているのかについて、著者は、イラク戦争のコストで国防総省の予算で補えない分は、社会保障局や労働省など他の公共部門へ移すことで操作され、巧妙な経費隠しが行なわれていると指摘しています。

またアメリカ政府の会計報告のやりかたについては、戦争のコストをさらにあいまいなものにしているとし、「政府の帳簿つけに用いる標準的な方法は“現金主義“会計を基本とする。」と米国政府が現金主義をとっていることを明らかにしています。その結果、実際の支出は記録されても、戦争の場合に生じる要素である、将来の医療や障害補償コストなどを含む将来的債務は無視。その時点での支出を低く見せることができると語っています。このため「アメリカでは食料雑貨店より大きい会社はすべて、“発生主義”会計を用いるよう法律で定められている。」としています。「このシステムでは、将来実際につかったときにではなく、将来かかるはずのコストが現時点でしめされる。現金主義会計と発生主義会計の不一致は、常に問題の種」と国防総省の不正な会計実務を使っての経常予算からのイラク戦争への支出の隠蔽を指摘しています。

■1兆ドルで何ができるのか?
本書は、世界における米国の評判が、史上最低のレベルまで落ち込み、米国が市民権と民主主義の砦と見なされなくなったという最も憂慮すべき事態にあると指摘。「“民主主義のため”に仕掛けられたイラク戦争は、民主主義の名に泥を塗った。この結果、ドイツ人の65 パーセント、スペイン人の66パーセント、ブラジル人の67パーセントが、アメリカ的な民主主義の解釈に嫌悪感を示した。」そして世界中の大多数の人びとにとってイラク占領中の米国は世界平和に対する脅威度でイランを凌駕していると、ピュー研究所の調査結果を紹介しています。この調査では対象となったすべての国で、世界平和に対するアメリカの脅威度は、北朝鮮の脅威度よりも高いと認識されていることを明らかにしたのです。

著者は、戦争につぎ込んだ3兆ドルは、他の目的で使えばとてつもない効果を生み出したはずと主張。3分の1の、1兆ドルで「...800万戸の住宅を建設でき、1,500万人の公立学校教師を採用でき、1億2,000万人の子どもを1年間健康保険に入れるか、4,300万人の学生を奨学金で4年間公立大学に通わせることができたかもしれない。」と試算。

著者はまた、このお金を教育、科学技術、学術研究などに投資していれば、もっと大きな経済成長や将来の課題に対処でき、代替エネルギー技術の開発などで環境問題の解決や石油依存度の低減も可能になっていたとも論じています。

イラク戦争で戦闘に参加している米軍人の被害も甚大。VA(退役軍人省)の病院や診療所で医療を求めるイラクおよびアフガニスタンからの帰還兵も2003年の13,822人から2008年の263,000人と急増して社会問題化しているとしています。

最後の8章では、「そしてアメリカの過ちから学ぶ」は、「イラクにおける今回の失敗は、ベトナムの敗戦とよく似た懲罰効果をもたらすだろう。」とし、将来おなじような紛争が発生したときの米国の関与に対する躊躇の姿勢を予測。泥沼化の可能性のある紛争に巻き込まれるさいには、より慎重な手続きを踏むことの必要性を説いています。そして著者は、「未来のための18の改革案」をあげています。その半数が、情報プロセスと意思決定プロセス(予算編成プロセスを含む)の改善に関するもので、残り半数は、帰還兵の処遇に関するもの。
著者は、「最良のシナリオどおりに事が進んでも、これからの10年間のイラク戦費は莫大な額にのぼる」と予測。「アメリカはイラクにたいして国土の安全を長期保障しており(中略)約束履行にアメリカ軍は半永久的にイラクに駐留しつづける必要がある」としています。そして、「2003年にくだした拙速な決断は、アメリカを長きにわたって縛りつけており、このつけは来るべき未来の世代が払うことになる。」と将来にわたって問題を引きずって行くと明言しています。

本書は米国の横暴を告発するものの、米国の世界での役割の重要性を説いています。「なぜなら、現代の世界が直面する全地球規模の諸問題を解決するとき、アメリカのリーダーシップは重要な役割を果たしうるからだ。」

先日、ミネソタにいるアメリカ人の友人からメールが回覧されてきました。その内容は、米国がこれまでイラクでいかに貢献(雇用、教育、治安、医療など)してきたかをそれぞれ数字で示したものでした。米国のメディアがとりあげていないとして、知り合いから知り合いへと回覧されたものでした。

戦争はいつも末端の人たちが犠牲になります。本書と友人からのメールに目を通しながら、覚醒されたリーダーの不在がいかに米国、そして世界を混乱に陥れているか痛感しました。パブリック・リレーションズ(PR)の実務家は、混乱した世界にあって、よりよい社会の実現のために、所属する組織体の職務を通して、強い意思で取り組んでいかなければなりません。

投稿者 Inoue: 08:41 | トラックバック

2008年07月19日

組織体はどうすれば存続できるのか
 ?調整・適応そして自己修正

こんにちは井之上喬です。
本州の大半では梅雨が空け、猛暑の夏が幕開けました。
皆さんいかがお過ごしですか?

最近、企業や官庁、自治体などで頻発する不祥事には心底から考えさせられるものがあります。

一連の食品偽装表示や偽装請負、官庁の居酒屋タクシーなどの不祥事はなぜ繰り返されるのでしょうか? 組織体は常に変化する環境の中で生存能力を試されています。内外の環境の変化に、私たちはどのように対応すべきなのか、組織体の生成活動は、「生態学」から学ぶことができます。組織体が成長・維持してくことは、生体が生命の安定的維持を図ることと似ているからです。

■生態学における恒常性維持
1930年代初め、X線を初めて医学分野に導入したハーバート大学の生理学者、ウオルター・キャノンは、生体における「ホメオスタシス(恒常性維持)」の概念を確立しました。キャノンはホメオスタシスを、変動する内外の環境に合わせて、自らの身体の調整を試みる生物の資質(自己調整機能:Self-Adjustment)や身体内の安定状態の維持をはかろうとする機能と規定しました。

たとえば、体外の寒さに対する体内の温度調整や高地での血液中の赤血球数の増加による酸素供給の恒常性維持。また糖尿病で、血液中の血糖値の高低によりブドウ糖とインシュリンのバランス調整を行ない、恒常性の維持をはかるなどは恒常性維持が機能していることを意味します。

スコット・カトリップは変化を続ける環境へ対処することをパブリック・リレーションズ(PR)の本質として捉え、生態学の概念をパブルック・リレーションズに持ち込みました。カトリップとアラン・センターは彼らの著作 Effective Public Relations(EPR) の初版(1952年)で、パブリック・リレーションズの本質的な機能として、「組織体は、変化によってすべての当事者に利益があるような調整を行わなければならない。」(筆者訳)と規定。そして前述のW・キャノンの自己調整機能を用いて、変化する外界に適応するホメオスタシス(恒常性維持)の概念をパブリック・リレーションズに適用したのです。

組織体はあらゆる面において環境に依存しています。EPR第9版(2006年)の中で、著者のカトリップ、センターそしてグレン・ブルームは、すべての組織体が繁栄し、将来を生きぬいて行くために以下の3つの重要性を指摘しています。

「1つ目は.相互に依存する社会から課せられる多くの社会的責任を引き受けること(マネジメントにおけるパブリック・リレーションズ思考の出発点)。2つ目は、さまざまな障害が増大する中にあって、距離感と多様性のあるパブリックとのコミュニケーションを図ること(専門スタッフ機能としてのパブリック・リレーションズの成長)。3つ目は、社会と一体化することを目指すこと(経営層と専門性をもつ実務家の双方が目指すゴール設定)。」(以上、筆者訳)

それでは、組織体は、自らの恒常性維持のために、どのような行動姿勢をとればいいのでしょうか?

■オープン・システムとクローズド・システム
カトリップによると、一般的にシステム(機械的、有機的、社会的)はそれらの性質と環境間の相互作用の総量によって分類できるとしています。その範囲は対極にあるクローズド・システムからオープン・システム領域をカバー。クローズド・システムでは、通り抜け不可能な境界があるため、起こったことやエネルギー、情報などをそれぞれの環境との間でやり取りできません。これに対し、オープン・システムは、通り抜け可能な境界を介して、それらを自由にやり取りできるとしています。

カトリップはシステムがクローズドの場合、その度合いは環境に対する鈍さを示し、新しい事柄やエネルギー、情報などを取り入れることができません。つまり、外部変化に適応できず、やがては崩壊の運命をたどります。カトリップはシステムがクローズドの場合、その度合いは環境に対する鈍さを示し、新しい事柄やエネルギー、情報などを取り入れることができません。つまり、外部変化に適応できず、やがては崩壊の運命をたどります。日本で頻発する不祥事はまさにこのパターン。一方、オープン・システムは環境変化を和らげたり、受け入れたりするために調整と適応を行うとしています。

端的にいうとクローズド・システムは、環境と資源・情報の交換を行わないシステムで、オープン・システムは、環境と資源・情報の交換を行うシステムであるといえます。

カトリップたちは同第9版で、「システム論者は相対的オープン・システムの動的状態と相対的クローズド・システムの静的状態を区別するため、変化可能なゴールの状態をホメオスタシス(恒常性維持)と言う」と論じ、「ホメオスタシスは、相対的に安定的なゴールの状態」(いずれも筆者訳)を意味していると述べています。

高度なオープン・システムには、環境の変化を予見し、課題や問題が重大化する前にその変化にどう対応し、修正行動を行うかが問われます。「倫理観」「対称性双方向コミュニケーション」が伴なう「自己修正」が重視されるところです。

地球温暖化、エネルギー・食糧危機、地域紛争など数えきれない問題を抱える世界にあって、組織体には恒常性維持のためのパブリック・リレーションズ機能の強化が強く求められています。

これからの新しい時代を生き続けることができる組織体は、単に力をもった組織ではなく、内外の環境変化を複合的に捉え、さまざまな視点をもち、世界やパブリックに対して調整・適応し、自己修正のできる組織体なのです。

投稿者 Inoue: 08:37 | トラックバック

2008年07月12日

洞爺湖G8サミットに学ぶもの
 ?クリーン・エネルギーを今すぐ

こんにちは井之上喬です。
皆さんいかがお過ごしですか?

7月7日から3日間にわたって開催された、「北海道洞爺湖G8サミット」が閉幕しました。主要8カ国(G8)に、新興国などあわせた過去最多の22カ国の首脳が集まったサミットは、世界で頻発する異常気象や食料危機を受けた地球・環境サミットとなりました。G8の枠組みが、この様な地球規模の課題に十分に対応できるのかが問われたサミットでもあったといえます。

あぶりだされたのは先進国と途上国との間のギャップ。最終日の9日、G8に中国、インド、ブラジルなど新興国8カ国を加えた主要排出国会議(MEM)では、G8が掲げた「50年まで温室効果ガス排出量を半減」とする長期目標に賛同した国は、韓国、オーストラリア、インドネシアの3カ国。その他の新興国の多くの反応は、「現在の温暖化をもたらしたのは先進国」とこの提案を受け入れず、先進国の「過去責任」と自らの「成長する権利」を重ねて強調しました。

■脱石油と代替エネルギー、
地球温暖化の元凶は石油エネルギーに代表される化石燃料(石油、石炭、天然ガスなど)。石油価格の高騰と異常気象による食糧危機は、石油資源や外貨の乏しい、アフリカ、アジアの途上国へ計り知れない打撃を与えています。危機的状態は途上国に限らず、先進国にも、急激なコスト高によるインフレ不況が蔓延する恐れもはらんでいます。

人類がエネルギーを初めて利用するようになったのは、50万年前の「火」の発見に始まります。1万年前には農耕、牧畜による「牛馬」の利用、さらには「風力や水力」などの自然エネルギーが活用されます。16世紀には「石炭」が登場。やがて19世紀中ごろ、米国で石油採掘技術の開発による「石油」の大量生産が開始。1950年代、中東やアフリカでの相次ぐ大油田の発見とともに、エネルギーの主役は石炭から石油へと変わりました。大量生産による安価な石油はエネルギー革命をもたらし、あらゆる動力源となっていきます。

1970年代の2度にわたる石油ショックは、世界中にエネルギー不安をもたらし、当時石油依存度70%超の日本も、単一エネルギーである石油への依存を減らすために原子力や天然ガスなどの代替エネルギーの導入を始めます。最近では、太陽光エネルギー、風力エネルギー、エタノールに代表されるバイオ燃料などの利用も進んでいるものの、政策不在で民間ベースの開発スピードは決して速くないのが現状です。

一方、世界の人口増加はエネルギー問題にも深刻な問題を投げかけています。1830年の10億人から、1930年は倍の20億人。1980年には44億人、2003年には62億人。そして、今世紀半ばの世界人口は90億人以上に達すると予測されています。将来途上国が発展し、1人当たりのエネルギー消費量が先進国と並ぶようになったとき、世界のエネルギー消費量がどのくらいになるのか、考えるだけでも気が遠くなります。

現在、大気中への二酸化炭素(CO2)の放出は自然が吸収する量の2倍を超えているといわれています。化石燃料を燃やし続けた「つけ」は、北極海の氷の消滅や氷河崩落など、生態系にも深刻な影響を与え、石油・石炭に代わる代替エネルギーの開発はまさに、国際社会共通の喫急の課題となっているのです。

■日本にとって千載一隅のチャンス
現在日本の石油依存度は、前述の70%超から、46.5%(ちなみに石炭21.1、天然ガス14.9、原子力11.8、水力3.0、地熱0.1、新エネルギー等2.6各%:いずれもエネ庁2005年度速報値)とその比率を落としているものの、石油価格の上昇は投機の対象ともなりOPECのコントロールさえ不能にしかねない状況にあります。

1998 年末から1999 年初にかけて1バレル、10 ドルを割り込んでいた原油価格は、10年後の現在、1バレル150ドルにせまっています。世界中の投機資金は流入を続け、将来1バレル200ドルまで上昇するとさえいわれています。

石油価格高騰により、従来コスト高だったクリーンな代替エネルギー開発を加速させることができます。日本には、代替エネルギー開発では世界の最先端をいく技術があります。

まさに日本にとって千載一隅のチャンスがあるといえます。このチャンスを生かし、周到な戦略構築を行い、持てるリソースを統合的に投入することによって、将来とてつもない新エネルギー大国になることも夢ではありません。戦後日本の奇跡的な発展は、国民の意思が一丸となって一つの目的に向かって突き進んだからです。

これまで日本は数々の逆境を克服してきました。日本の公害技術や省エネ技術は世界一。GDP1人当たりの1次エネルギー供給におけるエネルギー効率は、日本を1.0とするとドイツは2.41、米国2.08、英国、フランスそれぞれ1.43、1.36とその省エネ率は極めて高い水準にあります(資源エネルギー庁エネルギー白書2006版)。

埋蔵資源に頼ることのない、クリーンな再生可能なエネルギーは最終的には太陽光、風力、バイオマス、水素エネルギーと絞り込まれてきます。多くの科学者は、この中でも将来最も有望なのが水素エネルギーだと考えています。

水素は水から電気分解して抽出する方法と、ガス(天然ガス、プロパンガスなど)からつくり出す方法があります。いずれもその生産において技術的には解決されているようです。酸素と化学反応してエネルギーを発生させる水素。私の関心は水素エネルギーの開発・実用化です。無尽蔵な海水から得る製法は大いに期待できるものです。

聖書に「新しいぶどう酒は、新しい革袋に入れねばならない」(ルカ5-38)とあるように、「新しいことを始める時には、新しい枠組み」が必要です。そして何事もそうですが、新しいことを行うにはパブリック・アクセプタンスが重要となります。国民の理解と受容なしに進めることは困難を極めます。それらを支援するのがパブリック・リレーションズ(PR)の役割でもあります。

以前このブログ(08年1月4日号「岐路に立つ世界」)でも、PRパーソンにできることがあることをお話ししました。あれからわずか6か月、情勢は悪化の一途をたどっています。私たちは、次の地球を生きる私たちの子孫のためになんとしても、2酸化炭素の元凶である化石燃料依存社会から脱却しなければなりません。いま日本には、コペルニクス的大転換が求められているのです。

投稿者 Inoue: 08:41 | トラックバック

2008年07月05日

京都経済人、そのパワーの秘密

こんにちは井之上喬です。
皆さんいかがお過ごしですか?


先日、京都で第7回産官学連携推進会議(主催:内閣府、経産省、日本経団連、日本学術会議など)に出席するために久しぶりに京都に行きました。2日間にわたる期間中、私が業務執行社員を務めるグローバル・イノベーターズ(GLIN)が展示会場に初めてブースを出したこともあり、GLINからは松田代表社員をはじめ、7人のメンバーが参加しました。

日本経済が衰退の様相を呈する中で、地方が活力を持つことが如何に重要であるか大勢の参加者との交流を通して強く感じました。同時に会場で接した京都経済人のエネルギーからは大いなる刺激を受けました。

■京都の空間が経済人へ与えるものは
いつの時代も京の町は人を魅了します。私も若い頃から京都が大好きで、大阪出張の際には時間をみては、京都駅で途中下車し、駅前や鴨川べりにあるお蕎麦屋さんや甘党屋さんに立ち寄り束の間の雅(みやび)の世界を楽しむようにしています。そこに身を置くことだけで心が癒される、京都は味わいの深い不思議な古都です。

そんな京都の魅力は、伝統工芸と多くの神社仏閣、緑の自然と水。時代とともに根付いているさまざまな文化、歴代天皇とあまたの権力者とのやりとりが詰め込まれた歴史など、実に多彩です。京都人の誇りの1つには、京都御所の紫宸殿に設置されている、天皇の正式な御座所である高御座(たかみくら)にあるといわれています。即位の際に天皇が着座する天皇の正式な御座所で、天皇の正式な所在地を示す特別な玉座がいまも京都に常設されていることです。

京の都は、桓武天皇が784年の長岡京に続いて、794年(延暦13年)平安京に遷都したことに始まる千年の都。政治の中心として常に日本史を創ってきた京都は、数多くの政治、経済、文化を抱合した歴史的情報の宝庫。征服者の成功や失敗、人生の教えや戒めなど、さまざまな事象から学ぶ環境が整っています。1つの大きな家族でたとえるなら、祖父母からの貴重な体験談、両親からの愛や躾け、教え、兄弟との関わりなど、成長する上で必要となる要素が詰まっているように、京都にはそのような要素が濃密度に空間を形作っているようです。京都に住むことは、人を賢くするということでしょうか。

このような空間を持つ京都から誕生した企業は、京セラ、オムロン、村田製作所、堀場製作所、任天堂、島津製作所、ローム、ワコールなど。数多くのグローバル企業が京都でうぶ声を上げ、現在も本拠地を他に移すことなくこの地に構えています。いずれの企業も他社を追いかけない、独創的でベンチャー精神に富んでいます。京都の経営者は稲盛さんや堀場さんに代表されるように、自らの言葉で自らの経営哲学を語ります。

梅棹忠夫さんが『京都の精神』(1987)の中で、「私ども京都市民は、ここが日本の中心である、日本文化の本物は全部ここにある、ほかのものは偽者とはいわないまでも、二流品だと考えてまいりました」と語った言葉には京都人の稟とした心意気が感じられます。

このように京都の空間が、京都経済人の思想、自主独立精神、プライド、社交的センス(コミュニケーション能力)を育んできたともいえます。稲盛さんや堀場さんには、さまざまな視点をもってリレーションズ活動を行うパブリック・リレーションズ(PR)が、先天的に身についているのかもしれません。

■「因果応報」は「縁」で結ばれている
京都の企業はいずれも、創業者が自力で大企業に育て上げた、いわゆるオーナー型。京都は以外にもシリコンバレーとも共通するものを持っています。それは産学連携が他の地域と比べて機能しているところにあります。

シリコンバレーにあるスタンフォード大学やサンノゼ大学などのように、京都の企業は、京都大学、同志社大学、立命館大学など地元の大学と積極的に連携プログラムを組み密接な関わりを持っています。その経営は、第2世代に引き継がれている企業もありますが、ベンチャー精神のDNAが受け継がれているといえます。

京都での会議中、堀場製作所を創業し、現在同社最高顧問でGLIN顧問でもある堀場雅夫さんやオムロン会長の立石義雄さん(京都商工会議所会頭)、村田製作所会長の村田泰隆さんなど、京都を代表する財界人にお会いする機会がありました。

その中で立石義雄さんから、次のような興味深いお話を伺いました。それは、京都の仁和寺の佐藤門跡が立石さんに話された「因果応報」に関するお話。ちなみに「徒然草」に登場するこの仁和寺の開基(創立者)は宇多天皇。

立石さんによると、仏教の教えにある「因果応報」について、「この言葉の『因』と『果』の2つの言葉の間には『縁』という見えない言葉が入っていて、2つをつないでいる。」ということでした。一般的に因果応報は、行動と結果の関係を表しますが、原因だけでは結果は生じないとし、直接的要因である「因」と間接的要因の「縁」の両方がそろった「因縁和合」のときに結果がもたらされるとしています。また縁起と呼ぶ法ですべての事象が生じており、「原因」も「結果」も、別の縁となり、現実はすべての事象が相依相関して成立しているとされています。

京都になぜ多くのベンチャーが誕生し、グローバル企業が輩出されてきたかについて、立石さんに質問したら、こんな答えが戻ってきました。「仏教を中心とした宗教的なものがバックグラウンドとして支えてきたのではないだろうか」。私はこの言葉に、「人の幸せをわが喜びとする」を人生訓に企業経営を行っておられる立石さんの、企業人としての揺るぎのない姿勢を見ることができました。

初日の会議の後、会場の国立京都国際会館で行われた懇親会には、全国から集まった関係者と、地元の経済界、アカデミア、自治体関係者など4千人を超える人たちで活況を呈していました。

パブリック・リレーションズ(PR)はさまざまな視点を持った、目的達成のための関係構築活動です。立石さんが語ってくれた佐藤門跡のお話は、パブリック・リレーションズの専門家としての私の心に深くしみ込みました。日本経済の再生のために、私たちは改めて、京都に注目する必要があるのかもしれません。

投稿者 Inoue: 09:30 | トラックバック