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2006年07月28日

将来、覚醒したリーダーとしての活躍を期待!
ペンシルバニア大学 ウォートン・ビジネススクールの学生への講義

こんにちは、井之上喬です。
遅れていた梅雨もようやく明けそうな気配で、これから本格的な夏を迎えますが皆さんいかがお過ごしですか。

ペンシルバニア大学、ウォートン・スクールのローダー・インスティチュートは、毎年日本で夏期研修を行っています。先週その一環として、私はパブリック・リレーションズについて講義を行いました。

ウォートン・スクールは、特にファイナンス分野の教育と研究に定評があります。ビジネスウィーク誌に隔年で発表されるビジネススクール・エグゼクティブ・プログラムの総合ランキングでは、1996年から2000年にかけてハーバードやスタンフォードなどのビジネススクールを押さえ、3回連続で1位を獲得するなど、世界屈指のビジネススクール(MBA)です。

早稲田大学の私の講座「パブリック・リレーションズ概論」では2年前、夏期研修で来日した学生の皆さんを招いて、ケースをもとにディスカッション形式の授業を行ったことがあります。ウォートンスクールとは、私がフィラデルフィアのウォートンへ講義のために訪問したり、同校の教授を早稲田のMBA授業へ招聘するためのプロジェクトに関わらせていただくなど、日頃親しく交流させていただいています。

今回は、メディア、金融・保険業界などで活躍した経験をもつ20代後半から30半ばの学生たちを前に、「繰り返される日本の不祥事と危機管理」をテーマに、パブリック・リレーションズの視点で日本や世界に山積する問題やリーダーシップについてお話しました。

■なぜ、不祥事は繰り返されるのか
講義の中で、危機管理の側面から日本で頻発する不祥事を分析し、日本の現状について説明しました。日本ではバブル崩壊以降さまざまな不祥事が露呈しましたが、今年はじめに起きたホリエモン事件はアメリカでも良く知られているようです。参加した学生から「近年日本で頻発する不祥事の原因はどこにあるのか」「なぜ、日中問題や日韓問題など日本が近隣諸国との軋轢を解消できずにいるのか」というごく自然な問いかけがありました。

私は「パブリック・リレーションズの欠落が原因」と答えました。そして、倫理観に加え、双方向性コミュニケーション自己修正機能の3つの要素を抱合する問題解決の手法、パブリック・リレーションズがうまく働いていないために、様々な問題が未解決のまま山積していることを具体的に説明しました。

■ノブレス・オブリージュの精神
続いて世界に目を転じて、20世紀に日本や欧米先進国が追い求めた経済至上主義が地球自体の存続を危うくする深刻な問題を抱えている現状についても触れました。

地球環境で言えば、地球温暖化による異常気象の多発やエネルギー資源の枯渇問題など、92年の地球環境サミット(UNCED:於リオ・デジャネイロ)開催当時と比較しても地球環境は悪化の一途を辿っています。アフガン・イラク戦争や最近起こったイスラエル・レバノン問題など民族間や国家間の紛争についても、問題解決の糸口を見出せないまま犠牲者が後を絶たない状況が続いています。

その原因は、問題を解決する手法であるパブリック・リレーションズがうまく機能しないことに加えて、地球や人類全体の利益を考えて行動できる、指導者として確固たる自覚を持った真のリーダーシップの不在にあると述べました。

大きな影響力を持つ国の対応が国益偏重主義に陥り、十分な対話つまり双方向によるコミュニケーションが行われていないために、環境問題に関する国際的なコンセンサスや紛争解決のためのプロセス策定を実現できずにいるのです。

そこでクラスからは「理想的なリーダー像は誰だと考えるか」と質問が飛び出しました。私は迷わずインド独立の父、「マハトマ・ガンジー」と答えました。彼は、民衆暴動によってではなく「非暴力・不服従」による解放を提唱し、政治指導者として英国からのインド独立運動を指揮しました。彼自身の造語による「真理の把握」と名付けられたこの思想は、1947年にインドの独立を導いただけでなく、その後も政治思想の平和主義的手法として植民地解放運動や人権運動などの分野において世界に多大な影響を与えています。これにはクラス全体も納得した様子で、深く頷いていたのがとても印象的でした。

授業中には、「何故ウォートン・スクールにはパブリック・リレーションズのコースがないのだろう」との意見や、パブリック・リレーションズに興味を持った韓国からの元ジャーナリストの留学生からは「将来PR会社に勤めたい」などパブリック・リレーションズに関するさまざまな意見も飛び出し、積極的で活気に満ちた授業となりました。

改めて「リーダーとしての自覚とは何か」を考えてみると、それは仏語の格言にみられる「ノブレス・オブリージュ」(高貴な身分に生まれたものとして自覚すべき責務=選ばれた人の責務)の精神ともいえる、選ばれた人としての責任と役割を自覚することにあるといえます。

授業の最後、学生の皆さんに私は一つのメッセージを贈りました。それはある意味で選ばれた彼らが、この混沌とした世の中にあって、どのようなときにでも強いリーダーシップを発揮し、世界を良い方向へ導く責任と役割を自覚し、それぞれの人生をしっかり歩んで欲しいということでした。このメッセージには60数年前、多くの悲しみと犠牲を払った太平洋戦争への悔悟と、再び過ちを繰り返すべきでないという強い私の想いが込められていました。

今回の授業をとおして、パブリック・リレーションズの重要性を少なからず理解してくれた学生の皆さんをみてとてもうれしく思いました。

彼らの活躍を心より願っています。そして、いつも学生を引率し、日本への理解を深めるために尽力されている長友恵美子先生、ありがとうございました。

 
最後にガンジーの残した私の好きな言葉をご紹介したいと思います。
(井之上喬 訳)
 
"The things that will destroy us are:  私たちを破壊するものは:
 Politics without principles;    信条のない政治
 Pleasure without conscience;   節度のない娯楽
 Wealth without work;   働くことのない富
 Knowledge without character;   知恵のない知識
 Business without morality;   モラルのないビジネス
 Science without humanity; and   人間味のない科学 そして、
 Worship without sacrifice."   自己犠牲のない崇拝
 (Mahatma Gandhi)   (マハトマ・ガンジー)
   

  
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投稿者 Inoue: 19:31 | トラックバック

2006年07月21日

早稲田大学「ナレオ・ハワイアンズ」創設60周年。

■癒しの音楽、ハワイアン
太平洋に浮かぶハワイの島々。青い海に囲まれた南国の島で生まれた音楽、ハワイアン・ミュージックは癒しの音楽として多くの人々を魅了してきました。私もその一人です。瀬戸内海に浮かぶ弓削島で毎年、幼少時代の夏を過ごした私にとって、開放的でスピリチュアルなハワイアンに惹かれたのはとても自然なことでした。

高校時代にハワイアンに初めて出会い、その後早稲田大学の音楽サークル、「ナレオ・ハワイアンズ」で卒業まで音楽三昧の学生生活を送った私にナレオとナレオの持つ空間は心を安らげてくれるオアシスでした。

先日、7月17日の海の日に、そのナレオのOB組織である「早稲田大学ナレオ稲門会」主催のディナー・ショーが新高輪プリンスホテル「飛天の間」で開かれました。年に一度、約700人が参加するこの「ナレオ・パーティ」は、今年で10回目。チケットは毎年発売直後には完売。

今年は「早稲田大学ナレオ・ハワイアンズ」創設60周年を記念して、特別ゲストに菅原洋一さん、高木ブーさん、日野照子さんたちをお迎えし、ステージは一段と華やいだものとなりました。現役の1バンドを加えた7バンドが出演。私達のバンド「ナレオ・ウエーブ」もトロピカル・ムードあふれる大空間で久しぶりにステージに立ちました。

ハワイアン音楽は、古くは地元の人々が土地に宿る魂からのメッセージや王様からの言葉を歌に乗せていたものです。こうした音楽とウクレレ、ギター、パーカッションなどが融合したのが、現在のハワイアンです。そのため、マウナロア、アカカ・フォールズ、ラハイナ・ルナ、スウィート・レイラニ、カイマナ・ヒラなどハワイにある様々な地名を含んだ歌が多いのも特徴です。

いま、ハワイアンといえば、ハワイアン・ネイティブのグループによる作曲が主流で、歌詞もハワイ語でハワイの歴史や文化を感じさせるものに人気があります。私たちが大学生の頃、一世を風靡したのは40・50年代にアメリカ本土から移り住んだ白人のミュージシャンにより作られたハワイアンでした。その頃の楽曲はJAZZのコード進行をとり、リズミカルでロマンティックな香りのする愛の歌が主流で、コーラスも古くは、オーソドックススタイルの「ハワイ・コールズ」や、60年代に開花したモダン・ハーモニー(1度、3度、5度の単純なハーモニーではない、複雑系)の「インヴィテーションズ」、「アリーズ」などでした。

また手指の動きでハワイアンの歌詞を表現しながらハワイアン・ミュージックに乗せて踊るフラダンスも、ハワイアンには欠かせないものです。今年は、早稲田大学ハワイ民族舞踊研究会の学生たちが一年間で習得したとは思えない素晴らしいフラを披露してくれました。

■あるバンド仲間との別れ
私たちのバンド(ナレオ・ウエーブ)は、モダン・ハワイアンで、前述の「インヴィテーションズ」と呼ばれるコーラス・グループのスタイルで楽曲を演奏しました。
編成は、スチール・ギター(北原忠一)、ドラムス(中原勉)、ベース&ヴォーカル(長谷川侃志)、ギター&ヴォーカル(三浦孝之)、キーボード&ヴォーカル(榎本隆)とビブラホン&ヴォーカル(井之上喬)の6人編成です。これに元フジテレビのアナウンサーで司会の松倉悦郎が加わります。

今年の編成は昨年より一人減りました。40年来のバンド仲間であった、ギタリストの八木潔さんが、このパーティーが開かれるちょうど3週間前の月曜日、1年半に及ぶ闘病の末に癌でこの世を去ったのです。今年の舞台は私たちにとっては、亡くなった八木さんへの追悼コンサートとなりました。会場に駆けつけてくれた3人のお嬢さんを前にして、全国へ仲間と演奏旅行をした楽しかった40年前の日々を想いおこしながら、メンバー全員がステージで彼と最後のお別れをしたのでした。

八木さん、長い間私達と一緒にありがとう。青春時代をともに過ごしたことや卒業後一緒にバンド活動をしてきたことなどが走馬灯のように頭をよぎります。

あなたの魂があなたの愛したハワイの空にいつまでもありますように…。


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投稿者 Inoue: 20:00 | トラックバック

2006年07月14日

心に残った本。
?司馬遼太郎『対訳 21世紀に生きる君たちへ』

こんにちは、井之上喬です。
7月も中旬を迎え、梅雨明けが待ち遠しい季節となりました。
皆さん、いかがお過ごしですか。

先日ある書店に立ち寄った際、一冊の本に目が留まりました。司馬遼太郎が亡くなる数年前に著した『対訳 21世紀に生きる君たちへ』(1999年、朝日出版社)です。

発刊以来読書するチャンスを失っていた私が偶然にも書店でこの小さな本を手にしたとき、司馬さんの子供たちへの熱いメッセージと真剣な思いが私の胸に突き刺さりました。

日本を始め、世界の歴史や20世紀の人間の営みを繊細な目で観察してきた司馬さんはこの本の中で、21世紀を担う子供や若者たちに対して、彼らへの希望と期待を平易な言葉で丁寧に語っています。今回は「一編の小説を書くより苦労した」と語られるこの短編を彼の思いと共に、このブログでご紹介したいと思います。

■人間はもっと謙虚で素直になれる
司馬遼太郎は1960年、産経新聞社在職時代に「梟の城」で第42回直木賞受賞、その後   「竜馬がゆく」「国盗り物語」で菊池寛賞など数々の賞を受賞し、93年には文化勲章も受章している20世紀の日本を代表する作家です。膨大な資料から得られたその独自の歴史観は「司馬史観」と呼ばれ、96年にこの世を去るまで様々な視点で捉えた数多くの作品を残しました。

今回ご紹介する本には、「人間の荘厳さ」に始まり、彼が小学校用教科書のために書き下ろした「21世紀を生きる君たちへ」、そして「洪庵のたいまつ」が英文対訳で収録されています。

「人間の荘厳さ」では、いまの一瞬を経験するとき、過去や現在のたれとも無関係な、まっさらの、自分だけの心の充実だけがあると云い、「21世紀を生きる君たちへ」では、歴史から学んだ人間として21世紀を担う人たちに何を大切に生きてほしいかを語っています。

まず重要となるのは不変の価値に基準を置くこと。これはこの地球を支配する倫理観であるともいえます。司馬氏は、その基準を大切にしながら大きい存在に生かされていることを知り、その存在に対する恐れを抱くことで、人間はもっと謙虚で素直になれると書いています。

またこれらを素地として、自分に厳しく、相手にはやさしく、という自己を確立することで、自己中心的ではなく、いたわりを持って互いに助け合うことのできる頼もしい自己を築いて欲しいと率直に語っています。

一方、「洪庵のたいまつ」では当時鎖国状態の江戸末期に生まれながらオランダ医学を学んだ後、大阪で「適塾」を開き、福沢諭吉や大村益次郎らの多くの弟子を残して明治維新の礎となった蘭医学者、緒方洪庵について語っています。「人のため」に生きた彼の生涯を例にとり、志の大切さやその高い志をシェアすることで、大きなうねりを起こすことができると説いています。


■パブリック・リレーションズに共通する心構え
司馬さんがこの本で主張していることは、人生においてだけでなく、「倫理観」 http://inoueblog.com/archives/2005/05/prtwoway_commun.html 「自己修正」に支えられた質の高いパブリック・リレーションズを実践する上でも欠かせない心構えでもあると思います。

常日頃、私は日本のみならず世界の安定と持続的な繁栄のためには、自立した個を持った次世代のリーダーの育成が急務であると考えています。早稲田大学で教鞭を執ることになったのも、パブリック・リレーションズの普及をとおして、一人でも多くの次世代のリーダーを育成することで、閉塞状態にある日本が少しでもよい方向へ変容することを期待してのことでした。この本はそんな気持ちを抱く私をいとも簡単に魅了したのです。

いま、混迷する日本では普遍的な価値基準ともいえるバックボーンを持ち、高い志を持ってしっかりとした足取りで歩める、個の確立した強いリーダーが求められています。この本が示す精神で、一人ひとりが山積する問題の解決に取り組めば、司馬さんのいう「真夏の太陽のように輝いている」未来が日本社会にも訪れるかもしれません。

この本は米国の著名な日本文学研究者、ドナルド・キーン氏監訳による英文対訳もついていますから、英語の学習にも有効です。機会があれば、一度手にとってみてはいかがでしょうか。

「もし『未来』という町角で、私が君たちを呼びとめることができたら、どんなにいいだろう。」-----この一文は、いまでも私の心に強く残っています。

21世紀の到来をまたずこの世を去った司馬さんは、今の世界をどのように見ているでしょうか。


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投稿者 Inoue: 19:00 | トラックバック

2006年07月07日

パブリック・リレーションズの巨星たち5.
?双方向性コミュニケーションのパイオニア
アール・ニューサム(Earl Newsom, 1897?1973)その2

こんにちは、井之上喬です。
7月7日は牽牛と織女が年に一度逢瀬をはたす七夕です。七夕といえば、細身の竹笹の枝に、色紙に願いをこめて結ばれた短冊が思い浮ばれます。
皆さんいかがお過ごしですか?

今回は、先週ご紹介した「パブリック・リレーションズの巨星たち」シリーズ第5弾、1920年代後半から50年代にかけて活躍した、PRの実務家アール・ニューサムの第2回目をお届けします


■S・オイルやフォードへのカウンセリング
第二次世界大戦で臨戦体制にあった42年、ニューサムにカウンセリングを求めてきたのは後にエクソン社となるスタンダード・オイル社でした。世界第3位の規模を誇る持株会社であった同社は、42年3月25日、独禁法違反の判決により1件5000ドルの罰金とI.G Farben社から取得した特許技術の公開が課されたのでした。
ヒトラー率いるナチが台頭するドイツのI.G Farben社から、合成ゴムの特許技術を3500万ドルで購入し、代わりに同社に対して米国での合成ゴムの独占権を与えたことがその理由でした。

そんな矢先、検事総長が後に米大統領となるトルーマン上院議員が委員長をつとめる国防調査委員会において、スタンダード・オイル社がI.G Farben社に開示した特許技術を米政府には明かさなかったため、戦時下で深刻なゴム不足に陥ったと証言して窮地に追い込まれたのです。

ニューサムは、まず社長のウィリアム・ファリッシュに法廷でスタンダード・オイル社とI.G Farben社の合意書をすべてオープンにすること、I.G Farben社の合成ゴムの特許技術を用いて同社が製造したゴムは米国の戦況に好影響を与えたと証言させて、無事に無罪判決を勝ち取ったのです。

その後ニューサムはスタンダード・オイル社に対して、世論を軽視する経営体質を改めさせ企業の社会的役割の重要性を説き、パブリックの動向を把握し経営方針や商品開発に役立てる仕組みを作るべきだと指摘し、同社にパブリック・リレーションズ部門の設置をすすめました。

パブリック・リレーションズのプランづくりにおいて日頃から調査を重視していたニューサムは、つね日頃、外部専門家に依頼し労組関係や世論のトレンドをウォッチすると共に、収集された顧客データを基に現在あるいは将来脅威となる要因を探り、常に先を予測して全方位に注意を傾けながら精度の高いプログラムの構築を実践していたのです。

PR部門設置にあたっては、ニュース・クリッピングやレポートを通して同社に対する世論のトレンドを常に把握し、経営トップに伝えられるようメンバーもマーケティングやファイナンスの専門家などで構成しました。そして短期間で質の高いスタッフを育成するためのプログラムを作成し、刊行物の制作はすべてPR部門の監督下に置くなどのアドバイスをおこないました。

これをうけて44年スタンダード・オイル社内にPR部門が設置されました。ニューサムは外部カウンセラーとして政府、株主、コミュニティなど同社を取り巻く全てのターゲットに対してアプローチ方法を明確に提示。プレス・リリースだけではなく、新聞や雑誌からの取材に積極的に取り組み、メディアでの露出を高める手法を駆使してスタンダード・オイル社のオープンでフェアなイメージを構築していきました。

43年には、フォード社を継承したばかりのヘンリー・フォード2世が、創業者であるヘンリー・フォードがつくりあげた「傲慢な大企業」のイメージを刷新するためアール・ニューサムにカウンセリングを求めました。

ニューサムはフォード2世を、米国の産業を代表する新世代の強い経営者としてそのイメージ訴求につとめました。まず当時紛争中の労組問題に着手。フォード2世は就任後初めての公のスピーチで、労働組合と建設的に協議する積極的な姿勢を明確にしました。企業を守る視点で労働組合との対峙を避けていた経営陣が多数を占めていた時代に行われたこのスピーチは大絶賛され、「フォード2世は従業員への理解のある経営者」とした多くの記事が全米のメデイアを駆け巡りました。

次に行った年金制度の設置でも、いち早く全ての従業員に月額125ドルの年金を支給することで合意。年金支給を拒んだクライスラー社がストライキによる極端な生産性の低下で50億ドルの損失を計上するなか、フォード社は自動車業界第2位へと躍り出るチャンスを掴んだのです。

第二次大戦後の46年、ニューサムは元ジャーナリストでPR部門での経験があるジェームズ・アーウィンを採用しフォード社内にPR部門を設立。広告会社と連動してPRプログラムを実施し、全てのターゲットと関係性を高めて企業イメージを構築する包括的なアプローチを採用。53年にはフォード社の創業50周年記念事業をはじめに、交通安全キャンペーンやフォード財団の管理など、契約が継続した57年まで、企業の社会的責任を果たすプログラムを数多く手がけました。

■ニューヨーク・タイムズが称賛
66年、長年のパートナーであった前述のフレッド・パーマーと共に引退。その後彼の会社はウィリアム・リドゲートが17年間代表を務めましたが、83年にAdams & Rinehart社と合併しました。

73年4月11日、ニューサムは75歳でこの世を去りました。ニューヨーク・タイムズは「最も影響力のあったパブリック・リレーションズの実務家」と彼の功績を讃えました。ニューサムはここに紹介した企業の他にもCBS、ゼネラル・モーターズ、ロックフェラー3世、アイゼン・ハワー大統領、ジョンF.ケネディといったアメリカを代表する組織体や個人のカウンセラーをつとめました。

プリンターズ・インクは「ニューサムにカウンセリングを依頼した企業は、組織体が犯した過ちに背を向けた長い歴史に終止符を打ち、変化しなければならなかった」と彼の業績を評しました。

皆さんには、今から60年以上も前にニューサムが実践してきたことは、現在の日本企業の広報部門の活動領域を超えたものであることが理解できるでしょう。
PRの実務家としての強い信念を終生貫き通した、アール・ニューサムの残した言葉にこんな一節があります。
「企業や組織も社会に影響を与える責任を自覚して、環境の変化と共に自らも変化しなければならない」

まさにニューサムは、パブリック・リレーションズにおける真の双方向性コミュニケーションの道を切り開いた、パイオニアと呼ばれるのにふさわしい偉大な実務家でした。

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