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2007年02月23日

PRパーソンの心得7 リラックスした集中状態

パブリック・リレーションズの実務家は常に覚醒していなければなりません。油断や一瞬の判断ミスが所属する組織やクライアントの存続を危うくすることがあるからです。この覚醒した状態を実現するのがリラックスした集中状態。今回はPRパーソンの心得7として「リラックスした集中状態」をお届けします。

■ 戦いを制する平常心
「リラックスした集中状態」とは、心身が深くリラックスして、感覚器官が冴えわたり精神の集中力が高まっている状態のことを指します。リラックスと集中は一見すると正反対の状態であるように思えますが、リラックスとは、緊張から解き放たれた状態であり、自分の中にあるリソースを的確かつ最大限に活用できる集中状態を作り出すベースとなります。

江戸前期を生きた二天一流の創始者、宮本武蔵は『五輪書』水之巻で「兵法の道におゐて、心の持ちようは、常の心に替る事なかれ」と記し、戦いを制するには極限状態でも心中を静かにし、揺るぎない心に集中して平常心を保つことを求めています。

このように、戦いの場面で重視されてきた平常心やリラックスした集中状態。この心身の感覚が鋭敏に働くとされる状態を妨げる要因は何でしょうか。

それは自意識に他なりません。

武蔵が同書で「よい技をしよう、うまく動こうと思うからかえってできなくなる」と示しているように、うまく事が運ばないときに無理やり成功させようと躍起になると、よからぬ事を引き寄せる結果になります。

このような自意識は、恐れから生まれます。恐れには、何かを失う恐れ、失敗する恐れなど様々ありますが、恐れは不安感や猜疑心を育て、過度の緊張状態を生み出し、私たちが本来もつ力を封じてしまいます。

■ 宇宙を治める自然の法則に身を委ねる
とはいえ、過度の緊張状態に陥ったり、結果を急いで浮き足立つことは誰にでもあります。そのような時わたしは、宇宙を治める自然の法則に身を委ねることにしています。

以前このブログでご紹介した本『原因と結果の法則』の中にある、「この宇宙を動かしているのは、混乱ではなく秩序です」というジェームズ・アレン(James Allen)の世界観。私は日々の生活の中で、この考え方を習慣として実践しています。

何かに身を委ねる行為により、自らをコントロールしようとする自我を取り除くと、心が穏やかになります。心が平和になると、自分の内側に集中力が高まっていくのを感じます。このようなリラックスした集中状態で物事に取り組むと、不思議に自分の能力を超えた力が発揮できるようになります。

自意識を弱めて自然と調和すると、何か不都合なことが起こった時でも自分の思いに捕われることなく、大局的かつ的確な物事への対処が可能となります。一方、現在起こっている困難なことも、自分の望まない状況も、長い目で見れば飛躍へのチャンスなのかもしれません。それ故に問題解決への希望を失うことなく、ポジティブに思考し、行動することが大切になります。これらの体験の積み重ねは、不測な事態における問題解決への自信につながり、学習効果を高めます。

加速学習分野の世界的権威であるポール・シーリィ(Paul Scheele)は、リラックスした集中状態を得る方法として「タンジェリン・テクニック」を紹介しています。その方法とは頭上30センチあたりにみかんを思い浮かべるというシンプルなもの。ここに意識を持っていくと、適度に弛緩した集中状態が得られるというのです。この方法が有効なのは、「メタ(Meta:より高次の、?を超えて)」のレベルつまり高次元から物事を認知できるからではないかと私は解釈しています。「メタ認知」については後日このブログでお話したいと思います。

組織体のトップやクライアントに、危機的状況にある時にも冷静沈着に客観的判断を下して素早く行動することを促す。これは問題解決に向けたソリューションを提供する実務家に常に求められる要件です。それを実現するリラックスした集中状態は、特に危機管理をカバーするパブリック・リレーションズの実務家に求められる心の姿勢であるといえます。

変化の激しい環境にあって、心を平和な状態に保つことは並大抵のことではありませんが、自分なりの方法を見つけて鍛錬してください。不測の事態に万全に備えることはプロフェッショナルとしての当然の責務なのです。


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好評発売中の『パブリック・リレーションズ』
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投稿者 Inoue: 18:40 | トラックバック

2007年02月17日

井之上ブログ100回記念特集? Effective Public Relations
 ?世界中で愛読されている、米国初のPR公式教科書の紹介

こんにちは、井之上喬です。
皆さん、いかがお過ごしですか。

2005年4月4日号を皮切りに週に一度のペースで発行してきた井之上ブログ。本号で100回目を迎えます。読者の皆さん、いつもご愛読いただき誠にありがとうございます。おかげさまで読者数も順調に増えていることを嬉しく思うと共に、毎号、身の引き締まる思いで発行に臨んでいます。

今回は100号を記念して、パブリック・リレーションズ登場・発展の地、米国で、最も多くの人に読まれているパブリック・リレーションズの名著 Effective Public Relations (以下EPR: Prentice Hall Business Publishing)をご紹介します。

■ 世界で親しまれるロングセラー
毎年、数万部もの売上げを記録するEPR。同書はパブリック・リレーションズの教科書と呼ばれ、1952年の初版刊行以来、半世紀以上にわたり愛読されている大ロングセラーです。2006年には第9版が刊行されています。日本でも通称、「カトリップのエフェクティブPR」として知られています。

最新版である第9版は、476ページにわたるA4サイズより一回り大きい大型本。同書ではパブリック・リレーションズを「組織体とそれを取り巻くパブリックの双方に利益をもたらす関係性を構築・維持するマネジメント機能」と定義づけています。そしてこの考え方を軸に、パブリック・リレーションズの理論と実践に必要とされる手法が分かりやすく解説されています。

全体が4部17章で構成されるEPR。第1部ではパブリック・リレーションズの起源とその変遷を発展段階にわけて概観。それぞれの時代に活躍した実務家や研究者のストーリーを交えながら説明しています。第2部では倫理やコミュニケーションなど、PRの理論を支える基盤や原則を解説。さらに第3、4章ではその理論に基づいて、企業や政府におけるパブリック・リレーションズの実際や実践に役立つプロセスや手法を紹介しています。

豊富な情報を満載した同書は、多角的にパブリック・リレーションズを捉え、包括的でバランスよく論じられている良書です。 同書は、米国PR協会(PRSA)も含め複数の団体が参加し行われている、ユニバーサル認定プログラム ( http://www.praccreditation.org/about/ )においても参考図書として認定されています。これまで海外では、スペイン語、イタリア語、中国語、韓国語、ロシア語、日本語などの現地語で出版されています。

このような良書が教材として長い間、大学の教育現場で愛用されている、米国におけるパブリック・リレーションズ教育の懐の深さには目を見張ります。

■ 著者はPR教育のパイオニア
その立役者は、著者の一人であるスコット・カトリップ(Scott Cutlip, 1915?2000)。20世紀を代表する米国におけるパブリック・リレーションズの研究者。ウィスコンシン大学ジャーナリズム&マス・コミュニケーション学科で、29年間教鞭をとり続け、学問としてのパブリック・リレーションズを確立した学者です。

業界の有力誌であるPR Weekはカトリップを「パブリック・リレーションズ教育に正当性を与え、パブリック・リレーションズ教育のベースを築いた人」と評しています。

カトリップの功績は、特に大学におけるPR教育のモデルを構築したことにあります。彼の教え子には、PRを4つのモデルに分類したジェームス・グルーニッグEPRの後継者グレン・ブルーム等をはじめ、現在第一線で活躍している多くのPR研究者がいます。

現在米国の大学には約600名を数えるパブリック・リレーションズの教師がいるとされていますが、カトリップはそれらの誕生に多大な貢献をしたといえます。また世界中で精力的に講演活動を行なうなど教育者としての彼の秀逸性が伺えます。カトリップは2000年に他界するまで現役でした。PR Weekはカトリップをパブリック・リレーションズ業界における20世紀の重要人物トップ10に選出しています。

一方、EPRの共著者アラン・センター( Allen H. Center,1912-2005)は、ニューヨーク・タイムズ誌の広告事業部を経験した後、米国モトローラ社に入社。後に同社のパブリック・リレーションズ担当副社長を務めた経験を持つ実務家です。センターは、米国PR協会(PRSA)の設立に携わり、2005年に93歳でこの世を去るまで、積極的にパブリック・リレーションズ実務家の専門的地位の向上に努めました。

三人目の著者で、カトリップの弟子でもあるグレン・ブルーム(Glen Broom,1940~)は、1885年に発刊された第6版から執筆に参加。カトリップとセンター亡き後、残された最後の著者として2人の遺志を引き継ぎ、PRの研究に取り組んでいる研究者です。現在はサンディエゴ州立大学の名誉教授。3年前からオーストラリア、ブリスベンにあるクィーンズランド工科大学の客員教授も務めています。

研究者カトリップとブルーム、そして実務家センターのエッセンスが詰まった Effective Public Relations 。日本では以前に『PRハンドブック』のタイトルで日本語訳が出版(松尾光晏・訳、日刊工業新聞社:1974年)されましたが、このたび最新版の第9版の日本語訳が出版されることになりました。日本広報学会の特別プロジェクトで、私もメンバーの一人として監訳活動に参加させて頂いています。順調に進行すれば年内に出版される予定。

原書の方は、来年夏には第10版が出版される予定。昨年夏サンディエゴで初めてブルームさんにお会いしたとき、2008年の第10版発行に向けて奔走中でした。時代と共に改訂版を出版し、常に最先端の情報を読者に提供しようとする精神はEPRのDNAとして、2人の著者が他界した現在も受け継がれています。

英語で476ページを読了するには少し努力を要するかもしれませんが、原書に触れ、米国におけるパブリック・リレーションズを概観してみてはいかがでしょうか。組織体とパブリックの双方の利益に資する行動や双方向のコミュニケーションが生まれた背景、そして米国におけるPRの現状を彼らの言語で理解することは、パブリック・リレーションズをより深く理解することにつながると考えています。

今回は100回記念。読者の皆さん、これまでのご愛読ありがとうございます。毎週の発刊は思いのほか大変でした。多くの方々の励ましをいただき、ここまでこれたことに心より感謝しています。そして、皆さんとパブリック・リレーションズについてシェアできたことをとても嬉しく思います。

これからも、パブリック・リレーションズの奥行きの深さや幅の広さを様々な形で執筆していきたいと思います。今後とも、井之上ブログにご期待ください。

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好評発売中の『パブリック・リレーションズ』
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投稿者 Inoue: 14:30 | トラックバック

2007年02月09日

「自己修正モデル」をテーマにメリーランド大学で特別講義
〜共生を可能にする21世紀型のモデル

こんにちは、井之上喬です。
皆さん、いかがお過ごしですか。

先日私は3年前にも招かれたことのある、ワシントンでのブッシュ大統領の朝食会をハイライトにした3日間にわたる会合で、世界から集まった多くのメンバーと交歓する機会を得ました。ワシントンは連日、日中温度が摂氏0度前後と厳しい寒さのなかでしたが、現地のビジネス・パートナーとの会合や大学での講演など、密度の濃い時間を過ごすことができました。先週に続き、今週もワシントン滞在中のお話をしたいと思います。

今回は、昨年9月のフィールド・サーベイでお会いしたパブリック・リレーションズの研究者ジェームズ・グルーニッグが教鞭を執る、州立メリーランド大学大学院生への特別講義の様子をお伝えします。同大学は創立150年の歴史を持つ、合衆国内トップクラスの州立総合大学で学生数は約3万5千人。

写真:コミュニケーション学部があるメリーランド大学スキナー校舎

■米国初公開の自己修正モデル
講義内容は私の提唱する「パブリック・リレーションズの自己修正モデル:Self-Correction Model of Public Relations」です。実はこのテーマでの本格的な講義は今回のメリーランド大が初めてです。今回の講義は、「倫理」「双方向コミュニケーション」「自己修正」が統合されているこのモデルが、パブリック・リレーションズの本場でもある米国アカデミズムの世界でどのように理解されるのか、強い興味をもった私がグルーニッグさんに相談したのがきっかけで実現しました。

グルーニッグさんは、丁度いい機会ということで快く大学側と掛け合ってくれたのです。授業は、コミュニケーション学部でグルーニッグ夫妻の友人で、倫理とイッシュ・マネージメント、パブリック・リレーションズを教えている気鋭のシャノン・ボーウェン助教授(Dr. Shannon A. Bowen)のクラス。

とりわけ倫理研究では米国で最先端をいくボーウェン助教授の授業の中での講義で、彼女の大学院コースが新学期を迎えタイミングもよく、その第2週目の授業でした。自己修正モデルの詳しい内容を知りたいと、ジェームズ・グルーニッグさんと彼の妻であり共同研究者でもあるラリッサ・グルーニッグさんも教室に来てくれました。当初90分の予定の講義は、大幅に時間を延長し、休憩なしの2時間半の授業。

写真:大学院での講義風景(左上はジェームス・グルーニッグ&ラリッサ・グルーニッグ名誉教授)

授業では、近年、日本はもとより米国においても続発する不祥事の根源は倫理観の欠如にあると解説。そのソリューションとしてパブリック・リレーションズにおける「自己修正モデル」を紹介し、その必要性について語りました。

パブリック・リレーションズの新しいコンセプトである「自己修正モデル」。このモデルは倫理観に加え、双方向性を持ったコミュニケーション自己修正の3つの要素を有すること。また、修正行為を特性に沿って4つに分類したこと。さらにこのモデルを高い倫理観と覚醒された人間性に基づいた共生と繁栄を可能にする21世紀型のモデルとして位置づけられることを説明。同時にこのモデルが、人間の行動規範(A code of conduct for humanity)にも適用できるものとしました。

続いて自己修正モデルの理論が、具体的にどのように実践に活かされるのかを示すため、PRのライフサイクル・モデルを紹介。このライフサイクル・モデルの独自性は、全体像が上昇する環をなすスパイラルを描く点です。その高次元化を可能にするのが自己修正であり、さらに自己修正をPRプログラムの各ステップに適用することで最短での目標達成を可能とすることなど、実際のケースを採り上げて解説。

今回の講義に出席した学生は、倫理を確保しながら目標達成が可能な手法に大いに興味を持った様子。講義を通して学生の社会を素直に見つめる視点や熱心に学ぶ姿勢など、アメリカと日本の学生の間にみられるいくつかの共通点に気付いたことも嬉しい発見でした。

学生からの質問も活発で、多岐にわたっていました。なかでも、Advocacy は「主張」を意味するが、主張は一方向性コミュニケーションにならないかとの質問を受けました。それに対し私は、主張内容に倫理性が担保されているかを見極める努力を惜しまないこと。そして自分の主張が誤りだったと気付いた場合、即座に自己修正を行なう態度で発信すれば、自己の主張だけをやみくもに推し進める一方向性の要素を排除できるのではないかと、答えました。

■ PRをより良い社会のために
授業の最後に、出席の学生に対して一つのメッセージを贈りました。それは、「イラク紛争やイラン・北朝鮮問題、地球温暖化問題など世界はより危険な方向へ進んでいる。米国をはじめ世界の国々が直面する問題が山積する中で、我々パブリック・リレーションズの実務家には、複雑多様化する社会における利益衝突や問題解決のためのインター・メディエータ(仲介者)としての役割が強く求められている」そして、「世界に真のソリューションを提供するには、パブリック・リレーションズをより良い社会へ導く手法として活用しなければならない。その実現に欠くべからざることは、一人ひとりの倫理観であり高い志である」。2時間半にわたる私の講義は終了しました。

「自己修正モデル」は米国でも非常に新しいコンセプトです。にもかかわらず学生の理解スピードは速く、リズムにのって授業を進行することができました。彼らが、私も執筆参加(共著)している The Global Public Relations Handbook をホームワークとして事前に読んでくれていたからかもしれません。

講義後は、車で30分ほどのワシントンに戻り、ボーウェン助教授共ども、グルーニッグ夫妻に130年に及ぶ伝統的な「コスモスクラブ」に招かれ夕食を共にしました。著名な科学者、文化人、芸術家、ジャーナリストなどにより130年前に設立されたコスモスクラブはヨーロッパの趣を感じさせる建物。壁には記念スタンプになった著名メンバーの切手コレクションが飾られていました。偶然、一つの切手が目に入りました。エドワード・バーネイズCrystalizing Public Opinion (世論の覚醒化)のベースともなったPublic Opinion (世論)の著者、ウォルター・リップマンのイラスト画の切手でした。ノーベル賞受賞者や学者出身の大統領など多彩な顔ぶれを切手のなかに見ながら、当時ここで交わされた会話や議論に想いを馳せ、米国におけるアカデミズムの懐の深さを感じました。

世界政治の中心ワシントンでの4日間の滞在は、世界が深い混迷の中にある現実を再認識させてくれました。そして多様性を抱合できる倫理観をベースにした解決策が求められていることを改めて感じさせてくれました。今や一般の学生や市民の間にも、そうした意識が広がっているようにみえます。

大統領朝食会でのブッシュ大統領のことばが強く心に残っています。「世界は困難な方向へ向かっている。私は多くの支持者から励ましを受けている。『ミスター・プレジデント、あなたとあなたの家族のためにいつも祈っています』」。彼の抱えている苦悩が伝わってきます。

世界がパブリック・リレーションズを通して、混沌とした暗いトンネルの先にある輝かしい未来へ向かっていくことを深く願いながら、ワシントンを後にしました。


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投稿者 Inoue: 21:31 | トラックバック

2007年02月03日

日米の架け橋40年、神田幹雄さん
?両国の相互理解に賭けた人生

こんにちは、井之上喬です。
皆さん、いかがお過ごしですか・

私は所属するある団体主催の会に出席するため、1月末から米国ワシントンDCを訪れています。世界の政治の中心地ワシントンで、日米の政治的・文化的交流に尽力する日米文化センター理事長の神田幹雄さんとお会いしました。今回は、日米の架け橋として40年以上にわたり米国で活躍してきた一人の日本人、神田幹雄さんについてお話します。

■ケネディ家との運命的な出会い
神田さんとの出会いは20数年前、共通の友人による紹介がきっかけでした。学生時代にロバート・ケネディ(当時司法長官)を早稲田に招聘した人として関係者の間では知られていた人で、ケネディが好きだった私にとって、同じ大学の先輩であったこともあり好奇心をそそる対象でした。当時の神田さんは、彼が創設した日米文化センターの事業の一環として日米学生論文コンクール(読売新聞後援)や全米日本語弁論大会を実施し、日米間を精力的に往復していました。

神田さんと米国との関わりは40年以上も前にさかのぼります。1963年11月22日、ジョン・F.・ケネディが暗殺されました。その悲報を受け翌12月、彼が設立した学生団体「日本青年国際問題研究会」で、その死を悼む一日がかりの「故ケネディ大統領追悼講演会」がライシャワー大使出席のもと、早稲田大学大隈講堂で催されたのです。この話を聞いた弟のロバート・ケネディ司法長官は翌年1月の来日の際、どうしても早稲田大学を訪問し、先の追悼講演会のお礼もかね日本の若者と接したいと強く希望したのでした。そして歓迎会開催の話が急遽持ち上がりました。

当時神田さんは、早稲田大学、慶応大学、東京大学など東京の大学の学生を中心に構成された前述の研究会の幹事長として、東大の責任者をしていた神崎武法さん(前公明党委員長)などと積極的に活動していたようです。60年代前半は日米安保条約反対を唱える学生運動が盛んだった頃。神田さんは不測の事態を覚悟で米国側の希望を受け入れ、大隈講堂でのロバート・ケネディ歓迎会を同研究会主催で開催することを決心し、その歓迎委員長を務めたのです。かくして64年1月、ケネディ司法長官の大隈講堂での歓迎会が実現。

会場には研究会メンバーの神崎さんをはじめとし、政治家グループの歓迎委員長を務めていた当時まだ気鋭の中曽根康弘さんや早稲田の大学院のクラスメートで議員一年生だった小渕恵三さんたちの顔も見られました。貧乏学生にとって、当日急遽依頼されたエセル婦人とハル・ライシャワー大使婦人へ贈呈する花束を買う余分なお金もなく、大学に頼み立て替えてもらった往時を懐かしそうに語っています。

歓迎会は無事に終わり、このニュースは世界を駆け回りました。これを機に神田さんとケネディ家との交流が始まったのです。その後同年10月、ロバート・ケネディの招きで米国に1ヶ月滞在。ニューヨーク州上院議員に立候補することになった同氏の選挙キャンペーンに同行したのです。最後の子供を身ごもったエセル婦人と共に、1週間同じ車で移動した時は冒険に満ちたものだったようです。当選が確定した日、夜中に始まったプライベートな祝賀パーティでは、お祝いに駆けつけたトニー・ベネット自身がBGMで「思い出のサンフランフランシスコ」を唄い、サミー・デイビス・ジュニアが熱唱するなど、その華やかな光景には圧倒されたそうです。

68年、そのロバート・ケネディ自身も、民主党大統領候補選出のための予備選挙キャンペーン中に銃弾に倒れましたが、彼の亡き後も神田さんと、エセル夫人を初めとするケネディ家との間の交流は続きました。

ロバート・ケネディと言えば、私は1998年、彼に最も風貌が似ているといわれる次男のロバート・ケネディJRが来日時、早稲田大学への表敬訪問をアレンジしたことがあります。彼を大隈講堂の壇上に立たせて、30年以上も前にその場所で彼の父ロバートが講演した事を告げると、彼は、当時の父親の面影を捜し求めるようにその場所にしばらく佇んでいたのがとても印象的でした。

■日米文化センターの残した功績
そして40年程前に神田さんは、政治・経済を抱合した日米間の文化交流を促進させる組織、「日米文化センター」をワシントンDCに創設。その後、米国公益法人の認可を受け日本事務所も構えて精力的に活動を行います。長くウォーターゲート・ビル内にその活動の拠点を置いていた同センターの主な活動は、米国の大統領候補から高校生までの日本招聘、議員交流、都道府県庁職員や大学経営者の米国研修、同センター主催のセミナー、日本語講座などです。なかでも日本語講座には国務省や商務省からも多くの役人が受講し、受講生のなかには商務次官やホワイトハウスの補佐官などの名前を見ることができます。

神田さんは日本の政治力、経済力がまだ弱く米国との間で十分なパイプがなかった時代に、ワシントンで独自の活動を始め、数多くの日本の外交官や政治家を米国議会やホワイトハウスの要人に引き合わせました。その交友関係は極めて幅広いものがあり、現在第一線で活躍している多くの日米の政治家や経済人、文化人との深い関わりが見られます。

大河原良雄さんをはじめとする歴代の駐米大使はもとより、前述の政治家をはじめ、宇都宮徳馬、三原朝雄、福田赳夫元首相、また大学同窓の森喜朗元首相といった人たちともユニークな交流を持っていました。現在国務大臣の高市早苗さんとは、彼女が松下政経塾時代、ワシントン研修で滞在中に同センターでアルバイトをしていたときからのお付き合い。

またジョージ・タウン大学にあった戦略国際問題研究所(CSIS)と共催で、福田赳夫元首相やブレジンスキーなどを交えたシンポジウムを行うなど日米問題に積極的に取り組んだのでした。

なかでも神田さんと沖縄返還実現に重要な役割を果たし、北方領土返還運動の先駆者でもあった末次一郎さん(2001年逝去)との親交は深いものがありました。神田さんがジョージ・タウン大学留学時代、末次さんのワシントンでの沖縄返還実現へ向けたロビー活動に関わったことがあります。陸軍中野学校出身の末次さんは、上下両院外交委員長・院内総務や国務次官との交渉の場面で、媚びることなく独自の論陣を張り相手を説得。同行した神田さんは、日本では数少ない民族主義者でもある末次さんのスケールの大きい立ち振る舞いに深く感銘を受けたそうです。

ちなみに末次一郎さんは日本健青会を創設してシベリアに抑留されていた日本軍人の帰還などの戦後処理活動を積極的に行い、青年海外協力隊の創設に努めるなど戦後日本の国づくりに尽力された方です。彼のことは後日このブログで採りあげたいと思っています。

90年初めには『アメリカの本当の素顔―ワシントン・レポート』を出版(1991年,PHP研究所)。同書はユニークな視点で80年代のアメリカの実像に迫った名著といえます。

ロバート・ケネディとの出会いから43年、神田さんの長年にわたる日米の良好な関係構築に対する貢献の大きさは、2004年東京の日本プレスセンターで開かれた、「日米文化センター創設25周年を祝う会」にロバートの遺児で長男のジョセフ・ケネディJRから贈られた祝辞に象徴されています。

「日本の人々、文化、友情、日米両国の関係が持つ意味について、私たちアメリカ人の理解が深まるよう尽力されてきました。彼ほどアメリカにおける日本の地位を高めてきた人を私は知りません」

神田さんは40年に及ぶ滞米生活にも拘らず、あえて米国籍を取得することなく、日本人としてのアイデンティティを持ち続けています。
ご家族は、アメリカで知り合った令子夫人との間に2人のお嬢さんがいます。令子夫人は30年以上にわたって国連や世界銀行に勤務しており、2人のお嬢さんは国連や日本のJICAの仕事でウィーンやジャカルタで国際公務員として活躍。

体に自信があった神田さんは昨年6月には心臓を患い、米国で19時間にも及ぶ大手術に耐え抜き成功させました。今回は、新年に東京でお会いしてから1ヶ月ぶりの再会。
神田さんの体が順調に回復に向かっている様子に安堵しつつ、健康とこれからも日本と米国を繋ぐ橋渡し役として末永くご活躍されんことを心より祈ってやみません。


来週は、昨年9月にグルーニッグ教授を訪問したのが縁で招聘された、メリーランド大学でのパブリック・リレーションズの特別講義と現地でパブリック・リレーションズを学ぶ学生についてお話します。


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好評発売中の『パブリック・リレーションズ』
(井之上喬著:日本評論社)第2刷が発刊されました!


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